総合トップSS一覧SS No.7-041
作品名 作者名 カップリング 作品発表日 作品保管日
無題 777氏(28スレ目) エロ無し 2008/11/27 2008/11/30

「好きなのよ」
「は? なんだって?」
あまりにも唐突なリタの告白に、思わず素の口調で聞き返してしまった。
「だから! 好きだって言ってんでしょ!?」
「ほい」
丁度食べようとしていたオレンジグミをリタの口につっこんだ。
「人様が食べようとしてるグミを欲しがるなんて、リタっちまだまだお子様ねぇ」
もぐもぐもぐもぐごくん。
「ちがーーーうっ!!」
ご丁寧に最後まで味わってから彼女は吠えた。
「あたしは! あんたが好きなの!」

宿屋の一室。
軽く体調を崩してしまった自分は、世界崩壊の危機に際してお留守番の真っ最中だ。
度重なる始祖の隷長の精霊化とその度に起こる戦いで、エアルの影響を受けすぎたらしい。
酷使されるのは慣れっこなんだけどねえと苦笑する年寄りに、
心臓の代替をしている魔導器を調べてみたいと言い出したのはリタだった。
そこまで大げさな事態ではないのだが、研究に付き合うという名目で子守を任されている。
――はずなのだが、何を間違ったか唐突な愛の告白を受けてしまった。
「まさか……こんな部屋に連れ込んで、リタっちってばおっさんの身体が目当てだったのねっ!?」
「うざ」
渾身の演技が一蹴された。
「ひ、ひどい……いたいけなおっさんの心を弄んでっ」
うるうると上目遣いでしなだれる。頭をひっぱたかれるか足蹴にされるのを期待したが、意外にも無反応だった。
「もしもーし、リタっちー? あまりの色っぽさに言葉もない? ほーれ服の裾チラッ……」
「ごまかさないでよ!!」
気迫の篭った叫び声に部屋の空気が凍る。
観念して立ち上がりながら、悟られない様に内心溜息をついた。――実に面倒だ。
「……で、誰がなんだってのよ?」
リタはつかつかとこちらに詰め寄ると、意志の強い瞳で真っ直ぐこちらを見上げてきた。
「好き」
簡潔な一言。だからこそ重い。
「……ほっほー、んで何か愛のプレゼントでもくれちゃったりするの? おっさん今ちょうど懐が寂しくてさぁ」
「あたしはっ……本気よ!」
そう叫んだ瞬間、襟元を掴まれて上体が引き寄せられる。唇に鈍い感触が当たった。ぎゅっと強張った唇が触れただけの拙いキス。
まるで子供だ。
そして彼女は子供なのだ、実際。
その先に進むでもなく、かといって離れるわけでもなく、
こちらの様子を伺う余裕もなくただ固まっているのが何よりの証拠。
こんな時にも、頭は冷静に状況を受け止めていた。次に何をするかは決まっている、
身体を離して、軽い冗談でも言って熱くなっているだけの頭を冷やさせればいい。
ゆっくりと肩に手を回し、

強気なリタの肩が、弱々しく震えていた。
瞬間、ずっと奥底に沈んでいたはずの欲望が首をもたげた。

「ん――んんっ!?」
無理やり顔を押さえつけ、固く引き締めた唇を割って舌を侵入させた。
容赦なく絡みつかせては吸い上げ、リタの口内を蹂躙する。
さっき食べさせたオレンジグミの風味がかすかにした。
脅えているであろう戸惑った舌の感触に嗜虐心が芽生え、背中にぞくりとした感覚が走る。
貪るように重ねた唇の隙間から、どちらのものともつかない唾液が零れた。
「――んっ……」
それでも胸元の手は襟元を固く掴み、この身体はぐっと引き寄せられたまま。
ぶつけてくるだけの好意も強張った身体も逃げようとしない意地も、
全てが拙くてたまらなく愛おしくて、深く、深く口づけた。

「は……っ」
ようやく唇を離し、彼女を解放する。
熱い呼吸が口から漏れ、とろんとした目には涙が浮かび、手に触れた首筋からどくどくと脈打つ鼓動を感じる。
ぐびり。
眩暈がするような少女の色香に、無意識に喉が鳴った。
その音に理性が僅かに戻る。
「レイ……ヴ……」
自分を呼ぶ擦れた甘ったるい声に、紛い物のはずの心臓が跳ねる。
限界だった。
リタの頬に添えた手に力が篭り、

ぎゅむ。
「んぎょ!?」
思い切りほっぺたをつねった。

ぽかんと呆気に取られたリタの顔を、にっと口の端を吊り上げて嫌味に笑う。
「ガキんちょ」
子供だとからかった。そういうことなのだ。
リタの頬から手を放すと、おぼつかない足が崩れてすとんとその場にへたりこんだ。
「……〜〜〜〜っ」
我に返って状況を理解したのか、茹でダコより真っ赤になった彼女の表情はみるみる歪み、
「っったぁーーーい!! バカ! 最悪! 死んどけぇっ!!」
どっかんと音を立てて噴火した。

「あてて……まったく、リタっちったら容赦ないんだからぁ」
腰でも抜けたのかと思ったが、リタは思いつく一通りの方法で自分を痛めつけた後、
どすんばたんと元気に足を踏み鳴らして部屋を出て行った。
こてんぱんにのされた傷を自力で癒す。
もうすぐ戻ってくるであろうエステルに治療してもらえばこの程度の傷はすぐに全快するのだが、
さすがに事情を説明する気にもなれない。曖昧にごまかせば、リタの態度と合わせて追求されるだろう。
それに、なんとなくこの傷は自戒の意味で残しておきたかった。
一通り治療を終えると、ごろんとベッドの上で横になった。
「ほーんと子供なんだから。なんだって、」
なんだって、老い先短い自分などを。
いや、だからこそなのだろう。同情と愛情の違いが理解できずに境界が曖昧になっているのだ。
心臓が魔導器の半死人など、ああ見えて心優しいリタが放っておけるはずもない。
体調を崩した自分の胸を見つめ、辛そうな表情をした彼女を思い出す。
「本気、ねえ」
自虐的な笑みが漏れた。
所詮、勘違いから来る一時の感情で暴走しているだけ。実にあの年頃の子供らしい思い込みだ。それを恋だ愛だなどと、鼻で笑ってしまう。
――笑わなければならない。

今頃泣いているだろうか、彼女は。頼りなく明滅する胸の魔導器が軋んだ。
危なかったかもしれない。
意固地だが顔に表情が出やすいリタである。その好意を感じることは何度かあったが、自分よりふたまわりも下の少女など相手にしない自信があった。だから避けようとはしないどころか、ちょっかいを出してからかってはムキになる態度を楽しんでいた。
めまぐるしく変わる表情、感情豊かに今を生きる姿に、自分からとっくに失われた暖かさをを感じていた。
感情の境界が曖昧になっているのは、本当はどちらなのか。
「やばいわ……」
気苦労はそれなりに多い方だとは思うが、一度死んだはずの自分がこんなを面倒を抱えるとは予想だにしなかった。
はあぁぁ。
身体がベッドに埋まるかと思うほど、重苦しい溜息をつく。
「おっさん、ロリコンの気があるのかしら」
暗く沈んだ気持ちとは裏腹に、一向に鎮む気配のない股間を恨めしげに一瞥した。
これ、どうしようかね。


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