愛のカタチ

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 僕は、九郎君が好き。誰にも渡さない。
 君は、ずっとずっと、未来永劫、僕のものだ。
 




  
「おーい、九郎君ー、ちょっと待ってくれないかいー」
 公園を歩いていたら、後ろから知っている声が聴こえた。
 振り返ってみると、なにやら大きな紙袋を抱えた女性。
「ナイアさん? どうしたんですか、その荷物は」
 俺の方に近寄ってくるも、その歩みは少し危ない。
 仕方なく、自分から彼女の方へ歩み寄った。

 向かいあう。なぜか少し不機嫌のようだ。
 むくー、って感じだ。
「酷いなぁ、酷いなぁ、九郎君は。まだ僕のことをさん付けにするなんて。
 いつもいつも言ってるじゃないか、ナイアって呼び捨てるようにって」
 そんな理由だったのか。
 大人びた、というかまさに大人の女性な外見からはちょっと考えられない、子供っぽさ。
「すいません、でも」
「だめだよ、だめだよ、敬語もだめだよ、九郎君。仮にも愛しのダーリンに向かって使う言葉じゃあない」
 俺の言葉を遮り、どことなく唄うような、特徴的な喋り方をする。
「だ、ダーリンって……」
「おや、九郎君は僕を愛してくれているんじゃなかったのかい?
 酷いなぁ、悲しいなぁ、僕の乙女心を玩ぶなんて……僕は九郎君が居なければもう生きていけないというのに」 



「こ、公衆の面前で何言ってんですかっ!」
「まだ敬語をやめてくれないんだね、九郎くんは。仕方ないな、これは君に罰を与える必要があるみたいだね」
「罰って……」
 いかん、なんか押されっぱなしだぞ、俺。
 なんつーか、キャリアが違う。

「と、いうわけで。この荷物、持つのを手伝ってくれないかい?」

「……もしかして、それが目的ですか?」
「やだなぁ、僕はそんなちっぽけな理由で人を呼び止めたりしないさ」
 言いつつも、荷物を俺に手渡す。
 かなりの重量のそれは、新旧の差はあれどすべて本だった。
「君と会話がしたかったから呼び止めたんだよ」
「はあ、それは光栄なことで」
 生返事を返す。
「む、なんだいその返事は。つれないな冷たいな、もっと喜んでくれても罰は当たらないと思うんだけどな」
 片腕を取られる。
「なんですか」
「恋人なら腕くらい、組んでもいいだろう?」
 うあ、そんな満面の笑みを浮かべられたら、拒否できるはずがないじゃないか。
 まあ、拒否する理由もないけど。



 なんかあったかくてやーらかい感触が、腕に。
「な、ナイアさん……その、あまり押し付けないでください……」
「九郎君はこういうの嫌いだったかな?」
 大好きです。
 いや、そーではなく。
「流石にちょっと、恥ずかしいですよ」
「ふぅん、僕はそういうの気にならないけどな。野外プレイだって大好きだし」
「野外って……もうちょっと羞恥心とかを持ってくださいよ」
「あ、よさそうな茂みがあるよ、九郎君。えっちには最適だ」
 本当だ……って、そうじゃなく!
「したいなあ、九郎君とえっちとか、セックスとか。本屋の奥で独り身体を慰めるのには飽きちゃったよ」
「だから、公の場でなんてこと言うんですか貴女はっ!?」
「僕の身体、貪りたいと思わない?」
 う、いや、そりゃあ思うけど……
「折角の僕の名器も、指とか道具とかが相手だと寂しいなー」
 指…… 道具……
 ナイアさんの身体……
「ふふ、九郎君、硬くなってきちゃった?」
 う、実は少し。
 いやしかし、ここは心頭滅却だ、大十字九郎!
 ていうかナイアさん。組んでいる腕を股間に持っていかないでください。



「だ、駄目ですってナイアさん」
「あーあー、僕のあそこはもうびしょびしょなのになー、九郎君はちっとも欲情してくれないんだー」
「だーかーらー、人前でそういうこと言わないでくださいってホントに!」

 彼女は、にやりと嗤った。
 あまりにも妖艶で、
 あまりにも淫猥で、
 あまりにも壮絶に。

「――何を言ってるんだい? この世界には、僕と君しかいないじゃないか」

 持っていた本が消える。
 着ていた服が消える。
 公園の風景が闇に沈む。

 抱き付いてくる、闇黒。
 俺を見下ろす、黒い闇。
 絶望という、永遠の生。

 ああ、そうか。
 俺は――








「……大丈夫かい?」

 気が付くと、ベンチに横たわっていた。
 というか、ナイアさんに膝枕をされていた。
「突然倒れるなんて、九郎君、疲れているんじゃないかい?」
 疲れている……そうかもしれない。最近忙しかったから。
 何で忙しかったのかは、不思議と思い出せないが。

 介抱してくれたナイアさんの優しさが心地好い。
「……ありがとう、ナイアさん」
「ふふ、礼はいいよ。僕も君の寝顔を堪能できたしね」
 最後の記憶は確かに青空だったのに、今はもう夕暮れ時だ。
 ずっと見ていてくれたんだろう。
 すこし名残惜しいが、膝枕状態を解除し、立ち上がる。
 彼女も一緒に立ち上がった。
「そうそう、九郎君。礼はいいといったけど、やっぱり一つだけお願いしてもいいかな?」
 断るなんてできない。
「はい、ナイアさんの願いなら、どんな事でも叶えますよ!」
 彼女は――彼女にしてはとても珍しいことに――少しためらってから。

「じゃあ……愛してるって言ってくれるかな?」

 俺は彼女を抱きしめてから、言った。
「愛してますよ。ナイアさん」




 
 君と僕とは倫理観、価値観が根本から違うから、理解してはもらえないかもしれない。
 それでも、僕は君を愛しているんだよ、九郎君。

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