人と鬼と修羅と歯車様

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 気だるいとある日。とある夕刻。とあるカフェの店内。貸しきられ、伽藍とした
その場所に奇妙な集団がいた。まあ、たった四名で集団と表現するのは誇張である
かもしれないが。

 奇妙、とはいっても彼らの外見がそれほど奇矯なわけではない。構成は青年二人に
少年二人。浅い青のジャケットを着た二十歳前後の青年、擦り切れた黒一色の長衣を
羽織った男、飾り気のないロングコートに袖を通している少年。

 そして、一見して中高校の制服と分かるものに身を包んだ少年が、わずかに緊張
した様子を見せながら立ち上がった。

「えー本日は『ニトロ主人公親睦会』にご出席して頂き、真にありがとう御座います。
僭越ですが、司会は僕こと友永和樹が務めさせていただきます」

 ぱらぱらとまばらな拍手。内一人である、いかにも剣鬼然とした男は顔を上げる
事さえしなかった。が、和樹は特に気にしたふうもなく、几帳面に全員に対して頭を
下げる。

「ありがとう御座います。それではさっそく、最初の議題に移りましょう」

その1。自己紹介
 作品順でということになり、まずはジャケットを着た青年が億劫そうに口を開く。

「吾妻玲二。ファントムに出演。普通の暗殺者だ。ルートはエレンED」

 次いでロングコートの少年が、

「伊藤惣太。ヴェドゴニアで一応主役をやってた。ただの後天性吸血鬼。ルートは
リャノーン」

 二人の紹介が終わると、長衣の男は切れ長の目をうっすらと開き、告げた。

「孔濤羅。鬼哭街に。凶手だ。……ところで、ルート?」

 そして司会の和樹が改めて名乗る。

「皆さん始めまして。僕は友永和樹です。“Hello,World.”のほうにお邪魔させて
もらっていました」

 少し恥ずかしそうに頬を紅潮させ、

「ルートは千絵莉さんノーマルENDです」
「生きてたのかお前!?」

その2。戦闘能力。
「ではお尋ねします。皆さん銃弾とか、かわせますか? 僕は二号機ででしたら、
拳銃弾ぐらいはなんとかなります」
「俺もまあ、よく『見れば』かわせるな」

 少年達の言葉に、濤羅は嘲るように片頬を吊り上げる。

「人を超えた性能、人を超えた身体能力。……つくづく下らんな。なぜお前達は
目に見えるものばかりに気を取られるのだ?」

 別段気を害したわけではないが、わずかに惣太が眉根を寄せた。

「眼の色境にあらずとも、万物は紛れもなくそこに存る。耳の声境に。鼻の香境に。
舌の味境に身の触境に。……そして意の法境に。世界は、森羅万象は平素と変わらぬ
姿でそこに『存る』のだから。虚よりなお空。空よりなお清。清より果ての浄の境地」

 冷たく唇を歪め、彼は続ける。

「極めたなどと妄言は吐けぬが、内家の深淵にわずかながら触れたこの身。……まあ、
突撃銃程度の掃射であれば、如何ほどのものでもない」

 おー、と思わず感嘆の声をあげてしまう。いや、何を言っているのかは全く
分からなかったのだが。と、

「あれ? 玲二さん、さっきから静かですね?」
「……俺、もうモンゴル料理食いに帰っていい?」

その3。恋人。
「エレン」
「リャノーン」
「ち、ち、千絵莉、さん、です」
「…………」

 ちょっと無言。気まずい雰囲気を振り掃うために、玲二が言う。

「とりあえずヤラハタ君は置いといてだ」
「誰がだ!」
「えーでもー、ぐずぐずに病んだ妹魂兄ちゃんにそんな甲斐性ないだろう?」
「ハーレム作れば甲斐性があることになるのか!? 歴代ニトロ主人公の中で
貴様だけだろう! そんな倫理観欠如なEDがあるのは!」
「そっちは俺であって俺じゃないんだよ! ルートが違うだろうがルートが!」
「ルートルートとさっきからお前達は何を訳の分からない事を言ってるんだ!」
「そうですね。僕も濤羅さんの言葉は不適切かと思います」
「!?」

 さまざまな感情のこもった視線が交錯するその場で、和樹が小鳥のように首を
傾げる。そして無機頭脳の特性を生かして収集した情報を舌に乗せた。

「玲二さんはまず(ピー)歳の時にクロウディアさんと関係を持ち、次に(ピー)歳の
玲二さんより年下である(ピー)歳のキャルさんと一夜限りの関係を築き、その
キャルさんと物理的に縁を切ってから、エレンさんと一緒に生活を送っています」

「き、きさま! さては初回版の玲二だな!」

その4。男の友人。
「…………」
「…………」
「元兄だ……」
「お前殺したじゃん」
「…………」

 ぎちぎちと、音をたてて空気が軋んでいく。その空気に耐えられなくなったのか、
和樹が無理矢理といった様子で発言する。

「えーと、僕は圭介が……」
「三章で心配するどころか思い出しさえしなかったのに?」
「…………」

 次。

その5。幕。
「ええー、では皆さん、長い間お疲れ様でした。最後に締めとなる質問をさせて
頂いて、お開きにしようと思います」

 ぱちぱちと、まばらな拍手。ただ今度はおざなりながら濤羅も手を鳴らしていた。
その様子に少しだけ和樹は顔をほころばせてから、一つ咳払いをする。

「ニトロプラスの次回作となりますデモベイン。その主人公に対して、初見の
印象をお答え下さい」

 反応は、とても速かった。

「明るそうで嫌い。洗脳されろ」
「幸せになりそうで嫌。夜の公園で噛まれやがれ」
(このゲーム、妹いないのかな……)

「え、えー、司会は友永和樹でお送りしました。それでは皆さん、さようなら」


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