総合トップSS一覧SS No.6-045
作品名 作者名 カップリング 作品発表日 作品保管日
滅びの詩 腹黒屋丼兵衛氏 テイルズキャラ総出演 2007/04/22 2007/04/23

序章「遭遇」


「う・・・?」

ティア・グランツは意識を取り戻した。
彼女の目の前に広がる光景は、見る影も無く破壊された研究室らしき部屋だった。
荒れ果てた部屋の辺り一面にビーカーやフラスコの残骸が飛び散り、破壊された
測定機械がそこかしこに黒こげになって転がっている。

(酷い・・・事故でも起きたのかな)

部屋の中の有様から、ティアも無事では済まない筈であった。
だが、彼女自身には掠り傷一つ付いていなかった上、部屋に焦げた匂いは無かった。
この凄まじい破壊は、ティアが部屋に入る前に起こったのだろう。

(そうだ、外の様子は・・・?)

軋んだ音を立てて開いたドアの向こうには、信じられない光景が広がっていた。
限り無く荒廃し、人影の絶えた王城と城下町。
激しい破壊の跡は、戦争か大地震にでも遭遇したかの如き惨状である。
「一体、何が・・・?」

(・・・他の皆は無事かしら?)

仲間を探そうと、大通りを歩き出してからすぐに、廃墟に蠢く人影を見た。
急いで近付いてみると、数人の男達が何かを漁っていた。

「あの・・・」

「あ、身体だ」

ティアが声を掛けるな否や、彼等はティアに一斉に飛び掛ってきた。

「新しい身体だぁ!!」

突然の襲撃に驚きながらも、ティアは真っ先に飛び掛ってきた男の襟を掴んで投げ飛ばし、
残りの連中に叩きつけた。
男達が怯んだ隙に、ティアは駆け出した。

戦場や災害地に出る野盗や略奪者の類にしては、妙な事を口走っていたと一瞬思ったが、
今は仲間と合流するのが先だ。
丁度、クレスとリッドが荒れ果てた商店の中で、何かを調べている姿を目にした。
〔良かった・・・〕
商店の中に飛び込んだ。
「クレスさんにリッドさん・・・ですよね」
2人は振り返ると、いきなりティアの鳩尾に突きを入れた。
「う、ぐ・・・」
突然の不意打ちに、ティアの身体は呆気無くくず折れた。
(何故・・・?)

呼吸が回復し、ようやく周りの状況を飲み込むと、自分が先の2人に押し倒され、
全身をしっかりと押さえ込まれている事に気付いた。
先ほど遭遇した男達も、ティアの周りを取り囲んでいる。
「久々の入れ物だ」
「上物の身体だぜ。クレス、お手柄だな」
クレス・アルベインの顔を凝視して、彼女の知る彼との余りの落差に息を呑んだ。
姿形こそクレスのそれであったが、澄んだ光を湛えている筈の青い瞳はどろんと濁り、
死んだ魚の目そっくりで見るに耐えなかった。
彼女の記憶にある、爽やかな青年剣士の姿とは、似ても似つかない醜悪な顔だ。
「この前、ファラの身体が壊れたから代えに丁度良いな」
もう1人、リッドらしき赤髪に軽装の男は、ティアの傍に屈み込むと、彼女の頬を舌で
嘗め回し、豊満な双丘を鷲掴みにするなり乱暴に撫で回した。
屈辱と恐怖に耐えながら、ティアは彼の瞳を見たが、クレス同様に濁った水色と
化していた。
ティアはここで初めて、彼等が皆、フォミクリー技術で作られたレプリカ特有の、
魂の無い虚ろな瞳である事に気付いた。
「貴方達・・・レプリカね」
「レプリカ?」
「俺達は、俺達さ」
確かに、彼等はレプリカとは違って、自らの明確な意思に従って行動している。
しかし、彼等の行いからも分かる通り、到底まともな人間とも思えない。
「中身を書き換える前に、青姦というのも悪くないな」
そう言うと、リッドはお構い無しとばかりに、ティアのショーツに手をかけた。
「次は僕達に回してくれよ。ここではオリジナルは貴重なんだ」
(嫌・・・、助けて、ルーク!)

突如、物陰から影が飛び出してきて、屈んでいたクレスとリッドを跳ね飛ばした。
周りに居た男達は、もう一つ現れた影にたちまち斬り伏せられ、瞬く間に鮮血と悲鳴を
上げてばたばたと倒れ、そのまま動かなくなった。
「チッ、邪魔が入ったか!」
「ここは一先ず撤退しよう!」
形成不利と見たのか、すぐに体勢を立て直したクレスとリッドは退散した。

ティアは何事かと目を見張ったが、現れた人影を見るなり、思わず声を上げていた。
「ルークっ!」
血と石埃で薄汚れていたが、間違いなく彼女の最愛の人であった。
念の為に、ティアはルークの瞳を凝視したが、彼の瞳には緑色の綺麗な光が備わっていた。
「・・・俺達が居なかったら、確実に奴等の餌食だぜ」
男達の死体を調べていたガイが、刀の血糊を拭きながらティアとルークの元に来た。
始めにルークが斬り込んでボス格のクレスとリッドを排除し、相手を動揺させた所で周り
の雑魚を薙ぎ払った様だ。
「ここも危険だな・・・俺達もずらかろうぜ」
「あぁ、長居は無用だ」
ルークとガイは、物陰に隠してあった大きなフードサックを背負った。
「ティア、お前から預かってたものがある。お前は丸腰だから、ここで返すぞ」
言うと、ルークは懐から、グリップに覆いの付いたブラスターをティアに渡した。
かつて、彼女の教官であり、世界の敵となったリグレットが使っていた拳銃だ。
「あ・・・ありがと・・・」
ティアは、顔を赤らめると、ブラスターを太股の付け根にたくし込んだ。
彼女が愛用しているナイフの要領で、事があれば引き抜いて使用するのだ。

「一体・・・何が起きたの?」
市街地を抜け、大きな街道を歩いている最中、ティアはルークとガイに尋ねた。
「ティアはあの前からいなくて、ずっと行方知らずだったから分からないか」
「え、えぇ・・・遺跡の調査に行ったら、突然連絡が取れなくなって・・・やっと帰ってきた
と思ったら、町があんな事に・・・」
ティアは適当に話を合わせた。
ひょっとすると、事故か何かの影響で記憶が抜けているのかも知れないし、その事で
ルーク達に無用な心配をかけさせたくない、というティアの気持ちもあった。
「それで・・・あの人達は一体何なの? レプリカみたいに見えたけど」
「あれはレプリカなんて柔なもんじゃない。・・・俺達の仲間の身体を奪った化け物共だ」
ルークは憂鬱な表情を浮かべながら、吐き捨てる様に言った。
「俺がジェイドから教えて貰った限りの話なんだが、それでも良いか?」
ティアが頷くと、ガイはゆっくりと話し始めた。

発端は、エルドラントの残骸から、ある医療装置が発見された事から始まった。
それはフォミクリーによる複製技術を生物に応用したもので、老朽化した細胞を
再生して身体を劇的に強化する効果を有する事が、初期の動物実験から分かった。

当然の事ながら、英雄達は勿論、各国政府や医療関係者達がこの“奇跡の機械”
に魅了され、直ちに重要な人間・・・とりわけ各世界の英雄達にも使用したがった。
かつて、“英雄殺し”ことバルバトス・ゲーティアの脅威が存在し、彼の手に
かけられたスタン・エルロンは元より、他の英雄達も危機に曝された事からも
この要求は高かった。

そんな中、只一人リオン・マグナス(カイルとその仲間達のみはジューダスと呼んだ)だけ
が装置の破棄を訴えたが、装置の効能に魅了された者達に杞憂に過ぎないと一蹴された。
かつて、似たような機械でゾンビリオンとして望まぬ生を与えられ、見るもおぞましい
存在にされた彼は、この“奇跡の医療装置”がバルバトスの跋扈以上に恐るべき事態を
引き起こすのではないかと考えたのだ。

とはいえ、拙速に過ぎて世紀の大発明を失うのも賢明とは言えなかった。
ジェイド・カーティス、それにハロルド・ベルセリオス博士とファンダリア国王ウッドロウ
・ケルヴィンですら、無用な破壊は避けるべき、という意見であった。

しかし、リオンの危惧は最悪の形で具現化した。
突然、英雄達の一部による同時クーデターが勃発し、世界中が大混乱に陥ったのである。

クーデターに加担した主な英雄達は、装置により身体を強化した者達ばかりであった。
かの装置は、身体を若返らせて飛躍的に強化するが、同時に身体そのものと精神をも
全くの別物に作り変えてしまったのだ。
ともすれば、彼等の心に潜む“闇”を増幅し、それに取って代わられたのかも知れない。
この事実に、残った英雄達と各国の研究者達が気付いた時には既に手遅れであった。

成り代わり、英雄の肩書きを手に入れた者達は、巧妙に自分達の仲間を増やしていった。
こうして、かつての英雄達の半数以上は姿こそ同じであれ、異形の恐るべき存在と化した。
まだ意識の残る者達の中では、自らの変化に絶望して自らを滅した者も居たが、決心が
付かずに生きる続ける者も居た。

生き残った英雄達は散り散りとなり、追い詰められて悲惨な最期を遂げるか、更に悪い事
に躯から“再生”され、彼等の軍門に下った者達も居た。

かくして、この世界は仲間同士が殺し合い、新しい存在に成り代わり、猜疑が猜疑を呼ぶ
恐るべき地獄と化した・・・。

「・・・ミントはクレス、ルーティはスタン、ファラはリッドと共に音信不通になったかと
思いきや、たちまち奴等の側に立った・・・理由は言うまでも無いだろ。
クーデター軍が王城を制圧した時、脱出したのは俺とルーク、ナタリアだった。
レプリカになってない他の仲間達と一緒に集まって、脱出口を開こうとしたんだが、
チェスターとウッドロウはクレスとスタンに成り代わった奴等に背後から斬り付けられ、
それでも、残った仲間達が脱出するのを最後まで援護して・・・それが元で命を落とした。
何とか逃げ延びた俺達は、2人の遺体を灰になるまで焼いた。
レプリカとして利用されるよりは人間として死にたい・・・それが、2人の遺言だった。
それから、俺達は逃げてきた連中から、ジェイドを総指揮官に、フォッグを遊撃隊長に
据えて抵抗組織を結成し、散り散りになった仲間をあらゆる手を使って集めた。
俺達以外だと、こっちはクレスとスタンにカイル・カイウスの面々の残り、フォッグの方
にはリッド・ヴェイグの面々の残りが集まってる。
・・・皮肉なもんで、ロイドとセネルのチームは結束が特に強かったから、クーデターが
起こった時に・・・これは後でジェイドに聞いた方が良いだろう。
生き残りの一部はフォッグの遊撃軍に合流したが、まだ行方知れずの連中も居るんだ」

ガイの説明は、時としてわざとあいまいな表現だったが、それが意味している事は
ティアにも痛い程理解出来た。
信頼すべき仲間に突如裏切られ、背後から襲撃を受けたのだ。
その中で、ルーク達はまだ生還者が多いだけ、救いがあると言えた。

抵抗組織の拠点の入り口は、一見した所では何の変哲も無い岩陰であった。
ガイが刀で岩肌を数回叩くと、岩肌の中からくぐもった声が響いてきた。
「合言葉は?」
「自由と平和を我等に」
「よし、入れ」
岩が跳ね上がったかと思うと、岩に偽装した作られた跳ね上げ式のシャッターだった。
3人が入ると、シャッターは貝の口の様にぴたりと閉じた。
門の脇には、張り番らしいコングマンとカイウスが居た。
「これ、土産。大事に味わってくれよ」
ルークとガイは、リキュールの瓶をそれぞれコングマンとカイウスにぽんと投げ渡した。
「毎度の事だが気が利くな。俺様も何か探しとくぜ」
「今度出た時に、イカす装身具と高級ハーモニカでも探しておくよ」
「そいつは楽しみだ」

抵抗組織の基地は、洞窟を利用したものらしき広大な地下壕だった。
土壁ではあったが、そこかしこに物資や武器が雑然と置かれた所は、ティアの良く
知る教団の訓練所そのままであった。
「丁度、集合の時間か」
基地の中央、地上に開けた中庭らしき大きな広間に、基地の兵隊達が集まっていた。
彼女の知った顔である、英雄の生き残りは十数名といった所か。
ここでもティアの記憶の姿とは異なり、身なりこそそれなりに整えていたものの
誰しもが疲れた様子で、しかも戦いに倦んだ表情であった。
・・・今が戦時である何よりの証拠だ。

暫くしてジェイドが現れると、ルークはキムラスカ式、ガイはマルクト式の敬礼を返した。
「報告!、ルーク・フォン・ファブレ及びガイラルディア・ガラン両偵察班員は、食料及び
医薬品を調達中、敵に襲撃されていたティア・グランツ響長を保護、無事帰還しました」
「ご苦労。・・・ティアさん、ご無事で何よりでした」
2人にマルクト式の返礼を返し、続いてティアを労ったジェイドにしても、眼鏡の奥に
彼と行動を共にしていた時ですら滅多に見られなかった、険しい皺を浮かべていた。
異常な状況下で、一軍の将ならば並大抵の心労では無いだろう、とティアは思った。
「・・・大佐。何故、今まで立ち上がろうとしなかったの?」
ティアは頭に上がっていた疑問を口にしてみた。
「我々の中で、医療系の回復術を使える術士が殆ど居ません。
医薬品やグミの類ですら、我々の仲間が焼け残りを探してやっと確保している始末です。
・・・しかも、フォッグの遊撃隊を合わせても数十名です。これでは戦争にすらなりません」

つまり、大規模な攻勢に出れば、こちらも無事では済まない。
ろくに回復も出来ずに突撃したとしても、あっという間に消耗して壊滅するという訳だ。
兵力が圧倒的に多い上に、術師の大半を取り込んだレプリカの方が圧倒的に有利と言えた。

「とにかく、今日の所はゆっくり休んで下さい。詳しい話は明日以降にでもお話致します」

集会が終わると、基地に居た仲間達がティアの傍に集まってきた。
「よくご無事で・・・とても心配していましたのよ」
真っ先にナタリアが寄ってきて、ティアを抱擁した。
「で、これから感動の再会に浸りつつお楽しみな訳?」
癖っ毛を掻きながら、ハロルドがニタニタ笑いながら訊いてきた。
「おい、ハロルド!」
ハロルドの露骨な言葉にルークとティアは赤面し、たまらずガイが叫んだ。
「いいのいいの、寝具は上等な奴を揃えてあるからね」
「確かに、寝心地は良い・・・な」
そう言うと、ロニとナナリーは顔を赤らめた。
「とにかく、俺達は寝ます・・・みんな、お休み」
流石に恥ずかしくなったルークは、ティアの手を取って退散した。
背後から好奇の視線が集中する中、駄目押しにハロルドの声が響いてきた。
「避妊具が欲しかったら、遠慮なく言いに来なさいね、グフフフフフ・・・!」

ルークとティアは彼等にあてがわれた寝室に入ると、お互いに激しく抱擁した。
「ルーク・・・遭いたかった・・・」
「ティア・・・俺も、ティアがレプリカ共に捕まってるのかと思った」
お互いに唇を重ね合わせ、湿った音を立てながら吸い合った。
「・・・貴方のが欲しい」
2人は、ルークを背にした格好で寝台に倒れ込んだ。
ルークは左手でティアの胸を揉みながら、右手でスリットの中のショーツに
手をかけ、するりと落とした。
ティアも太股をルークの臀部に覆い被せ、既に濡れ始めた秘所をズボン越し
の剛直に擦り合わせ、執拗に彼をねだる。
「ルーク、中に入れて・・・ルーク?」
肝心のルークは、準備万端のティアを他所に安らかな寝息を立てていた。
「・・・馬鹿」
思わぬお預けを食らったティアは、ルークの頭に枕を投げつけた。

「はははは、そりゃそうだよ!」
不寝番のカイルとロニは、不満やる方の無いティアの話を聞いて大笑いした。
「外に出ている間は、碌に睡眠も取れないんだ。自分が寝ている間に相棒が消えて、
戻ってきたと思ったら敵にすり替わってた・・・なんて事にならない様に、常に片方が
寝ずの番を張ってる。
そんな訳で、外じゃ気も張ってるし、ここに無事帰ってやっと安眠、って寸法さ」

ふと、ティアはリアラ・デュナミスの姿を今まで見ていない事に気付いた。
他の仲間ならまだしも、リアラなら常にカイルとべったりの筈だ。
「それで、リアラさんは一体?」
ティアは聞くと、カイルは一瞬寂しげな表情を浮かべた。
「・・・リアラは奴等に捕まって、今はどうなってるか、俺達にも分からない。
でも、俺は前にリアラと『神と同化する前にリアラを救う』って誓ったんだ。
もし、俺が俺の知ってるリアラと違ってたら・・・俺は覚悟は出来てる」
「御免なさい!、私、何も知らなくて・・・」
「ここに来て間も無いから、無理無いですよ。それに、ジェイドに比べれば・・・」
「大佐が?」
「あ、否、何でもないんだ。な!、カイル!」
「ん・・・?、あぁ、何でもない」
ロニが慌ててカイルに目配せし、カイルはそれに合わせるかの様に口をつぐんだ。

その頃、当のジェイドはハロルドを伴い、医務室に居た。
脇の寝台には、皮製の拘束具で全身を縛り上げられた、小柄な少女が大佐を見やっている。

「・・・アニス、こんな形でしか会えなくて済みません」
「いつも言ってるでしょ。大佐のお役に立てるんだったら、私は本望だって。
イオン様やあの馬鹿ラッタだって、きっとあの世で褒めてくれると思いますよぉ」

そう言いながら、ジェイドに笑いかけるアニス・タトリンの全身には、見るも無残な
手術痕が無数に刻まれていた。
捕えられて身体をレプリカ化されたものの、辛うじて精神を改変されずに済んだ彼女は
隙を見て脱走し、抵抗軍に参加した後は自らの身体を実験体としてジェイドとハロルドに
提供していたのだ。

当然ながら、両名は最初この申し出を断固拒否したが、アニスの言葉を聞いて了承した。

「私・・・、段々と自分が自分で無くなってく感じがするんです。
このままだと、あのみんなを襲った化け物になって、ただ殺されるだけだと思うんです。
だから、せめてみんなの役に立って、最期は大佐に見て欲しいんです」
アニスはアニスなりに“生ける屍になるより、人として死ぬ”事を望んだのだ。

医務室を出たジェイドは、続いて出てきた白衣を着たハロルドと向き合った。

「アンタの相棒のお陰で、やっと効果的な物が出来そうね。細胞実験じゃ上々の効果よ」
「きっと、アニスは喜ぶと思います。・・・最初の実験対象にも志願しました」
ハロルドは、普段からは想像も付かない険しい表情で、ジェイドをじっと見据えた。
「・・・アンタにこんな事聞くのは野暮だと思うけど、覚悟は出来てる?」
ジェイドは、仮面でも被ったかの様に、表情一つ変えずに呟いた。
「これでも、職業軍人ですから。時に、悪魔に魂を売る必要があるのは承知しています」

2人は暫く沈黙した後、ハロルドがようやく口を開いた。
「・・・無理、しないでよね」
「・・・済みません」

軍人という仮面を被った彼等も、血の通った1人の人間であった。


1章「狂宴」


「カイル・・・」

リアラ・デュナミスは、寝台の上から鉄格子のはまった窓越しに月をぼんやりと眺めていた。
頭を上げると、首輪に付いている金具がかちゃりと鳴った。
薄桃色のワンピースははだけ、小振りの双丘とささやかな秘所を露わにしていた。

横を向くと、フィリア・フィリスがスタンに後ろから執拗に責め立てられていた。
スタンに突かれる度に、微かな喘ぎ声と共に、首輪がかちゃかちゃと鳴っている。
「あ・・・あ・・・、スタンさん・・・」
リアラと同じく、神官の衣は半端脱がされ、解けた髪が汗ばんだ顔にかかっている。
かつての神官としての清楚な姿など、微塵も感じられない淫靡さだ。
「フィリア、良いか?」
「いいです・・・スタンさん・・・」
スタンの逞しい身体に圧し掛かられたフィリアの瞳からは、細い筋が見えた。

リアラは内戦のさ中、はぐれた仲間を探しつつ、単独で逃亡していた。
結局、仲間と合流する前に運悪くレプリカに補足され、捕えられて王城に連行された
のだが、フィリアは王城が陥落した際に仲間達を逃がす為に身代わりとなって戦い、
その結果としてレプリカ達に囚われたのだった。
勿論、彼等がこの貴重な“戦利品”を放って置く筈が無かった。
レプリカ達はフィリアを捕えてすぐに、よってたかって彼女を押え込み、代わるがわる
陵辱した・・・その時の血の染みは今も、半端引きちぎられた彼女の白衣にこびり付いている。
その後も、捕えた彼女達の殆どをレプリカにせず、オリジナルの身体と心のままの彼女達
を陵辱するのだった。

元の仲間や通常の人間を“啓蒙すべき劣等人種”と見なしていたレプリカ(彼等自信は
“強化人種”と称していたが)彼等にとっては、彼女達の神性を冒涜し尽くす事が、
彼等にとっての娯楽であり強さの証明なのか・・・とリアラは思った。
もっとも、かつての仲間がきちんとした身なりで現れる時は、外見こそ同じであっても
内面は別の、あの忌まわしい存在になり変わっている事が常であった。
それを考えれば、果ての無い陵辱の方が自分で居られる分、良いと思えた。

―――この状況と、自らの身体はいつまで持つか、という点を別にすれば・・・。

スタンは散々責め上げて、ぐったりしたフィリアを満足げに一瞥すると、リアラの元に
にじり寄ってきた。
「へへ・・・、始めはペタンコだったが、良い具合に育ったじゃないか」
後ろからリアラを抱き寄せると、彼女の双丘を持ち上げてぎゅっと掴んだ。
「ひゃう・・・」

スタンのみならず、レプリカ共はリアラやコレットを抱く時は、執拗に彼女達の
胸を揉むのだ。
・・・どうやら、小さな膨らみが気に入らないらしい。

そうこうしている内に、リアラの小さな身体にスタンの身体が覆い被さった。
「く・・・、キツイのも良いもんだ」
リアラのささやかな秘所に、太い剛直がいきなり深々と差し込まれた。
「ひっ・・・」
リアラは、捕えられた時には既に初めてでは無かったのだが、この義父の剛直は、彼女の
秘所に入れるには太過ぎた。
「ぎひっ・・・ひぃぃ!」
リアラは、臀部から伝えられる痛みに身体を仰け反らせた。
それでも、スタンは体重をかけて、尚も剛直を差し込んでくる。
「カイルのより良いだろう?」
顔に薄笑いを浮かべつつ、スタンは執拗にリアラを攻め続けた。
「くッ・・・締め付けが、きついなぁ!」
「ひゃぁうう・・・」
この責めに、リアラは身体が壊れそうな気がしたが、スタンも早々に果てた。
「顔にかけるぞ・・・、受け取れ!」
スタンは剛直を抜くと、ぐったりした2人の顔に白濁液を振りかけた。

「・・・すっきりした。明日も来るぜ」
満足した様子で2人を一瞥すると、スタンは衣服を整えてから牢獄を出た。

スタンは戻る途中、他の牢では残りの男達が小柄な少女達を嬲っていた。

リッドは裸に剥いたコレットを、後ろから抱き抱える様に犯していた。
先程まで、コレットは小鳥のような声で喘いでいたが、今は失神している。
「お前等も、つくづく飽きないな」
「この子達も、満更でも無いみたいだよ」
クレスはクレスで、うつ伏せに倒したクロエ・ヴァレンスと交わっている。
2人の纏う、艶のあるタイツが艶かしくうねり、やがて硬直した。
「あ・・・、又出ちゃった」
一息付くと、クレスはクロエの唇を奪い、舌を這わせる。
「孕んでるんだろ、そいつ?」
「お腹が出ちゃってるし、母乳も出てるけどね。でも、“欲しい”んだって」
クレスは僅かに盛り上がったクロエの下腹部を撫で、硬く張った乳房を揉んだ。
「くぅぅ・・・」
乳臭い匂いと共に、タイツの胸元に染みが浮き出る。
「張ってて苦しいんだろ? 吸ってやるよ」
そう言うと、クレスは乳房に口付けをし、タイツ越しに母乳を啜った。
「くぅん・・・良い・・・です」
行為の余韻を愉しんでいたクロエは、新たな快感に身体を捩らせた。
「コイツのもたっぷり揉んだから、こんなに大きくなったぜ」
リッドは、コレットの乳房を両手で掴んだ。
掌に収まる程度だったコレットの双丘は、倍近くにまで膨らんでいた。

「それで、お嬢様方は?」
「いつもの部屋で、あの玩具で遊んでる」
「アイツ等も好きだねぇ・・・」

『英雄、色を好む』という諺がスタンの脳裏をよぎったが、それまでだった。
スタンは牢獄を出ると、飯を食いに食料庫に向かった。

元は囚人の尋問部屋だった部屋の尋問台に、リオンが大の字に縛り付けられていた。
クーデター騒ぎのドサクサによって獄を出た彼もフィリアと同様、仲間を逃す為に
王城に踏み止まって戦い、奮戦空しく捕えられたのだった。

捕えられてからというものの、ヒロインに成り代わった連中の、リオンへの責めは男達の
それより遥かに陰湿で拷問めいたものだった。
彼女達は、リオンを赤子の如く扱い、食事(彼女達は“餌”と称した)の際には涎掛け
を付けて無理矢理匙で流し込み、下の世話まで無理矢理やる徹底振りだった。
それでも、リオンは自我を守って必死に耐えた・・・その意味でも、彼は英雄の中の英雄
だったと言えた。

殆ど光も差さず、貧弱な明かりだけの部屋のドアが開き、女が数人入ってきた。
皆、英雄の身なりにやつしていたが、瞳は濁ったレプリカのそれであった。
台に縛り付けられていたリオンは女達に気付き、絞り出す様な声で叫んだ。
「殺せ!」
しかし、女達は少年の叫びに冷笑を返しただけだった。
「あら、まだ抵抗する元気があったのね」
「リオンちゃ〜ん、おくちゅりの時間でちゅよぉ〜」
女の1人が注射器を取り出し、それを見るなりリオンの顔が恐怖に引きつった。
「嫌だ!!」
「暴れると痛いですよ・・・」
台の上の明かりに照らされた、白い法衣を着た少女・・・ミント・アドネードは懈怠な笑み
を浮かべた。
彼女の笑みは慈愛では無く、獲物を前に舌なめずりする獣のそれであった。
ぷすりと、リオンの腕に針が差し込まれ、液体が注入された。
「あ・・・、ぎゅ・・・ぐぅぅぅ!」
リオンの身体はびくびくと痙攣し、彼の剛直がタイツ越しにそそり立った。
それを見計らうと、女達は下穿きを脱ぎ始めた。
「それでは、私から・・・」
ミントはショーツを下ろすと、蜜を垂らした秘所を剥き出しになった剛直にあてがう。
「くふっ・・・」
法衣の胸元をはだけて片方の乳房を露出させると、胸元をリオンの口元に当てた。
媚薬で意識が朦朧としたリオンは、求められるままに桃色の蕾を咥え、口に含んだ。
ミントのこの姿は、かつて彼女が有した清らさとは似ても似つかなかった。
こうして、ミントはリオンに圧し掛かり、荒い息を吐きながら腰を上下させた。
「あぅ・・・う・・・、リオンさんっ・・・イクぅ!」
「ぐぅ!」
リオンの身体を抱き寄せたまま、ミントの秘所は剛直から精を搾り取った。
「あ・・・あぁ・・・」
「ふぅ・・・、いつもながら、実に良いモノをお持ちですね」
果てたリオンの頬に唇を寄せると、軽く口付けをした。
「次は、私ですよぉ」
ミントが退いた後に、今度はグリューネが跨った。
レプリカ化しても、口調は相変わらずだ。
「もうちょっと空いてる上玉が残ってりゃ、こうして待たなくて済むんだけどね」
そう言うなり、ルーティはノーマ・ビアッティと口付けを交わした。
ようやく唇を離すと、ノーマはぽつりと呟いた。
「・・・セネセネとリッちゃんは勿体無かったな」
「アタシも、マリーが居たら良かったんだけど・・・ね」

世界の大半を統べるまでに至ったレプリカ達は、救い様の無い病に冒されていた。
―――「傲慢」と「空虚」という病に。

そこは、夜の帳も落ちた郊外の野営地だった。

「止めてよぉ・・・2人共、どうしちゃったんだよぉ!」
必死にもがくジーニアス・セイジの目の前では、凄惨な光景が繰り広げられていた。
クラトス・アウリオンが、黒い燕尾の付いた騎士の服を赤黒く染めて喘いでいた。
その前では、ロイド・アーウィングが剣先をクラトスに突きつけていた。
「息子よ、何故・・・」
「後で会おそう言って、ロイドは実の父に止めを刺した。
うね、父さん」
「ロイド、首尾は上々ね」
灰色の髪を掻き分けながら、リフィル・セイジが林の中から出てきた。
「流石は先生、こんなに上手く引っかかるとは思わなかった」
剣に付いた血糊を拭うと、ロイドはリフィルに笑みを投げかけた。
ロイドの、何処となく懈怠な笑みを見て、ジーニアスの背筋に悪寒が走った。

―――何かが違う。少なくとも、僕の知ってるロイドじゃない。

「こっちは駄目ね。アホ神子と巨乳女は相打ちだったわ・・・あれじゃ再生は無理ね」
ジーニアスは、この3人が王都から戻ってきた時から、何かがおかしいとは感じていた。
姿形は同じだが、何か様子が変だ。
気付いた時には、ロイドに押さえ込まれて縛り上げられていた・・・という訳だった。
彼の傍には、縛られた上に口を布切れで塞がれたコレットがぐったりとしている。
「おい、状況は」
何処からともなく、男達がやって来た。彼等も奇妙な目付きだった。
「2体は捕まえたけど、他の2体は駄目・・・後の2体は待ちって所だな」
「分かった、・・・女と死体は持って行く」
「俺は、それまで先生と宜しくやってる。ジニは・・・後で連れてくかな」
こうして、荷駄を扱う様に抱えられたコレットは王城へと連れ去られた。

「さて・・・と、先生。一息付いた所で一発やろうか?」
「いいわね」
ロイドとリフィルは、抱き合うなり激しく唇を合わせた。
リフィルは唇を舐めると黒いタイツを下ろし、ロイドは圧し掛かった。
ジーニアスは赤面し、重なり合う2人から顔を背けた。
実の姉と親友が、目の前でいきなり交わり始めたのだから無理も無い。
「先生、ジニも混ぜてやろうぜ」
「そうね」
姉は弟の半ズボンに手を掛けると、歳相応の剛直が剥き出しにした。
「ひっ・・・」
怯えるジーニアスを他所に、リフィルは剛直を咥え込んだ。
舌使いで先端を咥え上げ、突起を唇で包んで吸い上げる。
この責めで、縮み込んでいたジーニアスの剛直はそそり立った。
「ジニと先生が頑張ってるなぁ。・・・俺も、っと!」
ロイドはいきり立った剛直を、後ろからリフィルに深々と突き立てた。
「んふっ!」
リフィルはジーニアスの剛直を責め、ロイドも後ろからリフィルを突いている。
「ははぁ、出るぜ!」
「出る・・・よぉ!」
とうとう、2人の剛直から白濁液が噴き出し、リフィルの顔と秘所を白く汚した。
「2人共、元気が良い事ね」
白濁液を端正な顔に受けたリフィルは、口元に垂れてきた雫をぺろりと舐めた。

「連れてくのは面倒だな・・・ここで処理して持ってくか」
ロイドの剣先が、ジーニアスの喉下に突きつけられた。
(どうして、こんな事になってしまったのだろう?)
「ロイド・・・どうしちゃったんだよぉ」
そう言うと、ジーニアスは涙を零した。
「俺は生まれ変わったのさ、ジニ」
そう言って、ロイドはにやりと笑ったが、彼本来の快活なものとはかけ離れていた。

―――すり替えられた。

ジーニアスの脳裏に、何故かその言葉が浮かんだ。
剣先がジーニアスの喉に触れた時、ロイドの背後に斧の切っ先が振り下ろされた・・・。


「わぁぁぁぁぁぁぁ――――!!」
ジーニアスは寝台から飛び起きた。
大きく息を吐いて横を見やると、プレセアが微かな寝息を立てている。
(あの夢だ・・・)
ジーニアスはロイドに殺される寸前、間一髪で駆けつけたプレセアとリーガルに
助けられたが、余りに苦い勝利だった。
・・・少なくとも、あの直後に起こった事は思い出したくも無かった。

こうして、あの夜の惨劇は悪夢となって、今もジーニアスを苦しめるのだった。
・・・もっとも、こうした心の傷は、ジーニアスに限った事では無かったが。


第2章「変化」


どくり、と白濁液が体内に注ぎこまれる感触に、クロエ・ヴァレンスは身悶えした。
「あぁ・・・、クレス・・・良いよぉ」
クロエは僅かに膨らんだ臀部を片手で押さえつつ、クレスを求めた。

最初に犯されたのは、捕えられて王城の地下に繋がれた晩の事だった。
貴族の出で誇り高かった彼女は、処女を破られた痛みと屈辱で身を焦がさんばかりだった。
クレスの情婦に収まっているのは、この男に抱かれている最中に幻影を見た為だ。
―――汚れ切り、己の醜さに悶え苦しみ、泣き叫びながら救いを求めるクレスの姿。
(救いを求めているのは、私も同じだ)
それ以来、クロエはクレスを受け入れ、やがて一体となった。

「痛ッ・・・」
ひとしきりクロエを抱いた後、寝台に横になったクレスを鋭い痛みが襲った。
(まだ慣れないとは・・・厄介な身体を手に入れたもんだ)
レプリカとはいえ、彼等は元の身体の素質を色濃く受け継いでいた。
時折、クレスの身体は痛みの形で、成り代わったそれに抗議するのだった。
クレスはどうにかして疼痛を押さえると、寝息を立てるクロエを抱き寄せて口付けした。

(この分だと、ミントを抱くのは当分無理だな)

ミントは、クレスと事に及ぼうとすると激痛が走るという事で、未だに及んでいなかった。
支配した筈のものに支配されている彼等の姿は、ある種で滑稽ですらあった。

(暖かい・・・)

カイウス・ブリッジスは、己の毛並みに頭を寄せて熟睡するティアの温もりに喉を鳴らした。
墨を流したような暗闇の中に、彼の獣の瞳が白く爛々と輝いていた。

元来、レイモーンの王族の血を引くカイウスは人狼に化する体質だった。
基地でガイと一緒に不寝番に立っているルークの願いで、ティアの護衛に就いていたのだ。
案の定、獣化した彼の姿にティアは興奮しきりで、「可愛い」を連発しながら彼の身体を
豊かな双丘に抱き寄せ、もふもふと抱いたり毛並みを撫でたりと堪能するのだった。
その度に、カイウスは息が詰まりそうな思いをしたが、彼は彼でティアの“メロン”を
頭に載せたり濡れた鼻先で擦ったりと、あたかも飼い犬の様に振舞った。

本来、獣化の術は土木建築などに使われるもので、決して戦いの為の術では無かった。
仲間の癒しになるのならば、それはそれで有難い事だ。
この“愛玩”はティアに限ったものでは無く(とりわけ、リーガルとプレセアは負けず
劣らずの執着振りであり、掌の肉球を執拗に触ってはカイウスを身悶えさせた)
カイウス自身も気に入っていたが、それでも彼の懸念を払う事は出来なかった。
―――果たして、仲間達は“あの姿”を見た後も、同じ様に接してくれるだろうか?

カイウスは、ある意味では孤独な存在だった。
と言うのも、彼は他の仲間と違って、文字通り“一匹狼”だったのだ。
ヴェイグ達から鎮静作用のある秘薬“鎮魂錠”を得る為に、一足先に彼だけが到着した。
(意外な事に、いつもならば何処にでも一緒に付いて回っているルビアに
「たまには1人で息抜きでもしなさいよ」と勧められたのだ)
異世界より集った仲間達は優しい友人であり(チャットだけには、必ず人の姿で会う様に
念入りに懇願されたが)とりわけヴェイグ達のグループの1人、ガジュマと称する獣人の
ユージーン・ガラルドとは、同じ獣人族という要素も手伝い、マオ共々懇意となった。
何より、彼が喜んだのはレイモーンを化け物呼ばわりする輩がいなかった事だ。
・・・「ケモノよりも、浮気性の“ケダモノ”の方が厄介」とは誰のボヤキだったろうか。

こうして、カイウスがフォレスト達を待つ間に、レプリカの反乱が勃発したのだった。
もっとも、彼の居た世界も国の大小を問わず獣人戦争や王都のスポット発生事件以上の
混乱を極め、彼自身もこの世界で隠れ住んでいる有様だから、仲間の消息すら覚束ない。
安らかな寝息を立てるティアの横顔を眺めている内に、勝気な幼馴染や、剛毅な大男の
芯の強い顔が、走馬灯の様に瞼の裏に浮かんでは消えた。

ふと、彼の脳裏にある想像がよぎり、 がお と鳴いて打ち消した。

―――あいつ等は変わってしまっただろうか。

「軍人・盗賊・貴族・保安官・占い師・・・成り行きとは言えけったいな組み合わせやなぁ」

バンエルディア号のデッキで、集まった仲間達を前にモーゼス・シャンドルはそう言うと、
快活そうにからからと笑った。
「占い師とはいっても、元は“王の盾”の仕事もあったけどね」
ヒルダはタロットカードを整えて仕舞うと、置いていたワインの杯を口に運んだ。
「ほらほら、皆さん“キャプテン”を忘れてますよ」
チャットが、彼女には大き過ぎる豪奢な三角帽を指でつつき、胸を張った。
「工場でマジメ〜に働いてる職工を忘れちゃいけねぇぜ」
ティトレイが、掌に花を持ちつつ、拳を突き出した。
「勤労って柄かいな。ワイの見取りでは、隠れて早弁してる口と見たな」
「頭の飾りで上手く隠れるんだ・・・って、んな訳ネェだろ!」
「図星だな」
「やっぱり。怪しいとは思ってたんだけどね」
慌てて頭を振るティトレイの横で、ユージーンとマオが駄目を押した。

この陽気で他愛も無い雑談も、誰かが何気無く発した一言で沈黙した。

「この戦争が終わったら、どうするかなぁ」
「「「・・・」」」

皆、答えは分かっている筈なのに、誰も口には出せなかった。
(・・・そもそも、私達は取り返しの付かない所まで来てしまっている)
ヒルダはタロットを引いてみようと思ったが、思い留めた。

ヴェイグ・リュングベルは、掌に転がしていた錠剤を飲み下した。
広大な暗闇の隅に微かに点った明かりの中、彼の姿だけが廃墟に佇む亡霊の様に映えた。

レプリカ化したのは彼1人だった。
多忙の為に元の世界に残ったアニー・バースを除き、彼の仲間は“劣等人種”のまま、
フォッグの抵抗軍に身を投じていた。
ヴェイグは仕方無くレプリカ陣営に身を置いていたが、それは拷問に等しいものだった。
レプリカ達が捕虜にした仲間を陵辱し、精神を書き換えてしまう様を見るに付け、彼の
氷のフォルスが不安定になるのを感じていた。
“変わった”ヴェイグがクレアを陵辱し貪り尽くす想像は、絶えず彼を苛ませ続けていた。
かくして、ヴェイグは精神を保つ為にこうして“鎮魂錠”を飲み続けていたのだった。

「来たか」
ティアは、明かりに点ったヴェイグの白い顔を観て、思わず身構えた。
彼の瞳がどんよりと濁り、それがティア達を真直ぐ見据えていた為だ。
「心配無いよ。オレとヴェイグは、たまにこうやって会ってるんだ」
「それは分かってるけど・・・」
(身体の方は、戦場に居る時の時の勘が戻ってるのね・・・)
ティアは苦笑しつつ、構えを解いてヴェイグの傍に座った。
カイウスもどさりと座り込むと、紙切れをヴェイグに突き出した。
「後でゆっくり読む」
ヴェイグはグローブの中に、慎重に紙切れを仕舞い込んだ。
「2人って、いつもこうして会ってる訳?」
「そうだ」
「オレとヴェイグは同じだから・・・かな」
一瞬、カイウスの顔に言い様の無い影が差した。
とりあえず、ティアは話を切り出した。
「それで・・・、貴方達の根城に入り込める手助けをして貰いたいんだけど?」
ヴェイグは、身体がぞくりと震えるのを感じ取った。

―――この、呪われた世界が終わる。

「・・・安全は保障出来んがな」

ルーク・フォン・ファブレは、携帯糧食のビスケットと干し肉の軽い昼食を摂った後、
赤い錠剤を不味そうな顔をしながら噛み下していた。
「それ、精力剤か?」
同じ昼食を済ませたガイが、からかい半分の口調で尋ねてきた。
「馬鹿。・・・今日から必ず飲めってジェイドに言われたんだ」
そう言って、ルークは赤い錠剤の入った瓶をガイに見せた。
「へぇ・・・しかし、何でお前だけが?」
「知るか! 俺が訊きたいよ」

王城の入口で暇潰しにシャボンを吹かしていたノーマは、近付いてくる人影を見るなり
手にした吸い口を落とした事も忘れる位に唖然とした。
ヴェイグが後手に縛ったティアとカイウスを連れて来たのだ。

「何よ、それ?」
「俺の捕虜だ」
「へぇ・・・、珍しい事もあるのね」

ヴェイグは言葉少なにその場を離れたが、ノーマの瞳はこの奇妙な一団にずっと
向けられていた。
あたかも、飢えた獣が丸々と太った獲物を見つけた様な瞳で。

(素早く処置室に行ければ良いが)

ヴェイグは、前に立たせたティアとカイウスを連れて足早に歩いていた。
正面から堂々と入り、レプリカに化けて牢獄へ侵入してから捕虜を解放する・・・
無謀とも言える際どい賭けだとティアは思った。
この事は、レプリカの群れに取り囲まれた時に思い知らされた。
「へへ、毒男がメロン女とワンコロ連れて何処行くんだぁ?」
「俺の捕虜だ。だから、俺の勝手だ」
「こんな別嬪でも、クレア一筋のお前には不要だろ」
「どうせなら、俺達によこせよ」
懈怠な笑みを浮かべつつ、レプリカの男達が寄ってきた。
ヴェイグが躊躇する素振りを見せた途端に奪い取るつもりだろう。
咄嗟に、ヴェイグはティアを抱き寄せるなり唇を奪った。
「んむ・・・・・・・・・」
この唐突な行動に、周り中のレプリカ達はおろか、傍にいたカイウスも呆気に取られた。
「へぇ、クレア一筋の毒男も、漸くその気になったってかぁ?」
「どうせならここで証明してみろよ」
「駄目なら、女は俺達が可愛かるぜ」
レプリカ達はニヤニヤと笑いながら、周りを取り囲んで見物と決め込んでいる様だった。
「・・・」
ヴェイグは無言のまま、ティアを押し倒した。

予め覚悟していた事とはいえ、流石に衆目の前で犯されるのはティアにとって屈辱だった。
(ルーク、御免なさい・・・)
カイウスはというと、必死に顔を背けてこの醜悪な見世物を見まいとしていた。
しかも、カイウスが獣化した途端に仕留められる様に、リッドが抜き身の剣をカイウス
の首筋に当てていた。
(流石、抜け目が無いわね)
その内に、ヴェイグはティアの分厚い僧服の中に隠されたショーツをするりと下ろすと、
そのままティアの身体に圧し掛かった。
ティアの大きな双丘をこね回し、服の上から蕾を摘んでは揉み合せた。
「デカパイ女だけあって感度良好、ってね」
「ルーティも、あれだけあったらなぁ・・・」
ノーマとスタンが、勃起したティアの蕾を見て呟いた。
(やるのなら早くしてよね)
ティアがそう思っていると、ようやくぬるりとヴェイグの剛直が差し込まれた。
しかし、ヴェイグは本気でないのか、剛直はティアの中に少し入っただけで止まった。
「あらあら、ちゃんと入ってないですよ」
「練習を怠ってちゃ駄目ですねぇ」
ミントとグリューネがくすりと笑った。
「ったく・・・、一寸ばかし手伝ってあげましょ」
そう言うなり、ルーティが靴の踵でヴェイグの臀部を踏みつけた。
「ぐぅ!」
「痛い!」
ヴェイグの剛直はすっぽりとティアの秘所に食い込んだ。
「ほら、動かさないと駄目だろうが」
「・・・分かってる」
ヴェイグは腰を上下させたが、ぎこちないそれは壊れた玩具の様な動きだった。
「動かしてりゃ動きも良くなるぜ」
「慣れてないのに、それまで持つか?」
案の定、ヴェイグの限界は早く訪れた。
「うぁ!!」
堪え切れなかったのか、ヴェイグは白濁液をティアの中に吐き出した。
「嫌・・・」
ティアは片方の胸を揉みしだかれたまま、がくりと身体を横たえた。
ヴェイグは漸く抜いた剛直から、まだほどばしる白濁液をティアの顔に振りかけた。
身繕いを済ませたヴェイグは、鋭い眼光を周りのレプリカ達に投げつけた。
「・・・どうだ」
傍に、秘所から白濁液を零したティアが、気が抜けた様に横たわっている。
「下手だなぁ」
「もっと、その身体で練習しとけよ。クレアちゃんが可愛そうだぜ」
レプリカ達は、呆れた顔でめいめいの場所に去っていった。
横たわったまま顔を向けたティアは、ヴェイグが密かに嗚咽を漏らしている事に気付いた。
ティアが陵辱された様に、ヴェイグも彼自身の心を辱められたのだ。

漸く顔を向けたカイウスには、蹲って静かにすすり泣くヴェイグと横たわったティアの姿が、
ぼろ屑と化した育ての父と、血糊を全身に浴びて慟哭した己の姿に重なって見えた。


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