総合トップ>SS一覧>SS No.5-057
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作品発表日 |
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鏡焔残響 |
26氏(21スレ目) |
アッシュ×ティア |
2006/03/09 |
2006/03/09 |
コツコツ、と。
ふたつ分足音が、広く閉鎖された空間に響く。
「ここが、ワイヨン鏡窟……?」
ヴァンの妹――確か名前はティアとかいったか――は、そう言って、俺に視線を投げかけた。
「そうだ。この奥にレプリカ施設がある。」
先を行く俺は前方に注意を向けながら、短く答える。
「ここに兄さんがいるのね……。」
そう呟いた彼女の声は、幾分強張っているように感じる。
緊張しているのか。実の兄に会う事に。
リグレットの残した手がかりを手にここまでやってきたが、本当にこの先にヴァンがいるという保証はない。
いや、そもそも俺の目的は、ヴァンに会いに来ることなどではなかった。
「……こっちだ。」
そういうと俺は、施設として整備されていない横道の方へ、ティアを誘導する。
「……? こっちは道とは違うようだけど……?」
「いいから黙ってついて来いッ!」
俺は荒げる口調を押さえられずに言うと、ティアはムッとしたような顔をする。
「分かったわ。聞こえているから怒鳴らないで。」
「――フン。」
はっきりと言い聞かせるように発音するティアに苛立ちながら、さっさと奥へと足を進める。
ティアは多少戸惑ったようだが、俺の言葉どおり何も言わずについてきた。
俺がここに来るのは2度目だが、その時こいつは居なかった。
だからこそティアは気付かない。
道が違っている事にも、俺がこれから何をしようとしているのかも。
再び沈黙が落ち、耳に聞こえるのは足音だけになる。
壁面を埋める、鏡のような鉱石の淡い光を頼りに、薄暗い洞窟を進む。
「待ってアッシュ。もう少しゆっくり……。」
背後からかかる声にちらりと視線をやると、俺はその場に足を止める。
「アッシュ……?」
ティアが疑問を表情に浮かべる。
俺はゆっくりとティアの方へ体を向き直した。
「どうしたの? あなたさっきから変よ?」
気配の変化を敏感に感じ取ったのか、ティアの声音にわずかな警戒が混じる。
「……ここまで来れば、多少声を上げようが誰も来ないだろうな。」
「……え?」
意味を理解できなかったのか、ティアが間抜けな声を上げる。
俺はティアとの距離を一気に詰めると、ぐいっと顎を引き寄せ唇を奪った。
「……ッ!!」
俺の体を引き離そうと腕に力が込められるが、後ろ手を廻し頭を抱え込むようにして押え込む。
舌を入れ弄ってやると、驚きと拒絶が綯交ぜとなった吐息がもれる。
「……んぅっ……!」
柔らかく暖かい感触を確めつつ、口内の奥まで深く侵入し、舌を絡める。
「……ふッ…ぅ…んーッ……!」
羞恥からか、ティアの目に涙が溜まり、逃れるように首を振る。
――と。
一瞬早くそれに気づいた俺は口を離すと、ティアの右手を捻り上げる。
カラン、と
その右手から、いつの間にか握られていたナイフが零れ落ちた。
「……ちっナイフなんて出してんじゃねーよ。」
煩わしい、とそう舌打ちながら口の端を拭う。
「ど、して……ん、なこと……。」
どうして自分がこんな扱いを受けているのか分からない。
濡れた吐息交じりにそう訴えたかと思えば、我に返った次には掴まれた腕に力を込め逃げようとする。
……全く油断のならない女だ。
逃げようとするティアの腕を強引に引き寄せ、腹に拳の一撃を加えると、そのまま体を壁に押し付ける。
「ッ……!!」
「……どうしてだと? 決まっている。」
俺はティアに顔を近づけると、顎を掴みこちらに顔を向けさせる。
「……。」
恐怖に怯えるように表情を歪めるならまだ可愛げもあるだろうに、こいつは痛みに顔をしかめつつも、俺を正面から睨み付けた。
俺の事を蔑んで見るかのようなその顔を見ると、どうしようもなく苛々する。
「お前はあの屑レプリカの女だからだ。」
そう言った途端、ティアの表情が変わった。
「な、なにを言って……第一、私とルークはそんな関係じゃ……。」
「お前がどう思っているかは関係ない。
……俺はあいつに、全てを奪われたんだ。今度は俺があいつの全てを奪ってやるッ!」
そう言ってティアの腕を押さえつけると、もう片方の手を内股に伸ばす。
「……っ!?」
そこにしまわれたナイフを一つ手に取ると、脱がしにくそうな服を首元からビリビリと切り裂く。
「いやっ……アッシュ、お願いやめて……!」
「あいつらには黙って出てきたからな。……助けが来るのは大分先だな、ティア?」
くっ、と抑えられない笑みが漏れる。
あのレプリカが、さぞ大切にしたかったであろう女を、被験者の俺が滅茶苦茶に犯す。
その高揚感に酔いながら、ナイフをティアに押し付け駄目押しをする。
「お前もまだ死にたくはないだろう? 痛いのが嫌なら大人しくしているんだな。」
「……っ……。」
キリっ、とかみ殺すように歯を食い縛り、ティアは堪えるように息を呑む。
どう考えても逃げようのないこの状況でもこの女は、あくまで感情を乱さず抵抗を示す。
その顔を早く歪ませてやりたくなり、切り裂かれた前を乱暴にはだけさせ胸を露出させる。
「……う……ぃやぁ……っ。」
露になったその殊更に大きな胸が外気に触れる。
口を使ってグローブを外しその膨らみを掴むと、体温と柔らかな弾力が伝わってくる。
やや手荒にそれを揉み、指先で突起を転がし、爪を立てる。
「やっ……ふ……!」
「感じてるのか? でかい胸といい本当に淫猥だな。」
「放、して……っ」
涙を浮かべて懇願してくるが、当然放すつもりなどない。
俺は再びティアの口内を舌で蹂躙し、歯列をなぞる。
「んぅっ……ふ、ぁ……んくっ……!」
途切れ途切れに漏れる吐息と、その声音が、徐々に艶を帯びてゆく。
それを確認して、俺はティアの内腿に触れ、少しずつ上へとずらしてゆく。
途端に腕に力が込められるが、今更その程度でどうなることでもない。
服の中へと手を差し入れ、そして、薄い布の上から、そこに触れる。
「んぁっ……!」
びくりっ、と女の体が震え、仰け反る。その拍子に舌が離れ、つ、と絡んだ唾液の線がそれを繋いだ。
這わせた指をそのまま上にずらし、下着を掴むと一気に引き下ろす。
「いやぁっ……っ」
ティアは顔を背けると、ポロポロと涙を落とし足を閉じようとするが、膝を割り込ませそれを封じる。
下着を剥ぎ取ったその部分に、今度は直接触れると、じっとりと確かに濡れているのがわかる。
「やめ……アッシュ……っ!!」
「ふん。犯されているのに濡れてやがるのか。そんなに良かったのか?」
「う…ぅ、あッ……。」
眉を寄せかぶりを振るティア。
快楽と理性の間で堪えるその女の姿を堪能しながら、ゆっくりと指を滑り込ませてゆく。
「あ、ぁ……ぁあっ……ぁ……っ!」
すでに幾分か濡れた秘所は、たやすくその侵入を許してしまう。
「初めてってわけじゃねぇんだろう? あの屑レプリカは何度ここに入れたんだ?」
「……っ……!」
恥辱の言葉を投げかけられ、ティアは唇を薄く噛みただその行為に堪えた。
(そろそろ頃合いか……。)
もう少しこいつの痴態を独り占めしたい、という欲求はあったが、仕方がない。
かねてから決めていたその事を実行に移す為、俺は一旦指を引き抜き、重苦しい法衣をばさりと脱ぎ捨てた。
急に手を止められ、次は何をされるのだろうかと、ティアは不安そうに俺を見上げる。
その顔があまりに可愛らしかったので、しかたなく教えてやることにした。
「……知っているか? 俺はあのレプリカに回線を繋げられる。」
その一言に、ティアの表情が凍り付く。
気付いてしまったのだ。俺が何をやろうとしているのかを。
「俺がそう意識すれば、俺が見ているものをあいつに伝えてやる事もできる。」
「やめ……」
「やめると思うのか? ……俺の目的は、あいつに奪われる屈辱を与えてやることだ。」
「嫌、いや……ルーク……っ!」
ティアが吐き出したその言葉に、ギリ、と力がこもる。
その名は。
奪われた 存在 そのものだ。
キィン という耳鳴りと共に、回線が 開いた――。
その瞬間、ルークはベルケンドの宿屋で眠っていた。
(――――回線!?)
覚えのある痛みと耳鳴りに、ルークの意識が目覚める。
しかし、気が付くとそこは、自分が寝ていた宿屋ではなかった。
(なっ――――!?)
ルークは、すぐ目の前に広がる光景に、息を呑んだ。
「……見えるか? レプリカ野郎。」
そうわざわざ口に出して言ったのは、この女にルークが見ている事実を認識させる為だ。
予想通り、ティアはびくっと体を強張らせる。
(アッシュ……!? お前、何を……っ!?)
レプリカが頭の中で喚く。
煩わしいが、あいつが見ているのを確認できれば、後は無視をすればいい。
俺は、声には応えず、行為を再開させる。
「いやっ……!」
指を2本に増やし、絡みつく滴と肉壁をかき回す。
「っぁあああっ、ぅああん……っ!」
一際甲高い媚声が上がる。
レプリカが見ていると意識しているからだろうか。羞恥に染まった表情が、一層その欲望を掻き立てる。
「さて……」
ずる、と指を引き抜くと、すっかり立ち上がった自分のモノを取り出す。
それを見て、ティアは恐怖に顔を引きつらせる。
「ひっ――」
俺は逃げようとするティアの腰を押さえ、亀頭を入口に押し当てる。
(や、やめろ……やめろっ!!)
レプリカの、情けなく掠れた声が響く。
(やめさせられるなら、やってみるんだな。)
(アッシュ、お前っ!!)
「――いくぞ。」
そう宣言した瞬間一息に腰を突き入れる!
「ぃやっ、いやぁああああああっ!!」
ティアの悲鳴と、
(ティ……ア……ッ……!!)
レプリカの絶望が、
鏡窟の中に反響して、消えた。
想像以上にきつく締まった膣の中。
ゆっくり往復を始めると、もはや完全に脱力したティアは、口から涎を溢しながら可愛らしく喘ぐ。
「やっ……いやぁっ、……ねがぃ、……や……めてぇ……っ!」
腰を突き入れるリズムに乗って漏れるその声は、まるで心地よい譜歌にも似て。
もうその言葉の中にしか、抵抗を示すものはみあたらない。
断続的にあがる水音も媚声も、紅潮し熱っぽい瞳も、すでにこの女が陥落し、快楽を感じていることを示していた。
ナイフを手に散々抵抗をしていたその腕が、今はしがみ付くように肩にまわされている。
(くそっ……アッシュ、やめろっ!! ……やめてくれ……っ!!)
レプリカの懇願も、いっそ滑稽で憐れだった。
内の声と外の声の二重奏が、ますますその行為を加速させてゆく。
「レプリカ野郎に聞かせてやったらどうだ? “私は犯されても気持ちよくなる淫乱女です”ってなッ!」
「――だ、め……もぅ、れ以上っ……」
なにがこれ以上だと言うのだろうか。ここまで乱れ、求めているくせに。
「あ、ぁっ……ぅ……く、……ルークっ……!」
ぞくりっ、と背筋が総毛立つ。
ティアはまるで、俺の頭の中だけに響く声が聞こえているかのように、【ルーク】を呼ぶ。
同じ顔と声音の男に犯されながら。
「ル、……ク……ルークッ……ッ!」
もはや自分が誰を呼んでいるのかすら、分かっていないのではないか。
過去に置き去りにした名前。奪われた存在。聖なる焔の光という陽だまりの場所。
――そして、これから奪われるだろう未来。
「っ…の名前を、口にするなっ!」
血が上る。押え込んでいたどろどろと渦巻く感情が制御できなくなる。
「っぁああッ……あぁあッ、あ……ク、ぁあアアッ!!」
一層激しさを増した突き入れに、声は殆ど悲鳴に近い。
「ふ、ぁあああッ、ルークッ……ク、るぅぅくぅッ!」
その名を聞くたび、俺の中でぼろぼろと何かが崩れていく気がした。
俺は今、この女の中で、あの劣化野郎の代わりにされているのか。
ティアの中は、溶けてしまうのではないかと思うほどに熱、く、て。
――気が 狂いそうになる。
「……ぅ、く……もうっ……。」
限界、だ。
「やっ…! いやぁ…ッなかはいやああぁぁぁッ!」
ぐっ、とティアの腰を引き寄せると、その最奥にたぎった熱を叩き付ける!
「うああっあああ、ぁぁあアアアアッ!!」
(――――ティ、ア――――ッ!!)
そう呼んだのは、果たしてどちらだったのだろうか。
どくどくと女の膣内を自らの欲望で満たし、薄らいだ意識の中、俺はそんなことを考えていた――。
……なぜだろう、と思う。
うち捨てられ、鏡壁に身を預けて。
ティアは思う。アッシュの事を。
どうして、彼は、あんなにも辛そうな顔をしていたのだろう。
……ルークに全部、見られてしまった――。
これが現実でなければいいのに、と、ティアは顔を肩に寄せ目を瞑る。
零れ落ちた涙が、肩から掛けられた黒と赤の法衣に落ちて滲んだ。
ダンッ!
ようやく自分の体で覚醒したルークは、拳をベッドに打ち付けた。
「――っ……!!」
……なにも……、……何も出来なかった……っ!
ティアの声が、まだ耳の奥に残っている。
胸中に沸き上がるその感情が、悲しみなのか憤りなのか、ルークには分からなかった。
「くそっ……俺は………………。」
ティアを置き去りにワイヨン鏡窟を出て。
俺は湧き起こる自己嫌悪を、意識の底に追いやれずにいた。
怒り、悲しみ、憎しみ、苦しみ、孤独感、絶望感……
止めど無い感情が入り交ざり、押しつぶされそうになる。
『――完全同位体の被験者は、音素乖離を起こし、徐々に体力や譜術力が失われていく――』
ベルケンドで聞いたスピノザの言葉を反芻する。
あの意識がかき乱されるような症状や、譜術力低下を考えれば、その事実を自覚せざる得ない。
スピノザは話さなかったが……最終的に待っているは、あの「ルーク」に、文字どおり全てを奪われての――消滅だろう。
アッシュ ルーク
「……結局、灰は、聖なる焔に全てを奪われるだけだってのかっ……。」
自嘲気味に掃き捨てた言葉が虚空に消えても、その痛みが消える事はなかった――。
(...END)
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