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作品名 作者名 カップリング 作品発表日 作品保管日
生命 鶏氏 ネビリム×ジェイド 2006/01/14 2006/01/16

人によって創られた理は、時間をかければそのうち理解できた。
譜術をはじめとし、少々だが音機関など。
大人の知らない理論を組み立てることもしたし、独自に新たな技術を創ったりもした。
…その度に、世間の目が尊敬と畏怖を抱いていくことにも気付いた。
私という存在は誉れであり、同時に恐怖だったのだ。
だがそれに誇りも驕りも抱いたことはない。何も感じなかった、といった方が正しいのかもしれない。

そう。
私は感じられなかった。
……どうしても理解できなかったことが、あった。

「………この譜術はいい感じだな。第三音素の収束……風の譜術……………―――ところで、あなたは誰ですか?」
「…ジェイド・バルフォア。ケテルブルクが生んだ稀代の二人の天才、その一人…間違いなさそうね」
「僕の質問に答えていただけませんか?それと、僕をサフィールなんかと同列にしないでください」
「ふふ………ごめんなさいね、ジェイドくん。私は………」

魔物の屍が散乱する中、私はその名を聞いた。
私を変えるきっかけになった、生涯忘れえぬ『先生』の名………ゲルダ・ネビリム。

―――雪のように白い髪で、白衣がよく似合う、とても綺麗な人だった。


「ジェイド」
「何ですか、先生?」
私塾での授業が終わり、それぞれが思いのままに散って行く。
それに倣って自分も家に帰ろうかと思った時、いきなり先生に呼び止められた。
「話があるの。時間はいいかしら?」
「大丈夫です。特に用事はありませんから」
こうして一人残されて話をされることは、今までに何度もあった。
しかし自分でも驚いたが、それを煩わしいと思うことは一度たりともなかった。
…唯一、自分の研究よりも優先したいこと。それはネビリム先生と話す時間だと、そう感じていたんだろう。

「………ケテルブルクより北西2km程度の地点にて、譜術によるものと思われる魔物数十体の死体が散乱」
先生が手に持っていた紙をつまらなさそうに眺め、独り言のようにそう呟いた。
そして、溜め息の後に僕を睨みつけてくる。じろりと、瞳の奥に怒りめいたものを灯して。
「ええ、僕がやりました。第五音素系統の譜術に関して、色々と検証したいことがありましたから」
「………反省の色は相変わらず無し、か。重症ね…本当に」
先生は肩を竦め、また独り言のように漏らす。
だがそれは一瞬で、すぐに毅然とした表情で僕の瞳を射抜く。
「ジェイド。魔物にだって生命がある。しかもあなたが殺したのは、人間に害を為すような種族ではないわ。
 それにね、こんなことを続けていたら………いつか、あなた自身が死ぬことになるかもしれないのよ?」
がっと肩を掴まれ、耳から入ってくる言葉のひとつひとつを、冷静に理解していく。

―――先生は大切なことを言っているつもりなんだろう。
だけど先生。僕はどうしてもそれが理解できません。

「………それは仕方のないことじゃありませんか?先生。この手の実験に犠牲はつきものでしょう。
 たとえ魔物が犠牲になろうと、僕自身が犠牲になろうとも………別に、どうということはないじゃないですか」

生命の重さを説かれたことは何度もあった。
だけどそれより重いものなんて、いくらでもある。
『生命』と『譜術の研究』を天秤にかけたとしたら、僕の天秤はすぐに『生命』を掲げることだろう。
だから、それを伝えた。
間違っているなんて微塵も思わずに、淡々と。

…ふと見れば―――――先生の瞳から、怒りめいた灯は消えていた。
逆に、哀れみをもって僕を見つめているような、そんな眼差し。

「………ジェイド。まだ、分からないのね…………」
「生命とは元素と音素によって成り立っている、という理論云々ならば理解できます」
「だけど、生命の尊さや重さというのは…それが失われること、つまり死ぬということは…?」
「……………分かりません。少なくとも、他人の死というものは」
愛想もなにもない、短いやりとり。
誰かに生命について説かれた時はいつもこうなる。
そして徐々に相手の瞳に諦めの色が浮かんでいくのを、僕は何度も見てきた。

………ただひとり、ネビリム先生だけを除いて。

「………!」
と――ネビリム先生の表情が、はっと何かに気付いたような色を浮かべる。
でも、それは瞬間。すぐに―――まるで悪戯っ子のように微笑って、僕の名前を呼んだ。

先生のこの表情が、僕は好きだった。
この色が浮かんだ後には、いつも必ず面白いことがあったからだ。
主に譜術に関して…理論構築の際の手助けをもらった時、大抵はこの表情があった。
だから僕はこの悪戯な微笑が好きだった。…ピオニー皇太子もまた同じように惹かれていたが、その理由は違うように思う。

「ジェイド。今から私の家に来れる?」
「………先生の家ですか?ええ、大丈夫ですけど…」
「よかった。それじゃ、行きましょう」
短く言って、先生は席を立つ。僕は呆気に取られつつ、慌ててはためく白衣の後を追いかける。

外は闇の足音が近づいてくる頃合いだった。
今日もまた雪が降り、冷気が僕の肌を刺す。

「ジェイドーっ!かえろー…あれ、先生?」
私塾を出たところで、サフィールが僕を呼んだ。
どうやら外で僕を待っていたらしく、鼻は赤く鼻水まで垂れている。まったく………。
「あら、サフィール。ごめんなさいね。ジェイドには大事な話があるから、これから家に来てもらうの」
「先生のお家にですか?………はぁい。じゃあ僕は帰るね。ばいばい、ジェイド」
「サフィールも来ればいいじゃないか。そうですよね、先生?」
「…ううん、僕はいいよ。ジャマになったら悪いし…また明日ね、ジェイド。さよなら!ネビリム先生」
先生の答えを待たずに、サフィールは雪の積もる道を逃げるようにいってしまった。
「………いい子ね。こんなに寒くても、彼はあなたを待ってたんだから」
「いえ、アレは馬鹿ですよ。風邪を引いてしまったらどうするつもりなんだ、まったく…」
「…っ、ふふふ……」
馬鹿の背中を見送っていると、微かに聞こえたのは笑い声。
「先生?」
「なんでもないわ。さ、行きましょう」

ケテルブルクの街は、徐々に影を伸ばしつつ。寒さを深めつつ。
それでも、先生と並んで歩いている間は…寒さを意識の外に追いやることができた。

「…ここって、先生の……」
「書斎兼寝室、ってところかしら。わりとさっぱりしてるでしょ?」
「……………さっぱり、ですか」
確かに散らかってる訳ではない。先生はマメなようで、掃除は行き届いているという印象を受ける。
だが―――この書物の量はどうだ。本の監獄と言っても過言ではないような、そんな次元。
ベッドは比較的簡素で、書斎に終日籠る為だけに在るような、そんな風に感じてしまう。
申し訳程度の窓からは、外の冷たい光が差していた。それが余計に部屋を暗く見せる。

―――ぼぅと暖炉に火が点り、部屋に柔らかい雰囲気が漂う。
先生はベッドに座ってと促した。僕はそれに素直に従う。

「………ふふ」

先生はまた、あの微笑を浮かべた。本当に、綺麗な綺麗な白色の微笑。
そのままゆっくりと近づいてきて、僕の隣に腰を下ろす。ふ…と鼻に匂うのは、先生愛用の香水。
…あまりの近さに少し胸が跳ね、自分の頬に熱が上がってきたような気がした。

「ジェイド」

名前を呼ばれたのと、同時。
―――ぎゅっと、先生が僕を抱きしめた。力強く、でも、優しい抱擁だった。
「…せん、せい…?」
今までになかったことに、僕の頭は混乱しつつあった。
こうされる理由もわからない。意図も掴めない。なにも、なにもわからない。

―――そうやって困惑する僕を他所に、先生は僕を引き倒した。
―――自然、僕が先生に覆い被さる格好になる。

先生は、微笑っていた。悪戯っぽい―――とても綺麗な微笑で。
でもふざけている訳じゃないとすぐに感じた。…その瞳は欠片も笑ってはいなかったのだから。


…それから少しの間を空けて、先生が口を開いた。

「私、温かいでしょう?」
「…?」
至極当然のことを言われた僕は、余計に混乱した。
意図も掴めないまま答えあぐねる僕の右手を取って、先生はそっと胸の上に置いた。
「っ…せ、先生っ!な、な、何のつもりですかっ!?」
「静かに。ねぇ…聞こえる?ジェイド」
上ってくる先生の声、優しい半眼の瞳。

―――右手が、鼓動を感じた。
………優しい音、それは初めて聞いた音。

「生命の尊さを言葉で説いたって、あなたには届かないのよね。
 だから私は、生きているという『証』を、あなたに伝えたい。
 生命の音、温もり………理論でも言葉でもない、そういうお話を、あなたにしてあげる」
「ネビリムせんせ―――」

すっ、と伸びてきた腕が僕を包む。
ぎゅ、と抱かれたのは先生の胸の中。

―――また、音が聞こえる。
音素の流れ、心臓の鼓動……生命の、律動。

「………私が生きている『証』、感じる?」
「……………はい。なんていうか…あたたかい音が、聞こえます…」
「私も感じるわ。あなたの音、あなたの熱…あなたが生きている『証』が、確かにここにある」
「………僕の、生命…………証…」

ドクンドクンと、早打つ僕の鼓動。
…こんなにも大きな音で、生命を誇示している。
今まで聞こえたことなんてなかったのに、今はうるさい程に響いている。

「…ん、……ふふ。ジェイド、可愛い」
「……………………………あ」

その声に、自分がどういう状況に置かれているのかを冷静に思い出す。
―――我ながら恥ずかしい。これじゃまるで赤子じゃないか。
慌てて離れようとするも、先生はそれをさせまいとより強く僕を抱く。
それでも抗おうと僕はもがく。なんとかして、この状況から………。

「………ねぇ、さっきから一生懸命どこを触ってるのかな?」
「は?………あ」
胸に抱かれていて、そこでもがく。
それはつまり、先生の胸を揉んでいるというのと、さして違いはない。
それに気付いてしまった―――途端に、耳が赤くなっていく音が聞こえた気がした。
「あらら、おとなしくなっちゃった。なんだかんだでウブよね、まだまだ」
楽しそうに笑う先生の声に、猛烈に自身を恥じる。
そんなことを言われたのは今まで一度もなかったし、自分がそんな風だと思ったこともなかった。
……………だというのに、この人は。

「………そうね。ちょーっとだけ…なら、いいかな………ねぇジェイド。私のこと、どう想う?」
「は?」
「ストレートに言えば、私のこと、好きかってことよ」
「!……………ええ。あなたからは多くのことを教わりましたし、尊敬しています」
「……あなたらしい答え方ね。まぁ、それでもいいかな…嫌われてる訳じゃなさそうだから」
昂っていた気持ちを静めて、声も幾分抑えて言葉を返す。
その返答がやや気に入らないような面持ちで、先生はなにか呟いた。

"少しだけ…本当に、少しだけど…"と。
そう聞こえたような気がした。

―――その意味を問おうとした僕の言葉は、先生の唇によって塞がれた。

「………いつもほどじゃないにしても、冷静よね。さすがは神童ってところかしら?」
「………ぅ………く………っ…!」

冷静じゃない。冷静を気取っているにすぎない。
…自分の中に、こんなモノが眠っているなんて知らなかった。
自制の効かない、動物的な、こんな、モノ。

「それにしても白いわね。雪みたいよ、あなたの肌」
「………ネ、ビ…リ……ム…」
「それでもココはあっつくてベツモノみたいだけど、ね。どうかしら?」

魔性が僕を堕としていく。その名はゲルダ・ネビリム。
何を思ったか、僕の性器を胸に包んで、心なしか楽しげにしている女性。
綺麗―――いや、淫らな悪戯の微笑を浮かべながら。
………抗う術を僕は持たない。為すがままに、肩で息をして快感を感じるばかり。

「んっ…こんなに初々しいジェイド、初めてね。ま、無理もないか」
「せん、せい……!」
「…そろそろ苦しい、かな。イっちゃっていいわよ、好きな時に」

かぷっ。

「………!!」
―――呑み込まれたと同時に走る、痺れるような、快感。
それだけで終わらない、快感の波。
ネビリム先生の口内―――僕に見えない、あの極小の空間で、魔性が蠢いている。
激しく、柔らかく、それは不確かな動きで、確実な快楽をもたらす。
「ん、っ、ぅんっ、……もう、そろそろ、かしら…ね」
「く…は、ぁ………っ!ネビ、リム…ッ!!」
「きゃっ…!」


いしきがしろく―――ただ、あつくて――――――――。


「―――――…っは、ぁ……!」
ドクドクと脈打つそれが終わると同時に、糸が切れた人形のように、仰向けに倒れる。
呼吸は滅茶苦茶、ついでに頭の中も滅茶苦茶だ。
まともな思考なんてどこにもない。ただ、倦怠感と強烈な快感に酔うばかり。
「…ふふ、けっこう出たわね。顔も胸もべたべた…」
「………ぁ…」
首だけを起こして見ると、そこには白濁に穢れた魔性の笑みがあった。
―――身体が、また、熱を帯び始める。そのひどく卑猥な光景に。


「…………………………その瞳は嬉しいけど、今日はここまで」
「……え?」


ふ、と。
先生の表情に、いつものような優しさが戻る。そこにはもう、魔性の影はなかった。
手近にあったタオルで自分の、次いで僕の汚れを拭い、衣服を正してから、先生は諭すように言う。

「ジェイドにはまだ早い…ううん、違うわね。
 ここから先は、新たな生命を創る為の行為。快楽を貪る為に、容易にしていいことではないわ。
 生命の尊さ、大切さを理解していなければ、新たな生命を創ることは許されない。
 その生命を大切に育み、護らなくてはならないのだもの。わかるわね、ジェイド?」
「……………は、はい…」

まるで授業の時のような、丁寧な言葉。
頷くと、先生は満面の笑みで僕の頭を撫でた。

「……いつか、あなたがそれを理解出来たとき。
 その時、もしもあなたが望むのなら……この続きをしてあげる。忘れないでね、ジェイド………」
「………はい、先生」

静かな言葉に再度頷く。
"…いい子ね"と、先生は微笑んで―――その唇が、僕の額にそっと触れる。


その日は結局、ネビリム先生の家に泊まることになった。
………というか、泊めさせられたというのが正しい。両親には上手く伝えておく、とか言って。

「―――んー…一人で寝るのと二人で寝るの、全然違うわね。あったかいなぁ…」
「…………………………僕は、先生のペットじゃないんですが…」
「………………くぅ…」
「……………まったく………」

―――正直、触れている部分はとても温かかった。
恥ずかしながら、それになんともいえない安堵を覚えている自分がいる。
誰かと寝台を共にするのは、幼少の頃にもなかった…少なくとも、記憶の中には。

「……………生命の音、温もり………か」

この人のそれを、喪いたくない。
―――初めて抱いたその感情に少々驚きつつ、僕はまどろみに堕ちていった。

「―――あら、大佐?こんな時間まで起きてるなんて…」
「…おや、ティアですか―――――いえ、大したことではないのですが」
「………何か、あったんですか?」
「はい。先ほど、"雪女"の慟哭が聞こえまして」
「セ、セルシウス…?」
「ええ。あのロニール雪山で、亡き人を想い続け夜な夜な咽び泣く…言わば『幽霊』の類ですよ」
「―――――な、何を馬鹿げた冗談を言ってるんですか!いい大人のくせして!
 わわ、私は寝ますからっ!おやすみなさいっ!!」
「ええ。よい夢を……………。しかし意外な弱点ですねぇ、あそこまで怪談が苦手とは…」

轟々と雪山は猛り続けている。
当然、雪女の慟哭など聞こえはしない。

「…慟哭、か」

私は、慟哭…とまではいかなくとも、涙を流さなくてはならないのだろう。
或いは、それに似た気持ちを抱かなくてはならないのだろう。
―――――レプリカとはいえ、ネビリム先生を再びこの手で葬ったのだから。
…だのに、私はなんの感傷も抱いてはいない。
私は未だに冷たいままだ。あの頃のまま、私は変わっていない。

「かつて――貴女の生徒の中で、私とサフィールは天才だと評された。
 ですが………私たちは、貴女の生徒の中で…最も愚かで出来の悪い生徒でした」

生命の大切さを貴女に伝えてもらったのに。
それなのに、私は貴女の生命を奪い、そして弄んだ。世の理を捻じ曲げてまで。
…今日、その生命を再び埋めたのに。
この世界から、存在を消した―――この手で殺したのに、私には涙すら流れない。
純粋な彼らのように、親しき人の死を悼めない。
喪いたくなかった生命を喪ったというのに、私には何の情もない。


「ネビリム先生……………ごめんなさい……私は………」


ぐ、と右手の魔槍を握り締める。
―――――ひどく冷たい。まるで私のように、氷のように冷えた柄。


「……………さようなら………」

銀色の吹き荒れる彼方に向かって、記憶に眠る彼女に向かって、紡ぐ。


もう二度と見えることはない。
あの悪戯な微笑、あの生命の音、あの温もり。
雪のように白かった貴女に見えることは、もう、二度と。


「……………さようなら、ネビリム。私の愛した、たった一人の貴女―――――」




↓おまけ。




(…そりゃ確かに、ナタリアじゃ逆に面白がってダメだろうよ。アニスも…同じだろうな。
 ジェイドは論外で、ガイは絶対に無理だ。まだ克服できてないし……………でも、だからって、なぁ……)

(………このまま何事もなく、朝が来ますように…!
 大丈夫、大丈夫。あんなの、ただの冗談だから……………でも、やっぱり、ちょっとだけ…)

(みゅみゅ〜♪ご主人様とティアさんに挟まれて、すっごくあったかいですの〜♪
 これからはずっとこうやって寝たいですの。明日、ご主人様にお願いしてみるですのー♪)


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