蓮ヶ丈奥地の謎の人工建造物の正体

戻る
 「太一〜、おーい太一〜」
 「なんだなんだ?」
 「旅に出ることにした」
 「唐突な奴だな……なんで旅に出ようと思ったんだ?」
  どうせまともな答えは返ってこないだろうと思ったが、
 「人類滅亡の謎を解こうと思う
  ちょっとな心当たりがあるから少し行ってこようかと思う」
 
 
  ……よりによって桜庭に心当たりが……?
  戯言だろう、無視することにした。
 「ああ、好きに行ってこい、なんで俺に言いに来たんだ?」
 「お前も行かないかと思ってな」
 「友貴は?」
 「誘った……が部活が忙しいらしい、で太一はどうだ?」
  戯れ言かも知れないが……。
 「明日昼までに行って帰ってこれる距離か?」
 「う〜む、今からだとギリギリだな、夜暗いから道よく分からないかも知れないし」
  ループしていることにはノートを読んで知っていたがどうすればそれから逃れられるかはまだ見当もついていない
 この馬鹿の言葉を真に受けることはないが……正直やるべきことが思いつかなかったから。
 「いいぞ、行ってやろう、すぐに用意するからそこで待ってろ」
 「OK」
  この馬鹿に付き合うことにした。
  どうせ明日の昼にはリセットがかかるはずだ。
  食料や衣服なんていらない。
 
  土曜日
  桜庭が人類滅亡の原因を知ってるとかほざいた
  やることがないのでついていく。
 
  急いで日記をつけノート片手にリビングに戻る。
  桜庭がトマトを両手に持ち貪っていた。
  赤が血に見えて一瞬気が遠くなったがすぐにもちなおして
  桜庭の後頭部を手のひらで圧迫する。
 「やめろ……太一、尿意を覚えるぞ」
  桜庭は後頭部を押さえると尿意を覚えるらしい。
  頭の中身と一緒にツボも移動したらしい。
 「何故俺が部屋からマイダイアリーを取ってくるとお前はトマトを貪っているんだ?
  返答次第では貴様を処刑する」
 「処刑か……別に構わんが」
  いいのか
 
 「とりあえずすぐに出発するぞ、明日の昼までにできれば往復しておきたいからな」
 「なんで明日の昼なんだ?」
 「何が起こるか判らないからだ」
 「そうなのか?」
 
 
 「太一、速いぞ」
 「まぁ夜目が利くからな」
  とりあえずノートを祠に置き今日はここで野宿することにした。
  祠に背中を預けて
 「ここで寝るぞ」
  と桜庭に言う。
  普通の奴ならこんな場所で寝るって言ったら嫌がるだろうが、
 「OK」
  奴はいつもこの一言で了承する。
  いつもこうだった。
  桜庭は何にも執着しない奴だった。
  執着はしても誰にも関係ないこと。
  いつも軽くあしらわれ、適当に扱われる。
  損な役を引き受けることも多いがそれを嫌がってる顔など見たことない。
  何故か急に聞いてみたくなった。
 「なぁ、桜庭」
 「どうした?」
 「なんでお前ってそんな何だ?」
 「ん……俺だしな、そんなものだろ?」
 「…………」
  自分でも何を聞いたかも判らない問い
  しかし桜庭は自分の中で正解があったようだ、何でもないようなことのように答えた。
  僅かに寒気がして目が覚めた。
  隣に桜庭が俺と同じく祠に寄りかかって寝ていた。
 「桜庭起きろ」
 「ああ、起きてる」
  即答だ、本当に起きていたらしい、
 「何しろ太一の隣だからな、なかなか眠れなかったぞ」
  とある桜庭の特徴を思い出し急いで桜庭から体を離し
 自らの着衣の乱れ、全角アスタリスクの無事を確認する。
 「安心しろ、俺の性欲はあの日のお前に奪われたままだ
 ぷらとにっ……」
  おぞましさに耐えかねつい桜庭に全体重をかけたドロップキックをする。
  がすぐに起きあがり、
 「痛いぞ」
 「我慢しろ、俺の中の何かが限界を超えそうになったんだ」
 「ならば仕方ないな」
 いつものことだが、いいのか桜庭。
 「大丈夫……太一の貞操は私が守るから」
 「っっ?!」
  背後から曜子ちゃんの声がした。
 とっさに振り向いたが当然のことだが陰どころか気配すら消えていた
 ……まぁ、曜子ちゃんが一晩中監視していたなら問題はないだろう。
 それより、
 「じゃあ、桜庭急いでその心当たりの場所へ行くぞ急げ急げ!」
 日曜からは記録がない、いつ何が起こってもおかしくない、急ぐ必要がある
 「ああ、じゃあこっちかな?」
  ……かな?
 「まて桜庭よ、貴様はどこへ向かっている?」
  すると桜庭は当たり前のことのように、
 「驚異のスーパーテクノロジーを思うがままに操り、未知のエネルギーを扱う、あの謎の建物だ」
  奇跡的なまでの何かに導かれ桜庭の言う『謎の建物』についたが……
 「なぁ、桜庭よ、ここが謎の建物か?」
 「ああ、神秘的だろう?」
  さすが桜庭、このどこを切り取っても現代チックなこの現代サイエンスの最先端を前に神秘的とは……
 というかこの市に住んでいてこの存在を知らないのか?
 「とりあえず桜庭よ」
 「なんだ?」
 「ここは……原子力発電所だ」
  桜庭は今知ったとばかりに、
 「そうか……これがな……道理でな……うん、道理で……」
  何が道理だか知らないが……今週は無駄だったか
  次は何十週後になるのだろうか……。
 
 「どうした太一?では中に入るぞ」
 「何が『では』なんだ?」
  桜庭が手近なドアを開けようとした瞬間
  中から目にもとまらないスピードで『何か』が飛び出してきた。
  桜庭はその『何か』に跳ね飛ばされて地面をごろごろ転がり俺の足に当たって止まった
 しかし俺の目はその『何か』に釘付けになっていた。
 「うっ……うぅう!」
  血が……
  血が…………
  ノイズが走る、境界が曖昧になる、吐き気がするが耐えて何とかその光景を直視する。
  足から盛大に血を流した曜子ちゃんがそこに倒れていた。
 何故ここに曜子ちゃんがいるのかは疑問に思わなかった、俺の側にいつもいるのが当然だからだ
  はっきりと直視はできないがそれは曜子ちゃん自身が流している血だ、
 それは曜子ちゃんが怪我をしたということのほかにならない。
 「太一……逃げて……」
  こちらを確認するとすぐに曜子ちゃんが俺に逃げるように言うが、
 「曜子ちゃん……?いったい何が?」
 「速く……速く逃げて、会っちゃダメ太一も壊れる……」
  曜子ちゃんをここまで傷つける存在ことが可能な存在なんて8人の中には……いないはず
  声、いや叫びが聞こえた
  ノイズが走る
  いる
  何が?
  傷つけることができる存在が
  誰が?霧には無理なことが日記には書いてあった、美希には理由がないしやはり無理だ、冬子は死んでいる、ラバは一緒にいた、みみ先輩も友貴も無理だ
 
  まだ一人いるじゃないか
  まだ叫んでる
  ……そうだ
 
  そいつなら正面からでも曜子ちゃんを殺せる
  そうだ、確かに可能だろう、でもそれは……
  わかる、その声は自分が我慢できないと叫んでいる 良く良くわかった
  建物の中から『それ』が出てきた。
  常人には見えないスピード、しかし動いているものには敏感な目をしている俺には見えた
 それにそれが見えないなんてことはあり得なかった。
  血まみれの群青学園の制服、本来は真っ白であろう髪は古い返り血にまみれて純白と濁った黒のコントラストを作っている
 手には短い、本当に短い――曜子ちゃんの傷がそれで作られたのかと疑問に感じるほど――ナイフを持っていた。
 『それ』は黒須太一だった。
  その『黒須太一』は俺――太一――に向かってナイフを構えもせずに走ってきた
  早すぎて反応ができない――
  アカイ、赤い、暖かい血を感じる
  ノイズが混じる。
  なんて――つらそうな目が
 
  歪む視界の全体に桜庭が――血まみれになってナイフの切っ先が背中からちょっと見えてる――見えた
 「そうか……これはちょ……と」
  視界全体を占めていた桜庭の背中がゆっくりと下へ動いていく
 「……面倒だな………太一……」
  倒れた。
  桜庭の代わりに視界に入ってきたのは自分と同じ外見をした『黒須太一』
  顔が笑っているのになんて――そうな知らない『自分』が見ている。
 
  ……いや、この『黒須太一』はよく知っている。
 
  どうしたい?
 
  突き出してきたナイフを左手で持ち手ごとつかみ、そのまま地面に叩きつける
  首の皮膚を指で掴み、そのまま頸動脈をちぎる
  地面のコンクリートにその白くて黒い頭を何度も叩きつける
  その目に指を突き入れ中で指を曲げて中身を取り出す
  落ちたナイフを拾い、真ん中に刺す
 
  何をしたのか判らない、これら全部をしたのかも知れないし一個だけかも知れない
 ……ああ、少なくても死体を見れば三つ以上したのは確かみたいだ。
  これは誰なのだろう?
  やはり自分なのだろうか?
 「太一……それ太一じゃない、太一だけど太一じゃない……だから見ないで……見ると太一、本当に壊れちゃう……」
  曜子ちゃんも『これ』を『太一』と認めた。
  ノイズが入る、視界はグニャグニャだ……。
  もう限界だ……。
 
 
 「そうだな……太一じゃないな」
  桜庭の声が近くでした。
  視界がクリアになる。
 「だってお前が太一だろ、じゃあそいつはベツモンだ」
 「桜庭……生きていたのか」
 「あ〜……ちょっと……少し…………かな?」
  その時になって桜庭がナイフで体を貫かれたことを思い出した。
 「なんで…………なんで俺の…………俺を……」
  桜庭は痛みも忘れたような顔をしてポカンとして何でもないことのように聞いてきた。
 「俺たちは……親友……だろ?」
  親友?今時そんな……いや何を今更!
 「そうに決まってるだろ!!」
  叩きつけるように言ってやった、桜庭は満足そうに
 「じゃあ……当然だ……友情は見返りを……?」
  やはり桜庭は馬鹿のようだ。
  当たり前のことを……聞いてくる馬鹿だ、
 そしてそれに答えられない俺はもっと馬鹿なのだろう
 「なにしてるんだよ……馬鹿の桜庭…………」
 「どう……した?…………合いの手が…ないと寂しいな……」
 「求めない……だろ…………」
 「……そうだ」
  桜庭は馬鹿じゃなくなった。
  馬鹿は死ねば直るはずだから。
  しばらく放心していると曜子ちゃんは足を引きずりながらこちらに来た
 足に大けがをしたが今すぐ死ぬというものじゃないらしい
 怪我の手当をした方がいいのではないかと手当てしようとしたが、いらないと言われた
 どうやら一週間の終わりはもうすぐみたいだ。
  そしてあの『太一』はこの世界の太一で、
 暴走して見境がなくなった『太一』を曜子ちゃんはこの原子力発電所の中の建物に幽閉していた
 有事の際のシャッターが幽閉に向いていたとのことだ。
  何故殺さずに幽閉したのかと言えば「だってわたしは太一を殺すことなんてできない」からだそうだ。
  突然、夕暮れになった。
  この普通ではない変化に直感的に終わりが来たと感じた。
 「これで終わりなのかな?」
 「……これで終わりだと思う」
  すぐ目の前には桜庭が死んでいる、その桜庭に
  膝が震えて、
 「桜庭……やっぱお前は馬鹿だな、今時親友なんて言ってる20世紀青春野郎……」
  耐え切れなくなって目を伏せて、
 「太一……涙」
  涙?この人間のまねをしているだけの分際で涙?
  そんなはずはない、そんなはずはない
  これは……
 「桜庭を青春野郎って馬鹿にできないかもな……これは青春汁だ
  涙なんかじゃない……俺が涙なんて」
 「太一もしかして――」
 
  そして世界は巡る
  この空が消えてなくなるまで。
戻る