『発狂した宇宙』もしくは『時空監視官出動!』

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「きゅーたろは、平行世界をしってるかお?」
「なんだべるの、藪から棒に」
「とーとつもとーとつにべるの教授のSF講義なんだお」
一流のデリバリストたるこの俺、市橋Q太郎の目の前でうっすい胸をえっへんと張っているのは
らびらびの同僚べるの。どっからどー見てもょぅι"ょだが、これでも青少年保護条例にはひっかからない年齢…なのか?
「おまえの方がよっぽどえすえふだっつーの」
「う?どういういみだお?」
いかんいかん、頭の中身が漏れている。夏の新船橋市は容赦なく苛烈に激烈に暑い。
昼間の疲れがまだ残っているらしい。今、満点の星空の下、風はいくらかの涼しさを運んでくれていた。
見上げる夜空は、赤道直下の水上都市新船橋に相応しく、本土とはまったく違う美しい星模様だ。
「えっへん。五島プラネタリウムとめがすたーXくらいちがうお」
「…もしかしてまた頭の中身が漏れたのか?」
「だだもれだお。きゅーたろは仕事のしすぎでおかしくなってるお。いいものを見せてやるから
 これでココロなごませるとよいのだお」
砂浜に設置された、なにやら機械仕掛けを組み込まれた反射式望遠鏡が、ひときわ輝く火星をゆっくりと
追いかけている。べるのの依頼で俺がここまで宅配したのだ。
荷物を運んでくれと頼まれれば、デリバリストQ太郎にはそれを断る術がない。
「デリバリストですから!」
「もれもれだお。きゅーたろはみみのあなにタンポンつっこんだほうがいいお。
 ひとりごとがおおい日もあんしんだお」


「まえふりがながくなったお。きゅーたろは平行世界をしってるかお?」
「パラレルワールドってやつか?別の宇宙、別の自分、すこしだけ違う世界ってやつ」
「うおー、ばっちりだおきゅーたろ。では、平行世界はいくつあるかしってるかお?」
「…? いや、質問の意味がよくわからん。平行世界は『ある』のか?」
「物理学の最新理論は平行世界の存在を肯定しているお。そして、どこかが微妙に違う宇宙が
 隣り合わせになっているのなら、じゅーぶんに離れた平行世界はおたがい
 似ても似つかないものでもかまわないのだお。
 つまり、パラレルワールドはいくつあってもいいのだお。証明おわり」
べるのは望遠鏡の筒内になにやら組み込みおえたらしい。通電した電動経緯台が望遠鏡を
火星の方向へと正確に回転させる。よくできてるなあ。接眼部には、経緯台にリンクしているらしい
小さな鏡が海を写していた。

「で、それのどこがSF講義なんだ?俺でも知ってる話だぞ」
「うー、この手の話を最後まで聞いてくれそうなのはきゅーたろしかいないのだお」
ってことは話はまだ始まったばかりってことだ。俺は砂浜に敷いたレジャーマットの上で
姿勢を変えて胡坐を組んだ。作業を終えたべるのがちょこちょこと歩いてきて
俺の膝に乗る。
「たしかにらびらびでこの手の話を聞きそうなヤツはいないなあ」
「きゅーたろはちてき好奇心を持ち合わせた教養あふれるデリバリストだお。
 さっすがべるのが見込んだ漢(おとこ)なのだお」
「はっはっは、褒めても何にも出んぞ」

「つまり、平行世界ならなんでもありなんだお。
 七夜の殺人貴が人間試験に合格して零崎になる世界もあれば
 うぐぅなゆーれいがクローンで反逆者をZAPしまくる世界だってありなんだお。
 平行世界のどこかにはエルザエンドのあるデモンベインが発売されてる世界だってあるんだお」
「だんだんダメな話になってきてないか?」
「うっぷっぷ、気のせいだお」

「さらに言うならば時間の流れだって一様ではないのだお。
 ふつーのせかいの時間がまっすぐ伸びていく時に
 同じところをなんども繰り返す世界だってあるのだお。
 花梨エンドのあとで和泉エンドを経験して
 那波エンドもつまみ食いして雪さんエンドで〆る、
 そんな時間軸をじっさいに生きている透矢さんだって
 無限の平行世界のどこかにはいるってことなんだお」
「見てきたような事を言うなあ」
「見たんだお」
…な、なに?
「見たんだお、きゅーたろ。きゅーたろのくれたイミテーション#4はまほーの石だお。
 こんなばかな話をさいごまで聞いてくれるのはきゅーたろしかいないお。
 もうすぐ火星と月の位置が条件をみたすお。
 …そんで、きゅーたろにもアレをみてほしいのだお」


べるのが、海を指差した。
望遠鏡の接眼部から、青い光が鏡を介して海へと広がってゆく。そして。
海の上に、花が咲いた。いくつも、いくつも。
手前には白樺のように真っ直ぐ伸びる『樹』が林のように見える。
その林の向こうに。
花が咲いていた。

「手前の樹はたぶん、ふつーの時間樹だお。そんで、あれが…」
「あの花園が」
「うん、たぶん『くりかえす時間軸』を持つ世界なんだお。
 花びらみたいにみえるのは、時間の本線からなんども分岐してもとの時間軸の
 すこしむかしへ再帰してるからだお」
「イミテーション#4を研究中に、これを見つけた?」
「そうだおー」

何枚もの花びらをもつ、無数の花。海の上に浮かぶ蜃気楼の花園。
「きっと花びらの数だけ誰かが幸せになってるお。そうでなければあんなに
 きれいに見えるわけないおな」
「なんでそんな特殊な時間軸がかたまってるんだ?」
「たぶん、よく似た世界だからだお。どくたーはあれを『えろげの花園』となづけたお」
「ドクター?」
「ドクターウェストだお。ほら、あの花に住んでるお」
「うお、なんだありゃ」
「ものすごーく繰り返してる時間軸らしいお。数えるのがばかばかしいほどだお」

「…いつか」
「?」
「いつか、あのへいこーせかいのどこかから」
「ああ」
コイツは、まだ諦めていないのだ。べるのは。
イミテーション#4の増産が限りなく不可能な状態でも。
カーボンナノチューブ工業生産化の研究が世界的に袋小路でも。
「ぜっったい、やっすく量産できる方法をみつけるお」
「ああ、そうだな」
べるのの金髪をくしゃっと撫でながら、俺は、
「はーれむえんどなんてゆるさないお」
「漏れてるっ?!」

  〜了〜


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