「友達」

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雪が絶え間なく降り続いている街路を、私は歩いている。
いつもの雑貨屋からの帰り道、買い物袋には卵と白菜、椎茸と鶏肉が入っている。
豪雪で孤立しているこの村でとれた物ばかりだが、これだけあれば十分だ。
今晩は久しぶりに美味しい雑炊が食べられるだろう。

晴天だったら、太陽が西の山に沈み加減になる時間だ。
だが、どす黒く空を覆う雪雲のおかげで、辺りはまるで宵の入りのような暗さだった。
ここ数日の荒天に皆飽き飽きしているのか、外を出歩いている人は誰もいない。
私にとっては、人に会わない方が好都合だった。
人に会うのが嫌だから、わざわざ荒天の日を選んで買い出しに出かけたのだ。
私に出会うと、村人は哀れみと嘲りの混じった、複雑な表情をする。
さらに女の人は、それに妬みの感情が加わる。
表面上は当たり障りのない応対でも、心の底で何を感じているか、私には解っていた。
でも、私のしている事を思えば、村人達がぎこちない応対をするのも仕方のないことだった。

私の名前は北里しぐれ。
自分の身体を売ることでしか、生きていくことの出来ない女…。

ここ龍神村には娯楽施設がない。
いくら閑静な温泉地と謳っていても、それだけでは不十分だった。
温泉で開放感に浸る宿泊客が、夜になると旅館の紹介で村はずれの私の家へやって来る。
彼らのために股を広げるのが、私の仕事だ。
温泉客の少ない今のような時期は、娯楽に飢えてる村の男達も相手にする。
普通だったら村の女達は私を容赦しないだろう。
だが、下界と隔絶している上に娯楽の少ない冬のこの村だ。
男達の欲求不満が溜まるのは当然の事だった。
女達もその事を解っているからこそ、私のような売女の存在を許しているのだった。

しばらく歩いていると、前にある橋のたもとに女の子が一人で立っているのが見えた。
「あ〜っ、しぐれなのだっ」
女の子は一言叫ぶと、私の元へ飛び込んでくる。
この子は日和川旭という。
どんな天気の時でも外を駆け回っている、元気な女の子だ。
当然の事ながら、裏の顔を持つ私が子供と親しくすることを、村の大人達は良しとしていない。
周りに人が居ないことを確かめて、私は旭ちゃんに話しかけた。
「旭ちゃん、こんな天気の日に一人で外にいると、みんな心配してるよ」
旭ちゃんが無邪気に応える。
「悪がいつ出てくるかわからないから、こうして見回っていたのだ」
そういえば、村の子供達が話していたのを小耳に挟んだ事がある。
旭ちゃんの趣味は、悪追放運動というものらしい。
あまりに妙な趣味を思い出して、私の頬が少しゆるんだ。
「あ〜、しぐれがからかってるのだっ!」
「ご、ごめんなさい。バカにしてるんじゃないから…」
「でも、見回りで疲れたからお茶にするのだっ」
そう言って旭ちゃんは、肩に掛けていた水筒の栓をゆるめる。
「しぐれもいっしょに飲むのだっ」
旭ちゃんの手から、湯気が立ち上る番茶の入った、水筒の蓋が差し出される。
どうせこの天気では、外に出てくる大人なぞいないだろう。
見とがめられることは無いなと思うと、少しほっとしながら、旭ちゃんにつき合うことにした。

橋の下に見える凍り付いた川を眺めながら、旭ちゃんが注いだ番茶を飲む。
この村では緑茶は高級品だ。
私にとってお茶といえば、昔から番茶が相場だったし、また気に入ってもいた。
番茶の素朴な味は、私のお母さんのようだったから。

私のお母さんが亡くなってから、もう2年ほど経つ。
お父さんのは私の物心ついた時からいなかったため、私はお母さんの手だけで育てられた。
お母さんは村の温泉旅館で働いていたらしい。
毎朝早くから家を出て、帰ってくるのは夜も遅くなってからだった。
粗末な家で一人凍えていた私に、帰宅したお母さんはいつも熱い番茶を飲ませてくれた。
幼い頃の私は、友達の家で御馳走になる緑茶の洗練された味に憧れていた。
しかし、苦しい家計では実現不可能だった。
すまなそうに微笑むお母さんの懐に抱かれながら、幼い私はいつも眠りにつくのだった。

温泉旅館で働いていたお母さんの死因は事故死だったと聞かされたが、本当のことはよく解らない。
お父さんのいない私は、お母さんの死でひとりぼっちになった。
お母さんの葬式が終わった晩に、温泉旅館の支配人と称する男が私の家にやって来た。
その支配人とやらは、温泉旅館でお母さんが何をやっていたかを、頼みもしない私に言って聞かせた。
調理場から食事の余り物のくすねて自宅に持ち帰っていたこと。
宴会場で客のリクエストに応えて素っ裸になったりしたこと。
そして、宿泊客相手に売春をやっていたこと。
私は自分の耳を塞いだ。
お母さんの悪口なんて、聞きたくもなかったからだ。
すると、支配人がいきなり私に襲いかかってきた。
抵抗するまでもなく、私は支配人に犯された。
一方的に、支配人のモノが私の処女を奪い取った。
破瓜の激痛に、私はただ泣くことしか出来なかった。
涙に暮れる私に、支配人はワザと優しそうな口調で言った。

ウチの旅館の宿泊客は、娯楽が無くて退屈している。
君もひとりぼっちで生活の当てに困っているんだから、ウチの宿泊客に身体を提供してくれ。
勿論、それに見合った報酬は支払うから、君も嫌な話ではないだろう。

この村の温泉旅館は、村唯一の稼ぎ頭だ。
だからそこのオーナーや支配人の力は強力で、逆らえる村人なぞ誰もいない。
それに、確かに当時の私には、生活していく当てなぞ無きに等しかったのだ。
私は支配人の言葉を受け入れるしか、生きていく道はなかった。
こうして、淫売としての私の生活が始まった。

旅館の中で売春しては目立つと言うことで、私の家が売春場所になった。
私の身体を欲しがる客がいたら、旅館の従業員が私の家へ連れてくる。
私の家が村はずれにあったのも、旅館側には好都合だった。
酔っぱらいの多い宿泊客を相手にするのは辛かったが、収入だけはそこそこに与えられた。
宿泊客が皆無になる冬には、村の男達が私の家にやって来た。
私の売春は秘密にされていたが、事情を知った村人の要求を支配人が飲まされたらしい。
私には相手が別に宿泊客でも村人であっても誰でも構わなかった。
ただ、私が売春をしているという事実が村中に広がってしまった。
幼い頃からの多くの友達が、私から離れていった。
表だっては誹謗中傷されなかったものの、裏で好き放題悪口を言われているのは解っていた。
性欲魔人…、淫乱メス豚…、公衆便所…。
私に近づくのは事情を知らない子供達だけだったが、それすらも周囲の大人達によって阻まれた。
いつしか、私は極端に他人と接触するのを避けるようになっていた。
特に必要な時を除いて、私は村はずれにある自分の家と、その周辺にいた。
男達に性を売る汚れた場所でしか、私の居場所はなかった。
昼間誰もいない部屋で一人居るとき、私は言いようのない孤独感にさいなまれた。

唾棄すべき過去の記憶が、私の頭の中を取り留めもなく渦巻いてゆく。
ふと、私の身体が軽くなったような気がする。
どうしたんだろう?
記憶の濁流に呑み込まれた私の足が浮かび上がる。
ちょっと待って、どうしちゃったの私?
足下に力を入れる。
私の両膝が雪道の上に落ちる。
「し、しぐれっ、どうしたのだっ!」
遠くで誰かが叫んでいるような気がするが、ぼやけて誰なのか判らない。
周りの風景がどんどん霞んでゆく。
目の前が真っ白になる直前、誰かが私の元に近づいて来るのが見えたような気がした。
辺り一面、真っ白な世界。
ここはどこなんだろう?
背中に固いものが触れている。
身体を動かそうとするが、だるくて力が入らない。
取りあえず、瞼だけを開いてみる。

まだ周りは真っ白だ。
思わず瞼を細める。
暫く経って、ゆっくりと、ゆっくりと辺りが色づいてゆく。

殺風景な天井にチラチラと灯る蛍光灯。
その下には、年期の入った事務用机が一つ。
壁の殆どを埋めているスチール棚。
そして、私が居るのはベッドの上。
左右にいくつかある窓にはカーテンが掛かっているが、僅かな隙間は闇に染まっている。
知らないうちに夜になっていたのか。
だが、ここは一体どこなんだろう?

その時、事務用机の裏から何かが現れた。
「ここは診療所だ。ようやく目が覚めたか」
男の声。
身体がこわばる。
「怖がることはない。あんたも俺に見覚えがあるはずだ」
確かに、この男には温泉旅館の前で何度か出会ったことがあった。
「自己紹介しておこう。俺は出雲彼方という。龍神天守閣でアルバイトをしている」
私の方にはお構いなしに、男が言葉を続ける。
「と言うのは表向きの姿で、実はオーナーの従姉に頼まれてちょっとした調査に来た。
どうもここの支配人が妙な動きをしているという疑惑があってな。あんたの素性も概ね判っている」
この男は、私の秘密を知っている!?
恥ずかしさに、身体が熱くなる。
「おいおい、俺の一言でカッとなる前に、自分の身体を確認することだな」
男の一言で、私は自分の胸元を覗き込む。
そこには、ニーソックス以外は何も着けていない、私の露わな身体があった。
!!
反射的に、胸と股を手で覆い隠す。
私の無様な姿を見て、男が薄笑いを浮かべる。
「おっと、淫売女のくせに羞恥心は人並みに残ってるんだな」
屈辱感で、私の体が小刻みに震える。
「………」
「俺の話はまだ続くんだが、その前にお客さんに入ってきて貰った方がいいな。
旭、あれを持ってきてくれ」
男の言葉に応えるように、この部屋にある扉の向こうから
「はいなのだっ!」
と声が聞こえた。
旭ちゃんもここにいるのか?
その直後、扉が開いた。
「うんしょっなのだ、うんしょっなのだ」
扉から、旭ちゃんの声が聞こえる。
同時に響く、ガラガラガラという軋んだ音。
そして、微かに聞こえるブーンという低い唸り音。
「うんしょっなのだ、うんしょっなのだ」
旭ちゃんの声が大きくなる。
今の私の姿を、旭ちゃんに見られたくない。
旭ちゃん、ここに来ないでっ!

「持ってきたのだっ!」
男の横に現れたのは、まぎれもなく旭ちゃんだった。
「ご苦労だったな」
男は旭ちゃんの持ってきた物を受け取ったのか、そのまま私のいるベッドの前まで持ってきた。
男が持ってきたのは、業務用の台車だった。
ただ、その台車の上に乗っていたのは…。

「澄乃ちゃん!!」
私は思わず声を上げていた。
そこには、私がいつも買い物をする雑貨屋の女の子、雪月澄乃ちゃんが全裸で蹲っていた。
両胸の乳房の位置には、それぞれにテープで異物が止められている。
そこから延びているビニールコードの先に、リモコンらしき物が二つ。
両足の付け根からも、ビニールコードが延びている。
身体のあちらこちらにミミズ腫れの痕が見える。
「うっ……ううっ……うっ……」
澄乃ちゃんがか細い呻き声を上げた。

「止めてくださいっ!」
私は叫んでいた。
ベッドから降りて澄乃ちゃんの元に駆け寄る。
大急ぎで、全てのリモコンのスイッチを切り、身体から異物を取り外す。
澄乃ちゃんの両胸とあそこに仕込まれていた異物は、ピンクローターだった。
「……に…いるの……しぐれ…ちゃ…だよ…ね…」
澄乃ちゃんの口から、微かな声が聞こえる。
そうだよ、私はしぐれだよ。
澄乃ちゃんの友達の、北里しぐれだよ。
でも、どうして澄乃ちゃんがこんな目に遭わなければならないの?
目頭が熱くなる。
澄乃ちゃんの頬に、私の涙の雫がこぼれ落ちた。
「感動的な再会に浸っているのも結構だが、このままでは話が進まん。続けさせて貰うぞ」
男の冷徹な声が聞こえる。
私は男の居る方を睨み付ける。
勿論、男は私の視線を気にする風でもなかった。
「バイトに入った俺は、支配人に気に入られるよう、ワザと従順に振る舞っていた。
で、その気になった支配人があんたの事を口にしたという訳だ。
ヤラせてくれる女がいるからどうか?と。
後はあんたがウリしているのを確認してから、支配人を締め上げた次第でね。
日頃から弛んでたヤツだから、一寸締めただけでアッサリと吐きやがったよ」
「………」
「あんたを村の公衆便所にしようと画策した男の存在もね」
えっ!
男を睨む私の視線が一瞬緩んだ。
「あんたも憎んでいるはずだろう。そいつのおかげで、友達を全て失ったんだからな」
その通りだった。
私の友達を奪った人、それは誰なのかは判らない。
私はその人を憎んでいた。

ただ、男が言った『全て』という言葉は違っている。
ここに一緒にいる澄乃ちゃんは、私に残されたたった一人の友達だったからだ。
私と澄乃ちゃんは、子供の頃から仲のいい友達だった。
家に誰もいない私は、日が暮れるまで澄乃ちゃんと遊んでいた。
私が進学を諦めた後も、澄乃ちゃんとは度々会っていた。
悪い噂が広まった後も、雑貨屋で買い物をする度に私と会って話をしてくれた。
私が時々雑貨屋を利用していたから、会いやすかったという事もあったのかも知れない。
それでも、澄乃ちゃんと会う一時は、私にとって何よりも心が安らいだ。
澄乃ちゃんは私にこう言ってくれた。
「周りが何か言っていても、私としぐれちゃんは友達だよっ」
ひとりぼっちの私は、その一言が何よりも嬉しかった。

「あんたに見せてやろうか?その男を」
男の一言で、私は我に返った。
「おいっ、あいつらをここに連れてこい」
男がまた扉の向こうに声を放った。
旭ちゃんを呼び寄せたときとは違って命令口調だ。
暫くすると扉が開いて、男が四人ほど部屋に入ってきた。
二人は見るからに屈強な体つきをしていて、黒いスーツを着ている。
その後ろに従ってもう二人が続く。
私からは上半身しか見えないが、彼らは裸で、体中の至る所に殴られたような痣が浮かんでいる。
彼らには首輪が付けられていて、そこから延びる鎖を前の屈強な男が握っていた。
後ろの男達の顔は、私には見覚えがあった。
一人は温泉旅館の支配人だ。この男の顔は一生忘れることはない。
もう一人の方は、たまに私の元へ客としてやって来る村人の一人だった。
二人とも、顔が青ざめている。
私は呆然としながら、部屋に入ってきた男達を見ていた。
いつの間にか、澄乃ちゃんが台車から上体を起こしていた。
台車から、よろよろと立ち上がる。
身体を支えてあげようと、澄乃ちゃんの背中に手を添える。
その刹那、澄乃ちゃんの手が私の身体を勢いよく振り払った。
痛っ!
私は大きく後方へ尻餅をつく。
そして。
「お父さん!」
澄乃ちゃんの一言に、私は気が遠くなった。

「わはははは、聞いたかあんた、あんたを村の公衆便所にするよう支配人に迫ったのは、
この澄乃って女の父親だったんだよ。これには俺も驚いたがな」
男が愉快そうにしゃべる。
「龍神天守閣のオーナーでもある出雲家は、この村以外にもレジャー産業を手広く扱っていてね。
まぁ、それは表向きの顔であって。世間は俗に企業舎弟なんて呼んでるんだけど。
実際の本業はあまり人様に威張って言えない世界でね。
出雲組って言えば結構知られている極道なんだけど、この村での知名度はまだまだといったところかな。
で、支配人と澄乃とやらの親父を引き連れてるのは、俺の舎弟分だ。
あんたらに危害を加えるつもりは無いから、安心しろ」

私と澄乃ちゃんの目の前に、支配人と澄乃ちゃんのお父さんが引っ張り出された。
ふたりの全裸が露わになった。
ふたりとも股を隠そうともがくものの、手枷をされているのか、背中に回されている両手は動かない。
ただ、支配人には本来あるべき物が付いてなかった。
その位置から、鮮血がしたたり落ちている。
「ひっ…」
澄乃ちゃんの声が強張っているのが判る。
「そうそう、支配人はウチの与り知らぬところで独断専行したから、強めに罰を与えてやったよ。
旭、例の物を見せてやってくれ」
「はいなのだっ!」
男の元にいた旭ちゃんが澄乃ちゃんの元へ歩み寄る。
旭ちゃんの手には、男のペニスが握られていた。
おそらく、支配人のペニスだろう。
旭ちゃんがペニスを放り投げると、それは澄乃ちゃんの目の前に落ちた。
「きゃーーーーーーーーっ!!!!」
澄乃ちゃんが叫び声を上げた。
男が再び口を開く。その声は嗜虐に満ちていた。
「この支配人のチンポは、旭自身が切り取った物だ。旭は嬉しそうにナイフを扱ってたぞ。
あんたらにも見せてやりたかったよ。」
男につられて、旭ちゃんも胸を張ってしゃべる。
「そうなのだっ!旭はひとつ悪を追放したのだっ!」
第三者から見れば、おぞましくなる光景だった。

私は支配人の顔を見つめていた。
私の目があった支配人は、後ろめたそうに顔を横に背ける。
その瞬間、私の胸のつかえが取れたような気がした。
私の人生を滅茶苦茶にした、あの男の忌まわしい一物が罰せられたのだ。
支配人は終始無言だった。
「支配人はもう男としても用済みだから、適当に始末しておけ」
男が命令する。
支配人は黒スーツに引きずられるかのようにして去っていった。

部屋には澄乃ちゃんのお父さんが残されていた。
男が私の方を向いた。
「さて、あんたのためにもこの男を処罰しないといけないな」
旭ちゃんが澄乃ちゃんのお父さんに近づく。
旭ちゃんの手には、ナイフが握られていた。
ナイフの刃先が、澄乃ちゃんのお父さんのペニスにあてがわれる。
澄乃ちゃんのお父さんの身体が、ガクガクと震える。
「ま、待ってくれっ。私にもいろいろ事情があったんだ。そ、その…村会長として村の者を統制する
必要があったし…、それに…、借金のこともあったし…」
狼狽する澄乃ちゃんのお父さんの口から、止めどなく釈明の言葉が流れる。
それを聞いた男が語気を荒げる。
「借金だと…、ふざけるな!
てめえの借金とヤラは、競馬のPATで負け続けたのが積もり積もったモノじゃないのかよ。
全く、こんな娯楽のないクソ田舎で下手に情報化なんて事するから、こんな目に合うんだ。
それにさ、てめえ実の娘の裸見てチンポおっ立ててるんじゃねえよ」
澄乃ちゃんのお父さんのペニスは、緊張しているのか、はち切れんばかりに勃起していた。
「そ、それは違…」
澄乃ちゃんのお父さんが口ごもる。
「お前も相当な悪なのだっ!」
旭ちゃんがそう言って、あてがっていたナイフを離すと、澄乃ちゃんのお父さんの股間に蹴りを入れた。
「うぐっ!」
激痛に、澄乃ちゃんのお父さんの顔がゆがむ。
「止めてーっ!これ以上、お父さんを虐めないでーっ!」
澄乃ちゃんが必死に男へ懇願していた。
男が澄乃ちゃんの叫びを無視するように言う。
「駄目だ。こいつはウチの秩序を乱した責任を取って貰う」
「何故お父さんがこんな目に遭わなきゃいけないの!ねえ、何故なのっ!」
澄乃ちゃんと男とのやり取りが続いていた。
その間、私は澄乃ちゃんのお父さんを見つめていた。

客として私の家にやって来る澄乃ちゃんのお父さんは、どうって事のない普通の男だった。
欲求不満に飢えている村の男達の中では、むしろ大人しい方と言ってよい。
ただ、私の人生を狂わせた男なのだとすると、話は別だった。
私の心の中で邪な感情が渦巻いていた。
こいつのペニスをちょん切ってしまえ。
そうすれば、私の心は晴れる。
失った人生は取り戻せないものの、これで私の屈辱が僅かでも癒されるのなら…。

ふと、私の目線が澄乃ちゃんにいった。
澄乃ちゃんの声は枯れ、目線からは涙が溢れ出ていた。
そうだった。
澄乃ちゃんは私の大切な、たった一人の友達。
ここでお父さんが処罰されたら、澄乃ちゃんは決して私を許してはくれないだろう。
今度こそ私は本当にひとりぼっちになってしまう。
そう思うと、私は急に怖くなった。
何よりも、一人になりたくはなかった。

「いい加減口論を聞いているのも飽きたのだ。早く悪を追放するのだ」
旭ちゃんが再びナイフを澄乃ちゃんのお父さんのペニスにあてがった。
ナイフの刃先が、ペニスの表皮を軽く擦る。
その切り口から、じわじわと血がしみ出してくる。
「ひいっ!」
澄乃ちゃんのお父さんは小さく叫び声を上げて、身体を硬直させる。

その時、私の口が開いた。
「お願いです…。澄乃ちゃんのお父さんを許してあげてください…。
そのためには私、どんなことでもしますから…」
自分でも不思議に思えるくらい、この言葉は自然に発せられていた。

男、旭ちゃん、それに澄乃ちゃんとそのお父さんが、一斉に私の方を向いた。
暫しの沈黙。
澄乃ちゃんのお父さんが口を動かす。
何かを言っているようだが、私には何も聞こえない。
私は澄乃ちゃんのお父さんから顔を背けた。
やがて、男の口が開いた。
「判った。当事者であるあんたに免じて、この男のチンポを切るのは止すことにしよう。
おい、この男を引っ立てていいぞ。後は事前に打ち合わせた場所へ連れて行け」
男の指示に黒スーツは頷くと、首輪に繋がっている鎖を引いた。
極度の緊張に疲れたのか、澄乃ちゃんのお父さんは満足に歩くことが出来ない。
「とっとと歩けコラ!」
黒スーツが澄乃ちゃんのお父さんのお尻に蹴りを入れる。
何度か蹴りが入るたびに、澄乃ちゃんのお父さんが悲鳴を上げる。
澄乃ちゃんはそんなお父さんの姿を見るまいと、頭を垂れて必死に堪えていた。
黒スーツと澄乃ちゃんのお父さんが扉の向こうへ去ってゆく。
部屋には私と男、旭ちゃん、それに澄乃ちゃんが残っていた。

旭ちゃんは一人不満そうな顔をしていた。
「あー、彼方は悪を追放しなくていいのかっ!」
駄々をこねる旭ちゃんに、男は優しそうに語りかけた。
「なあ旭。お前はまだ幼いからよく解らないと思うが、世の中には追放すべき悪と、
残しても良い悪とがあるんだ」
「旭は幼くはないけど、彼方の言ってることはよく解らないのだっ!」
二人の会話に澄乃ちゃんが割って入った。
澄乃ちゃんは頭を上げて、男の方を恐る恐る見つめている。
「お父さんは…、お父さんはどうなるの…」
男が応える。
「あいつは暫くウチの組が経営する飯場で働いて貰う。
借金してた処が丁度ウチが経営する金融屋でね。身体で返済して貰う意味もある。
それに、あいつの労働力だけでは借金返済に追いつかないから、お袋さんもウチで働いて貰うよ。
既に身柄は確保している。
ただし、親父とお袋の働き場所は別々だ。それだけはウチの都合でね、勘弁してくれ。
また、雑貨屋の方は借金のカタにウチが差し押さえて余所へ売却したから、そのつもりで」
「そ…、そんな…、うわーん!」
あまりにも非情な男の答えに、立っていた澄乃ちゃんは床にへたり込むと、声を上げて泣きじゃくった。
私も男に抗議する。
「そんな…、約束が違います…」
すると男は、私の元に近づいてきた。
片手で、私の顎をしゃくり上げる。
「冗談言うなよ。俺はあの男のチンポをちょん切る罰を許しただけだ。それにカン違いしてるようだが、
あんたの身体を売った支配人の経営判断は俺も認めているんだ。ただ、売春は当局の目が厳しいんでな。
新支配人になる俺の意向として、これからは売り方を変更する。あんたと澄乃とやらが、俺の持ち駒だ」

そんな事って…。私はおろか、澄乃ちゃんまで…。
男の言葉に反応したのか、澄乃ちゃんが立ち上がって私と男のいる方を振り返った。
既に涙の涸れた澄乃ちゃんの表情は、とても冷たかった。
澄乃ちゃんの目線が、私を射抜く。
その視線は、憎悪に研ぎ澄まされた剣。
「しぐれちゃん…、あなたと一緒にいたばっかりに、私の家族はバラバラになっちゃった…。
私…、しぐれちゃんを…許さない」
澄乃ちゃんの一言が、私の心に深々と突き刺さった。
ショックのあまり、床の上に崩れ落ちる。
「さあ、プロローグが長すぎたようだな。これからがショーの本番だ。
あんたはさっき、何でもすると言ったのを覚えているな」
男が旭ちゃんに笑いかけて言った。
「旭には、残しても良い悪を教えてあげよう」
力無く床にへたり込んでいる私を、男が引き吊り起こした。
そのまま、ベッドの上に仰向けに寝かされる。
「旭、ロープを持ってきてくれ」
「はいなのだっ」
男に従った旭ちゃんが扉の向こうに出ていく。
暫くして、両手に麻縄を持って部屋に戻ってきた。
いつの間にか、服を全部脱いでいる。
旭ちゃんから麻縄を受け取った男は、私の右手首と右足踝、左手首と左足踝とを、それぞれ縛り上げる。
身動きの出来なくなった私の身体を、男はベッドの真ん中で長手方向と直角になるように据え置く。
次に、私の両膝にそれぞれ麻縄が結わえられる。
「旭、一方を持って引っ張っていてくれ」
「はいなのだっ」
左膝に結わえられた麻縄を、男が引っ張る。
抵抗しても無駄なのは解っていたので、私は太股の力を抜いてなすがままになった。
麻縄をきつめに引っ張ってから、ベッドの左端にある鉄パイプ製の手摺りに結びつける。
右膝の方も同様に縛り付けられる。
作業が終わった頃には、私の両脚は膝で折り曲げられ、大きく左右に『<>』を書く形に広げられていた。

ベッドの手前にいる男達に、私のあそこが剥き出しに晒されている。
「結構使い込まれてるな。マンコの周りにまで毛が生えてるぜ」
男が軽口をたたく。
澄乃ちゃんも、冷たい表情で私の汚いあそこを見つめている。
「澄乃ちゃん…、お願い…、見ないで…」
両手両足の自由を奪われた私は、力無い声を出す。
澄乃ちゃんは私の言葉に微動だにしない。
そして、私の耳に澄乃ちゃんの呟きがハッキリと聞こえた。
「………腐れマンコ」
屈辱的な一言だった。
「澄乃ちゃん………」
沸き上がる涙を懸命に堪えながら、私はぎゅっと唇を噛みしめた。
「そう言うな澄乃、こいつのマンコは年季が入ってるんだ」
戯けながら、男は片手の指先で私のあそこをさすり始めた。
撫でるような微かな感触が、私のあそこに広がってゆく。
村の男達の粗野な指先とは全く異なる、優しい愛撫。
あっ…。
頭の中がじわじわと疼き出す。
男の手が、クリトリスを守る皮を徐々に剥いでゆく。
剥き出しになったクリトリスを、男の指先が擦り上げた。
私のふしだらな本能が、忠実に反応する。
「ああんっ!」
私の腰がビクッ!と浮き上がった。
「感じているようだな。マンコからも愛液がちょろちょろと溢れ出てきたぞ」
「ち、違う…。それは、女の子の…」
「本能的な防御反応とでも言いたいのか?では、あんたのカチカチに固まってる乳首はどうなんだ?」
私の愚答は完全に見透かされていた。
二つの乳首は両方とも激しく立ち上がっていたのだ。

「でも、このマン毛が興ざめだな。掃除することにしよう」
男はそう言うと、愛撫していた手をあそこから離した。
「旭、剃刀とクリームを持ってきてくれ」
「はいなのだっ」
言われるがままに、旭ちゃんが扉の向こうに出てゆく。
部屋に帰ってきたときには、剃刀とスプレー缶を持っていた。
「こんなものしか置いてなかったけど、よかったのかっ」
「まあいいだろう。少し刺激が強いかもしれないが」
男が薄笑いを浮かべる。
旭ちゃんが持っていたスプレー缶には『シェービングクリーム メンソール入り』と書かれている。
「旭がしぐれの毛を剃るのだっ」
「判った。やってみろ」
「澄乃で練習したから、大丈夫なのだっ」
私は澄乃ちゃんの股を見る。
澄乃ちゃんの陰毛は、きれいに剃り取られていた。

旭ちゃんが私のあそこの前に立つ。
「彼方、しぐれのマンコがピクピク震えてるのだっ」
「それはだな、マンコが弄って下さいっておねだりしてるんだ。だから、早く処理してやってくれ」
私の心にまた一つ屈辱感がのしかかる。
「判ったのだっ」
旭ちゃんが私のあそこに、スプレーを無雑作に吹き付けた。
あそこの薄皮に、メンソールが容赦なく染み込んでゆく。
「きゃふぅん!」
あそこが悲鳴を上げ、それに併せて臀部が震えている。
「彼方〜、しぐれが暴れるから巧く剃れないのだ」
「しょうがないな。澄乃、身体を押さえつけててやれ」
澄乃ちゃんは男の言葉に応じてベッドに上がると、私の顔に背中を向けて、お腹の上に腰を下ろした。
私の両膝が澄乃ちゃんの両手で固定される。
完全に身動きがとれない中で、私の陰毛が剃られてゆく。
暫くして、私のあそこがタオルで拭われる。
「澄乃、もう終わったからどいてやれ」
澄乃ちゃんが私から離れると、目の前に毛の一つない真っさらな恥丘がひらけた。
「旭、この出来映えはなかなかいいぞ」
陰毛が完全に剃り落とされて剥き出しになっている私のあそこを眺めつつ、男が楽しそうに語る。
「うん、面白かったのだっ」
「じゃあ、もっと面白い実験をしてみよう」
男はそう言うと、事務用机の陰から、洗面器を持ってきた。
そこには、何かよく解らない液体が入れられている。
そして、男の片手に握られているのは、とても大きな注射器。
これから私がどんな惨い目に遭うか、おおよその見当は付いた。

「や…、やめて…」
男は聞こえない振りをしながら、洗面器の液体を注射器に吸い上げてゆく。
「これはグリセリン液と言ってな、お腹の中のモノを洗浄するための道具だ」
「しぐれのお腹の中に悪がいるのかっ」
「そうだ、悪いモノだ。だからこの液でしぐれから追放する」
「それは大変なのだっ、早くやるのだっ」
浣腸液が充填された注射器を手にして、男が私のあそこに相対する。
注射器の先端が、お尻の穴に差し込まれる。
「うぐっ!…ううっ…うううっ…」
冷たい浣腸液が、お腹の中へ逆流する。
内側から、私の身体が冷えてゆく。
「旭もやりたいのだっ」
「そうか、じゃあ旭もやってみろ」
男に替わって、旭ちゃんが浣腸液を注入する。
そして再び男に替わり、旭ちゃんに替わり…。
にこやかに談笑しながら、交互に私のお腹を蹂躙する二人。
「あ、悪魔…」
「そうだ。人は誰しも心に悪を持っている。
ただ、いちいちそれを追放していては人間なんて誰もいなくなってしまう。
だから人は悪を選別するんだ。追放すべき悪と、残しておいても良い悪とを。
そして、残していた悪が貯まったら、このようにゆっくりと解放するんだ」

最後の注入が終わった。
洗面器にあった浣腸液は、全て私のお腹の中にぶち込まれている。
私の下腹部がぷっくりと膨らんでいる。
「うわぁ〜、しぐれが妊娠したみたいなのだっ」
旭ちゃんが無邪気そうに、私の膨らんだお腹をポンポンと手で叩く。
「や…、やめて…、旭ちゃん…」
私が懇願している合間にも、お腹の中では浣腸液が暴れ始めようとしていた。
私のお腹の中を、浣腸液が激しく動き回る。
その圧力は腸内の汚物を攪拌し、やがてそれらを体外へ排出しようと目論んでいた。
全身から汗が噴き出してくる。
「澄乃、お前は洗面器を持ってしぐれの前に座れ」
「えっ、で…でも…」
澄乃ちゃんが躊躇するのは無理もない。
そんな場所にいたら、私の便をまともに浴びてしまうだろう。
「この診療所は当分ウチが借り上げているが、床を汚されたくないからな。
どうした、さっさと命令に従え」
そう言うと、男は事務用机の引き出しの中から何かを取りだした。
男が手にしていたのは鞭だった。
片手で鞭を振るうと、その先端がびゅっ!と空を切る。
それを見た澄乃ちゃんの顔が蒼白になる。
「止めて…、もうこれ以上…、私をぶたないで…」
私は澄乃ちゃんの背中に多数のミミズ腫れの痕があったのを思い出した。
「判ってるんだったら、早く座れ」
「………」
澄乃ちゃんが私の股の前に顔を向ける形で、腰を下ろした。
胸元には洗面器が添えられている。
「澄乃ちゃん…、お願い…、見ないで…」
先ほど口に出た言葉を、もう一度繰り返す。
澄乃ちゃんは私の身体を見つめている。
私の言葉は、もう澄乃ちゃんの元へは届かない。

お腹の中をかき回していた浣腸液の圧力が、お尻の穴めがけて押し寄せてくる。
駄目っ、出ちゃ駄目っ!澄乃ちゃんが汚れちゃうっ!
お尻の穴に力を込め、排便の圧力に抵抗する。
全身をよじらせてお尻をすぼめようとするが、下半身は身動きが殆ど取れない。
上半身だけが、空しく左右に揺れるばかりだった。
はぁ…はぁ…はぁ…はぁ…。
息が荒くなる。涙腺が緩む。
「彼方見てみて、しぐれが涎垂らしながらハアハア悶えてるのだっ」
私の傍らにいる旭ちゃんに言われるまでもなく、お尻の穴以外の場所は弛緩しきっている。
恥ずかしかったが、今他の場所に気が向くとお尻の穴が持ちこたえられそうになかった。
「しぐれはきっと感じているんだな。旭、お手伝いをしてやれ」
「判ったのだっ」
旭ちゃんの両手が、私のあそこに伸びてくる。
や、止めてっ!
片方の指があそこの穴を抜き差しする。もう片方の指がクリトリスを弄ぶ。
「嫌っ!はぁん!ああっ!」
淫らな感覚が、便意を耐えようとする私の羞恥心を打ち砕こうとする。
弛緩した私のあそこの穴から、愛液が止めどもなく溢れ続ける。
旭ちゃんの指がクリトリスを強く摘み上げた時、お尻の穴が臨界点に達した。
「も…、もう…、我慢が…、出来な…、あっ…嫌っ…」
お尻の穴からぴゅっ、ぴゅっと液体が迸る。
「ああっ!出、出ちゃう!う、うんちが出るっ!あああっ!い、嫌ぁーーーーーーーーっ!!!!」
ひとたび液体の漏れたお尻の穴が決壊するのは一瞬だった。
ぶばっ!ぶばばばばっ!ぶりゅりゅりゅりゅっ!ぶりぶりぶりぶりっ!
お腹に貯まっていた便混じりの浣腸液が、お尻の穴から一気に噴出した。
私の便が、澄乃ちゃんの胸元を直撃する。
汚い飛沫が、澄乃ちゃんの顔にかかる。
「嫌ぁーーーっ!見ないでっ!見ないでぇーーーっ!」
羞恥心と罪悪感に打ちのめされる私は、声を振り絞って泣き叫ぶしかなかった。

ありったけの便を放出したお尻の穴が、シクシクと痛みに震えている。
「やったのだっ!しぐれの中から悪が出てきたのだっ!」
「ああ。ただ、床が少し汚れてしまったな。二人には罰を与えないといけない。
澄乃、四つん這いになれ」
言われるがままに、澄乃ちゃんが四つん這いになる。
「お前の舌を使って、しぐれのケツの穴を掃除するんだ」
「えっ…、わ…私…そんな事、出来な…」
「口答えするとどんな目に遭うのか、まだ解ってないのか」
男が鞭を振るう。
ピシッ!ピシッ!
鞭が容赦なく澄乃ちゃんのお尻に叩き付けられる。
「ひぃっ!痛いっ!痛いよぉ!」
「なら命令に従うんだ。そうすれば鞭打ちを止めてやる」
澄乃ちゃんの顔が、私の股間に近づく。
お尻の穴に、何かが触れる感じがした。
澄乃ちゃんの舌だ…。
お尻の穴と、その周囲が丁寧に舐め上げられる。
は、恥ずかしい…。で、でも…何かヘンな感じが…、あっ!

暫くして、澄乃ちゃんの顔が離れた。
「よし、これでウンコまみれのケツが綺麗になったな」
言葉にならない羞恥心が、私の心を締め付ける。
「で、ケツ舐めで感じていたしぐれには、ちょっとキツイお仕置きだ」
男はそう言って、机の中から鋏を取りだした。
床に放ってあったピンクローターを手に取り、ローターの付け根のケーブルを鋏で切断する。
ケーブルを二股に分け、切断部のビニールを剥いて導線を露出させる。
「旭、これから電気の実験だ。とても面白いぞ」
「そうなのかっ。わくわくなのだっ」
澄乃ちゃんに替わって、男が私の前にしゃがみ込む。
リモコンのスイッチを操作して、剥き出しになった導線を私のあそこにあてがう。
その瞬間、ビシッ!とあそこに刺激が走った。
「ひぃーっ!」
男が導線を押し当てるたびに、私の腰が大きく跳ね上がる。
ベッドの床がガタガタと音を立てる。
止めて…、こんなの…こんなの…酷すぎる…。
私の気持ちとは裏腹に、淫欲が電流に反応していた。
「見てみろ旭、こいつはマンコに電気が流れるのを感じてるんだ。面白いだろう」
「うん、しぐれはすごいのだっ」
男がリモコンのスイッチを最大にして、導線をクリトリスの左右に差し込んだ。
「ぎゃああああああああーーーーーーーーーっ!!!!!!!」
最も大きな刺激が、私のあそこを襲った瞬間だった。
ぷしゃあああああっ!
あそこから淫らな液体が大量に迸った。
「うーん、少しやり過ぎたかな?床を汚した罰だったのに、さらに床を汚してしまった。それにしても、
あんたはケツの穴で感じるし、さらに電気刺激で失禁するほど感じまくる変態さんだったとはな。
大笑いだよ」
男の嘲笑に反応する気力もなかった。
何よりも、身体に力が入らない。
「では攻守交代だ。旭、手伝ってくれ」
「はいなのだっ」
二人が私を拘束していた麻縄を解きにかかる。
私の四肢は自由になったが、身体が言うことを聞かない。
「邪魔だ」
ベッドに横たわる私を男が強引に押しのけた。
「あっ!」
弾みでベッドの縁から床下に転げ落ちる。
落ちた位置の目前に、澄乃ちゃんが呆然とした表情で座っていた。
男と旭ちゃんが、澄乃ちゃんを引きずり起こす。
「あっ、何するの!止めてっ!」
我に返った澄乃ちゃんが逃れようとするが、男は澄乃ちゃんの頬に平手打ちを浴びせた。
パチン!パチン!
乾いた音が部屋に響く。
そのせいで、澄乃ちゃんはぐったりと大人しくなった。

自分で立ち上がれるほどに動けるようになった頃、澄乃ちゃんはベッドの上で拘束されていた。
さっきまで私が辱めを受けてたのと同様の姿で。
「ようやく動けるようになったか。それじゃあ、こいつの貫通式を行う」
私が呆然としている最中、旭ちゃんが私の股に変な器具を装着する。
私のあそこから、男のペニスのような太い棒がそびえ立っている。
男は私の手を取ると、そのまま澄乃ちゃんに向けて突き放した。
「きゃっ!」
澄乃ちゃんの身体の上に、私の身体が俯せに覆い被さる。
悲鳴を上げる私に、男が言った。
「しぐれ、お前が澄乃の処女を葬るんだ」
「そ…、そんな…」
「そんな事はないだろう。こいつはあんたを貶めた男の娘なんだ。
この場で思いっきり鬱憤を晴らしてみろ。
もっとも、あくまでも拒否するのなら、少々強引な手を使わないといけないがな」
男が異物の先っぽを、澄乃ちゃんのあそこにあてがう。
既に準備していたのか、澄乃ちゃんのあそこはしとどに濡れていた。
異物が、私の腰の重みで澄乃ちゃんのあそこに軽く突き刺さる。
「ああっ!い、嫌ぁ…」
澄乃ちゃんの口から悲鳴が上がる。
これから起こりうる惨劇を前にして、澄乃ちゃんの身体は小刻みに震えている。
じわじわと没入していた異物の動きが止まった。
澄乃ちゃんの処女膜が、異物の進入を遮ったのだ。

「何をしている、もっと深く挿入しろ」
私は両腕と両足をふんばり、澄乃ちゃんから身体を浮かせた。
澄乃ちゃんは私にとって、たったひとりの大切な友達。
そんな澄乃ちゃんを汚す事なんて、私には出来ない。
今は私を許してくれなくても、いつかきっと私のこと許してくれる日が来るよね…。

「どうやら強引にやらないと駄目なようだな」
業を煮やした男が、手にしていた鞭を振るった。
ピシッ!ピシッ!
私のお尻に、鞭が打ち据えられる。
あまりの激痛に、顔が歪む。
ピシッ!ピシッ!ピシッ!ピシッ!ピシッ!ピシッ!
お尻から腰、そして背中へ鞭がまんべんなく打ち込まれる。
ピシッ!ピシッ!ピシッ!ピシッ!ピシッ!ピシッ!ピシッ!ピシッ!ピシッ!ピシッ!
鞭が当たる度に、私は歯を食いしばって激痛に耐える。

何回鞭で叩かれたのだろうか?
背中やお尻が熱く火照っている。
繰り返される責め苦に、私の意識は朦朧となっていた。
ふと、旭ちゃんの声が聞こえた。
「しぐれの背中やお尻がいっぱい血で滲んでいるのだっ。危ないから消毒してあげるのだっ」
後ろを振り返ると、旭ちゃんがスチール棚の中を漁っていた。
何かを見つけると、男の元へ持ってくる。
「ふむふむ、イソジンにヨードチンキにオキシドールにその他もろもろと…。ナイスアイデアだな、旭」
何をするの?
男が私の背後に立つと、瓶の蓋を開けて中身を私の背中へぶちまけた。
「あああああああっ!!」
容赦なく傷口に染み込んでくる薬液の痛みで、私は叫び声を上げた。
男は私の背中からお尻に数種類の薬液をかけてゆく。
背後の皮膚がジクジクと犯されていくのが判る。
痛みと情けなさで、私の目から涙が絶え間なく溢れ出ている。
「うっ…うううっ……ああっ…」
叫び声が、か細い呻きに変わってゆく。
上体を踏ん張っている両腕と両脚が、ガクガク震える。
私の下で仰向けになっている澄乃ちゃんも、また震えていた。
澄乃ちゃんは眼をつぶって、この悪夢のような光景に耐えていた。

体力はとうの昔に限界に達している。
澄乃ちゃんを助けたい気力だけで、私は藻掻いていた。
私の背後にいる男が溜息をつく。
「案外しぶといんだな、あんたも。理性が駄目なら、感性に訴えるしかないようだ」
男は澄乃ちゃんのあそこをまさぐると、手に拭った愛液を私のお尻の穴に塗りつけた。
「はあんっ!」
脳髄に刺激が走る。
あやうく両腕を屈しそうになる。
「本来なら俺は淫売女のユルユルマンコなぞ興味はないんだがな。
でもまあ、ケツの穴なら少しは締まりもきつそうだろうし、変態さんのあんたなら、
少し乱暴にしても耐えられるだろ」
男はズボンとパンツを脱ぐと、怒張したペニスをいきなり私のお尻の穴に突き刺してきた。
「い、嫌ぁーーーーーーーっ!!」
強烈な刺激に、私の四肢がついに崩れ落ちた。
私の身体は澄乃ちゃんの上にのしかかり、その重みで異物が澄乃ちゃんの処女膜を突破した。
「あああああーーーーっ!痛い!痛いよぉーーーーーーーーっ!!!!!」
澄乃ちゃんの絶叫が部屋中に響き渡る。
悲しかった。
私の抵抗も、所詮は無駄な足掻きでしかなかった。

ごめんね、澄乃ちゃん…。
私頑張ったけど、澄乃ちゃんを守れなかった…。

ごめんね、澄乃ちゃん…。
本当に、ごめんね………。
狭いベッドの周囲で、四人が蠢いていた。
男が私のお尻の穴を突き、私の異物が澄乃ちゃんのあそこを責め立てる。
澄乃ちゃんの顔の上には、旭ちゃんが跨っている。
澄乃ちゃんの舌が、旭ちゃんのあそこを激しく愛撫する。
「旭、これが残しておいても良いという悪だ。じっくり熟成したのを、自分で解放するんだ。
どうだ、気持ちいいだろう?」
「ああっ!き、気持ちいいのだっ!」
「うぐぅっ!はあああん!あああっ!」
「くっ!ひぎぃっ!んぎいいいっ!」
女達の快楽に溺れた悲鳴が交錯する。
理性というものを放棄した女達が、お互いの身体をむさぼり食らう。
男の「出すぞっ」という合図で、三人がそれぞれ絶頂に到達した。

私はベッドの上に横たわっている。
隣には、拘束を解かれた澄乃ちゃんが眠っている。
男と旭ちゃんは、もうこの部屋にはいない。
男が部屋から立ち去る際、私に口にした言葉を思い出す。
「あんたの住む家を芝居小屋に改築する。あんたたちはそこでSMショーをするんだ。
雑貨屋はもう他人の物だから、澄乃もあんたと一緒に芝居小屋に住むことになるな。
配役は好きに決めていいが、俺に言わせればあんたの方がM向きだな。わはははは」
「旭は、こんどは桜花と一緒に悪を解放したいのだっ」
「そうかそうか。じゃあ、明日は桜花ちゃんの家へ行ってみよう。
桜花ちゃんはこいつらとは違って純粋な子だから、優しくしないと駄目だぞ」
「解ってるのだっ!」

灯りの消された部屋は、ほんのりと薄暗い。
何時の間に天気が回復したのか、カーテン越しに月明かりが差し込んでくる。
私はベッドの上から起きあがった。
動く度に、男に虐め抜かれた背中がジクジクと痛む。
暖房も消されて、冷たくなった床の上に立っている私。
私の心の中には、絶望だけが取り残されていた。
澄乃ちゃんの家庭を崩壊させ、澄乃ちゃんの処女を奪ってしまった。
元はといえば、私がいたからなのだ。
澄乃ちゃんの友達だなんて、甘い気分に浸っていた自分が悪かったのだ。
支配人に襲われた後、すぐにこの村から逃げ出していれば…。
澄乃ちゃんも、こんな酷い目に遭わなくて済んだはずだった。
でも、今となっては何もかも後の祭りだった。
澄乃ちゃんを酷い目に遭わせてしまった私。
たった一人の友達を失って、本当にひとりぼっちになってしまった私。
事務用机の上には、旭ちゃんが持っていたナイフが置かれている。

澄乃ちゃん…、私、生きていくのに疲れちゃったよ…。
ひとりぼっちになるのは、嫌だよ…。
ひと思いに逝っちゃえば、ちょっとは楽になれるかな…。
右手がナイフの束を握る。
刃先が左の首筋に触れる。
息が詰まる。
両目が閉じ、世界が真っ暗闇になる。

暫しの硬直。
身体が言うことを聞かない。
怖い。
死ぬのが怖い。
死ぬのが怖い。死ぬのが怖い。
突然、ナイフを握る右腕が何者かに掴まれた。
「しぐれちゃん…、死んじゃ嫌だよ…」
澄乃ちゃんの声が聞こえた。

私の目の前に、澄乃ちゃんが立っていた。
「ひどいよしぐれちゃん…、私が謝る前に死ぬなんて嫌だよ…」
「澄乃ちゃん…」
私の右腕に込められていた力が緩む。
ぶらりと垂れ下がった右手から、澄乃ちゃんがナイフを抜き取り、それを遠くへ放り投げる。
「私…、あの男にいいようにそそのかされてた…。
しぐれちゃんがいたから、お父さんが悪くなっちゃったんだって…。
私が酷い目に遭っているのも、しぐれちゃんのせいなんだって思って…。
だから、私はしぐれちゃんの事が憎くてしょうがなかった」
「………」
「しぐれちゃんなんかどうなったっていいと思ってた…。バカだよね…、私…。
本当は私のお父さんが悪いんだって事を受け入れたくなかった…。
わがままな私が、しぐれちゃんを傷つけたんだ…。
こんな惨い身体にされてまで、しぐれちゃんは私のことを守ってくれようとしたというのに…」
澄乃ちゃんが、私の胸元に泣き崩れてきた。
「ごめんなさい、しぐれちゃん。
しぐれちゃんを酷い目に遭わせたままほったらかしにしていた、私を許して…。
私、ひとりぼっちになりたくない。私をおいて死んじゃぁ嫌だよぉ…。」
泣きじゃくる澄乃ちゃんの身体を、私はゆっくりと抱きしめた。
私を許してくれてありがとう…、澄乃ちゃん…。

澄乃ちゃんが泣き止んでから、二人でベッドの上に腰を下ろす。
私は上体を斜め向きにして、澄乃ちゃんの顔を見つめる。
澄乃ちゃんもまた、私の方を見つめていた。

ひとつになりたい…。

瞼を閉じる。
私の唇に、澄乃ちゃんの唇が合わさった。
私と澄乃ちゃんの唇が触れ合う。
その中で、互いの舌が激しく絡み合う。
澄乃ちゃんの脚が、私の股の間に挟み込まれる。
二人の距離がぐっと狭まる。
澄乃ちゃんの胸が、私の胸に押し当てられる。
柔らかくて、あったかい感触。
澄乃ちゃんの胸の鼓動が伝わる。
私と澄乃ちゃんの乳首が擦れ合う。
「はぁ…あっ…ああんっ…あっ…」

気持ちいい。
身体が軽くなる。

自然に二人の手が、互いのあそこをまさぐる。
愛液が、ぴちゃぴちゃと溢れ出す。
「うふふ、しぐれちゃんのあそこが、嬉し泣きしてるよ」
「澄乃ちゃんだって、あそこがピクピク震えながら喜んでる」
「しぐれちゃんだと背中が痛むだろうから、私が下になるね」
澄乃ちゃんが上体を寝かせる。
私と澄乃ちゃんのあそこがくっついた。
私は腰を動かして、自分のあそこを澄乃ちゃんのあそこに擦りつける。
「ああっ!いいっ!気持ちいいよぉ!」
「ううっ!わ、私も…気持ちいいっ!」
擦れ合うあそこから、くちゅくちゅといやらしい音が聞こえる。
何て気持ちいい音なんだろう。
二人の愛液が、ベッドの上を浸している。
あそこの花弁が、クリトリスが熱を帯びる。
その熱が、やがて全身を覆ってゆく。
心の奥底で、淫欲の炎が燃えさかる。

「はぁん!しぐれちゃん…、そんなに動くと…、傷がすれちゃうよっ…」
傷?私、怪我していたんだっけ?
解らない。ちっとも痛くなんかない。
それよりも、もっと、もっと激しく動くんだ。
煮えたぎる愛液が、この身体を溶かしてしまうまで。

「しぐれちゃん…、しぐれちゃん…、一緒に…、一緒に行こう…、ああああっ!」
「澄乃ちゃん…、私も…、私も…、一緒に…、行きたい…ううっ!」
澄乃ちゃんの身体が波打っている。
快感の頂点を求めて、私の腰が激しく動く。
意識がだんだんとかすれてゆく。
その意識の中で、ひときわ大きな快感の波が、二人を飲み込むのが見えた。
「しぐれちゃん!私…もう…いっちゃう…いっちゃうよぉ!うわぁーーーーーーっ!!!!!」
「澄乃ちゃん!澄乃ちゃん!澄乃ちゃん!あああああああああーーーーーっ!!!!!」
背中から頭上へ突き抜ける電流のような刺激。
その瞬間、私と澄乃ちゃんのあそこから、大量の愛液が周囲に飛び散った。

ふらふらと、澄乃ちゃんの上に覆い被さる。
「はぁ…、はぁ…、はぁ…、はぁ…、」
澄乃ちゃんの荒い息づかいが間近に聞こえる。
肌に伝わる澄乃ちゃんの身体の温もり。
澄乃ちゃんがいとおしい。
離れたくない。
私は澄乃ちゃんに話しかけた。
「澄乃ちゃん…。私達…、いつまでも友達でいようね…」
澄乃ちゃんの頭が、こくんと頷いた。
頷いた澄乃ちゃんの目頭から、涙の雫が頬に流れていた。
ここは、粗末なプレハブ小屋の中。
温泉旅館の宿泊客が多数詰めかけている。
暗かった部屋の中に、スポットライトの明かりが灯る。
澄乃ちゃんと私が、観衆の前に浮かび上がる。
「お待たせいたしました。龍神天守閣名物、素人SMショーの開幕でございます。
どちら様も、存分にお楽しみ下さい!」
新支配人となったあの男が、マイクに向かってしゃべった。
麻縄で緊縛された私の身体に、澄乃ちゃんが蝋燭をかざす。
溶けた蝋が、私の肌の上に落ちる。
動きの不自由な私は、身体をくねらせて悶える。
麻縄が私の両胸を、そしてあそこを締め付ける。
澄乃ちゃんは緊張しているのか、動きがぎこちなかった。
私は心の中で、澄乃ちゃんに言った。

これでよかったんだ。
澄乃ちゃん、私は大丈夫だよ。
澄乃ちゃんと友達でいられるなら、私はどんな事も耐えてゆくことが出来るから。

時がゆっくりと流れてゆく。
ショーの会場でもあるプレハブ小屋で、私と澄乃ちゃんは暮らしていた。
仕事は大変だけど、それ以外ではとても幸せだった。
二人一緒で野山を歩き、二人一緒で買い物をして、二人一緒で同じ布団に眠る。
澄乃ちゃんが好物のあんまんを私に分けてくれれば、澄乃ちゃんに私は好物の雑炊を作ってあげる。
そうして季節が巡り巡って、翌年の観光シーズンも終わって、龍神村にまた冬が訪れようとしていた。
ある日、澄乃ちゃんに一通の手紙が届いた。
差出人は、澄乃ちゃんのお父さんだった。
手紙を読んだ澄乃ちゃんが、私にも中身を見せてくれた。
そこには、私への謝罪と、借金の返済が終わって自由の身になって、
今はお母さんと一緒に暮らしているという事が書かれていた。
お父さんが無事でいることに、澄乃ちゃんは大いに喜んでいた。
私も、今の澄乃ちゃんのお父さんなら、許せそうな気がした。
その時、部屋にある電話のベルが鳴った。
私が電話に出る。
「出雲だ。あんたたちの仕事が予想以上に好評だったんでな。
儲けた金で、来年からプロのモデルを呼ぶ余裕が出来た。芝居小屋も改築して今より大規模にする予定だ。
それで突然なんだが、あんたたちにクビを宣告することにした」
「そ、それって突然…」
「給与はいつも通り、あんたたちの口座に振り込んである。今回は退職金のつもりで多少上乗せしたがな。
雪でこの村が下界と閉ざされる前に、好きな処へ立ち去るといい。
それから澄乃に伝えておいてくれ。両親と仲良く暮らすんだぞ、と」
ここまで聞こえた後、電話が切れた。

私達も、自由の身になったんだ…。

受話器を持つ私の手が震える。
それを見た澄乃ちゃんが私の元へやって来て言った。
「どうしたの、しぐれちゃん」
上手く言葉を表現できない。思わずヘンな事を口走ってしまう。
「わ、私達…、クビになっちゃった」
「ええ〜っ!じゃあ私達どうなるの?お金が無くなるとあんまん食べられなくなっちゃうよぉ〜」
「違うよ澄乃ちゃん、私達は自由になったんだよ。これからは村の外でも何処へでも行けるんだ」
「…じゃあ、お父さんの元へも行けるのかな…」
私は澄乃ちゃんの問いに頷いて応えた。
「や、やったーーーーっ!」
澄乃ちゃんはそう叫ぶと、プレハブ小屋の外に飛び出してゆく。
「ま、待ってよ澄乃ちゃん!」
私も澄乃ちゃんの後を追って、プレハブ小屋の外に出る。
先に外へ出ていた澄乃ちゃんの右手が、私の左手をしっかりと握った。
そのまま、雪の上を走り出す。
手をつなぎ合って、澄乃ちゃんと私は笑いながらプレハブ小屋の周囲を駆け回る。
「私、嬉しいよっ!お父さんやお母さんと一緒に暮らせるんだよっ!」
「良かったね、良かったね澄乃ちゃん」
「それでね、しぐれちゃんも私と一緒に暮らして欲しいんだよっ!」
「えっ、いいの…、私が一緒にいても…」
「当然だよっ!しぐれちゃんは私の大切な友達なんだからっ!」
澄乃ちゃんの一言に、私の涙腺が緩んだ。
「しぐれちゃん、泣いてるの…?」
「うん…、泣いてる…、嬉しいから泣いてるの…」

駆け回る私達に、小春日和の陽光が降り注ぐ。
それは、私と澄乃ちゃんが持ち続けていた希望。
今握っているこの手が離れてしまわないよう、私も澄乃ちゃんと一緒に走り続けよう。
澄乃ちゃんは、私にとってかけがえのない、大切な友達だから。
いつまでも、いつまでも…。

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