総合トップ>SS一覧>SS No.5-081
作品名 |
作者名 |
カップリング |
作品発表日 |
作品保管日 |
無題 |
370氏(21スレ目) |
男×ハロルド |
2006/04/29 |
2006/04/30 |
数ヶ月前に終わりを告げた天地戦争も、今ではその名を聞く事は限られている。
多くの戦死者が出てしまったあの戦争を、誰も振り返ろうとは思わないからだろう。
今でもカーレル・ベルセリオスを除いたソーディアンチームは、世界全体の再構築と天上人の処罰の両方の処理に追われていた。
そして、俺達一般兵士の仕事はといえば…土木作業が増える一方で、減る事はありえなかった。
何より、天上人はただミクトランという首謀者を失くしたとはいえ、埋め込まれた表面だけの誇りを持って、今でも小競り合いを挑んできた。
先週も先週で、地上軍一般兵の鎧を来た天上人一行がディムロス中将に接近を試みたようだが、一瞬のうちに炎に消えた。
そんな毎日なので、先の戦争で少なからずとも功績を残した兵士を中心に、地上軍各重要人物の護衛役が定められた。
作戦行動中、仲間と協力してなんとか”ロボット”とかいう機械を何機か倒した俺も、その役に任命された・・・が・・・・。
「さぁ〜パーツも無くなった事だし、また集めに出かけましょ〜♪」
勢い良く自分の休憩室…ラボから駆け出した少女のような女性。あれこそ、俺が護衛する事になった人物。
「ハロルド・ベルセリオス」である。先の”英雄”、カーレル・ベルセリオスの双子の妹、その人だ。
彼女は主にソーディアンを封印する為の施設。そしてイクシフ…とかいう、空飛ぶ機械の調整を行っていた。
封印施設はともかく、戦争が終わった今、そのようなものを作ったって何の意味もないのだが、この間訪ねてみれば
「う〜ん、何となく作らなきゃいけない気がするのよねぇ。理由は48種類あるけれど、まあカンってやつよ」
と返された。つまり、趣味というか、遊びのようなもので、本来なら許される行為ではないにしろ、戦争時の功績により、
その点では地上軍内も認めて…というか、諦めている要素が強い。
多分、彼女の。兄を亡くしたその悲しさを、少しでも紛らわせられるなら…。そういうディムロス中将の姿が、目に浮かんだ。
だが、なにゆえ俺がこんな役に…。
「パーツを集めるって…。また物資保管所まで出かけるんですか?」
「当たり前じゃない。あなた、何もないところから何かが出てくると思ってるの?まあ私ならできなくもないけれど、時間が勿体無いしね〜」
…その目は冗談を言ってはいない。本当にこの人なら、出来そうな気がする。
「ほら、あなたも準備して!」
ここのところ、こんな調子が毎日続いていた…。
その日も、俺はハロルドの実験に巻き込まれてしまった。
もうこれで何十回と数を数えている。いい加減、悪い意味で”慣れ”が生じてしまっている。
ただ今回は、冗談と言うのが度を過ぎたのか、ロボットの制御が遅れた俺は、本当に腕に怪我をしてしまった。そしたら彼女に、
「ん〜…ごめんなさい。ちょっと治してあげるから、部屋に入りましょ」
そう言われ、今は彼女に包帯を巻いてもらっている。
本当ならアトワイト大佐のところに行くべきなのだが…、ハロルドにも、プライドというものがあるのだろうか?
「別にいいですよ…。このぐらいなら、すぐにでも治りますって」
冗談交じりに喋ってみたが、彼女の瞳が、ふっと俺の目から逃れた。
「ううん、一応ちゃんとしておかないと。”何が起こるか”わからないもの。私の実験も、困ったものね」
…意外だった。
彼女が落ち込むのも珍しいが、自分の実験に対し反省を見せるなんて、前にも後にも最後ではないだろうか。
いつもなら笑って誤魔化している彼女とは、明らかに違う。その変わりように、胸が揺らいだ。
「そ、そんな事ないですよ!確かにこうやって怪我する事もあるけれど、そうやって作られた
薬で、今まで何人も助かっているんですし」
「…でも、実験で周りの人が傷つくのなら、それは無意味ね。…アニキみたいに、いなくなっちゃったりでもしたら…」
予感は的中した。やっぱり、彼女はアニキさん―カーレル・ベルセリオス―の事を強く引きずっているようだ。
彼女はあれ以来、ほんの少しではあるけれど、自分に対し臆病になっているのだ、と、研究者の一人から聞いたことがあった。
ただやる気がないだけ、という人もいたが、こういう切実なる想いが、今までの行動を自粛していたのだろうか…。
「お、俺は消えませんよ!」
「えっ?」
彼女の俯いた顔に耐え切れず、俺は思わず叫んでしまった。だが、それに特別な理由なんて無い。
急に恥じらいを覚え、自分の顔に血が沸きあがるのを感じらながら、必死に弁解の言葉を捜した。
「俺は、ハ、ハロルド・ベルセリオス博士の護衛を任されています。その任が解けない以上、私はあなたの傍に…」
「…って事はあんた、任が解ければもう来ないわけ?」
「ぇ、いや、そ、それは…」
「ふぅん、あんたも結構薄情ねぇ〜。ま、所詮軍人さんってそんなものか」
「…!なんですかそれ、俺はただ、軍としての決まりを言っただけで…!」
「だから、所詮軍人さんは、ってなるのよ。まあそうでしょうけれどねぇ。任でもないと、私のところになんて来ないものね」
そういって、彼女は椅子から立ち上がり、プイっと後ろを向いてしまった。
俺も俺で、そんなハロルドに苛立ちが積もってこっちに向かせてやろうと、椅子から飛び出して彼女の肩を掴む為に右手を突き出した。
しかし、ハロルドもハロルドでこちらに振り返ろうとくるり、と向きを変えた。
俺の右手は掴むものを失い、加速した自分の体は思いっきりハロルドと正面からぶつかった。
「ぇ?」
俺達はそのままハロルドのベットに飛び込み、置いてあった洋服が羽のように舞い上がった。
「…なに、してるのよあんた」
「だ、だってハロルドが急に振り返るから!」
ニヤニヤと笑うハロルドの口には、いつものような口紅は着いていなかった。
それは今日、朝早くから実験の為外に出ていたためだっただろうが、口紅をつけていない彼女の顔はとても幼かった。
その背と童顔からして明らかに二十代とは思えない彼女の、唯一の”大人”という主張をしたそれが無くなった今、
不釣合いな”キレイ”という言葉が無くなり、急に”可愛い”という言葉が似合う少女となったようだった。
「だからってよくもまあ、ベットに上手く誘い込んだものねぇ」
そういう彼女の言葉で、何かが吹っ切れた気がした。
「…!ああもう…!」
「ちょ、ちょっ…と・・・んっ・・・んん・・・」
ハロルドの口に、自分の口を押し当てた。もう、どうにでもなれ、だ。
右手で彼女の後頭部を支え、ぐいと顔を押し付ける。驚きで開いた口の中に舌をもぐりこませ、彼女の口を味わった。
彼女が俺の胸を押したようだが、気にもしなかった。やっぱり、小さな体。細い腕には、力と言うものがないように感じる。
逆に左手で彼女の背中を抱き、ぎゅっと自分に近づけた。
「んぁ…んっ・・・んん・・・」
彼女の体がうねり、徐々に力が失われていくのと、顔の頬に赤らみが増すのはほぼ同じだった。
ただ、その赤らみの中にカーレルさんの髪の毛がふいに浮かび上がり、急に罪悪感が増した。
「…ぁ!…は、ハロルド!…はか、せ…」
唇を、そして体を少し離すと、ハロルドはプハッ、と一息ついて、両腕をダルそうにVの字に折った。
顔は赤らみを残し、そのまま「熱い…」と呟いた。自分の心臓が、爆発してしまいそうな気がしてならなかった。
「は・・・はか、せ?」
今更、と思うが、下手に彼女と自分の立場の差を思い出して、名前で呼ぶのが恥ずかしかった。
彼女の顔をそっと覗くと、閉じた瞳をわずかにあけて、こちらをぼけっと見入った。
それは泣いている、とも見えたし、誘っているようにも見えた。
「はかせって呼ぶのは・・・・や」
「え?」
「ハロルドで良いって言ったでしょ。上司の命令には、従うものよ。軍人なら」
「…は、ハロル、ド…」
彼女は少しだけ笑みを浮かべ、そしてその口元を、そっと俺に向けた。
「ねぇ…○○…。もうちょっと、私の口の…。データ採取、して?」
彼女の頬以上に、自分の体全体が赤らむのがわかった。
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