総合トップSS一覧SS No.7-011
作品名 作者名 カップリング 作品発表日 作品保管日
無題 β氏(27スレ目) エロ無し 2008/08/28 2008/10/24

「あれ…?」
窓に肘を突いていた少年は、身を乗り出して、
夕焼けに沈む綺麗な町ダングレストの一角に、見知った少女の姿を捉えた。
「どうしたよカロルくーん」
隣で手の平に収まるサイズの小さな本を閉じて、
ベッドに寝そべっていた中年の、しかし引き締まった身体つきを持つ男レイヴンが、
少年、カロル・カペルと同じように窓から景色を眺めた。
「……ううん、なんでもない」
そう言いながらも、カロルは窓から体を動かさずに、景色を眺めていた。
「ねぇ…レイヴン」
「ん?」
体や顔を向けずに話しかける。
「レイヴンは……この旅が終わったらどうするの?」
「んー?いや、この前オルニオンで話して上げたじゃんよ。もう忘れた?」
「ううん。違うんだ」
「おや、どしたい?」
もそり、とレイヴンがベッドの上から身を乗り出したのが判る。
「もう、明日には旅が終わるんだ。それでも、まだ決まってないの?」
「そうねぇ…騎士に戻ることも出来るわな。でも俺っちの命は凛々の明星が握ってるしねー」
「騎士に戻るの?」
「判んないわ。俺シュヴァーンじゃないからまた一般卒兵から始まるかもしれないしなー」
そんなことより、とレイヴンは更にもそりと動く。
「少年は?凛々の明星で本格的に動くの?」
「ごめん…僕も決まってないんだ…」
「あらま。どうすんのよ?」
「ユーリは旅が性に合ってるみたいだから、これからも続けるかもしれない」
「ジュディスちゃんは?」
「ジュディスは、リタやエステルとバウルで世界を見て回るみたいなんだ」
「いつそんな事言ってたのよ」
「オルニオンで、夜、レイヴンと話した後に、偶然聞いちゃったんだ」
「ふーん」
声だけで意思疎通を取るカロルの質問に、一個ずつ、丁寧にレイヴンは答えて行く。
「今決めなくても、いつ動いてもいいのよ。悩むなって、ドンだって少年世代でギルド始めてるわけじゃないんだしよ」
「でも…僕、ユーリ達と会って、ドンの最後を見て、イエガーを看取って、アレクセイと親衛隊を見て、色々勉強した気がするんだ。今なら、ギルドとして、型にはまってるイメージがする」
「じゃあ始めればよくない?」
カロルは、再び顔を横に振る。
「駄目なんだ…今の僕には何かが足りないんだ。誰かに…聞いて見たい。答えることが出来る人は、一番ドンが理想的なんだけどね」
「ハリーはどうよ?最近肝が据わって来てるのよ?アイツ」
「今から……いいかな?」
「いいさいいさ。ユーリとか譲ちゃんとかリタっちとかは買出しに出かけてるんだから、ね」
「でも出てったらレイヴン一人になっちゃうね」
レイヴンは言葉を詰まらせた。
「む……いーのいーの。俺様、今は一人でもなーんも怖くないから。ほれ、行って来いって。色々聞けると思うわよ?」
「うん。ありがとう、レイヴン」
カロルは、そのまま宿屋を出て、ユニオンへ向かった。

「何だ、お前か」
「久しぶり。そっちはどう?」
と、ユニオンの入り口前で、ハリーとカロルは顔を合わせた。
「まだ判んねぇ。魔導器が無い世界…だろ。ダングレストの猛者にはどうでもいい話だが、一般人の部類がそうはいかねぇ」
「そうだよね…ごめんね、勝手に話を進めちゃって」
そうカロルが言うと、ハリーは鼻で笑った。
「ハッ。謝る必要はねぇんだよ。後は俺たち、上の人間がちゃんと下を支える。結ばれた条約のお陰で、色々とコトはスムーズに進みそうだからな」
「そっか。ありがとうね」
「礼を言われる筋合いもねぇな」
「うん」
頷いたカロルは、顔だけではない微笑むを浮かべた。
(そうだ…ハリーもすごく、ドンの影を背負ってる気がする。きっと、僕みたいに仲間がいるんだよね…支えてくれる)
しかし、それと自分のこれからを繋げる糸として、不十分さを感じて、
カロルは胸に空いた空洞のような感覚に、寂しくなった。
「そういえばさ、何でハリーはこんな所にいるの?」
「あ?…あぁ。話をしたいってヤツがいてな。今から部屋に戻る」
「僕も聞いてていい?」
「駄目だ。個人的みたいだからな」
「そうなんだ。判った。それじゃあね」
カロルは片手を自分の顔の少し上まで持ち上げた。
それに気付き、ハリーはそこに、自分の手の平を打ちつける。
パシンと小気味のいい音が鳴った。
「あぁ。じゃあな」

「これ下さい」
「あいよ、1200ガルドだな」
「はい」
カロルは露店で売ってあったエレアルーミンで取れた水晶製の砥石を購入した。
石英と石灰の混ざり具合が丁度いいらしく、刃を綺麗にしてくれるらしい。
後でラピードとかユーリに持っていってあげようかな、と考えたが。
「そうだ…試しに磨いでみよう」
と、近くの段差に腰を下ろして、バッグから大剣を取り出して、石を宛がった。その時、
「カロル・カペルだな」
「え…?はい?」
顔を上げたカロルの前に、厳つい顔の大男が立っていた。その人相の恐ろしさに、背筋に嫌な汗が噴出した。
「な……なんで…なんです…か…っ?」
「お前に用がある。我々と来てもらおう」
と、男の後ろから更に別の強面の男がぞろぞろと出現。カロルの手を引いて歩き出した。
「え?ええええぇえ〜〜〜〜!?」
カロルの悲鳴が虚しく木霊した

「何やってんだ?カロルのヤツ」
ユーリ・ローウェルは手に買い物袋を持ったまま呟いた。
「知んないけど、いいんじゃない?」
と、隣の少女、リタ・モルディオが首を傾げながら言った。
「本当か?俺、少し見てこようかな」
「大丈夫です」
と言い切ったのはエステリーゼ・シデス・ヒュラッセイン。通称エステルだった。
「どうして?」
とリタの首が更に横倒しになる。
「あの男の人たち、肩の腕章にユニオンのマークがありましたから。何かハリーさんから言われてるんじゃないです?」
あぁ、とユーリも納得する。
「さー帰ろ帰ろ」
「そうね。エステル、行くわよ」
「あ、はい」

「な…なんの用なのさ…びっくりしたよ…」
ドンの…今はハリーの部屋で、カロルは部屋縮こまっていた。ハリーが頬杖を付きながら目を細める。
「驚いたのはこっちの方だ。何で気絶してるんだよ」
「だって…あんな怖いおじさん達がいるなんて聞いてないよ…」
その言い草にハリーは首を横にやれやれと振った。
「聞いてなくてもダングレストにはそういう奴がいるってことぐらい想像しろよ。小心者だな…」
「ごめん…それで?」
と、ようやくカロルは部屋の隅から中央に移動してハリーを見据えた。
「ん?あぁ、俺に用がある客に少し問題があってな」
ハリーは少し忌々しそうに舌を打った。
「なに?もしかして騎士団の誰か?」
と、カロルも流石に気になる。騎士団と悶着を起こしたら、有効問題に発展する。
やっと互いの解れが取れかけていたのに、それはまずい。
しかしハリーはこれに首を横にぶんぶんと思いっきり振った。
「え?」
「入れ」
とハリーは扉に向かってチョイチョイと指を振った。
そして扉から入ってきた人物に、
「ナン……」
一番驚いたのはカロルだった。
「なんで…ナンがいるの?」
と、さながら人形の如きぎこちなさで、カロルはようやくそれだけを言い切った。
ハリーが「はぁぁ」と大きくため息をつく。そしてナンを睨んだ。
「俺に凛々の明星の居所を教えてくれって言ってきたんだよ。ったく、そんなもの、ワンダー記者達にでも聞けばいいだろが」
その言い草に、カロルとナンは流石にイラっと、
「いや、あのね…ハリー」
しなかった。カロルの半眼が虚空を見つめる。
「ワンダー記者なんて神出鬼没の連中に聞けって方が難しいよ?」
「うん、あたしもそう思う」
その反論にハリーは「あっそう」とだけ言うと、座布団から立ち上がり、部屋を出て行った。
「え?ハ、ハリー?」
カロルが困惑する。ハリーは
「ナンはお前に用があるんだろ。俺外行って空気吸ってくるな」
とだけ言うと、さっさと出て行ってしまった。部屋に奇妙な雰囲気が流れ始めていた。



211 名前:β:2008/08/28(木) 19:47:02 ID:u8DUrSDd
「え……っと…ナン…」
「え…?」
カロルはハリーの座布団を凝視したまま、
「僕に…なんの…よう?」
とだけ、前よりひどい落ち着きの無さを発していた。
もしかしたら、それ以前に気絶するのが関の山かもしれない。
「ちょっと…言いたいことがあって」
とナンは言うと、立ち上がってカロルの前まで歩いてきた。
「………っ!」
その風景にカロルは無表情、もしくは少しムスッとした顔で近寄り、
額を脳天チョップで撃墜してくるリタを見てしまい、反射的に頭を隠した。
「カロル?…何してるの?」
「あ……ううん、ごめん。僕のトラウマ」
あはは、と乾いた笑いを漏らす。その数秒が、カロルの心を落ち着かせた。
ナンが更に近寄り、カロルの隣に座った。
「で…なに?」
「その……ごめんなさい…」
「あ……」
カロルは幼子のように肩をすくめるナンを初めて見た。
『ごめんなさい』の意味は、今までの、一連の魔狩りの剣のしでかして来た事への謝罪だろう。
流石にカロルでもそこまでは理解できた。
「いや…いいよ」
とカロルはナンに微笑んだ。
「問題は明日なんだ。明日、デュークをどうするかに掛かってるんだ」
「カロル…ありがとう…」
「何回目だろうね。ナン「ありがとう」なんて言われたの」
「覚えてないわ…」
「前はエレアルーミンで、グシオスと合った時だったよね」
「ごめんなさい…」
「だ…だからいいって。今、グシオスは僕たちと一緒にいるんだ。多分、グシオスだった頃のことなんて、気にしてないと思うよ?」
そう言うカロルに、ナンは不思議な目を向けた。
「カロル…変わったね」
「そう?……そうかもね。僕、ギルドを作ったんだ」
「ギルド?」
と聞くナンに大きく頷いてみせる。
「そう。ギルド。今はまだ、メンバーは僕も入れて四人しかいないけど、いつかは、ドンが見てくれるような大きなギルドにするんだ」
「そうなんだ…本当に、カロル変わったよね」
「でも…何だろう…僕、ギルドをやるとして、何か一つ、大きな事を忘れてると思うんだ」
そしてカロルはその質問に何度も自問自答をし始めた。
あーでもないこーでもないと悩むカロルは、ナンを振り向いた。
「ねぇナン」
「え、なに?」
「魔狩りの剣について教えて」
「え?でも、今の魔狩りの剣って、体勢があんまり良くなくて…」
「それでもだよ。ナンなら、ギルドに長く所属してるから、僕よりも知ってると思うんだ」
「そう…?それじゃあ、何が知りたいの?」
「うーん…それじゃあね―――――――――――――――
と話は進んだ。しかし、

「ねぇ、カロル?」
「なに?」
「凛々の明星って何をするギルドなの?」
「……………………………………………………………………………………………」
このナンの一言により終止符は打たれ、
「あ――――――――――――――――――――――――――――――!」
カロルの胸のモヤモヤも取れたのだった。

「ありがとうね、ナン」
「ん?…あ、いや、本当にそれほどでもないね」
「何でこんな重要なことに気付かなかったんだろう…僕やっぱリーダーの資格無いかも…」
「そ、そんなことない!」
「そう?」
「うん…だって、今のカロル…その…」
「なに?」
ナンは顔を俯かせ、カロルから顔を逸らした後、
「……っこいい」
「え?今、なんて言ったの?」
「な、なんでも無い…!忘れて」
「無理だよ。すごい褒め言葉に聞こえたモン」
ねぇ、なに?なんていったの?お願い!もう一回言って!とナンはカロルにせがまれ、
「だから…かっこいいって言ったの!」
「!!!!!!!」
その発言によって雷のような衝撃を覚えたカロルは眩暈を何とか押しとどめ、
「あはははは…その、ありがとう、嬉しいな。初めてそんなこと言ってもらえた。しかもナンが初めてだし」
とだけ何とか言い切った。額を押さえ、
奇妙に血の気の失せたカロルは(良く倒れなかったね…すごいね、僕って)と内心非常に自嘲していた。
「あ、そろそろ暗くなってきたから。僕、もうそろそろ帰るね」
カロルはナンに挨拶を済ませ、立ち上がった。しかし、
「ナン……?」
俯いたまま、ぴくりとも動かないナンを見て、再びしゃがみ込んだ。
「ねぇ、どうしたの?ナン…?」
心配そうに、ナンの顔を覗き込んだ。その時、
「カロルっ…!」
と、ナンが抱きついてきた。
(あれ?待って?ナンが僕を?どうして?これって抱きついてる?え?なんで?)
試行錯誤を繰り返すカロルは床に倒された。
ゴチッと頭がぶつかったが今のカロルにそこまでの現実認識力は無かった。
ただ、
「ナン…僕も、ありがとう…ね」
とだけ言うと、カロルはナンを立ち上がらせて、その身の背中に手を回した。
僅かに赤い目をしたナンを見て、
(僕…ナンを心配させてたのかな…)
と、ナンの心情に行き着いた。カロルは「ナン」と小さく呼びかけた。
「なに…?」
「こっちむいて」
「?」
何とか振り向いてくれたナンに、
カロルはまだかなりぎこちないが、それでも精一杯の情を込めて、キスをした。
「っ………」
ナンも特に抵抗せずに、目を閉じた。

「もういいのか?」
と、突然ハリーが部屋に入ってきた。
「え゙?」
カエルが潰れたような声を出して、カロルは認識をドアに向けた。
「……………悪い、邪魔した」
とだけ、ハリーは言うと、再びドアから出て行ってしまった。
「わー待って!これ、その……」
言い訳の仕様が無く、カロルは溜息だけつく。
「ナン、ありがとうね。変なことだけど、僕もギルドのすべき事を具体的に見つけなきゃ」
「うん」
「ねぇ、ナン」
「なに…?」
「僕のたびが終わったらさ、凛々の明星に入らない?」
「え…?でも、それって」
「仲間と縁を切るのは、絶縁じゃないと思うんだ。でも、僕は…その…ナンに…側に居て欲しいから…駄目かな?」
「っ!…ううん、そんなことない…あたし、ここ最近はよくダングレストにいるんだ。終わったら、迎えに来て…ね?」
「うん!絶対来るよ。だから、僕も早く終わらせるために、帰らなきゃ」
カロルはナンから手を離すと、出口に向かって駆け出した。
「じゃあね、ナン!」
「うん。またね、カロル!」
ナンも、カロルの笑顔に叱咤され、元気良く手を振った。


「お帰りー、少年」
と、レイヴンが出迎えた。
「ただいま、レイヴン」
「なにしてたのかしら?」
ジュディスが何かの煮込みを作りながら、問うた。
「ちょっとハリーに用があってね」
カロルはそれだけ言うと、ベッドに座って、窓に移る星空を見上げた。
「今日は…結構綺麗だよな」
と、ユーリも目を外に移す。
「うん、あの星、綺麗だよね」
カロルは、自分が見据える一点の星を見上げながら、頷いた。
「僕も、今回の旅が終わったら、あの星みたいに輝くギルドを作るんだ。夜明けまで消えない…でも、満天の星空の中でも一番強く輝いてる、あれみたいに…」
「星天明けの明星…いいです。私も、応援します!」
とエステルも喜んだ。
「勝手にやってればー?……あたしも、応援しないわけじゃないけどさ…」
リタも意識を本から窓に映した。
「いよっし!メシはまだなの!?ジュディスちゃん」
レイヴンが叫んだ。
「丁度出来てるわよ。はい、どうぞ」
と、ジュディスが配膳を始める。カロルも、視線を部屋の中央に移した。
「皆、明日、絶対に勝とうね!」
全員が頷くのを見て、カロルはただ、笑った。


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