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「全国一千万のエロゲーファンの皆様こんばんわ! 本日もやってまいりました
 『ザ☆毒々トークバトル』のお時間です! なんと今日は時間枠を拡大した特別番!
 それというのも、今回のバトル! エロゲ界にその名をとどろかす二大毒舌ヒロインが
 正面切って渡り合う、誰もが待ち望んだスペシャルバトルなのであります! 
 いったい毒舌女王の称号はどちらの手に入るのでありましょうか!  
 さあ! いよいよ本日のファイターの、満を持しての登場です!」

 湧き出すスモークのなかから、漆黒の衣装を身にまとった長身の女性が現れた。
腕を組みつつ花道に踏み出すその振る舞いには、育ちのよさと人を寄せ付けない何かが窺える。
 
「玄武の方角、ゆらめく忌まわしいオーラと共に現れたのは、あのD.O.のハートフルドラマ
 『家族計画』において思う存分その呪舌を振りまき、全国のマゾヒスト達を悦楽のふちに
 叩き込んだ漆黒の魔女にして我らが女王! 高屋敷青葉であります! 」

 割れんばかりの怒号に包まれる会場。 

「おおおおっ! 会場が一瞬にして『青葉姐さん(;´Д`)ハァハァ 』の唸りに包み込まれました!
 このカリスマ! この圧倒的存在感! すさまじいものがあります!
 だが、だがっ! 我々はさらなる脅威を目にすることになる!
 ご紹介しましょう! もう一人の荒ぶる戦士を!」

 リングを挟んで反対側の花道、同じようにしてスモークを従えて現れたのは小柄な少女であった。
その身はフリルのついたかわいらしい洋服に包まれている。
だがなにげない仕草から威厳をかもし出すその様子は先ほどの女性と同様であった。

「出ました! その小ぶりな体格に秘めたバイタリティは無限大! しがらみが幾重にもからみつき、
 主人公のみならずプレイヤーまでもが身動きを封じられるageの話題作『君が望む永遠』!
 彼女こそその舌鋒で迷いなき活躍をみせた唯一のヒロイン・大空寺あゆだぁぁぁ! 」

『大空寺あゆ(・▽・)萌えっ!!』
『大空寺あゆ(・▽・)萌えっ!!』
『大空寺あゆ(・▽・)萌えっ!!』
 会場のボルテージはさらなる上昇を見せる。

「だれもが期待せずにはいられないこのカード! ここ、日本武道館は未曾有の盛り上がりに
 包まれております! 手ぇ出したら負けよ、を唯一のルールと定めた情け無用の残虐デスマッチ
『ザ☆毒々トークバトル』、もうまもなくそのゴングが鳴ろうとしております。実況はわたくし田沢。
 なお、本日はスペシャルゲストとして二人のお方にお越しいただいてもらいました。
 両ゲームの主人公、沢村司様と鳴海孝之様で―――」
「ちょっと待てぇ! 」
「はい、なんでしょうか沢村さん」
「あのな、メタなことを言ってしまって悪いが俺は『末莉ルートに進んだ沢村司』だ。
 なぜよりによってこの俺を呼ぶ!? 見ろ、あいつを! 」

 沢村司が指し示したのは、リングを挟んで放送席の反対側に設けられた特別応援席。
そこに『家族計画』の面々らがのんきに応援している様子がうかがえた。
こころもち白くなってガタガタ震えている一人の少女を除いて。

「そらあいつも怯えるわっ! 俺たちにとばっちりが来たらどうしてくれる!
 それにな、そっちの鳴海ってやつはあのあゆとか言うお嬢さんを選んだルートの男なんだろ!? 
 この差はなんなんだぁっ!」
「えーとですね、プロデューサーによりますと『青葉エンドの青葉は丸くなるから面白くなさそう』
 なので、あえて末莉ルートの青葉様を選ばれたそうです。あゆ様の場合は、おそらく彼女の
 真骨頂がうかがえるのが彼女のルートだからでしょう。この状況、あゆ様の切り札となるものでしょうね」
「ものでしょうね、じゃねー! 何冷静に説明してんだ!」
「いえ、それが仕事ですので。それに、気まずさで言えば彼もそうとうのものですよ。ほら」

 真後ろを親指で指す実況・田沢。こちらには『君が望む永遠』サイドの特別応援席が設けられていた。
まるで、鳴海孝之に対する嫌がらせのように置かれた特別応援席。
『君望』の面々から実に冷ややかな視線が彼の背中に降り注いでいた。
鳴海孝之はひたすら下を向いて耐えている。

「……うわぁ」
「涼宮家のみなさんの視線には殺意すらうかがえますね」
「うぅぅあゆ、いいバイトってコレかよ……。一緒に来てくれなんて言うからおかしいとは思ったんだ……」
「そうこうしているうちに準備が整えられたようです」

 暗くなった場内にリングがライトアップされて浮かび上がる。
中央に置かれた向かい合わせの二脚の豪奢な椅子に、いつのまにか両名が座っていた。

「恐ろしい静けさであります。まさしく嵐の前の静けさ。トークバトル開始のゴングとともに、
 リング上に吹き荒れるは罵詈雑言か血の雨か、それは神のみぞ知るところなのでありましょう。
 いくぶん緊張した面持ちのレフリーが、両名になにやらルールの説明をしております。
 おおっと、レフリーが脇に退きました。さあ、今、戦闘の開始を告げる鐘が――――」

 カァァァーーーーンン!!!

「打ち鳴らされたぁ!会場中が一瞬にして怒号に包まれました! 割れんばかりの『(;´Д`)ハァハァ 』
 『(・▽・)萌えっ!!』の嵐であります! だがっ、両者動かない! ルネッサンスの
 彫刻を思わせる気品を漂わせつつ、両名椅子に座ったままであります! おそらくは我々には窺い知れない
 壮絶な腹の探り合いを行っているのでありま――――いや! 動きました! 青葉です! 
 先に動きを見せたのは高屋敷青葉であります! ゆっくりと、静かにかぶりを振りながら、
 その硬く閉ざされた口を開き―――― 」

「私に子供をいじめる趣味はなくてよ」

「来たぁ! まずは軽いジャブ! 外見を遠まわしに貶める簡潔にして的確なジャブ!」
「いえ、これは強烈ですね。見た目のことはあゆ本人もかなり気にしています。
 それを哀れみ・同情というオブラートで包んで言い放つとは。あゆに対してはその威力を
 二倍・三倍に膨れ上がらせる、恐るべきジャブです」

 いつのまにか開き直ってる孝之。むしろノリノリ。

「なるほど! いきなり貫禄を見せ付けるか高屋敷青葉! 強力な先制攻撃であります!
 対する大空寺あゆはどのような反応を見せるのでありましょうか!?」

「あんですと〜!?」

「出たっ、伝家の宝刀『あんですと〜!?』! 怒りをあらわにするとみせかけて、
 いったん一息を置く万能の言辞! 実に見事な受け流しであります!
 鉄壁の守備を見せ付ける大空寺あゆ! さあ、反撃なるか?」 
 
「あにしらじらしい嘘ついてんのさ。そっちの本編中ろりっ子をいじめ倒していたのは誰じゃい」
「あ〜やだやだ。強い立場から弱いものいじめ。ほんとみっともないんとちゃう?」

「いいぞ大空寺あゆ」
「なんであんたがあゆの応援をするんだ沢村さん」
「いや、つい」
「思わず沢村さんも同意してしまう見事なカウンター! 予期せぬ反撃に青葉もたじろい……でいない!?
 青葉まったく動じません! むしろ余裕が窺えます! この自信は、いったいどこから
 来ているのでありましょうか!?」  

「別に私は末莉が弱いから辛く当たったわけではないわ」
「むしろ末莉を特別扱いしなかった、といって欲しいわね」
「私は人によって振舞いを変えるような、そんな不平等なことはしない」
「それだけのことよ」

「大空寺のカウンターを真っ向から受け止めた高屋敷青葉ぁ! 強い! 自信に満ち溢れている!
 これは彼女の一貫した人生哲学がもたらす強さだ! この牙城を崩すことはおいそれとはできそうもありません!」
「っていうか無理だと思います。既知の外っぽいし」
「なんと、沢村さん勝利宣言でありますか!?」
「いや、勝利宣言じゃなくて。諦めてるっちゅうか」
「さすがの大空寺もここはいったん引いて様子見か!? しばしの沈黙がリング上に訪れて―――
 いや! 引かない! さらに言葉を続けるつもりだ大空寺あゆ! 
 溜めて溜めて紡ぎだされた彼女の言葉は―――」

「……そんなだから」
「男をろりっ子に盗られるのさ」

「うわあぁいきなり来ました! 切り札をここで、この序盤で使うか大空寺! 
 それも一切迷いのない、単刀直入のストレート! 情け容赦のない設定が青葉に襲い掛かる!」
「……いや。効果は薄いな」
「え? それはどういうことですか沢村さん」
「……青葉は何事も自分中心にものを考える女だ。だから」

「それはあくまで沢村司が低劣でおぞましいザザ虫にも劣る忌避すべきペドフィリアであった
 が故の帰結であり」
「私個人の振る舞いにその因を求めるのは筋違いというものです」
「つーん」

「ほら、見ろ! やっぱ俺に矛先を変えやがったぁ! ちくしょぉぉ!」
「なにやらダメージを受けたのは沢村さんだけのようです。女王・青葉は動じない!
 それどころか反撃に撃って出ようとしております!」

「あら失礼」
「あなたの彼氏もペドフィリアでしたね」

「あ? あ? なんでそうなるのさ」

「ちょ、ちょっと待て! なんでそうなるんだよ!?」
「思わず大空寺も鳴海さんも少々混乱!!青葉らしからぬ唐突な論理の飛躍!
 大空寺の切り札は、思いのほかにダメージが大きかったのか!?」
「まさか。青葉の狙いは見えているじゃないですか」

「それこそ」
「ご自分の姿を冷静に見つめなおせばおのずと判ることでなくって?」

「相手の弱点を執拗に突付く。青葉の得意技です」
「恐ろしい! 恐ろしい女です高屋敷青葉! あくまで相手のウイークポイントを攻め抜く
 その手法はさながら毒蛇のようであります!」
「あんた早死にするぞ」
「そのようなことを鑑みている暇はありません! この状況をどう思われますか鳴海孝之さん」
「俺はザザ虫以下だったのか……じゃなくて。これは非常に不利な展開です」

「ほう。『あんですとディフェンス』でも凌ぎきれない攻撃であると?」
「いえ、違います。おそらく青葉さんの狙いはその『あんですとディフェンス』を引き出すことに
 あるのでしょう」
「!? というと!?」
「『あんですとディフェンス』は諸刃の剣。その多用は『うがぁ〜』に繋がってしまいます」
「は! 確かに!」
「『うがぁ〜』が出てしまうとおしまいです。あゆは野獣化し、手を出してしまうでしょう」
「なるほど」
「正念場ですね。ここで『あんですとディフェンス』を使ってしまうと、青葉さんはここぞとばかりに
 同様の攻めを繰り返すと予想されます。そうなるとあゆは『あんですと』を多用せざるをえなくなる」
「ほんとノリノリだなあんた」
「これは追い詰められた展開になってまいりました! 青葉の姿はまさしく巧みに対戦相手を
 ロープ際に追い詰めるプロボクサーのようであります! 大空寺、耐えられるか!?」

「ふふん」

「おお!? 大空寺、顎に手を当てるお得意のポーズで、余裕の笑みを浮かべております! 
 挑発に乗らない、『あんですと』は出さない! 秘策があるのか大空寺あゆ!?」

「あんたあたしがただのろりっ子だと思ってるわけ?」
「どこぞの誰かさんのように犬コロのように懐いて男をたらしこむような」
「そんな女だとでも? 笑わせるさ」

「……!」

「ああ! 青葉が! ここで初めて怒りの表情をあらわにしました!」 

「あら、どうしてあなた様がお怒りになられるのかしら?」

「畳み掛けるようにしてお嬢様モード発動! これは強力無比なコンボであります!
 先ほどまで氷のような冷徹さを保っていた青葉の肩が、小刻みに震えております!
 これはいったいどうしたことでありましょうか!? 解説の沢村さん……沢村さん?」
「恐るべき子ですな、あのあゆというお嬢さんは」
「おや、あなたは招待客の広田寛さん。どうされました?」
「うむ。司がなにやら激昂して立ち上がりかけたので、スタンガンで眠ってもらった。よって解説は
 以後私が引き受けよう」
「なんと、大空寺の舌鋒は青葉のみならず沢村さんまでも怒らせましたか。
 いったいあの言葉にどれだけの意味が?」
「わかっているとは思うが、あの言葉は末莉を揶揄しておる。したがって司が怒るのは当然であろう」
「それはわかります。ですがなぜそれが青葉の挑発に繋がるのでしょう?」
「うむ、それがあゆ嬢の恐ろしいところ。青葉と末莉の微妙な関係を巧みについておる!
 本来ならば青葉は末莉がいくらけなされようと関知するところではないのであろうが、
 本編を経た青葉には少なからぬ身内意識が芽生えておる。本人は認めようとはしないだろうがね」
「なるほど」
「すなわち、頭では冷静を保とうとしても心が認めない、という状態にされたわけだ。
 名状しがたい不快感・いらだちが青葉の内面に湧き上がってきておることだろう。
 この局面においては致命的な状態であるな」

「なんと! これは相手の仲間を貶める反則スレスレの微妙な攻撃!
 それでいて相手のデッドスポットを打ち抜く絶妙な攻撃!
 効果は絶大であります! 青葉、手が出るか!? 出してしまうのか!?
 ……いや、出さない! 踏みとどまったぁ!」

「……あなたの言う『どこぞの誰かさん』が誰だかなんて知ったことではないけれど」
「深い事情もわからないで知ったような口を聞く」
「その無用心さ、無神経さ」
「まさしくあなたが子供であるまぎれもない証拠ね」

「あくまで大空寺のスタイルを中心に展開する攻めを続けて来た青葉が、ここで初めて相手の内面に踏み込んだ!」
「……これは同時に『絵本エピソード』を利用した攻撃ですね」

「……!」

「今度は大空寺が黙り込む! 鳴海さん、その『絵本エピソード』とは?」
「本編中、俺の『思い出の絵本』をそれと知らずに貶してしまい俺にキレられる、というイベントです。
 苦い経験を呼び起こす、うまいやり方ですね」
「女王・青葉、痛烈な反撃であります! なおも攻撃の手を緩めようとはしない!
 このまま一気呵成に畳み掛けるのかぁ!?」
 
「おおかた」
「欲しいものはだだをこねて無理やり手に入れてきたのではなくて?」
「周りが傷つくこともおかまいなしに」
「無自覚であるがゆえの子供のやり口と言えるわね」

「ほんっとそうよね」
「おおっとあなたは招待客の速瀬水月さん。いろいろとおっしゃりたいこともあるでしょうが、
 ここは鳴海さんにご意見をうかがいたいと思います。鳴海さん?」
「……」
「『好きになっちまったものはしょうがない』のよねー」
「……」
「どうやら青葉の反撃は鳴海さんにも並々ならぬダメージを与えてしまったようです。
 鳴海さんに脂汗が流れております。この強力な攻撃の前に、このまま大空寺は沈んでしまうのか!」

「はっ」
「だだすらこねられなかったあんたに言われたくないさ」
「二十歳越えてやっとこさヤケを起こすなんて、ホントみっともないさね」

「あら、あの子開き直っちゃったわ」
「だが、実に見事な開き直りであるな。精緻にして強烈なカウンターを青葉に叩き込んでおる」
「見事です大空寺あゆ! ただで沈むはずもなかった! 開き直ることによりダメージの
 回復を図ると同時に、それ以上の一撃を青葉に見舞った! 
 闘いは今、最高潮の盛り上がりを見せようとしております!」


「……」

「あにさ」

「青葉不気味な沈黙であります!」

「死になさい」

「おおっとシンプルかつ問答無用の一撃!」

「あんですと〜!?」

「『あんですとディフェンス』が出た! いや、出さざるをえない!」

「くたばれ、と申しているのです」

「あ、あ、あんですと〜!?」

「青葉本領発揮! たまらず大空寺再度の『あんですと』!」

「人の過去に土足で踏み込む無知で無能で無神経な輩は即刻死に絶えるべきであると」
「そう申しているのです」

「あにをっ!? 無知で無能はどっちじゃい! このルンペン爺コン女っ!」

「……!」

「決定的な一言が出ましたな。うむ」
「青葉立ち上がったあ! 負けじと大空寺も立ち上がる!」

「愚かな言動を撒き散らし続ける醜悪にして矮小な呪われるべき小娘」
「判決。死刑」
 
「あに宣告してくれちゃってるのさこの大女っ!」
「あ……あ、もう、う、うがあ〜〜〜〜〜〜〜!!!」

「両者同時に手を振り上げたぁぁぁぁぁぁ―――――――――――」


<高屋敷青葉VS大空寺あゆ>
――試合結果――
ほぼ同時のびんたによるクロスカウンター。
写真判定でも決着つかず。よって引き分け。
引き分けの判定が下されると同時に暴動が発生し、日本武道館半壊。

――負傷者――
高屋敷青葉、びんたおよびその後の取っ組み合いにより、軽症。「……不遜……極めて不遜」
大空寺あゆ、びんたおよびその後の取っ組み合いにより、軽症。「お前なんか猫のうんこ踏め 」
沢村司、電圧調整を間違えたスタンガンによる重度のマヒ。「いつか殺す」
鳴海孝之、暴徒と化した一部観客による暴行を受け重傷。「なんで俺が」
河原末莉、試合途中で失神。「ろりっ子にオトコとられて、ってトコで(春花嬢:談)」
観客、暴動による重軽傷者が数百名。
実況の田沢、謎の昏倒。「魔女が……カラスが……」

なおこの度の惨事の責任をとらされることとなったプロデューサーは更迭。
『ザ☆毒々トークバトル』は急遽打ち切りとなり、この試合の様子が放映されることはなかった。

                                            <完>
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