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ざざーん、ざざーん。
僕の意識は、混濁の闇のなかから目覚めようとしていた。
微かに聞こえる波の音も、目の前にあるものなのか、
それとも遥か遠くなのかもわからなかった。
ただ、今僕の心のなかに渦巻く破壊的な衝動と、両手に伝わる何かが
歪んでいく感触だけは、はっきりと認識していた。
「ぎゃあああああああああああっ!! いだいっいだいっいだいいいいいいいっ!!」
僕の両手が掴んでいるのは、細い、僕以外の誰かの腕のようだ。
みしっ、みしっと、軋む音を立てている。
関節ではない部分が、本来だったらありえない方向に反り返ろうとしていた。
「ぎひいいいぃぃぃっ! やああああああああああああああっ!!!」
僕は、それが僕自身の仕業だという実感は無かったけれど、
それでも妙な高揚感に突き動かされて、さらに両手に力を込めた。
ぎりっ・・・・・・ぎりっ・・・・・・ぼきんっ
「ひぎいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいっ!!
あああああああ・・・あがっ・・・・・・ああ・・・・・・ううっ・・・・・・」
乾いた音と共に、全てを切り裂くような絶叫が周囲に鳴り響いた。
僕は、言い知れぬ満足感を味わいながら、再び闇に飲み込まれていった。
「透矢さん、お時間ですよ?」
柔らかくて優しい、陽だまりのような声に、僕は目を覚ました。
目の前には、僕だけのメイドさんがにっこりと微笑んでいる。
「おはよう、雪さん」
「おはようございます。よく眠れましたか?」
ふと、雪さんがいつもとは少し様子が違うことに気付いた。
「雪さん・・・・・・どうしたの、それ」
「はい・・・・・・転んでしまって、どうやら折れてしまってるみたいです」
「ええっ!?」
「透矢さんは気にしないでください。雪は平気ですから」
雪さんはそう言って、僕の頭を片手で引き寄せて囁いた。
「雪はどんなことでも平気ですから・・・・・・透矢さんが望むならばどんなことでも・・・・・・」おわり   
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