総合トップ>SS一覧>SS No.6-034
作品名 |
作者名 |
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作品発表日 |
作品保管日 |
星のない空の下で |
641氏(23スレ目) |
リリス×スタン |
2007/01/26 |
2007/01/26 |
「物事ってのは須らくタイミングだ。
やるべき時にやるべき事をやらないと、二度と機会は訪れないかもしれないぜ?」
一方は、その言葉にこころを揺り動かされ、
「私がスタンさんを呼びに行った時も、こうして話している間も、スタンさんの心の中に、常に浮かんでいるであろう誰か。
――それが、答えです」
もう一方は、その言葉にこころを揺り動かされた。
ダイクロフト突入を明朝に控えた、決戦前の最後の夜。
パーティメンバーが思い思いの夜を過ごす中、しかしダリルシェイドの街中を忙しなく駆け回る一人の男性の姿があった。
「ハァ、ハァッ……」
遂に息が切れ、膝に手をついて男――スタン・エルロンは粗い息を吐いた。
喉はとっくにカラカラに渇いていて、理性は『明日に障るからもう諦めるべきだ』と何度も警告を発して来たが、スタンの本能はそれを拒否する。
彼が今捜し求めるのは、たった一人の女性の姿。
――しかし、ここはスタンにとっては殆ど見知らぬ地と言っていいセインガルド国の首都、ダリルシェイド。
常識的に考えて、その広い街の中からたった一人の女性を探し出すことなど不可能だと言えた。
事実、当て所なく街中を彷徨い、ただ時間ばかりを無駄に浪費してきた結果が、今のスタンの姿だった。
じっとりと汗を含んだ豊富な髪が肌にまとわりつく不快感に、思わずスタンは「くそッ」と短く吐き捨て、思わず夜空を仰ぎ見た。
暗闇の中に、幻想的な青い光がぽつぽつと点在するその光景は、確かに一見すると美しい夜空のように見えた。
しかし、今この大地を暗闇で包んでいるのは、ミクトランの手により作り出された外殻大地であり、
その幻想的な青い光はレンズ砲のエネルギーすら吸収してしまう、エネルギーアブソーバーの発するものだ。
(星空……かぁ)
その時、ふとスタンの脳裏に、幼い頃のある情景が蘇った。
(――あ、ッ)
慌てて、きょろきょろとあたりを見回す。
だいぶ町外れのほうまで来てしまっていたらしく、街灯もまばらで周囲はだいぶ見通しが悪かったが、
そこはもともと灯りの少ない田舎出身のスタンである。
彼は夜目を利かせると、闇の中、街の更に外れの方向に小高い丘があることをその眼に認め、その場所へ向かって一直線に駆け出した。
それは、私がまだ、本当に小さかった頃のお話。
「ねえ、どうしてわたしのおうちには、おとうさんとおかあさんがいないの?」
物心がついて、ようやく自分の家と他人の家の境遇の違いに気がついた私は、お爺ちゃんにそんな疑問をぶつけた。
お爺ちゃんは案の定、困ったような笑みを浮かべながら、お前の父さんと母さんは、
お星様になってお前やスタンを見守っているんだよ、と言ってくれたけれど、私はその言葉にどうしても納得がいかなかった。
どうしてお父さんとお母さんはお星様にならなくちゃいけなかったの?
どうして近くには居られないの?
その夜、私はこっそりと家を抜け出した。
向かった先は、村の外れの小高い丘――村で一番、空に近い場所。
あの時の私は、沢山散りばめられた星空の中から、星になったお父さんとお母さんを見つけることができると思っていたのかな?
案の定、無我夢中で丘まで来たのはいいけれど、
私は『真っ暗闇の中にいる』ということを自覚した途端、怖くてそこから一歩も動けなくなってしまった。
街灯なんてこんな村の外れにあるわけもなくて、それどころか家の灯りもちっとも見えない。
来た道すらわからなくなって、丘の真ん中にある木の根元に座り込んで、
怖さと心細さでわんわん泣いていると、いつもは夜真っ先に寝て、
朝は一番最後まで起きないお兄ちゃんが、私のことを見つけ出してくれたの。
お兄ちゃん、本当は自分も怖いくせして、強がってニコって笑うと、こう言ってくれたの。
「父さんも母さんもお星さまになったから、おれたちをみていることしかできないけど、おれがずっとリリスのことまもってやるからあんしんしろ」
「…ずっと?」
「ああ、ずっとだ!」
その時の私は、一体誰からそんな話を聞いたのか、こともあろうにこんなことを言い出したのだ。
「ずっといっしょにいるってことは、わたしとおにいちゃんがけっこんするってこと?」
「え? なんで?」
「ずっといっしょにいるひととは、けっこんするものなんだってきいたもん」
お兄ちゃんは、まるでお父さんとお母さんに答えを尋ねるかのように夜空をちょっと見上げると、
すぐにまた私のほうに振り向いて、またにっこりと笑う。
「わかった、じゃあおれ、リリスとけっこんする、けっこんして、ずっといっしょにいる!」
「うん! わたし、おにいちゃんのおよめさん!」
恐怖感は、いつのまにかどこか遠くに飛んでいってしまっていた。
そんなふうにして、村中大騒ぎになっていることにも気づかず二人で朝まで村はずれの丘で寄り添って過ごして、
見つかって二人そろってこっぴどく叱られたっていうオチがつく、そんな昔の話。
……お兄ちゃんは、この話を覚えているかな。
私はひとつ、賭けをした。
もしもお兄ちゃんがこの夜、あの日のように私の前に現れてくれたら――
丘の頂上へと続く緩やかな角度の上り坂も、疲労の蓄積した今のスタンにとってはまるで断崖を登るような感覚に思えた。
しかしそれでも、彼は歩みを止めない。
この丘の頂上には、自分の探している人物の姿があるはずだという思いは、なかば確信に変わっていた。
町外れの丘の頂上は、冷たい夜風が吹いていて――もっとも、太陽の光の無い今、昼も夜もそう気温は変わらないが――、
スタンには街中よりも更に少し寒く感じられた。
その丘にもまた、頂上部に一本の木がそびえるように立っていて、ますますスタンの中の既視感を強くする。
力を振り絞って、スタンはその木の根元へと駆け寄る。そこにはまさしく、幹に寄り添うようにして立っていた、一人の女性の姿があった。
ようやく目的の場所へと辿りついたスタンが乱れた呼吸を整えるよりもはやく、彼女は口を開いた。
「……来てくれたんだ、お兄ちゃん」
スタンもまた、切れ切れになった息のままに、彼女の名を口にする。
「リリス……」
遠いあの日のように、木の幹に寄りかかるように二人並んで、空を見上げる。
違うことといえば、その夜空は偽りのものであるということと、離れず寄り添っていた昔と違って、拳一個ぶんくらい開いた、二人の間の微妙な感覚。
そして何より――十数年という歳月を経た、二人のこころとからだ。
「……空、見えないね」
ぽつりと、リリスが呟いた。
「……ああ」
同じように、空を見上げたまま、スタンも呟く。
星になって二人を見守っているはずの父と母の姿は、地上全てを外殻大地で覆われた今は見えない。
「お兄ちゃん」
その言葉に、スタンがリリスのほうへ目を向けるよりも早く、
手の平にひやりとした感覚が伝わって、リリスが手の平を重ねてきたのだと分かった。
彼女の指先は冷え切っていて、随分長い間この場所に居たのであろうということは、流石にスタンでも察することが出来た。
スタンは優しく、リリスの手をそっと握り返す。
リリスの指先は一瞬驚いたようにびくりと動きを固くしたが、それもすぐにほぐれ、彼女もまた、スタンの手を軽く握り返す。
「……ジョニーさんの言葉が、ずっと頭の中で響いていたの」
「え?」
「物事ってのは須らくタイミングだ――ってやつ」
「ああ……」
それは数時間前、パーティが一旦解散する直前に、スタンに対するアドバイスとしてジョニーが残した言葉。
「もっとも、お兄ちゃんはピンと来なかったみたいだけどね」
「はは……」
それを言われては、スタンは苦笑するしかない。
「だけど、その通りよね」
スタンは、すぐ隣のリリスの横顔に目を向ける。吐く息は微かに白く、頬は赤みを帯びていた。
「もし……もしも、明日私たちが負けたら、この世界はおしまい。何もかもがなくなっちゃう」
そう語るリリスの語尾は、少し震えていて。
「だから私……決めたの。もしも今晩、私の前に、あの日のようにお兄ちゃんが来てくれたら――言おうって」
合わさっていた、二人の手が離れる。
リリスは、二、三歩後ろに下がると、スタンのほうへと向き直って、彼の瞳を見据えて、はっきりと、言い放った。
「わたし……リリス・エルロンは、お兄ちゃん……スタン・エルロンのことが、大好きです。
わたしを――お兄ちゃんの、お嫁さんに、してください」
リリスは、もう十七歳……この世界では立派に大人と言っていい年齢である。
幼いころは分からなかった世の中の仕組みや分別、「いいこと」と「わるいこと」の区別もつくようになった。
もちろん――実の兄妹で愛し合うということが、世界のモラルに照らし合わせて「いいこと」であるはずもない。
そのくらい、当のリリスが一番分かっている。だから、この夜、リリスは一つの賭けをした。
兄が、この夜の間に自分の前に現れなかったら、この想いを一生隠して生きていくこと。
だけど、もしも兄が自分の前に姿を見せてくれたら――その時は、たとえ結果がどうなろうと、自分の想いの、すべてを打ち明けてしまおうと。
そんなリリスに対し、スタンは、無言のまま、一歩、二歩とリリスとの距離を詰めると、耳まで真っ赤にして俯いているリリスの顔を指で持ち上げ、
「ん、む――ッ」
そのまま強引に、そのくちびるを奪った。
驚きに目を見開くリリスの首の後ろに手を回し、更に抱き寄せるようにして、彼女の口腔内へと舌を侵入させる。
小さい頃に何度か遊びでした、唇と唇をただちょん、と突き合わせるだけの、ごっこ遊びのキスとは違う――大人のキス。
「――っ、ちゅ、は……」
はじめは驚きからか、されるがままになっていたリリスも、いつしかスタンの行為に応えるように、兄の舌を、歯茎を、口腔内の至る場所を舐め回した。
リリスが背伸びするような形で、互いの身体は密着し、唇を重ね、溶けるように熱い舌を絡ませる。
ふたりは呼吸さえ忘れたかのように、ただただ、互いの唇を貪る行為に没頭した。
「ぷは――はぁ」
互いの唇が離れる。二人の間に一筋糸が引いて、リリスがそれをぺろ、と舐め取った。
スタンは、陶然とした面持ちとなっているリリスを強く抱きしめると、その耳元で囁く。
「……ごめん、リリス。実はさ、俺、あの時の約束のこと、さっきまで忘れてた」
「何よそれぇ」
抱きしめているがゆえに、スタンから見ることはできなかったが、リリスが今、泣きそうな顔をしているだろうということは、容易に想像できた。
だから、スタンは――答えを述べた。
「いや、そうじゃなくて、それは悪かったと思ってるんだけど……
そういうんじゃなくて、昔の約束がどうとかじゃなく、俺は、今の俺として、リリスを愛してるし、一生守っていきたいと思う。
……それじゃ、ダメかな」
ふぇ、と、感極まったリリスの抑え切れない嗚咽が漏れる。
「ダメなわけ……ないじゃない、お兄ちゃんの、ばかぁ……」
兄の胸に顔をうずめ、リリスは静かに涙を流す。
街中駆け回ったせいだろう、汗と体臭の混じった兄の匂いが、今のリリスにはとても心地よいものに感じられた。
「でも、私もバカ。私のしたことっていったら、変に自分を追い詰めて、お兄ちゃんを無駄に街中走らせただけじゃない」
違いない、と、スタンは朗らかに笑い、リリスも涙を拭って、また笑った。
大国セインガルドの、しかも首都ともなれば、当然街のどこかには『そういう目的』で利用される宿屋の集まる一角が存在する。
「こういうとこ来るのは初めてだけど……」
兄、スタンがきょろきょろと不安げに部屋の中を見回すと、
彼の腕にがっちりと組み付いた妹リリスもまた、落ち付き無く「私だって初めてよ……」と同じように部屋の様子を確かめる。
あまりそれっぽいのもな、というのが兄妹における共通の意見であったので、
一応見た目はごく普通の宿屋の一室とそう変わらないという部屋を借りてみた……のだが。
流石にベッドがダブルひとつのみというのは、二人にとって軽く衝撃であった。
――そう、これから自分たちは、このベッドの上で……
お互いの想いを確かめ合った二人ではあったが、やはり実の兄妹であるという立場と、そのことに付随する恐れはどうしても消せない。
不安に囚われたリリスが、両の腕で抱くようにしていたスタンの左腕に絡み付く力を強めると、
リリス本人からは思いもよらぬ、あるひとつの効果を生み出した。
「……う」
リリスが腕にこめた力を強めることによって、
スタンの腕がリリスの身体側に引き寄せられ――要するに、リリスの胸の感触がスタンの腕に強く伝わったのだ。
「ちょっと、リリス……タンマ」
「どうしたの? お兄ちゃん」
スタンが唐突に腰を折り曲げ――要するに前かがみになったのを見て、
リリスは怪訝な表情で下から兄の表情を覗き込もうとして、そのことに気づいた。
「…………」
「は、ははは……」
そう――リリスの胸の感触に、スタンの下半身はしっかりと漲ってしまっていたのだ。
リリスは呆れたようにクスリと笑い、兄の行動を「バカみたい」と一蹴した。
「バカみたいって何だよ!」
「だってそうじゃない、これから私たち、その……するんだから」
だからいちいちそんなこと、気にすることないじゃないという妹の主張に、スタンは思わず「それもそうか」と素直に肯首した。
そう。
頭でなんだかんだと考えていても、結局のところ身体がもう、互いを求めずにはいられないのだ。
そのことに今更ながら気づかされた思いで、スタンとリリスは、あはは、と共に明るく笑った。
「んー……じゃあ、俺から先に入るけど、いいか?」
「うん、お兄ちゃん、街中駆け回って汗かいたぶん、身体が冷えてるでしょ?」
それを言うならあの寒い丘の上で自分のことを待っていたリリスも同じなのだが、
スタンはリリスの好意に甘え、先にシャワーを浴びさせてもらうことにした。
汗臭いままで行為に及ぶのは嫌だったし、それに、リリスを先に入らせて、
バスローブ一枚の湯上りの彼女の姿などを見たら、もうその瞬間に理性の糸が切れかねないほど、今のスタンは気がはやっていた。
服を乱暴に脱ぎ捨て、バスルームの引き戸を開ける。
中は思ったよりも広く、もしかすると風呂場で行為に及ぶカップルがいることも想定してのものなのでは、などとスタンにいらぬ邪推をかきたてさせる。
そんなことを意識した途端、いちだんと緊張が増してきて、スタンの心臓の鼓動は、より激しく高鳴った。
「と、とと、とにかくシャワーを浴びて……」
しどろもどろになりながら、産まれたままの姿となっているスタンはシャワーの真下に立ち、きゅっ、と蛇口を捻る。すると、
「うわぁ、冷たっ!」
浮ついた気分のせいか、二つある蛇口のうち間違えて水の出るほうを捻ってしまい、スタンは勢いよく冷水を浴びる羽目になった。
すぐに蛇口を閉めると、水は止まったが、まるで身体の芯まで冷え切ってしまったよう。
「うへ、寒……」
とにかく早く暖かいシャワーを浴びて温まろうと、スタンはお湯の蛇口に手を伸ばしかけて、
「どうしたの、お兄ちゃん?」
突然背後から投げかけられた声に振り向くと、何時の間にやらすっぽんぽんになっている妹がそこに居た。
「……うわぁ! ななななんだよリリス!」
「どうせなら一緒に入ろうかなって」
思わず股間を手で隠して飛びのく兄に、リリスは平然とそんなことを言ってのけたが、心の準備のできていないスタンは大慌てである。
「ちょ、待って――」
「いいじゃない別に。昔はお風呂だって一緒に入ったでしょ」
そう言ってリリスは、兄の前に裸体を晒すことを何ら気にする様子も無く、
何時の間にやらお湯の張ってあるバスタブに手をつけて温度を確かめたりしている。
「うん、丁度いい感じかな」
が、スタン本人は気が気でない状態である。
両親を早くに亡くしたことが影響しているかどうかはわからないが、
他の一般的なそれと比べてもべったりくっついて育ったエルロン兄妹。
しかしそれでも、兄であるスタンが齢十二、三を数える頃には、
どちらが言い出すでもなく、『お風呂に一緒に入る』という行為は自然消滅的になくなった。
要するに、お互い裸身を拝むのは、六、七年振りのことになるわけで。
先ほど服越しとはいえ、胸の感触に戸惑った時もそうだが、
今の妹の体は、過去一緒に風呂に入っていた頃とは違って、すっかり女性のものとなっていた。
リボンをほどいた髪の隙間から覗くうなじ。
思わず指を這わせたくなる、背中からお尻へと続くライン。
いつの間にか豊かさを大きく増していた、胸の双丘。
そのいずれもが、スタンの目にしっかりと焼きついて、視線を剥がそうとすることを許さなかった。
自然、彼の股間のモノも反応してしまうわけで……。
(わ、こら……鎮まれ!)
必死で自らの息子を叱り付けたところで、リリスから目を離せないようではどうしようもない。
手で覆い隠そうにも、こういきり立ってしまってはどうしようもなく、何を思ったかスタンは、咄嗟に両の手で自らのモノを掴んで、
「……何してんの」
妹の呆れた視線が投げかけられた。
「あ、いや、これは……」
それもこれもないものだが、とにかく何か言い訳の言葉を捜そうとするスタンに、
リリスは猫のように目を細めて笑うと、硬直している兄のソレを、しなやかな指できゅ、っと握った。
「……ッ」
妹に自らのモノを握られるという未知の快感に思わず声を漏らす兄の様子に、リリスは更に笑みを濃くすると、兄のモノに顔を寄せてゆく。
「え、ちょ、リリ――」
制止しようとするスタンの声を聞かず、リリスは思い切りよく口を開いてぱく、と兄の男根を口にした。
瞬間、びく、とスタンの身体が大きく跳ねる。その反応に、リリスは僅かに息を荒くして、兄の陰茎をしゃぶってゆく。
ぴちゃ、ぴちゃと、バスルームに淫らな残響音がこだまする。
「く、は――リ、リリス……っ」
「ん……ちゅぅ、ふ……お兄ちゃん、私のはだかで興奮してくれたんだ……っ」
亀頭を舐め回しながら、リリスは心底嬉しげに、兄の竿を指先でそっとなぞる。
「そりゃあ……好きな女の子の裸を見て……興奮しない奴なんて……くっ」
「ん、ふ……嬉しい」
リリスは恍惚と幹をしごく手の動きを激しくしながら、舌を這わせる動きも続ける。先走りの味が、じわりと口の中に広がる。
「ちゅ、ん……どう、お兄ちゃん、気持ち……気持ちいい?」
スタンは、ガクガクと膝を震わせながら「ああ、ああ」と、短く応えて、こくこくと頷く。
その反応に、リリスもまた、兄の陰茎に、貪りつくかのように、動きを早くする。
リリスのその動きに、スタンもまた興奮の度合いを強め、絶頂へ向かって高まってゆく。
「ン……くぷ、は……ちゅ……ッ」
「リ、リリス、俺……もう……!」
幹全体がぶるりと震えるような、射精の近まった感覚に、スタンは慌てて腰を引こうとしたが、しかし、すぐ後ろはバスルームの壁で。
兄の言葉が聞こえているのか、いないのか。リリスは、口を離すどころか、より深く突き入れるようにして――
「く、あ……出る!」
「……む、ん、んふうう……っ!」
リリスの口の中に、苦味のあるどろりとした液体がいっぱいに広がる。
彼女は兄のモノを口に含んだまま、小さな喉をこくこくと鳴らして、ゆっくり、ゆっくりとそれを飲み干した。
ちゅぽ、と口を離して、一仕事終えた兄の陰茎をリリスは指先でそっとひと撫ですると、
ぺろ、と口から僅かに溢れた精液を舐めとって、満足げに呟いた。
「ごちそうさま」
殆どされるがままとなっていたスタンは、ふらふらと壁によりかかると、息も絶え絶えに、ふと湧き上がったこんな疑問を口にした。
「なんか、やけに手馴れてる感じじゃないか」
いろんな可能性を想像しているのか、心持ち憮然となった表情の兄に、リリスは得意げにふんぞり返る。
「……そりゃあ、ちょくちょくやってましたから」
その拍子に彼女のバストがぷるんと弾み、スタンは思わず目を奪われながらも、聞き捨てならないセリフに語気を強める。
「何ぃ!? だ、誰にだよ!」
まさかあの野郎、と、思わず自称親友(リーネ在住)の姿を思い浮かべずにはいられないスタンだったが、しかしリリスは全く平然と、
「お兄ちゃんに」
そんなことを言ってのけた。
「……は?」
「お兄ちゃん、朝はちっとも起きないじゃない。特に眠りが深そうな日を狙って、こう……ぱくりと」
わざわざ指で彼のモノを持ち上げる動作の小芝居すら交えて、どこか楽しげに事実を語るリリスに、
スタンは、へなへなと脱力してぺたんと床に座り込むと、心底呆れたように、力ない言葉を発した。
「おまえなー……」
「安心した?」
「……バカ」
勿論、スタンが物凄く安心していたのは、言うまでも無い。
「あー、いいお湯だった」
バスローブを巻いてほくほく顔になっているリリスとは対象的に、後につづくスタンの表情は冴えない。
それもそのはず、
(我慢我慢我慢我慢我慢我慢……)
今の彼は、一瞬気を緩めれば即座に暴発しかねない自らの欲望を必死で抑えつけている状態だったのだから。
根が真面目なスタンは、やはりはじめての体験だけに、あまり特殊なプレイなどではなく、
こう、真っ当にしたいなという思いが根底にあって、それ故に、あの後いっしょにバスタブに浸かる羽目になっても、
あげく悪戯心を起こしたリリスが足の指先で兄のモノをこねこねといじってきても、
とにかく下唇をかみ締めてじっと声を押し殺し、なんとかバスルームの淫らな誘惑に耐え切ったのだ。
そして今、スタンの中で溜まりに溜まった色んなものが、ベッドの上で爆発しようとしていた!
「しんくーれつざん! いやっほー!」
そんな兄の思いなど知らず、スプリングの効いたベッドでばふんばふんと跳ねて奔放に遊ぶリリスだったが、
「お兄ちゃん?」
近寄ってきた兄のただならぬ形相に、さすがのリリスも慌てて居住まいを正す。
スタンは、やや不安げな声音をはらんだ妹の呼びかけには応えず、ただ、彼女の瞳をまっすぐに見据えて、意を決したように頷いた。
「……うん」
リリスも察したのか、頬を染めてちいさく頷くと、背を向けてその細い指をバスローブにかけ、ゆっくりとはだけさせる。
少しずつ、白い肌があらわになってゆくごとに、スタンの頭のなかで抑えつけていた理性の糸がぷつん、ぷつんと切れてゆく。
先ほどのバスルームの時も見た裸ではあるが、これまでずっと耐えてきたことと、そして何より、
行為が目前に迫ってきているということに、スタンはいよいよ、身体を固くした。
バスローブを直接纏っていたため、今のリリスは下着を身に着けておらず、
ふぁさ、とローブが床の上に落ちた瞬間、スタンの最後の理性の糸が、音を立てて千切れた。
「お兄ちゃ……わ、ちょっと!」
リリスが振り向こうとするその途中で、スタンは自らのバスローブを脱ぎ捨てると、
飛び掛るように妹の身体に覆いかぶさり、ベッドの上に押し倒した。
戸惑うリリスの双丘にスタンは手をのばし、その先端の突起物をつまむように触れる。
「ん、っ」
ぴくりと身体を震わす妹の様子に、スタンの身体は、カッと熱くなる。
手の平を広げて、胸全体をこねるようにもみしだく。余ったもう片方の先端には、吸い付くように口づけをし、舌で舐め転がす。
その度に、リリスは小さく声をあげ、跳ねるように震える。
「……あっ、はぁ、ひぅ……んっ」
はじめて耳にする、妹の喘ぎ声が、スタンの頭の中を更に熱く、白くしてゆく。
スタンは、更に貪りつくように手と舌、両方の動きを早め……
「あ……ッ、痛、いたい、お兄ちゃ、ん」
妹のその一言で、我に返った。
スタンが動きを止め、目じりに涙を浮かべているリリスの胸元にゆっくりと目をやると、そこにはスタンが爪をたてたあとが生なましく残っていた。
これではまるで、揉みしだくというよりは掴む、引っかくといった表現のほうが正しいと思えた。
「あ、ご、ゴメンリリス! 俺、はじめてだからつい、周りが見えなくなって……」
これまで尻に敷かれて生きてきた兄としては、当然次の瞬間、不機嫌に頬を膨らませた妹の反撃があるものだと思っていたが、
「……はじめて?」
返ってきたのは、きょとんとした表情と、ぽつりと繰り出された、そんな質問。
スタンは、少しバツが悪そうに、正直に告白する。
「ああ、俺も……今日がはじめてだ」
「そう……お兄ちゃんも、はじめて、なんだ」
兄が今日まで操を守り通していたということは勿論、リリスにとってはこの上なく喜ばしいことである……はずなのだが。
だというのに、なぜかリリスは不機嫌そうに頬を膨らませた。
予想外のリリスの反応に、スタンは戸惑った。
「どうしたんだよリリス……あ、もしかして、リードしてほしかったとか」
「ばか! そういうんじゃなくて……あんなに長い間旅をしてたのに、その……一回も、お兄ちゃんとフィリアさんやルーティさんがしてないなんて、なんだかお兄ちゃんに魅力がないって思われてるみたいでヤダ」
実際のところ、今日までスタンにそのテの経験がなかったのは、オクテなフィリアは言うまでも無く、
ルーティもいざと言う時になかなか素直になれなかったりと、そういった要因が重なったからなのだが、
「……でも、そのおかげで、俺のはじめてはリリスのためにとっておけた」
「……ん」
兄の言葉に、リリスははにかむような笑みを浮かべたかと思うと、しかし一瞬後にはまた表情を曇らせる。
「ちょっと待ってお兄ちゃん。じゃあお兄ちゃんはもしルーティさんたちに誘われるようなことがあったら、そのまましちゃうつもりだったの?」
「あ、いや、そういうわけじゃなくて……」
いざこういった場面となっても、結局妹に主導権を握られるスタンであった。
「ちゅ、む……はっ、どうだ、っ、リリス……」
「あ、ふぁ……っ、うん、きもちいい、きもちいいよ」
再び、スタンはリリスの胸を愛撫する。
先ほどとは違う、優しく、慈しむような、ゆっくりとした手付きで。
リリスもまた、応えるように兄の背中を、厚い胸板を、火照った頬をそっと撫でる。
「ん、ちゅ、ぷぁ……んっ」
手を動かしている間も、二人は休むことなく口づけを交わす。
とろけるように舌が絡みあい、熱い吐息が漏れる。
「ん、む……ッ!?」
口づけを交わしたそのままの体勢で、突如、リリスが戸惑いの声を上げる。
兄の手の平が、胸から腰へ、そして更に下のほうへと動いていったからだ。
スタンが、妹の薄い陰毛をそっと撫で、更に手を下へと動かした次の瞬間、ぬるりとした蜜の感触が、彼の指先を舐めた。
「リリスのここ……すごく濡れてるぜ」
からかうように笑うと、妹はむう、と顔を逸らして、スタンの身体がびくりと跳ねた。
「うあ、ッ」
「お兄ちゃんのこれだって、もう我慢しきれないみたいじゃない」
いつの間にか、背中に回っていたはずのリリスの右手が、兄のびんびんにそそりたったそれを握っていたのだ。
「ぷっ」
「あはっ」
思わず、兄妹ともにこらえきれず吹き出してしまうが、スタンは、すう、と深呼吸をひとつすると、真面目な顔つきに変わる。
「……いくぞ、リリス」
恐らく、ここが最後の引き返すチャンス。
だけどもう、二人ともそんな気はまったくなかった。
たとえどんな目で見られようと――自分たちは、自分たちの気持ちに、正直に生きるのだと。
「……うん。来て、お兄ちゃん」
リリスのその言葉を合図に、スタンはゆっくりと腰を落とし、怒張したそれを妹の、まだ誰も受け入れたことのない花弁へと押し当てる。
「ん……っ」
びくんと、リリスの身体が軽く浮き上がる。スタンは、息をひとつ吸って、ゆっくりと、リリスのなかに身体を埋めてゆく。
「――――ッ!」
途端、リリスが苦しげに眉根を寄せ、押し殺した悲鳴が僅かに漏れた。
スタンは一旦動きを止めると、苦しげに熱い息を吐く妹の耳元にそっと唇を寄せる。
「ごめん、リリス……痛かったか?」
言ってから、痛くてあたりまえだ、何言ってるんだ俺、と軽く自己嫌悪に陥るスタンに、
リリスは目の端から涙をぽろ、と一粒垂らしながら、気丈に笑った。
「だい……じょう、ぶ。痛いけど……っ、でも、嬉しい……から」
「リリス……」
切れ切れの妹の声に、スタンはこのまま続けるべきか悩む。
そんな兄の内心を察したのか、リリスは、兄の金髪を優しく撫でると、はっきりと口にした。
「続けて……わたしは、だいじょうぶ、だから」
「ああ……わかった」
一思いに、ぐ、と腰を前に動かす。僅かな抵抗があって、ぷつ、と小さな音がした。
「う、あ……っ」
真っ白いベッドシーツの上に、僅かに朱色が散る。しかし、スタンもリリスも、そんなことには気が回らない。
今はただ、自らの衝動に突き動かされるだけ。
ずぶ、ずぶと、ゆっくりとスタンは奥へ進む。
リリスの中は溶けるように熱くて、蕩ける様な快楽がスタンの全身を駆け巡った。
「……ッ、全部、はいったぞ、リリス……」
「うん、奥まで届いてるよ、お兄ちゃんの……」
リリスの思いの外か細い声に、再度このまま動いていいものか心配になるスタンだったが、
「だいじょうぶ、動いて……私、ずっと、待ってたんだから……」
ずっとというのは、一体いつからだろうか。
思い出をたどれば、きっとたどり着くのは、あの日の星空。
「わかった……動くぞ」
ゆっくりと、ピストン運動を開始する。
「ん……ああっ!」
にちゃっ、と粘り気のある音が響いて、リリスが喘ぎ声をあげる。
「く、リリス、リリスの中、すごく熱くて、ッ」
「うん、わたしも、ッ、お兄ちゃんの、感じる、あっ、あつくて……っ!」
「っ、はぁ、はぁ……」
「ふぁ、は――くぅ、んっ」
次第にリリスの喘ぎ声は、苦しげなものから、快楽を含んだそれに変わってゆき、スタンも無我夢中に腰の動きを早くしてゆく。
「ふぁ、っ、わたし、うれしい、お兄ちゃん、と、こうして……くぅ……ん!」
「お、俺もだ、リリスっ」
リリスが切なげに声をあげる度、スタンの陰茎はきつく締め上げられる。限界は近そうだった。
「くぁ……ッ、リリス、俺、もう……」
「わ、わたしも、あんっ、わたしも、なにか、なにかきちゃう!」
腰の動きを一層早めると、リリスがひときわ甲高い声をあげ、その声にスタンはまた興奮し、更に動きを早める。
「あっ、あっ、お、お兄ちゃん、なかに、中に……っ!」
言われなくても、スタンの「抜こう」なんて主張する理性は、とっくに遠くに蹴り飛ばされている。
目の前が霞むように白さを増してゆき、身体中が紅潮して何も考えられなくなってゆく。
はっきりと見えるのは、愛しい妹の姿だけ。
「リリ……スっ、俺、出る……出るっ!」
「うん、お兄ちゃ……ふあぁぁぁぁーっ!」
「くあぁ……っ!」
二人、ほぼ同時に果て、上に乗っていたスタンが、空気の抜けた風船のようにしなだれて、リリスの胸元へ倒れこんでくる。
そんな兄をそっと抱きしめながら、兄と自分が交わった証が、中に溢れる感覚に、リリスはうっとりと呟いた。
「嬉しい……まるで、夢みたい」
スタンは、そっと顔を起こすと、
「夢じゃないさ」
と笑って、二人はついばむ様に、甘い口づけを交わした。
ことが終わって。
のろのろと服を着て、ベッドの端に「やり遂げた」と「やってしまった」が入り混じった感じで放心しているスタンの膝の上に、
「えい」
「ぐ」
同じくいつものエプロンドレス姿に戻った妹がぴょん、と飛び乗ってきた。
スタンは思わず口を突いて出かけた「重い」という台詞を咄嗟に飲み込む。
リリスは「んふふふふ〜」と甘えた猫のように頭を兄の胸元に擦りつけ、満足げににこにこと微笑む。
リボンはまだ結んでおらず、彼女の髪型はまだストレートロングのままで、
うなじが見れないことを、スタンはこっそりと、ちょっと残念に思う。
リリスの自分と同じ色の髪をそっと撫でていると、
これから世界の命運を賭けた決戦に挑むという緊張やプレッシャーが、スッと抜けていくのを感じることができた。
「もうすぐ、だね」
「ああ……」
あと数時間経てば、時刻の上では夜が明ける。
世界の運命を決定付ける一日が始まる。
スタンは、妹の白い手の平をそっと握り、その蒼い瞳で、まっすぐに前を向いて誓う。
「俺は――守るよ。俺の大切な人たち……何より、リリスがいる、この世界を、絶対に」
「……ん」
リリスは小さく頷くと、身体の力を抜いて、スタンにもたれ掛かった。
甘いシャンプーの香りがスタンの鼻腔をくすぐり、ふたりはゆっくりと目を閉じた。
・
・
・
――あの戦いから、一年の時が経った。
奇跡的にも崩壊した外殻大地は殆ど地上に降り注ぐことは無く、世界はかつての平穏を取り戻しつつあった。
そして、フィッツガルドの片田舎、緑の濃い山道の終着点に辿り着いた男女がふたり。
「ふぅ……やっと着いたな」
派手な衣装に身を包んだ男――ジョニー・シデンは、背負った楽器を傷つけないようにゆっくりと地面に下ろすと、やれやれとため息をついた。
「一年経っても、この村は変わりませんのね……」
その隣、白を基調とした清楚なローブに身を包んだ女――フィリア・フィリスは、
どこか懐かしむようにその場所――リーネ村の風景を見つめていた。
一年後にまた会おうというスタンとの約束を守ろうと、別々に国を経った二人であったが、
偶然ノイシュタットでばったり顔を合わせ、なら一緒に、と同行した次第である。
「スタンさんやリリスさん、元気で居るでしょうか……」
「なに、スタンもリリスの嬢ちゃんも、元気が取り柄だ。それに、便りがないのはいい知らせって言うだろ?」
「それもそうですわね」
べべん、とギターを軽く鳴らして言うジョニーの姿に、フィリアはクスリと笑いながら、二人は並んでスタンの家を目指す。
「ジョニーさん! フィリア! いらっしゃい!」
一年ぶりに目にしたスタンは、あの白い鎧を脱いでいたこと以外はこれまでと何ら変わっておらず、フィリアを安心させた。
まだ他の面子は到着していないらしく、ふたりが最初のお客さんだよ、とスタンは笑い、二人を快く中へ招き入れる。
居間で茶をすするトーマスに二人は軽く一礼し、ソファーに腰を下ろす。
「あら?」
ふと、フィリアが違和感に気づく。それはジョニーも同様だったようで、
「そういえば、リリスの嬢ちゃんの姿が見えないな」
台所に目を配らせたりしながら、ふとそんな疑問を口にした。
そこへ、三人分のティーカップをトレイに乗せたスタンがやってきて、二人のむかいがわに腰を下ろす。
「あの、スタンさん、リリスさんの姿が見えないようですが……」
「あ、そうだった。ジョニーさんとフィリアには、先に言っておいたほうがいいかな」
「?」
「結婚したんだ、リリス」
ヒュウ、とジョニーが口笛を吹いた。
「へえ、そいつはめでたいな」
なるほど、結婚して嫁いだのなら、確かにエルロン家にいるわけもない。
「でもスタンさん、ちょっと寂しかったりするんじゃありません?」
「え? 何で?」
フィリアの質問に、スタンはきょとん、とした表情を浮かべた。
「何でって……あれだけ慕われていた妹さんが嫁いでしまったんですよ? 寂しくないんですか?」
思わず詰問するようなかたちになってしまったフィリアに、スタンはその質問の意図を理解しかねたように、首をかしげた。
「あー、フィリア、ちょっと勘違いしてるみたいだけど――」
スタンが言葉のつづきを口にしようとした、その時。
「ただいまー♪」
ばたん、と勢いよく扉が開け放たれた。その快活な声の主は、紛れもなく――
「遅いぞーリリス。お前が散歩に行ってる間に、もうジョニーさんとフィリアが来ちゃってるぞ」
「リリスさん! ……って、ええっ!?」
「あ、お久しぶりです、ジョニーさん、フィリアさん!」
今に顔を出したその女性は、間違いなくリリスで、その腕に抱かれていたのは……まだ生後まもなくといった感じの赤ん坊だった。
「ほー、こいつは立派な赤ん坊だが……一体誰の子だい?」
「へ?」
リリスは、その眼をぱちくりとさせると、すぐにスタンのほうを睨みつけた。
「お兄ちゃん、まだ言ってなかったの?」
「これから言おうと思ってたんだよ!」
フィリアとジョニー、二人の間に、唐突に嫌な予感が駆け巡った。
この先を聞いてはいけないような――
「実は――」
コホン、とスタンは神妙に咳払いを一つ、
「俺たち」「私たち」「「結婚しました!」」
ぐわん、とピコピコハンマーでぶっ叩かれたような衝撃がフィリアを襲った。
リリスは、幸せ満面の表情で、産毛も生え揃っていない赤ちゃんの毛をさするように撫でながら、
「これが、私とお兄ちゃんの子供です!」
「これがもう可愛くて可愛くて! 目に入れても痛くないってのはこういうのを――」
キャッキャウフフ、と二人の世界に入り浸り始めたスタンとリリスを尻目に、ジョニーは呆然と、自棄気味に呟く。
「いやあ……わからないもんだな、人生は。だから面白いってモンだ」
その隣では、真っ白な灰になったフィリアが、がっくりと頭を垂らしている。
「私、今日生まれて始めて、酒に溺れてしまいたい気持ちですわ……」
ジョニーは、フィリアとの距離をそっと詰めると、
「付き合うぜ……朝まででもな」
彼女の肩に、慰めるようにそっと手を置いた。
どうやら、この二人にとって、今日という日は特別長い一日になりそうである。
空を見上げて考える。
太陽の光は降り注ぎ、草木は芽吹き、人は生きる。
昼の明るい空の下では見えないけれど、お星さまになったお父さんとお母さんも、
この空のどこかで、きっと、私たちのことを見守ってくれている。
ふと、そんな気がした。
手の中に愛しい我が子を抱いて、遠い空へ向かってひとつ、お辞儀をしてみる。
お父さんとお母さんに、産んでくれてありがとう、と。
わたしを――お兄ちゃんと出会わせてくれて、ありがとう、と。
―――
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