「AD2020.10.27」

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北条家所有のVS292の内部で催されるパーティ。・・・・僕たちにようやく訪れた貴重な「無邪
気な瞬間」、そこに身がおけることに僕は感謝していた。

「あ・・・・和樹君。ほっぺたにソースがついているよ」
「え・・・・」
「あ、ここにもクリームがついてる。拭いてあげるね」
「な、な、奈都美さん」奈都美さんが僕の頬をハンカチでこする。
「・・・・」僕の顔の表面温度は約2度の上昇、擬態機能は僕のその表面を赤く染めているだろう。
薫さんは呆れ顔だ。「唇につくのはある程度仕方の無いことだと思うけど・・・・
奈都美、ちょい世話焼きすぎ。赤ん坊の食事じゃないんだからさ」

「あ、やっぱ、恋人同士って、こんなんだと思うんだけど・・・・」

「は?」「・・・・恋人?」「今、なんて?」
「・・・・すみません、今一瞬、頭が認識を拒否しましたわ。もう一度仰って頂けますか?」
「え、えっと・・・・だから・・・・私と和樹君が・・・・恋人同士だって・・・・」
奈都美さんがそう言うと沈黙が室内に訪れた。
「え・・・・」・・・・うかつだった。
『予測不能』、『通常の行動を逸脱している』そう評すべき人格設定を持つ奈都美さん。
僕は彼女を、見くびっていた・・・・。
絶妙のバランスと偶然の上に成り立っていた奇跡・・・・僕の日常・・・・それが今、崩壊しつつあった。

状況認識クラスタが各人の変化を報告・・・・。おずおずと僕は視覚でそれを確認した。
キッ・・・・。深佳さん、千絵梨さん、薫さん、若佳菜先生がいっせいに僕を睨む。
視線が痛い・・・・僕への非難と恨みが含まれていると状況分析クラスタが告げる。
当然か・・・・。僕は奈都美さんを除く4人と・・・・『していた』のだから。

ガクガクブルブル・・・・義体が震え出す。僕の意思ではとめることができない。
身体クラスタが処理不全を起こし四肢硬直、擬態制御クラスタは過活性化し多量の発汗。
「ぐっ・・・・」僕は両腕を抱え、うめき声を上げる。
「和樹くん・・・・? ど、どうしたの、気分悪い? 頭痛い? そ、そ、それとも、今度こそ脳っ?」
僕の様子に驚く奈都美さん。
「い、いや・・・・なんでもな・・・・」

そこに、深佳さんの声が響く。「あの日のことは・・・・なんだったんだよ、和樹ーっ!?」

「くないかもしれない・・・・」深佳さんの言葉を受けて、僕はつぶやいた。
さきほどまで活性化していた危機警告クラスタが不要とばかりにタスクを次々と終了し、ほかの
処理に資源を回していく。・・・・僕は危機のど真ん中にいるということ・・・・か・・・・。

ガタガタガタガタッ、3人が一斉に席を立つ。
「さ、先ほどの奈都美さんのお話とぉ〜、今の深佳さんのお話ぃ〜、説明していただけますわね
ぇ〜、和樹さん?」千絵梨さんがこわばった笑みを浮かべ、僕に迫る。
「和樹って・・・・バラバラにできる・・・・かな?」薫さんは右手の拳を左手で強く握り締める。
「和樹君、先生・・・・いろんな意味であなたと『相談』させてもらうわ・・・・」若佳菜先生は強烈な
プレッシャーを僕に向けて発している。
「あ・・・・?え、えっと・・・・わ、私、和樹君にまた迷惑かけたのかな?・・・・ごめんね・・・・」とても
すまなそうに奈都美さんが言った。

嘘だ・・・・こんなに簡単にみんなの、僕の日常が失われてしまうなんて・・・・。
いや、まだ僕にできることはあるはずだ。そう、諦めたら終わりだ。
・・・・今の僕にできること・・・・。
そして僕は『決意』する。僕は「全員を言いくるめ、この事態を穏便に収拾せねばならない」
・・・・奈都美さんの失わないために・・・・みんなを失わないために・・・・そして僕のために・・・・。


全クラスタを動員し、検討。
『あの日』を性的交渉の日ではなく『ゲームセンターでの楽しい1日』の意味にすりかえる・・・・
各関係クラスタ間で討議の結果、この対応が推奨。『深佳さんには後でフォローすればよい』
・・・・僕は一瞬ためらい、承認する。
(ごめん、深佳さん・・・・)
そして発言を開始「ちがうんだ、みんな・・・・」

結果として僕の発言は封じられる。
「どう違いますの、和樹さん?私、とっても興味がありますわ、くふふ」
「わっ・・・・」つい驚きが声に出る・・・・千絵梨さんっ!?
言い終わると、ちょこんと口に手を当てる。
さらに、千絵梨さんの顔が迫る・・・・。最上の笑みを浮かべ、千絵梨さんが僕に向かって顔を突き
出し・・・・口を開く。
「ひっ・・・・」横の奈都美さんが小さく悲鳴を上げて、本能的に後ずさりをしていた。

さらに、千絵梨さんの隣に薫さんが並ぶ。
「和樹っ、覚悟は・・・・いいな?」薫さんが拳を鳴らし・・・・、(来るっ・・・・)
・・・・僕は目を閉じる。

「薫ちゃん駄目ぇ〜、和樹君をいぢめないで。か、和樹君の言い分も聞いてあげてようっ」奈都
美さんが僕の体を抱きしめ、盾となって僕を庇う。
「和樹君、和樹君・・・・」僕の名前を呼びつづける奈都美さん。
「わかったよ、奈都美・・・・」
・・・・奈都美さんの与えてくれたチャンスを僕は無駄にはできない。でも、どうすれば・・・・。
そうだ・・・・僕はもう本心を語るしかない・・・・この1ヶ月の体験をもとに。
届け、僕の『感情』・・・・「僕は・・・・みんなのことを大切に思っている」
奈都美さんがはっと驚き・・・・薫さんの目が、千絵梨さんの目が優しいものに変わる。

やったのか、僕は・・・・?

「和樹・・・・くん・・・・」照れているのか、うつむいている奈都美さんが僕の体から手を離す。
薫さんと、千絵梨さんは微笑みを浮かべ、僕により接近する。
僕の前に立つ2人の目は慈愛に満ちていて・・・・隣の奈都美さんも僕の頬をそっと摘む。
「和樹・・・・」「和樹さん・・・・」「和樹・・・君・・・・」

奈都美さんの声が聞こえる。「だから・・・」
「だから?」
千絵梨さんが言う。「和樹さんの」
「僕の?」
薫さんが言う。「そういう所が」
「うん?」
薫さんが、千絵梨さん、奈都美さんが瞬時に目をつりあげる・・・・!?
「駄目なんだーっ!!」「駄目なのですわ〜っ!!」「ダメダメなの〜っ!」
ゴキィ・・・・ドスッ・・・・ギュギュ〜・・・・。
薫さんの拳が僕の顔面に衝突、千絵梨さんの足は僕の足の甲を力一杯踏み抜き、奈都美さんの指
は僕の頬をつねり上げるっ。
「ふにゃああああんっ・・・・!」・・・・僕のなさけない悲鳴が室内に響いた。

「薫さん、みんな・・・・。とにかく落ち着いて・・・・」
「若佳菜先生・・・・」僕を助けるため若佳菜先生が介入を・・・・すみません、若佳菜先生・・・・。
「いいえっ、こいつは一度しめておかないと駄目なんですっ」即答する薫さん・・・・第二次攻撃に
入るべく、既に僕の襟をつかんでいる。
「薫さんっ、冷静にっ!」あくまで僕のことを庇おうとする若佳菜先生・・・・僕の中で若佳菜先生
の存在がまた大きく・・・・。
「身柄は押さえてあるんだから、あわてなくていいのよ?」
「若佳菜先生、それ・・・・」僕を庇ってません・・・・。
「ほかに・・・・言いようがあって、和樹君?」僕の顔を見て、冷たく言い放つ若佳菜先生・・・・彼女
の目もまた、僕への怒りに燃えていた。

「・・・・いえ・・・・すみません」僕にはそれ以上、続ける言葉が無かった。

席を離れていた薫さん、千絵梨さんが再び席に着く。
立ち上がっていた若佳菜先生も着席し、奈都美さんは居住まいを正す。

「・・・・ボクだと・・・・思ってたのに・・・」僕以外に聴き取ることのできないほどの小さな声・・・・そし
て悲しみに満ちた声。この喧騒の中、深佳さんは俯いて座ったままだった。
・・・・僕は深佳さんを悲しませている・・・・。
「和樹・・・・今奈都美の言ったこと嘘・・・・だよね・・・・?」顔を上げた深佳さんが、怖ず怖ずと僕に
質問してきた。深佳さんが目に涙を浮かべ、僕に怯えている・・・・。

『奈都美と恋仲であると肯定』倫理クラスタ、状況把握クラスタ・・・・多数のクラスタによる推奨。
『深佳さん、ゲームセンターで遊んだ『あの日』は楽しかったね・・・・』と発言し、みんなを韜晦
・・・・ディベートクラスタ推奨。
『みんなが大切』が現在の戦術目標であるとの目的認識クラスタから確認。
しかし、深佳クラスタは、その存在をかけそれらを強く否定する。
その結果、僕の音声合成機能は停止していた。
「・・・・・・・・」
「だって・・・・だって、ボク大人になったって、大人だって・・・・和樹も喜んでくれたじゃないっ
・・・・うくっ」
「お、おお、大人に・・・・、よ、喜んで・・・・!? そ、それって、かかか、和樹君っ・・・・」奈都美
さんが涙ぐむ。
・・・・パニックの確立98.2%・・・・状況把握クラスタの報告。
「か、かかか、和樹君は・・・・そ、そう!?」奈都美さんの目が跳んでいた・・・・。
「和樹君は、深佳ちゃんが初めて大人になった日に、お赤飯を炊いてお祝いしたんだね。うん、
わ、わわわ、私も初めてのとき、お母さんがお赤飯を炊いてくれてっ、とってもうれしかったけど、
お、お父さんまで知ってて、恥ずかしくて泣いちゃったけど。恥ずかしくないんだよ、大人にな
ったんだねって、お父さん言ってくれて、私うれしくて、また泣いちゃったんだから。つ、つま
りそういうことだよね、そうだよねっ、和樹君??」

「奈都美・・・・そんなわけないって」薫さんが呆れたように否定した。
「でも、私・・・・和樹君の言うことなら信じる・・・・」誰に言うとも無く、奈都美さんがうつむいて
呟く。・・・・事態は悪化している・・・・。

「深佳さん、お辛いでしょうね・・・・可哀想に」心配顔の千絵梨さん。
「深佳・・・・」人差し指を噛み、目を落とす薫さん。
若佳菜先生が深佳さんの隣に座り、深佳さんを抱きしめる。
「・・・・つらいときには全部私に話して・・・・なにがあったの、深佳」
・・・・しかし、3人は何かを期待している・・・・そんな気がするのは、なぜだろう・・・・?
「いいんですわ、悲しいときにはお泣きになって。みんな、あなたの悲しみ・・・・わかりますわ」
千絵梨さんが天使のような声で深佳さんを慰める。
「そうだよ、深佳。・・・・つらいときくらい頼ってよ、私たち、友達なんだから・・・・」薫さんが語
る。
「深佳・・・・あなたは一人じゃないわよ」そう言って、深佳さんの頭をやさしくなでた。
『不必要にいい話すぎる』と状況分析クラスタは報告してきていた。
「うん、うん・・・・若ネェ、みんな・・・・」
「で、なにがあったの・・・・全部話してごらんなさい」
「うん・・・・」深佳さんがこくりと頷いた。
(うあっ・・・・)僕の中の全クラスタが悲鳴をあげた・・・・ような気がした。

(まずいっ、止めなければ)そう考え、僕は行動に移ろうとする・・・・と同時に、僕の肩に手が置
かれた。・・・・奈都美さん?
「和樹君・・・・・・・・私、もう逃げたりしない、一人になりたいなんて言わない・・・・私もう大丈夫
・・・・和樹君を信じてるから。だから本当のこと知りたい・・・・」無理に笑顔をつくる・・・・奈都美さ
んの決意は本物だった。
「奈都美さん・・・・」
つらいこと、苦しいこと・・・・いろんなことを乗り越えて、奈都美さんは強くなった。人はこうし
て成長していくんだ・・・・でも、今成長の証を見せられても・・・・。
「和樹君、和樹君・・・・・私頑張るからね」奈都美さんは、祈るように僕の手を握り締める。
僕はどうしたら・・・・ああ、頭が、判らない・・・・。


奈都美さんの物言いに、僕の動きは封じられ・・・・僕は止めることもできなかった。
・・・・深佳さんの”ステキな体験告白”が始まってしまった。

「ボク、ボクね・・・・若ネェみたいじゃないから・・・・みんなボクのこと子供扱いして・・・・うっく。
でも、和樹はボクのこと女の子だって言ってくれて・・・・だから、ボク大好きな和樹に大人にして
ってお願いしたんだ。うん、和樹はボクの願いをかなえてくれた・・・・」

突然ポンと手を叩く奈都美さん・・・・あ、さっそく遠い目・・・・。
「そ、そうっ。か、か、かかか、和樹君は深佳ちゃんに、きっときっと大人になる魔法をかけた
んだね? 和樹君てばっ、本当は魔法使いだったんだ!? そ、そうだよねっ、どうして教えて
くれなかったの? ねえ和樹君、和樹君っ!?」ゆさゆさと僕の義体を揺らす。
「僕は魔法使いじゃない・・・・から」僕は、かろうじてそう言った・・・・。
「嘘、嘘・・・・じゃあどうやって・・・・み、深佳ちゃんを・・・・どうやって大人にしたの〜?」
奈都美さんは、僕の襟元を掴みガクガクと揺さぶる。
「何か言ってよう、和樹君っ、和樹君、お願いだから!! どうして黙ってるのっ??」
言おうにも、振動で音声処理機能がうまく働かないのだけれど・・・・。

千絵梨さんが、僕と奈都美さんを振り向きにこっと微笑む。
「いいえ、奈都美さん。和樹さんは魔法を使ったのですわ」
「え、え・・・・やっぱり。やっぱりそうなんだ、よかった。きっときっと和樹君は魔法使いの国の
王子さまで、人間の世界に修行にきたんだよね、そしてみんなを幸せにするとポイントが貯まっ
て、えっと、それからそれから??」奈都美さんがうつろな目のまま、自分に言い聞かせるよう
に話しつづける。
「はい、そうですわ」千絵梨さんもにっこり頷き・・・・言った。
「和樹さんは、『たいそうご立派な』魔法のステッキをお使いになって・・・・深佳さんをたった
一月(ひとつき)で大人になさったのですわ、くふふ」
「そっか・・・・和樹はそのステッキで女の子に『愛を注入』してまわってたのか」横から薫さんも
茶々を入れる。
「あうううう、そんな言い方しないでぇぇ〜。そんな魔法、嫌ぁ〜!!」奈都美さんが泣きなが
ら、ぶんぶんと首を横に振る。

深佳さんの話は続いていた。
「・・・・和樹は、ボクを作業机の上に載せて・・・・ボクの・・・・お大事を舐めてくれて・・・・」
「そう、それで・・・・?」若佳菜先生が深佳さんに話を促す。
「若ネェ・・・・ボク恥ずかしい・・・・。こ、こんなこと言っちゃってもいいのかな、はしたなくない?
お母さんに怒られない・・・・?」
「ううん、深佳・・・・ちっとも恥ずかしくないわ、あなたは女の子だもの・・・・」慈愛あふれる母の
声で、若佳菜先生は深佳さんをなだめ、頭をなでる。
「う、うん・・・・ありがとう、若ネェ・・・・。・・・・和樹が入ってきたとき、ボク、とっても、とって
も痛くて、怖くて・・・・涙が出ちゃった、けどボク我慢して・・・・」
深佳さんを優しくあやす若佳菜先生・・・・しかしその頬は上気し、その表情は淫靡なものを感じさ
せる。
「わ、若佳菜先生・・・・」
「あ、和樹くん・・・・静かに・・・・ね」
若佳菜先生の目は・・・・都さんと僕と一緒の夜のときの目・・・・だった。

深佳さんの話に、僕以外のみんなが耳を傾けている・・・・。
教師と生徒たちという組み合わせは普通である。しかし、彼女たちを繋ぐのは,教師による現国
の授業ではなく、その生徒かつ妹が語る『僕の性交時の痴態』。・・・・期待に満ちたみんな耳まで
紅潮した顔と、刻々と変わる表情・・・・。
彼女たちは『興味津々のお年頃』と情報クラスタが報告・・・・悪夢だ・・・・。

「・・・・あ、ちがうんだ。え、大人にしてくれたのは、はじめてのときじゃなかったよ・・・・。
・・・・か、和樹の家・・・・」
うあ・・・・2回目の話まで・・・・。
「和樹はボクを上に乗せて、動いてごらんって・・・・。あ、うん・・・・ボクも舐めてあげた・・・・。
・・・・でね、和樹が遥香にお願いしてくれて・・・・」
僕にとって、永遠と感じられる長さで時が進んでいた。
「・・・・終わったとき、ボクのお腹の中は和樹でいっぱいだったんだよっ・・・・」
深佳さんの話がようやく終わる・・・・。
すると・・・・みんなが再び僕を注視し・・・・口を開いた。


「刑法177条(強姦罪)って、知ってる・・・・和樹君?」若佳菜先生・・・・。
「ょぅι゛ょ を手篭めにするなんて・・・・卑劣ですわ、和樹さん・・・・」千絵梨さん・・・・。
「ロリ、3P、騎乗位、中出し・・・・。和樹、単なる変態じゃなく、すごい変態だったんだな・・・・」
薫さん・・・・。
「若ネェ、千絵梨、薫っ??」深佳さんは、夢から覚めたようにみんなを見回す。

「やめて〜、和樹君をいぢめないで・・・・! か、和樹君はロリコンじゃないもんっ。きっときっ
とただの『子供好き』なんだからっ〜! 小さな女の子と砂場で遊んだり、お人形で遊んだり、
お菓子をあげてお友達になったり、待ち伏せしたり、お医者さんごっこしたり、神社の裏エレベ
ータの中やマンションの階段の踊り場でであやしげな遊びをしたり、和樹君はそんなことがもう
大好きな健全な青少年!? ええええー!? ・・・・そんな・・・・和樹君って・・・・駄目駄目ぇ??
・・・・ぐすん・・・・」
奈都美さん・・・・僕をかばってくれてありがとう・・・・? それって、でも・・・・ものすごく嫌な子
供好き、というかもう犯罪者・・・・。

僕たちの会話をワンテンポ遅れて理解した深佳さんが叫んだ。
「うわ・・・・ボクを、ボクをいたずらされた小学生扱いしてるっ。何が何が・・・・つらいときには全
部言っちゃいなさいだっ。・・・・だ、だまされたーっ!?」

「・・・・ボクだって、自分が子供だってわかってるんだ・・・・でも大人になろうと。なのに・・・・どう
してまだボクのこと子供扱い・・・・ひっく」深佳さんはそこまで言うのが精一杯だった。
・・・・深佳さんはさめざめと泣き出していた・・・・。

「あ・・・・深佳、ごめん」若佳菜先生が慌てて深佳さんに謝る。
「深佳、冗談・・・・・じゃすまないよね。茶化してごめん・・・・」
「私、失礼なことを言ってしまいましたわ・・・・深佳さん」
「初めてのことなのに、私・・・・ごめんね、深佳ちゃん・・・・」


「ボク・・・・ボク真剣だったのに・・・・うくっ」後はただ、むせび泣くままだった・・・・。
「・・・・・・・・」
あまりの深佳さんの感情の発露に、みんなが沈黙した。
若佳菜先生が僕をちらっとみる。
(和樹くん・・・・深佳をお願い・・・・)若佳菜先生の目は、僕にそう言っていた。
深佳さんが悲しんでいる。若佳菜先生が心を痛めている。奈都美さん、薫さん、千絵梨さんが心
配している。その事実は、先ほどまで起きていた事態より僕を狼狽させていた。
・・・・僕が責められ辱められる以上に、今の深佳さんの状況のほうが僕にはつらかった。

どうすべきかと考える前に、『感情』は僕に反射的に行動を取らせた。
「深佳さん?」僕は席を立ち、深佳さんに歩みよっていた。

僕の『心』の中で、声をかけた理屈は後からついて来た。
結果的に僕は深佳さんを傷つけてしまった、僕は謝らなくてはならない・・・・。
そのときの僕にとって、正しい行動だったとしても。

「な、なんだよ和樹っ・・・・。みんなで僕のこと馬鹿にしてっ・・・・」
深佳さん・・・・たとえ許してくれなくても、僕は謝ろう・・・・。
「和樹だって・・・・うくっ・・・・和樹だって・・・・。えぐっ・・・・和樹なんて嫌いだっ。あっちいけっ、
馬鹿ーっ!!」

僕は、『勇気』を出して深佳さんに話かけた。
「深佳さん、ごめん・・・・」
「え・・・・?」驚いた顔の深佳さん。
「・・・・許してくれないかもしれないけど、ごめんなさい」
僕の目からこぼれるもの・・・・これも涙か・・・・。
「深佳さんを傷つけるつもりはなかったんだ・・・・けど・・・・」
「うん・・・・・・・・」うつむいた深佳さんの返事。
「深佳さんのことを”大好き”だから・・・・・・・・」
「あ・・・・・・」
「でも・・・・今日、深佳さんは傷ついてしまった・・・・」
「・・・・・・・・」
「ごめんね・・・・」
「うん・・・・」
「ごめん・・・・」
勢いこんでみたものの、この程度しか僕にできることはないのか・・・・悔恨の念が僕を襲っていた。

「和樹、ぐすっ・・・。いつまで謝ってるのさ・・・・?」深佳さんが顔を上げた。
「あ・・・・深佳さん・・・・」涙を流し続ける、深佳さん・・・・でも、その顔は笑顔が浮かんでいた。

「和樹が悪いわけじゃない・・・・ひっく。自分から言っちゃったのに・・・・ボク、取り乱しちゃった
ね」袖で涙をぬぐいながら深佳さんが言う。いとけないその姿に、深佳クラスタが活性化する。
「深佳さん・・・・」
「・・・・ううん、和樹はいつもボクに優しかった・・・・あのときだって」

「それに・・・・和樹がボクを大人だって言ってくれたんだから、もう十分だったはずなのに・・・・な
んでボク泣いてるんだろ・・・・ボク、まだ子供だね・・・・」
深佳さんがそう言ってくれることが、今、僕には嬉しかった。
「あれ、和樹・・・・」深佳さんが僕に疑問を呈してくる。
「どうして笑ってるの?」
「え・・・・?」僕は笑っていたのか・・・・そうだとしても、その理由は判っていた。
「深佳さんに笑顔が戻ったから」
「あ・・・・うん」深佳さんが頬を染め、頷いた。

「はあ・・・・」「ふぅ・・・・」「ほっとしました・・・・」「よかった・・・・」
若佳菜先生、薫さん、千絵梨さん、奈都美さんから、安堵のため息が言葉が漏れた・・・・。
(よかったんだ、これで、みんな・・・・)
みんなの表情に明るいものを見出し感慨に浸っていた僕に、深佳さんが声をかけてくる。
「あのさ、和樹・・・・」
「うん、何?」僕は深佳さんの方に振り向くと、深佳さんは、ふいと僕から視線をそらした・・・・。
「よく考えてみたら、この中でボクだけ・・・・しちゃったんだよね、エヘヘ」
「・・・・・・」
適切な発言はないとの情報分析クラスタからの報告。僕は答えに窮して、『あいまいな笑み』を
浮かべる・・・・。
「だから・・・・和樹・・・・、せ、責任とってくれるんだよね?」
「責・・・・任・・・・?」
「うん。ボクと結婚しよう、和樹っ!! だって、ボクのこと一番好きなんだよね・・・・」

「一度したからって、そういうのっておかしいと思うっ」薫さんが深佳さんを睨む。
「そんなこと認めません、認められませんわっ!!」千絵梨さんも苛立ちを隠さない。
「却下します。まだ和樹君も深佳も若すぎますっ!!」若佳菜先生が強く否定する。

「深佳ちゃんと和樹君が・・・・け、けけけ、結婚・・・・!? でもでも・・・・わ、私、和樹君と家族に
なるって決まってるから・・・・ひょっとして!? 和樹君が私のお父さんで深佳ちゃんがお母さん? 
そ、それで円満解決っ? そ、そんなのって・・・・和樹くんとキスもできなくなっちゃうけど・・・・
えっとえっと・・・・おはようとおやすみのキスはお父さんにしてもいいのかな? どうなのっ、和
樹君、和樹君!?」僕を問い詰める奈都美さんはパニック状態だ。
「和樹はボクの恋人なんだからー。ね、和樹ーっ」ボフッ・・・・。そんなみんなを横目にして、深
佳さんが立ち上がり、ボクに勢い良く抱きつく。あまりの怒涛の展開に、僕は立ち尽くすだけ・・・・。

そのとき、意を決したように千絵梨さんが叫んだ。
「深佳さん、お待ちになってっ。私も・・・・私も和樹さんに抱かれましたわっ!!」
そう言った後、顔を真っ赤にした千絵梨さん・・・・そして、僕に向かって微笑む。
(言っちゃいましたわ、和樹さん・・・・)照れる千絵梨さんの言葉が聞こえたように思えた。

「ええええー!?」若佳菜先生、薫さん、奈都美さん、深佳さんの目が点・・・・一斉に僕を睨む。
彼女たちの視線には、僕への非難と恨みが含まれていると状況分析クラスタが・・・・義体制御クラ
スタ、オーバーロード。危険、危険、危険・・・・全クラスタ警告、機能低下が各部で検知。
ガクガク・・・・熱病にかかったように僕の義体は震え・・・・。
・・・・・・深佳さんに続いて、千絵梨さんも・・・・僕はどうなるのか・・・・・・ああ、頭が、判らない・・・・。

『ふらふら』になった僕に、千絵梨さんが語りかける。
「乙女には、戦わなくてはいけないときがあるのですわ、和樹さん?」
「千絵梨さん・・・・?」
・・・・千絵梨さんの発言に『楽しい』感情が含まれているように思えて・・・・それとも、僕の気の
せいだったろうか・・・・。
千絵梨さんは僕の左隣に座ると、僕の耳元にささやくいた。
「これから和樹さんとのことをいろいろ聞かれるなんて・・・・。なんだか、どきどきして・・・・楽し
いですわ」そう言った後、僕の手を握る彼女。
その発言に聞き返す僕。
「楽しい・・・・?」
「はい、だって今・・・・和樹さんがいて、お友達がここにいるのですから」

ああ、そうか・・・・この瞬間こそ、僕の欲する『日常』だったのか・・・・。

「和樹さんは、楽しく・・・・ありませんか? ・・・・くふふふっ」
「うん、とっても『楽しい』と思ってる・・・・ふふっ・・・・あはははっ」笑いが僕に伝染する。
「あ〜っ! か、和樹君っ・・・・笑ってなんかいたら、ダメなんだからぁ〜・・・・」
隣から、奈都美さんの怒る声・・・・怒ってもかわいい奈都美さん・・・・。
「くふ・・・・うふっ・・・・ふ、ふふっ、笑わせないで下さい・・・・和樹・・・・さんっ!!」
「あは・・・・あははははっ・・・・。僕のせいじゃ・・・・くっ、苦しい・・・・」
お腹を抱える千絵梨さんと僕・・・・他の人たちはあっけにとられ、おいてけぼりだ。

「このー、何がおかしい・・・・」薫さんがいつものように、僕を叱ろうとして・・・・、
「ま、待って、薫ちゃん! ・・・・こんなに笑う和樹君って、初めてだから・・・・」奈都美さんが僕
を庇う。
「和樹、千絵梨っ、何がおかしいのさ〜!? ボクにも教えてよー!」深佳さんが声を上げ・・・・、
「はあ・・・・笑い袋を2つ並べたみたい。・・・・ふふっ」若佳菜先生が僕らを見守る。
僕の”浮気”の追求はまだ終わりそうにはないけど・・・・。隣から千絵梨さんの笑い声・・・・そして、
みんなが無事でここにいる。
僕は今、とっても・・・・『幸せ』だった。



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