ナオミ様がみてる

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「ごきげんよう」
「ごきげんよう」
 さわやかな朝の挨拶が、澄みきった青空にこだまする。
 ナナミ様のお庭に集う乙女たちが、今日も天使のような無垢な笑顔で、背の高い門をくぐり抜けていく。
 汚れを知らない心身を包むのは、明るい色の制服。
 スカートのプリーツは乱さないように、白いセーラーカラーは翻らせないように、ゆっくりと歩くのがここでのたしなみ。もちろん、遅刻ギリギリで走り去るなどといった、はしたない生徒など存在していようはずもない。
 私立水月女学園。
 某県下。昔の日本の風景を未だに残している緑の多いこの地区で、女神に見守られ、幼稚舎から大学までの一貫教育が受けられる乙女の園。

「お待ちなさい」
 背後から呼びかけられ、「はい」と返事をしながら振り向いた透矢は絶句してしまった。声の主が、予想もしていなかった人物だったから。
 そこに立っていらしたのは、宮代花梨さま。通称「紅薔薇のつぼみ」。ああ、お名前を口にすることさえもったいない。私のような者の口で、その名を語ってしまってもいいのでしょうか。そんな気持ちになってしまう、全校生徒のあこがれの的。
「リボンが、曲がっているわよ」
「えっ?」
 彼女は手にしていた鞄を透矢に持たせ、透矢のリボンを直しはじめた。
「身だしなみはいつもきちんとしときなさいよ。ナナミ様が見ていらっしゃるわよ」
 あこがれのお姉さまはそう言って、「ごきげんよう」を残して先に校舎に向かって歩いていった。

409 名前:ナナミ様がみてる(2/2)[sage] 投稿日:03/03/27 17:17 ID:SC0EbF53
(えっと、なんで私はここにいるんだろう)
 その部屋は、学校のどの施設にもない雰囲気を持っていた。部屋の中には、紅、白、黄の薔薇さま方はもちろん、薔薇のつぼみ、そして一緒に来た庄一さんもゲストとして席を用意されていた。
 机をはさんで座っているのは、まっしろな髪をショートにした、すらりと背の高い紅薔薇さま。いま透矢が飲んでいる紅茶は彼女がいれたものだ。普通はそういうこと、つぼみか、つぼみの妹がやるものなんじゃないだろうか。
 ぼーっとした頭で透矢はそんなことを思っていたが、どうやら彼女自身が紅茶をいれるのが大好きらしい。
 その隣には、にこにこ、にこにこと、とても無邪気で嬉しそうな笑みを浮かべている、白薔薇さまが座っている。動物のヘアピンとバンダナがとてもよく似合っていて、かわいらしい。…薔薇さまに「かわいらしい」というのは失礼かもしれないけれど。
 腰まで届く黒髪、薄い色素のひとみ。そのお顔にどこか不思議な笑みを浮かべてこちらを向いているのは黄薔薇さま。生まれつき目が見えないらしいけれど、その動作からはみじんもそんなことを感じさせない優雅な仕草。
 透矢の隣には花梨さま、反対側には同じ一年生の、白薔薇さまの妹の和泉さんが座っている。壁際に椅子を寄せて座っているのは黄薔薇のつぼみであるアリスさまと、その妹であるマリアさん。
 そんな、そうそうたる雪花会メンバーの視線が、花梨さまと透矢の顔を興味深そうにいったりきたりしている。
 こんな状況になったのはどうしてだっけ、と透矢はぼんやりと思い返していた。たしか私は、庄一さんが撮った私と花梨さまのツーショット写真のことを話にきただけで。
 それだけだったはずなのに、雪花会の部屋の扉から飛び出してきた花梨さまが透矢とぶつかって。
 透矢が立ち上がるのに手を貸した花梨さまは、透矢の顔をまじまじと観察したあと、勝ち誇ったような笑みを浮かべ、そのまま流暢に、その場にいた全員の度肝を抜くような言葉を発したのだ。
 私は、今ここに瀬能透矢を妹とすることを宣言いたします、と。

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