琴乃宮雪、10歳

戻る
私の記憶が確かならば……で始まる料理番組があったそうだけど、
僕のあやしげな記憶でも、雪さんの料理は最高のはずだった……

「珍しい茸をいただいたんですよ」
そう言って、雪さんは炊き込み御飯を作ってくれた。
本当に彼女の料理はおいしい。僕は3杯目のおかわりを差し出しながら聞いてみた。
「おいしい茸だね。なんて言うの?」
「送ってくださった方の地方では『迷い茸』と呼ぶそうですよ。
なんでも、この茸を探すのに夢中になって、
迷ってしまうことからそう言う名がついたそうです」
山の中で迷うっていうのも、どっかで聞いたような話だ。
「送ってくれた人って?」
ぼくは3杯目をかきこみながら再度聞いてみた。
「お父様のお知り合いの方ですよ」
「父さんの?」
「はい、この地方の伝承との関連を調べるために、隆山というところに行かれて、
その時お泊りになった宿でお世話になった方だそうです」
「ふーん、ま、おいしいからいいか…
父さんの道楽も、たまにはいいこともあるみたいだね」
「まぁ、そう言うことをおっしゃるものではありませんよ。
雪は、お父様のお仕事は御立派だと思います。それに……」
「それに?」
僕は、お味噌汁に手を伸ばしながら
「滅多に見られない物や、珍しい食べ物に出会うこともできますしね」
「はは、それは納得」
「ええ、今回の茸なんか、特にすばらしいんですよ」
「うん」
味噌汁をすすりながら同意する。うーん、おいしいなぁ……
「この茸、男性には精力増強の効果があるそうです」
「ブッ! ゴホゲフゴフッ」

噴き出しそうになるのを無理に堪えようとして、むせてしまった。
「大丈夫ですか? 透矢さん!」
慌ててやって来た雪さんが、背中を叩いてくれる。
「ゴホッ…大丈夫、ちょっとむせただけだから」
「慌てずに食べてくださいね。喉につめたりしたら大変ですよ?」
「はは、その時は雪さんに吸い出してもらおうかな」
「もちろんそうさせていただきます。でも、笑い事じゃありませんよ?」
さらりと、とんでもないことを言い出す。でも、この人ならやるだろうなぁ
「もしも透矢さんの身になにかあったら、雪は……」
悲しそうな顔をさせせてしまった…って、前に似たようなことがあったときは
この流れで「雪が食べさせて差し上げます」になったっけ。
別に嫌じゃないけど、やっぱり恥ずかしいし…
「大丈夫、雪さんを悲しませるようなことはしないから」
「本当ですか?」
「本当。あ、お茶もらえるかな?」
僕は急いで残りのご飯を片付けた。雪さんはちょっぴり残念そうな顔をして、
それでも、にっこり微笑むと
「はい、ただいま」
と言って、お茶をいれてくれた。やっぱり狙ってたな。

「慌てて食べると消化にもよろしくありませんよ」
食後のお茶を満喫しているのだが、
雪さんは、まださっきのことが尾を引いているようだ。
きっとこのままだと、また「あーん」に繋がって行くに違いない。
「さっきは、別に慌てたからむせたわけじゃないよ」
「?」
「雪さんが、いきなり『精力増強』なんて言い出すから、びっくりしただけ」
「まあ、ふふ、それでどうしてびっくりなさるのですか?」
…わかってる顔だ。
「じゃ、その答えは今夜じっくりと教えてあげるよ」

「あら、ふふふ、雪、期待してしまいますよ?」
……かなわない。
その夜、僕は、結局雪さんの期待に応えるようがんばった。
翌日からとんでもないことになるとも知らずに……

目を覚ますと、雪さんは僕の腕の中で丸くなっていた。
珍しいな、僕のほうが早く目を覚ますなんて。
がんばりすぎたかな? 迷い茸の効能とやらが頭をよぎった。

僕はしばらく雪さんの寝顔を眺めていた。安心したような、愛らしい寝顔。
それでいて、ぎゅっと僕のシャツを握っている。
普段はしっかり者の雪さんだけど、今はちょっぴり子供っぽく見える。
まだしばらくは目を覚ましそうにないので、
僕は、起こさないようにそっと彼女の手を外すと、
軽く頭を撫でてベッドを抜け出した。

せっかく早く起きたことだし、シャワーでも浴びて、
たまには僕が朝食を作ってみようかな。トーストに目玉焼き程度しかできないけど。
でも、雪さんが嫌がるんだよなぁ 雪の楽しみを取らないでくださいって
いつだったかも、僕が朝食を作ろうとすると
「お願いですから、雪の楽しみを取らないでください」
「でも、たまには雪さんにもゆっくりして欲しいし」
「ありがとうございます。でも、これは雪の仕事ですし、それに…」
「それに?」
「透矢さんのお食事を作るとき、雪は幸せを感じることができるんです」
うっとりした顔で
「どんなささいなことでも、透矢さんのために何かできること、
それが雪の幸せなんです」
透矢さんがいないと雪はだめなんですと微笑む。
……やっぱり雪さんが起きるのを待った方が良さそうだ。

それにしても、今日はよく眠る。いつもなら、とっくに朝食を食べている頃だ。
そのときだった。
「透矢ちゃーん!」
「!」
雪さんの部屋の方から叫ぶ声が聞こえた。僕は慌てて彼女の部屋へ向かう。
「透矢ちゃんがいないよぉ」
「ぐすん… 透矢ちゃぁん」
そんな声が聞こえてくる。
「???」
わけがわからない。声は雪さんみたいだけど…
コンコン
「雪さん?」
「透矢ちゃぁん」
埒があかない。僕はドアを開けた。雪さんは、ベッドの上で女の子座りをして、
枕を抱いてぐすぐすとしゃくりあげていた。
「雪さん!」
思わず肩を掴んでみる。雪さんは、びっくりしたように僕を見上げた。
「おにいちゃんだぁれ?」
「! 雪さん!」
「おにいちゃん、雪のこと知ってるの?」
「知ってるのって、雪さん、悪い冗談は止めてよ」
「雪、わからないもん」
そう言うと、再び透矢ちゃん、透矢ちゃんとぐずり始めた。どうなってるんだ!?
雪さんはこんな悪ふざけをする人ではない。
それに、透矢ちゃんって…えっ?
雪さんの様子を見てみる。見た目はそのまんまなのに、まるで子供みたいだ。
昔、僕のことを透矢ちゃんと呼んでいた頃みたいに。まさか…
「えっと、雪ちゃん?」
僕は昔のように呼びかけてみる。これも最近思い出したことだが。

雪さんは、再び涙で濡れた目で僕を見上げる。
「雪ちゃんでいいんだよね? 雪ちゃんはいくつかな?」
彼女はくすんと鼻を鳴らすと答えてくれた。
「琴乃宮雪、10歳」
「!」
愕然とする。まさかとは思ったけど、本当に子供になっているなんて!
動揺を隠せない僕を不安そうに見つめる雪さん。
だめだ、今みたいな状態で、不安にさせてちゃいけない。
「そう、それじゃ、雪ちゃんの言ってる透矢ちゃんって、
瀬能透矢くんで合ってるかな?」
「うん…」
「で、起きたら透矢くんがいなかったと」
この頃、いつも一緒に寝ていて、朝は雪さんに起こされる毎日だったと聞いている。
「それで寂しくなっちゃったのかな?」
こくん、と頷きかけて、慌てて首を振る。
「知らないお部屋…」
そうか! この部屋は別々に寝るようになってから、雪さんに与えられたんだっけ。
それまでは、いつも僕と一緒だったから。
しかし、このままにしておくわけにもいかないだろう。
まずは落ち着かせて、現状を教えたほうがいい。こうなった原因は後回しだ。
「いいかい、雪ちゃん、落ち着いて聞いてね?」
僕は雪さんの目を見ながら言う。
「おにいちゃんの名前は瀬能透矢」
「透矢ちゃん?」
「そうだよ」
「うそだもん、透矢ちゃんは雪と同い歳だもん。そんなにおっきくないもん」
無理も無い。
雪さんにしてみれば、子供のはずの僕が、こんなに大きくなっているのだから

「うん、そうだね、確かに僕は雪ちゃんと同い歳だね」
そう言うと雪さんの手を取って、立ちあがらせる。
「立てるかい? …ほらね? だから雪ちゃんもちゃんと大きいだろう?」
立ちあがると、雪さんの背丈は僕より10センチほど小さいだけだ。
「えっ? えっ?」
ああ、やっぱり混乱したか…
「びっくりしないでね? 今雪ちゃんは、僕と同じで大人になってるんだよ」
僕は雪さんを姿見の前に連れて行った。
「どうだい? 美人さんだろう?」
雪さん、目を丸くしている。
「……」
一生懸命顔や身体を触っている。
しばらく呆然としていたようだが、ようやく納得してくれたみたいだ。
僕のほうを向くと
「本当に透矢ちゃんなの……?」
「そうだよ」
「透矢ちゃぁん」
胸に飛び込んできた。
「本当だ、透矢ちゃんの匂いがする」
「匂い?」
「うん、透矢ちゃんはいつも、優しいお日様の匂いがするの」
……そりゃ雪さんの方だよ、とは言えなかった。子供相手じゃなぁ
「じゃあ、本当に透矢ちゃんと二人で大人になったんだ」
「ちょっと違うけど、まあ雪ちゃんから見ればそうなるかな」
「じゃあ、雪、透矢ちゃんのお嫁さんになる!」
ゴン
思わず壁に頭をぶつけてしまった。
いや、そりゃほとんど結婚してるに等しい生活を送ってたけど、
今の雪さん相手にそれはまずいだろう。
まあ、子供の言うお嫁さんなんて、たかが知れてるけど。

「駄目?」
う、またそんな目で見るし…
しかたがない、真実を納得してもらうしかないだろう。
「うん、うれしいけど、ちょっとそれはできないんだ」
「どうして?」
「それはね……」
子供の僕達が大人になったのではないこと、
元々大人の雪さんが何故か子供の心になってしまったこと、
ここが雪さんの部屋であることなどを説明し、
最後にカレンダーを見せて、納得してもらう。
「だからね、僕の喋り方も昔とは違うでしょ?」
「うん…」
「じゃあ、どうしてこうなったかを調べてみないとね。
それによって治し方もわかるかもしれないから」
「……」
雪さんは医者にはかかれない。僕が何とかするしかないだろう。
「大丈夫、きっと元に戻してあげるから」
不安そうな雪さんを、安心させようとしてそう言ってみた。

それにしても、何か変なものでも食べたんだろうか?
それとも僕と同じで、何かの衝撃を受けたとか?
でもこれは、記憶喪失というより、幼児退行と言うべきだろう。
昨夜は僕とその…激しかったけど、頭をぶつけたりはしなかったはずだ。
確かにあの茸のせいか、僕は妙に興奮してたみたいだけど。
……茸!
思い当たるのはそれしかなかった。
雪さんは相変わらず不安そうに僕にしがみついている。
仕方なく雪さんを連れて父さんの書斎に行くと、
手当たり次第にそれらしい文献を調べてみた。

隆山地方に関する文献、茸に関する文献…迷い茸…
考えてみたら、ずいぶん怪しい名前の茸だ。
さんざん漁って、ようやくそれらしい文書を発見した。何々…?
――『マヨイタケ』隆山地方にだけ自生する。非常に美味。
これを求めて山中に迷うことがあるためこの名がある。――
ここまでは聞いた通りだ。
――また、精力剤としてもすぐれた効果があり、…――
いや、それはもう充分わかっている。
――まれに本種に酷似した『ニセマヨイタケ』も発見されることがある――
ニセマヨイタケ? もしかして!
――『ニセマヨイタケ』隆山地方にだけ自生する。
見た目は『マヨイタケ』に酷似して、慣れた者でも見分けがつかない。
囲炉裏にくべると、良い香りがすることから別名『炉裏茸』とも呼ばれる。
非常に美味。男性にはまったく無害だが、女性が食すると、
一時的な記憶障害を起こし、精神が若返ることがある。
食べた量にもよるが、3日から、長くても1週間で元に戻る。
また、本種に近縁の『セイカク……――

……間違い無さそうだ。おそらく昨日のマヨイタケに混ざって、
このニセマヨイタケが入っていたんだろう。って言うか、ロリタケ?
何故イロリタケじゃないのか小1時間ほど著者に問い詰めてみたかったが、
怖い答えが返ってきそうな気がした。

しかし、3日から、長くても1週間か…
放っておけば治ることは判ったけど、
これから最大1週間は「雪ちゃん」のままなわけだ。
まあ大丈夫だとは思うけど。
それより、雪さんに教えて、安心してもらおう。

「治る?」
「うん、大丈夫、長くても1週間で治るみたいだから」
「……でも、治ったら雪、消えちゃうのかなぁ」
「!」
ああ、僕はなんて馬鹿なんだ。雪ちゃんが不安なのは、そういうことだったんだ。
治るとか治らないとかじゃないんだ。同じことを、かつて僕も経験したはずなのに!
記憶が戻った時、今の僕が消えてしまう。それは恐ろしく、そして寂しいことだった。
あのときは、雪さんが僕を抱きしめてくれた。
真似するつもりはないけれど、そうすることが一番良いような気がして、
僕は雪ちゃんを抱きしめた。
「大丈夫」
「……」
「消えたりなんかしないよ、元に戻るだけ」
そう、雪ちゃんが雪さんになって、そして…
「治ったら、雪ちゃんは透矢ちゃんのもとに帰るだけだから。ね?」
そう言って頭を撫でる。
「何も心配することはないんだよ。ちょっと面白い夢を見ているようなものだから」
「夢?」
「うん、それなら楽しんだ方がいいでしょ?」
「…うん!」
ふう、ようやく笑ってくれた。
「おにいちゃぁん」
とたんに甘えて抱き着いてくる。いや、わかるけど、胸の感触が…
それに、おにいちゃん?
「お、おにいちゃんって」
「だって、おっきいおにいちゃんなのに、透矢ちゃんて呼んだらおかしいもん」
「できれば『透矢さん』って呼んでくれたほうが…」
「嫌。雪は、おにいちゃんがいい!」
そう言って上目使いで僕を見つめる。
「駄目?」

どうやら僕は、子供の雪さんにもかなわないようだ。
結局「おにいちゃん」のままで、僕も雪ちゃんと呼ぶことを約束させられてしまった。
まあいいか、かわいい妹ができたと思えば。それに、どうせ1週間以内の辛抱だ。
それよりも、雪さん…いや、雪ちゃんか。
僕が呼び方を承知すると、喜んでくれたのはいいけど、
「おにぃちゃぁん」
とか言いながら、抱き着いてネコみたいに身体をすりつけてくる。
気持ち良いけど、僕はなけなしの理性を総動員するはめになった。
ピンポーン
僕が密かに苦悩していると、呼び鈴が鳴った。
まとわりついて甘える雪ちゃんに
「ちょっと待っててね? お客さんみたいだから、おとなしく良い子にしてるんだよ」
と言うと、僕は玄関に向かった。
「はーい」
「あれ? 透矢?」
この声は… 僕は玄関の戸を開けた。
「おはよう、アリス」
「おはよう、透矢。珍しいわね、いつもは雪が出てくるのに」
「あ、雪さんは…」
なんと言うべきだろう。
正直に言ったところで、そう簡単に信じてもらえることではないだろうし。
「まあいいわ。それより……」
と、アリスが話し始めたときだった。
パタパタ
スリッパの足音が近づいてきた。
と思ったら、雪ちゃんが僕の背中に抱きついて、横から顔を出す。
「おにいちゃん、このお姉ちゃん誰?」
「……」
「……」
アリスと二人して固まってしまった。先に再起動したのは…

「……透矢、あなたとうとう…」
「ちょっ、ちょっと待ってアリス、絶対勘違いしてる」
「はぁ、いいわ、別にあなたが少女趣味の変態でも、
雪を相手にそういうプレイに嵌まっても、私には関係無いわ」
プ、プレイって、とにかく誤解を解かないと、少女趣味の変態にされてしまう。
僕は雪ちゃんに「ちょっと待っててね」と言うと、
無駄かもしれないけどアリスに説明を始めた。
当然のことながら、なかなか信用してもらえない。
しまいにはさっきの本まで持ち出す始末だ。
それでもアリスは「ロリタケ」なんて怪しいとか、版元が信用できないとか…
版元? …民明書……見なかったことにしよう。
さんざん説明して、雪ちゃんの様子も見てもらい、
まだ疑わしそうな顔をしていたけど、ようやくアリスも納得してくれたみたいだ。
「必死なあなたを見てたら、可哀想になってきたわ」
だそうだ…
「それで、いったいどうするのよ」
「どうするって、せいぜい1週間みたいだから、なんとかなると思う」
「…わかってないみたいね」
「?」
「考えてもみなさいよ、たとえ1週間でも、
小さな女の子の面倒を見ることになるのよ? あなたにできるかしら?」
呆れたような顔でアリスは続ける。
「10歳のつもりでいるわけでしょ?
お風呂とか、着替えとか、食事の世話とか、全部あなたがするのよ?」
「いや、さすがに風呂や着替えは自分でできるんじゃないかな?」
「微妙な時期よね。晩生の子や甘えん坊の子なら…
雪は見た感じ、かなりの甘えん坊みたいだし」
「アリスやマリアちゃんはどうだった?」
「あの子は今でも…って、何を言わせるのよ!」
「ごめんね、そんなつもりは無かったんだ。参考までに聞いてみたかっただけだから」

「はあ、まあいいわ。それより、本当に変な気起こさないでよ?」
「へ、変な気って… 子供相手にそんな気にはなれないよ」
「そう? この前『なんでもありの透矢』って花梨が言ってたけど?」
…一度花梨とはじっくり話しをする必要がありそうだ。
「そ、そうだ、もし『女の子』ということで何か困ったら、
相談にのってもらえると助かるんだけど」
まずい方向に行きそうな話を軌道修正してみる。
「それができないから心配してるんじゃない!」
「え?」
「今日来たのは、そもそも私とマリアが、
これから1週間家を空けるってことを言いに来てやったわけ」
「そうだったんだ。わざわざありがとうね」
「べ、別にいいわよ。私はそんな気なかったんだけど、
マリアが『留守中に透矢さんが来たら申し訳無いから』ってうるさいのよ」
「それでも来てくれたことに変わりは無いから、ありがとう」
「も、もう…」
そう言いながらもうれしそうだ。相変わらず素直じゃないんだから。
「で、そのマリアちゃんは?」
「荷造りに悪戦苦闘中」
「はは、大変そうだね」
「ちょっと、何ひとごとみたいに言ってるのよ! 大変なのはあなたでしょ?」
「そういえば、そうだった」
「はぁ、もう、しっかりしなさいよね」
「雪、大丈夫だもん!」
それまで僕達のやりとりを見ていた雪ちゃんが突然言い出した。
「雪、ずっと透矢ちゃんのお世話してきたもん。
おにいちゃんの面倒だってみれるもん!」
「……」
「……」
「…透矢、あなた、いくつのときから雪の世話になってきたのよ」

おにいちゃんの面倒は雪がみるのー、とはしゃぐ雪ちゃんを見ながら、
呆れた口調のアリス。
「うーん、まだ思い出せずにいるんだけど」
「都合の良い記憶喪失ね」
「そう言われても…」
「まあいいわ、この調子なら問題無さそうだし」
それに、とアリス。
「さっきみたいな事なら花梨にでも相談することね。鈴蘭はやめた方がいいわ、
歳はともかく、中身は今の雪とたいして変わらないんだから」
それだけ言うと、お大事に、とアリスは帰ってしまった。
花梨に相談ねぇ…なんか、思いきりからかわれそうだけど。

その日はそれ以降来客も無く、なんとか平和に過ごすはずだった。
雪ちゃんは、ちょこんとおとなしく僕の膝に座り込んで、本を読んでいる。
もっとも、僕にとってはある意味苦行に近い。なにしろ身体は雪さんなのだから。
昼食はとりあえず店屋物にした。
「おにいちゃんのご飯、雪が作るのー」
と言う雪ちゃんをなだめるのに手を焼かされたが、
さすがに今の雪ちゃんに火を使わせるのは不安だった。
それとも、雪さんはこの頃から料理をしていたのだろうか?
夕食も店屋物にするか、それとも簡単に僕がなにか作るか悩んだが、
慣れないことはしない方が良さそうだったので、やはり出前を取ることにする。
昨夜の残りの炊き込み御飯もあったけど、今こんなものを食べたりしたら、
僕はケダモノになりかねない。謹んで、処分することにした。

そして、問題のお風呂だったが……
「おにいちゃんと一緒に入るー」
……悪い予想は的中することになっているようだった。
「雪ちゃん、もう10歳なんだから、一人で入れるでしょ?」
「やー、おにいちゃんを洗ったげるのー」

ああ、ナナミさま、僕は何か悪いことをしましたか?
「雪ちゃん、身体はもう大人なんだから、ね、大人は一人で入るんだよ?」
「おにいちゃん、雪と入るの嫌なの?」
……子供でも雪さんは雪さんだった。
結局僕は心配していた通り、雪ちゃんと一緒にお風呂に入ることになってしまった。
その日のお風呂は、僕にとって文字通り試練の場と化した。
「ほら、おにいちゃん、雪、おっぱい大きいよ」
「そ、そうだねぇ」
さりげなく目を逸らしながら答える。
「もう! ちゃんと見てよぉ」
…………
「わぁ、おにいちゃんのもおおきいね」
「雪ちゃん、そこは触っちゃだめ!」
「ぶー、おにいちゃんのけち 透矢ちゃんは触らせてくれたのに」
「! い、いや、大人はそんなことしないの」
「うそだぁ、大人は触りっこするって庄ちゃん言ってたもん」
……庄一、君はなんてことを……
ふと、以前に見た夢を思い出す。動物のような目をした雪さん。
僕の性器に異常に興味を示した。あれはこんな状況だったのだろうか?
でも、もう少し歳は上だったようだし、おそらく一緒には入浴してなかったと思う。
まあ、今の状況は子供の好奇心程度だし、おかしなことにはならないだろう。
「あ、おにいちゃんのおっきくなってきた!」
……と、思う。
はしゃぐ雪ちゃんを、なんとかいなしながら、試練のお風呂を切り抜ける。
次の試練は就寝だった。
パジャマに着替えさせた後も、案の定僕から離れようとしない。
雪ちゃんにしてみれば、一緒に寝るのが当たり前なのだろう。
まあ、お風呂と違って、おとなしく寝てくれる分には大丈夫だと思う。
しかし、寝つくまで甘えまくって、身体を摺り付けてくるのはどうだろう。
本当に子供の頃はこんな風だったのだろうか?

翌日、翌々日もなんとか平和に過ぎて行った。まだ治りそうな気配は無い。
このまま何事も無く、治って欲しいという願いは4日目にして崩れた。
「おーい、透矢。生きてるかー?」
「透矢、元気ー?」
庄一と花梨が遊びにやって来たのだ。出迎えないわけにもいかないだろう。
「あれ? なんだ透矢か。雪さんは出かけてるのか?」
アリスの時と同じ反応だ。
庄一は、出迎えたのが雪さんじゃなかったことがお気に召さなかったらしい。
「いや、雪さんは…」
「なぁに、お買い物?」
花梨も似たようなものか。
アリスのときの二の舞はごめんだ。
それに、いざと言う時のためにも、この二人には正直に話した方がいいだろう。
僕は今の状況を二人に説明した。当然二人は半信半疑だったが、
実際に雪さんに会ってみれば判るだろう。この二人も幼なじみなのだから。
二人を居間に通すと、僕は雪ちゃんを呼んできた。
雪ちゃんは、やはり不安なのか、僕の背中に隠れるようにして二人を見ている。
二人は二人で、日ごろの雪さんとはかけ離れた様子に顔を見合わせるばかりだ。
「このお兄ちゃんとお姉ちゃん誰?」
恐る恐るといった感じの雪ちゃん。
「二人の顔をよーく見てごらん? わかるはずだよ?」
「お、おい、マジかよ?」
「うっそー、信じられない… ちょっと、透矢。キミなんで落ち着いてられるの?」
さすがに驚いたみたいだ。
「あー、わかった! 庄ちゃんと花梨ちゃんだ」
「はい、よくできました」
さすがに4日もたてば、子供の扱いにも慣れてきた。
唖然とする二人を尻目に、僕は雪ちゃんをいつも通り膝に抱き上げる。
「おにいちゃーん」
さっそく甘える雪ちゃん。

「……」
「……」
冷たい視線を感じて前を見ると、
「透矢、キミねぇ…」
「透矢! おまえ、なんてうらやましい…ぐはっ」
バキッと言う音とともに庄一が突っ伏した。
「あーもう、どうして私のまわりの男ってこうなんだろう」
庄一を沈めた拳をさすりながらため息を吐く花梨。その視線を再び僕に向けると、
「それで、状況はわかったけど、『おにいちゃん』はどうするつもり?」
「花梨もそんなにいじめないでよ。
えーと、この本によると、長くても1週間で治るそうだし、
遅くともあと3日もすれば治ると思う」
「じゃあキミはこのままあと3日、そのおままごとじみた夫婦生活を楽しむわけね」
ガバッ
「じゃあボクも花梨ママとおままごと…ごふっ」
庄一、復活するもあえなく沈没。僕が合掌すると、雪ちゃんも真似して手を合わせた。
いや、かわいらしいんだけど、花梨の視線が痛かった。
「まあいまさらキミが兄妹プレイを楽しんだところで、私は驚かないけど…」
いや、それ、既にアリスにも言われてるし
「この状態の雪を相手に妙な気起こさないようにね」
「…このやつれた顔を見て、判断してくれるとありがたいけど」
「ま、まあ、雪ちゃんの大好きな透矢ちゃんなら、大丈夫じゃない?」
「うん! 雪、おにいちゃん、だーい好き」
「……」
「……」

その後もさんざん甘えてくる雪ちゃんと、
――どうも花梨に対して焼餅を焼いてるみたいだ――
それをあやす僕の様子に毒気を抜かれた二人は、
からかう気力もそがれたように見えた。
最後には、旧友との再会を楽しむように、思い出話に花を咲かせていた。
残念ながら、記憶の無い僕はついて行けなかったけど、
僕に教えるように話してくれたので、楽しむことはできた。
帰り際に庄一がニヤニヤして僕をからかってくれたが…
「襲うなよ?」
「子供相手にどうしろと…」
「10歳か、確かに俺達からすれば子供だけど、女の子はわからないぞ」
ドカッ
「ぐふっ」
花梨にしばき倒される庄一。懲りないなぁ
「透矢、キミもこの馬鹿の言うことを真に受けるんじゃないの!」
念のために言っとくけど、と花梨。
「それと、何か困ったことがあったら、
遠慮なんかしないで、すぐに連絡するの! わかった?」
ああ、なんだかんだ言っても、花梨もやっぱり優しい子なんだよなぁ
「うん、それは是非お願いするよ」
「わかればよろしい」
そう言うと花梨は、まだ転がってる庄一を引きずって帰っていった。
庄一は引きずられながら
「じゃーなー」
と手を振ってくれたが、
「気がついたなら自分で歩け!」
と、花梨に蹴り飛ばされていた。

最大の事件はその翌日に起こった。
夕方、お風呂の準備をしていると、突然雪ちゃんが
「おにいちゃん、雪、おなかが痛い…」
「えっ? どこがどんな風に痛いの?」
「ここ……」
雪ちゃんは下腹部を押さえてみせる。冷えたのだろうか?
変なものは食べていないはずだ。
しかし困った。場所からして、盲腸とかではなさそうだったが、
雪ちゃんは薬が駄目な体質だ。
可哀想だけど、寝かしてさすってあげるくらいしかできそうにない。
ところが……
「雪、お股がムズムズする」
「へっ?」
我ながら間抜けな声が出てしまった。
「お腹が痛いんじゃないの?」
「おなかも痛いけど、お股も変なの」
「……」
どういう症状なんだろう? お股って、股間のことかな?
お腹が痛くて股間がムズムズするって…
尿道炎とか膀胱炎という単語がよぎったが、そうだとしてもどうすることもできない。
最悪、薬が全く駄目な体質であることを話した上で医者にみせるしかないだろう。
くそっ、こんな時こそ元医者の父さんがいてくれたら…
「おにいちゃん」
「ん?」
「おにいちゃん見てみて。雪、変になってない?」
そう言うと、スカートを捲り上げる雪ちゃん。
「ゆ、雪ちゃん!」
白いショーツが目に入る。視線を逸らそうとしたとき、それに気がついた。
股間の赤い染みに……
「あ……」

それは、女の子で雪さんぐらいの年頃なら、「妊娠」でもしていない限り
当たり前の現象だった。僕は思わずへたり込んでしまった。
「おにいちゃん?」
その様子に不安そうな雪ちゃん。
「雪ちゃん、よく聞いてね。それはね、別に病気じゃないんだよ」
実際の雪ちゃんの時はどうしたのだろうと思いながら、ゆっくりと
女の子特有の現象について説明することにした。
すると、雪ちゃんは一応知識としては知っていたようで、すぐに理解してくれた。
まあ、10歳くらいなら知識だけはあるか……
しかし、手当ての方法はさすがに知らないみたいだ。当然僕もわからない。
雪さんの部屋を探せば、生理用品はみつかるのかもしれないけど、
使い方は判らない。こんな時こそ、花梨に頼るのが正しいのかもしれない。
でも、さすがに気が退ける…… 僕が悩んでいると、
「おにいちゃん、雪、お股が気持ち悪いよぉ」
初日は多くないと聞いていたが、それでも下着に染み出すほどだから、
よほど我慢していたのだろう。気持ち悪いのも当然かもしれない。
ぐすぐすとべそをかく雪ちゃん。とにかく応急処置して、それから悩もう。
僕は、急いで救急箱から脱脂綿とガーゼを用意すると、
まず雪ちゃんをお風呂に入れることにした。
下着を脱がしてみると、べっとりと汚れている。
これはもう処分するしかないんだろうなぁ、きっと…

僕は、雪ちゃんを浴槽にもたれるように座らせると、脚を開かせた。
雪さんと結ばれた僕にとって、そこは見慣れた場所なのに、
妙に新鮮な気分になったが、今はきれいにしてあげないと。
「じゃあ、きれいに洗うから、じっとしててね」
そう言うと、ゆっくりとシャワーをあて始める。最初は外側から。
雪さんの性器は、普通はあるはずの飾り毛が無いため、その点は楽だった。
太もも、性器の膨らみをシャワーで流すと、そっとその合わせ目を割り開いた。

なるべく妙な刺激を与えないように気を付けながら、痛くないように
指で優しく洗って行く。しかし、それは結局愛撫に等しい行為でしかない。
「ん…ふぅ…く、ん…」
僕の指が微妙に動く度に、悩ましい声を出す雪ちゃん。
これは、早々に終わらせないと、変なことになってしまいそうだ。
少し乱暴かもしれないけど、シャワーを直接当てて、指で掻きまわす。
「あっ…くぅ…んん」
開かせた脚をきゅっと閉じようとする。
気のせいか、指にぬるぬるするものが感じられた。
気にしちゃいけない! 気にしたら負けだ。
僕は終わらせるつもりで、手を退こうとした。
しかし、雪ちゃんはその手を掴んで離さなかった。
それどころか、僕の手をそのまま股間に押し当て、続きをせがんできた。
「おにいちゃぁん…もっとぉ」
僕を見つめる目。いつかの夢で見たあの目だ!
「駄目! きれいになったからおしまい!」
「やだぁ、おにいちゃん、もっとしてぇ」
そう言うと雪ちゃんは、僕にのしかかって来た。
元々屈み込んでいた僕は、あっさりと押し倒されてしまった。
雪ちゃんは、しかしどうしていいかわからないらしく、ただしがみついてくる。
「おにいちゃぁん、雪、雪… からだが熱いよぉ」
「駄目だよ! 雪ちゃん、君の相手はおにいちゃんじゃない!
いずれ透矢ちゃんと結ばれる日が来るから、それまで我慢して!」
「でも、でもぉ…」
不満そうな雪ちゃん。興奮が治まらないようだ。しかたがない……
「わかったから、でも最後まではしないからね……」
僕は、優しく愛撫を始める。とにかく雪ちゃんを満足させるしかない。
そうしないと、また襲われそうな気がする。雪ちゃんの身体は雪さんなのだから、
そのこと自体は問題無いだろうし、例え愛撫だけとはいえ、
性技をほどこすなら同じことなのかもしれない。だが、これは気持ちの問題だ。

愛撫だけで雪ちゃんを満足させることは可能だろう。
雪さんの弱点はわかっているつもりだ。
なにより、今の雪ちゃんは感じやすくなっているはずだ。
ちゅっ
僕は軽くキスをする。子供の雪ちゃんにディープなキスは驚かせるだけだろう。
そのまま顎から首筋、耳たぶにキスをする。
「ん…くん…」
子犬のような声を出す雪ちゃん。僕は更に首筋から下がっていく。
その間、手もお腹から脇、腰を通って腿の外側まで何度も往復させて撫でてみる。
「あ…ん…くっ、くっ」
胸の膨らみを、裾の方からゆっくりと舐め上げる。乳首の手前、乳輪を一周して、
そのまま反対側の裾まで舐め下ろす。
「っ、っぁ、はぁぁ」
雪ちゃんはもどかしげに胸を僕に押し付けようとする。でもそうはさせない。
今はまだ焦らすべきだ。そのまま彼女の腕を上げさせると、敏感な脇に舌を這わせる。
「ひっ…」
あわてて腕を締めようとするが、僕はかまわず脇から再び乳房に取りかかった。
「あっ…あっ」
今度こそ堅くなった乳首を含み、舌で転がす。
「あぁぁ…!き、気持ちいいよぉ」
もう片方の乳首も指でつまむ。口ではちゅっちゅっと何度も吸っては離しを繰り返す。
「っく…おに…ち…ぁん」
僕の頭を抱え、胸に押し付ける雪ちゃん。頭の動きを封じられた僕は、
手だけで乳房を揉みしだき、乳首を転がす。
「っ…っぁぁぁ…」
もじもじと腰が動き、太腿が擦り合わされる。僕は乳房を揉んでいた手を、
次第に下腹部へと撫で下ろしていく。すべすべとした、柔らかなお腹の感触を
確かめるように、何度も往復させて、お臍の周りを指先で擽る。
「あ、ああ…おにぃ…んん!」
ぴくぴくとお腹が震える。僕は、身を起こそうとする。

「や…ん…」
一瞬頭を抱きしめる腕に力が入り、離すまいとするが、少し強引に身を起こした。
「はぁ…はぁ…」
荒い息、上下する胸。僕はそのまま下半身に取りつくと、雪ちゃんの脚を広げた。
その間に身を割り込ませる。両膝を肩に担ぎあげると、ゆっくりと左右の内腿に
キスをし、舐めまわす。腰から回した両手で、鼠蹊部を擽るように刺激する。
「んぅ、っふ、おにい…ちぁ…ん」
太腿が僕の身体を締め付ける。僕は、雪ちゃんの両膝を前に押しやる。
丁度赤ちゃんのおしめをする格好だ。雪ちゃんの性器から、その下のひっそりとした
すぼまりまでが剥き出しになる。扇情的な眺めだった。
僕は、両方の肘で雪ちゃんの腿を押さえ込むと、親指でそっと合わせ目を押し開く。
「あ、あん…」
そこは既にねっとりとした蜜で潤っていた。いつもの甘酸っぱいような香りも濃厚に
漂っている。心配していた生理の出血は、不思議と見られなかった。
一番敏感なところも、包皮から顔を覗かせている。
かなり興奮している証拠だ。でも雪さんの弱点はそこだけじゃない。
僕は一旦、蜜を啜り飲むように、全体に口付ける。
「ひっ…」
ぴくっと、雪ちゃんの腰が跳ねる。くちゅくちゅと膣口を舐めまわし、
敏感な突起の手前から、後ろの窄まりまでを往復する。
気のせいか、やはりいつもより鉄臭い味がするみたいだ。
「っぁぁ…ぁ…」
ひくひくと膣口と肛門が収縮する。
僕自身を欲しがっているのは判るけど、それはしないと決めている。
「おにいちゃん…おにいちゃん…」
うわごとのように繰り返す雪ちゃん。そっと敏感な突起を口に含む。
舌の先で先端を軽く突つくと、唇で根元を刺激する。
「ひぁぁぁぁ」
腰が大きく跳ね上がる。がっしりと押さえ込んで突起への刺激を続ける。
後から後から蜜が溢れてくる。僕の顎はもうべたべたになっている。

その蜜を指に塗りたくると、柔らかいびらびらと、ふっくらとした外側の肉の間
を両側から撫で始める。ここも雪さんの弱点のひとつだ。
「はぁ…っぁ…く…んんん…」
息も絶え絶えといった感じになってきた。もうすぐだろう。
僕は、人差し指を膣口に挿入すると、お腹側の壁を擦るように抽送する。
「あっ、あっ、おに…ちゃ…気持ち…い…ひっ」
そろそろいかせてあげよう。人差し指を膣口から抜くと、代わりに親指を挿入する。
そして、愛液でぬるぬるの人差し指をゆっくりと肛門に挿入していく。
ここも雪さんの弱点だ。
「はぁ…っぁ…ぁぁぁ…おに…ちゃん…おしり…く…ぅん…」
雪ちゃんは自分で乳房を握り締めている。二穴に挿入した指を抽送する。きゅううっと
締めつけてくる。指の股を会陰にぶつけるように抽送する。やがて、きつい締め付けに
動かしにくくなってくる。ぐっと指を奥まで挿入すると、
会陰をはさむようにして膣と直腸の間を指で擦り合わせる。同時に舌で刺激しながら、
膣前庭から突起までを口全体で吸い上げる。
「お、おに…ちゃ…っひ…ぁぁぁぁぁあっ!」
雪ちゃんは身体を仰け反らせると、ぴくぴくと全身を痙攣させた。
そのとき、口の中に暖かい液体が勢いよく流れこんできた。
ああ、あれか…… 僕が顔を離すと、ちょろちょろと…黄金色の液体が溢れてきた。
痙攣と、お漏らしがおさまるのを待って、ゆっくりと指を引き抜いた。抜ける瞬間に、
ぴくんと身体が跳ねたのを最後に、雪ちゃんはぐったりとしてしまった。
僕は、雪ちゃんが回復するまで、ぎゅっと抱き締めて、髪を撫で続けた……

その後、結局生理の手当ては花梨にお願いすることにした。
「しょうがないなぁ、こんなときは恥ずかしがらずに、もっと早く連絡しなさいって」
そう言いながらも雪ちゃんの手当てを済ませると、元に戻るまで泊まろうか?
という花梨だったが、あの状態の雪ちゃんを見られるのは不味いと思ったので、
それは断ることにした。
しかし、まさか生理が終わるまで発情してるなんてことは無いだろうなぁ……
念のため、今夜からは別々に寝た方がいいかもしれない。

だが、その心配は杞憂に終わった。
その夜、ずいぶん早い時間だったが、突然雪ちゃんは眠いと言い出した。
そして僕の手を取ると、少し強引にベッドに連れて行った。
「お願い、雪と一緒に寝て」
「襲わない?」
「そんなことしないもん」
そう言って僕に抱きつくと、目を閉じる雪ちゃん。何か不安なのだろうか?
「雪ちゃん?」
僕は、心配になって声をかけてみた。雪ちゃんは眠そうに目を開けると呟くように
「おに…ちゃん…あり…がと、バイ…バイ……」
それが最後に耳にした雪ちゃんの声だった……

雪ちゃんが雪さんに戻って1週間が過ぎた。
あの時無理にでも一緒に寝たがったのは、今にして思えば、
タイムリミットに雪ちゃん自身気がついていたのだろう。
やんちゃで、ずいぶんと手を焼かされたけど、今となっては懐かしく思う。
もちろん、あれは過去の人格で、今ここにいて良いわけではないけれど…
少しの寂しさと、暖かさを残して、彼女は過去へと帰って行った。
そう思うことにしよう。
あれから僕の周りで、特に変わったことは何も起こらなかった。
ただ、困ったことに、花梨やアリスをはじめ、みんなが
「おにいちゃん」
と言ってからかってくるのだ。鈴蘭ちゃんだけは違和感がなかったけど…
さすがに庄一に言われた時は、お互いにげんなりしてしまった。

でも、雪ちゃん、かわいかったなぁ。
僕は子供の頃のことをまだ思い出せずにいるから、
よくわからないけど、あんな感じだったのかなぁ
身近な年少三人組と比べてみたりもしたけれど、そのいずれとも違うと思う。
僕に歳の離れた妹がいたら、あんな風だったかもしれないな……

いろいろ大変だったけど、また会えるものなら会ってみたい気もする。
もっとも、その女の子が素敵に成長したのが、今の雪さんなわけだから…
ときおり見せる、いたずらな微笑みに、その面影を見て取ることはできる。
今だってほら…
「寂しそうなお顔をなさって、どうされたのですか?」
「いや、別に寂しいわけじゃないんだけど」
「雪ちゃん…ですか?」
この人に隠し事はできそうにない。
「はは、かわいかったからね。改めて雪さんに惚れ直したかも」
「まあ、ふふふ、ありがとうございます」
「ところで雪さんは、雪ちゃんだったときのこと、覚えて……」
「ふふ、透矢さんはどう思われますか?」
「わからないけど、忘れていて欲しいかなぁ」
「あら、どうしてですか?」
「だって…」
あのおにいちゃんもどきは、恥ずかしすぎるよ…とは、言えない。
「ふふ、透矢さん、お顔が真っ赤ですよ?」
結局ばれてるみたいだし…
本当に覚えていないのだろうか? 雪さんは相変わらずにこにこしている。
「ふふ、大丈夫ですよ」
「?」
「雪、透矢さんの嫌がることはしませんから…それに」
「それに?」
雪さんは胸に手を当てて
「『雪ちゃん』は今でもここにいますよ?
透矢さんに、優しくしていただいて、今の雪がいるのですから。
覚えていてもいなくても、そのことに変わりはありませんよ」
にっこり
「…そっか…そうだよね」

ほら、いつもの何か企んでる顔だ。こんなとき、雪ちゃんの面影を感じる。
のってみるのも面白いかな?
「ふふふ、悩みは消えましたか?」
「うん、おかげさまで」
「ふふ、でしたら、お食事の前にお風呂にお入りください。丁度良い湯加減ですよ」
「ありがとう」
「それとも…」
「?」
「『一緒に入る? おにいちゃん!』」
「!」
くすくすと笑う雪さん。
いたずらに成功したその顔は、まさしく雪ちゃんそのものだった。

僕はふと考える。いつかまた、あの雪ちゃんに会えるんじゃないかと。
近い将来、雪さんの生んでくれる娘は、きっと母親に似て、かわいくて、やんちゃで、
甘えん坊の寂しがり屋に違いないのだから……

おしまい

戻る