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俺の名はけんたろう。卯月学園の3年生だ。
自慢じゃないが女にモテる。
俺は女以外のものにさして興味がないから、満更でもない高校生活を送っているわけだが…

しかし!

最近、その女のことでアタマを抱えている。

それは、この学校の女子生徒たちはちょっと風変わりな一面があって、
ワケわかんない&脈絡の無いアイテムを所望してくるということだ。

「せんぱ〜〜いっ!」

ん?あれは、テニス部2年の皆川奈々ちゃんだ。今日もさっそく一人目が来たか。

「せんぱいっ、お願いです!何も言わずに、“貝がらのオルゴール”を奈々にくださいっ!」
「ああ、いいよ。ほら」
「あ、ありがとうございますっ!このお礼はいつか必ず…」
「はは、気にしないで」

ふう。……と、いった具合である。

俺は女の頼みとあれば大抵のことはできてしまう男だ。
今渡した貝がらのオルゴールとか風邪薬とか詩集とかブリキのおもちゃといった程度なら、
豊富に取り揃えてある。

しかし、中にはその範疇に留まらないものを要求してくるやつらもいるのだ。
しかも、持っていないとわかると必要以上にガッカリして失望したようなリアクションをとる、
そんな悪質な連中が…。

「あ、あの〜、けんたろうくん」

出たよ、神山みこちゃん。
この子はかわいい顔して最も悪質なブツを要求してくる一人だ。
しかし、今日こそは負けん。
大中小をもう一軒開けるくらいの在庫を備えてきたんだからな。
俺は気を引き締めて彼女の言葉を待った。


「あの、理由は言えませんけど……図々しいお願いなんですけど、……

…その、どうしても、… “一本包丁万太郎” の単行本23巻が必要なんです……」

「…ごめん」

「持って…ませんか?」

「……持ってない」

「そうですか、残念です……」

遠ざかるみこちゃんの足音が、ふがいない男ね、と言っているように聞こえる。
理不尽なのは分かっているが、結果が全て。
俺は今日も負けたのだ。

くっ…!また信用を落としてしまった…。

しかし、今日はまだ一勝一敗。
悔やむのはまだ早い。失った信用は取り戻せる。
そう、俺らしくプラス思考だ!さあ立ち直ったぜっ。

よーし、次は誰だ?かかって来い!

「けんたろうくん」

「あ……静香…先生…」


「教え子のあなたにこんなことを頼むのは、教師失格かもしれないけれど…

先生、どうしても “主に年配の方がよく自転車のハンドルにつけてる防寒カバー” が必要なの…」

「…………」

「持ってない?」

「……持って…ません…」

「そう、残念ね……」

「…………」

俺、今日もダメみたいだ……へへ。
今の一撃で、心が折れちまった。
勝てねえ、勝てねえよこいつらにゃ。

「けんたろうくん」

「あ、いたいたっ。けんたろうー!」

瑞穂と、真由美の声がする。
やめてくれよ瑞穂。死人に鞭打つような真似は。
見逃してくれよ真由美。犬が腹を見せてるんだぜ?
俺はもう、たくさんだ。

「何も言わずに、
“読書ラック(ハードカバーの本を手離しで読めるように固定する枠。鉄製)”を譲ってほしいの」

「あたし、どーしても“燃える!お兄さんの差別発言で回収された号のジャンプ”が必要なの!
あの、フレイザードが表紙だったヤツね!」

・・・フェイドアウト。

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