総合トップ>SS一覧>SS No.4-099
作品名 |
作者名 |
カップリング |
作品発表日 |
作品保管日 |
夢の国から |
丼兵衛氏 |
エロ無し |
2003/05/03 |
2006/01/15 |
「…案ずる事は無い、彼らも又夢の中だ。お前の声も決して届く事は無い」
エルレインはダイクロフト内部に無数に広がる繭を前に言い放った。
「んな訳無いでしょ、バァさん」
リアラは仲間(特にカイル)には決して見せる事が無い表情で悪態をついた。
「あいつらがこんな『○トリックス』のパクリみたいなセットで作り出したチンケな
幸福なんかで惑わされる筈が無いわ」
エルレインは精神的ダメージを受けつつも、話を続けようとした。
「ふ…、彼らの夢の中へ飛ぼうと言うのか?、面白い。だが…」
「あ〜ぁ、これだからババァは嫌だわ。話が長ったらしくて年寄りの小便みたいね。
おまけに化粧は濃いし、三十路だし、肌は老化の一途だし…」
悪態をついているリアラの身体を眩い光が包んでいく。
「それじゃ、私の愛するカイルを連れ戻しに行きます。
もっとも、バァさんはあのゴツイ筋肉馬鹿しかいないんでしょうが」
エルレインは手出しをせず…というよりは余りのショックの為に動けなかった。
「お、愚かな…。あの糞ガキ、否、あの子が苦しむばかりなのに…」
「ここは…」
リアラの視界に写ったのはクレスタの町の風景であった。だが、何かが違う。
「建物が古ぼけてる…気のせいかしら?」
首を傾げつつも木の橋を渡ったが、益々疑念は深まるばかりであった。
「何よ、この文字…?!」
『デュナミス』と書いてあった孤児院の看板には、丸や棒線で構成された文字が
羅列していた。勿論、リアラはそのような文字を見るのは始めてである。
(もしかして、カイルは字が読めないからあんな変な形になるのかしら?)
リアラは無茶苦茶な想像をしつつ、孤児院の中へ入った。
すると、孤児院のドアから金髪のツンツン頭を揺らしたあどけない少年と、短めの
銀髪の活発そうな少年が出てきた。
「あ、お客さんだ!。もしかしてピョンヤンから来たの?」
「ぴ、ピョンヤン?!」
「カイル、この格好を見ろよ。きっと外国の観光客だぞ」
リアラは2人の言っている事が全く理解出来なかった。おまけに、2人の胸には
人物の肖像画が入った円形のバッジが光っている。一体どういう意味があるのか…。
「僕はピョンヤンから来たんだと思うよ。だって、この前、バルバトスって南朝鮮の
反体制分子を捕まえて村長さんと党の偉い人から『君の英雄的行動はきっと中央
から祖国防衛勲章を貰える位の功績だ』って誉められたんだよ」
「馬鹿、党の人間だったらもっと威厳のある人に決まってるだろ?!。それにな、
日本(イルボン)にいる俺の恋人はあれ程じゃないが、あんな風に綺麗な服を着てて、
化粧も濃くて綺麗だ。お前も嫁さんを貰うんだったら日本人がいいぞ」
「い、イルボンって…、一体どんな夢なの…?!」
リアラが益々混乱している所に、2人の男女が大勢の子供を連れて中庭に出てきた。
(カイルの両親…、スタン・エルロンとルーティ・カトレットだわ)
ルーティはそのままの姿であったが、スタンはカイルの髪型をそのまま伸ばしたような
金髪を揺らし、シャツとスラックスという格好であった。
子供達はカイルやロニと同じ円形のバッジを付けていたが、2人は赤旗に肖像画が
入ったバッジを付けていた。どうやら、立場によってバッジの種類が違う様だ。
「みんな、今日も元気良く『律動体操』をしよう!」
正面に据えられた映像の再生機に繋がった受信機から、軽やかなメロディに乗って
一糸乱れぬ動きで踊る少年達の姿が写った。
♪たららららったった〜、たららららったった〜、
たらららった、たらららりら、らったらららららぁ〜…
リズミカル、と言うには余りにも奇妙で滑稽過ぎる踊りであったが、子供達はおろか
大人であるスタンやルーティまでもが一生懸命手を振ったり腰をくねらせたりして
踊っている姿を見て、リアラは背筋が寒くなる思いがした。
(この感じ…、ドーム都市の人達と似ている…)
体操が終わると、カイルとロニはスタンとルーティの方へ行った。
「カイル、ロニ!、お願いだから目を覚まして!!」
リアラは叫ばずにはいられなかったが、2人は不思議な顔をするだけであった。
「目が覚めたって…どういう事?」
「俺が知るかよ…」
リアラが更に叫ぼうとすると、孤児院の玄関に黒塗りの車が入って来た。ボンネット
には青と赤の線が入った赤い星の旗がはためいている。
車の中から、赤い旗の肖像バッジを紺のスーツの襟に付けた青年と女性が出てきたが、
その姿を見てリアラは飛び上がらんばかりに驚愕した。
黒眼鏡をかけてはいたが、紛れも無くジューダス=リオン・マグナスの姿であった。
女性の方は、ポニーテールに束ねた髪と地味なスーツ姿の為か誰だか分からなかった
ものの、大きめの眼鏡からフィリア・フィリスである事が分かった。
「リアラさん、将軍様がお待ちニダ。ピョンヤンへお戻り下さい」
「え?!、わ,私は…」
「名残惜しいのは分かりますが、自由行動は終わりニダ。さぁ、行くニダ」
抗議する間も無く、無理矢理車の座席の奥に押し込まれてしまった。
ジューダスは、リアラを車に押し込むと、4人の所へつかつかと歩み寄って来た。
「君がカイル君かね?」
「はい!、僕がカイル・デュナミスです!!」
「将軍様は君の英雄的行動にいたく感激なされて、直々に勲章を渡したいそうだ。
我々と一緒にピョンヤンに来たまえ」
「そりゃぁ凄いぞ、カイル! 是非行って来い」
スタンは大はしゃぎであったが、ルーティはどことなく笑顔が引きつっている。
「スタン、ちょっと話したい事があるからカイルを車に連れて行ってて」
ルーティはスタンとカイルが行ったのを確認してから、ジューダスを孤児院の物陰に
連れ込んだ。ルーティの偽りの笑顔がたちまち山師の険しい表情に変貌する。
「リオン、一体ブツの仕入れはどうなってるのよ」
「姉さん、僕もあれこれ手を回してるんだが、物資が入っても運搬する手段が…」
「あ〜、それだったら心配無いわ。アタシには強力な足長おじさんがいるのよ。
その人に頼めば援助物資と一緒に送って貰えるわよ。これが連絡先」
…リオンが手渡された名刺にはこう書かれていた。
『国際人道支援センター 極東支部長 ウッドロウ・ケルウィン 連絡先…
現地事務局主任 イレーヌ・レンブラント 住所…』
「わぁーっ、早い早い!」
カイルは無邪気にベンツの窓ガラスに顔を押し付けてはしゃいでいた。
リアラの方は皮張りの座席に身体を強張らせながら縮こまって座っている。
(夢にしてはこの世界は異質過ぎる…)
4人が乗る黒塗りベンツはだだっ広い農村地帯の道路を時速100キロで突っ走って
いたが、やがて高層ビルが立ち並ぶ町並みが広がってきた。
「ここが革命首都ピョンヤンニダ」
「凄い建物だなぁ!、あんな高くて立派な建物を見たのは生まれて始めてだよ!」
カイルが目を輝かせて殺風景な灰色のビルを凝視している。
「そう言えば、リアラさんも首都へ来られるのは今回が始めてでしたカ?」
「え…ええ」
調子を合わせてどうにか誤魔化したが、リアラの疑念は深まるばかりであった。
(これが夢の世界?。それに、この世界の私は何をやっているの…?)
その後、黒塗りベンツは自動小銃を持った衛兵が詰めている何十もの検問所を通過
した後、やっと目的地に到着した。
「共和国宮殿に着いたニダ。くれぐれも阻喪の無い様に気を付けるニダ」
大理石の床に敷かれた赤い絨毯が続く廊下を進み、豪華な装飾が部屋中に施された
大きな応接室へ通された。部屋の中央には舞台までが備え付けられている
贅は尽くされていると分かるものの、ハイデルベルグの王城を知るリアラにとっては
悪趣味な成金趣味で作られた代物にしか見えなかった。
しかし、カイルはここでも緊張で震えつつ爛々と目を輝かせている。
と、そこへ金ピカに光る幅広の肩章を付けた高級士官(ジューダスの話では『軍官』
と呼ぶのだそうだ)が部屋へ入って来た。
「白頭山に輝く偉大なる明星、親愛なる金正日将軍様がお見えになられる」
暫くすると、周りに人を沢山従えた中年男が入ってきた。すると、部屋に居た人が
皆、直立不動の態勢となって口々に叫び出した。
「キムジョンイルチャングンニム マンセー!!(金正日将軍様万歳!!)」
(い、一体何なの………)
リアラは、目の前の光景にただ呆然とするばかりであった。どこから見てもただの
肥満気味で頭の剥げた眼鏡の中年男にしか見えない人物をあたかも神であるかの様
に称え、大きな拍手で迎えている。
おまけに、カイルは両手を上げて飛び跳ねながら部屋中に響き渡る声で一生懸命
「まんせぇ〜!!」
と叫んでいる。
偽りの世界の姿といえども、その姿はリアラにとっては大きなショックであった。
(カイル………)
「諸君、ご苦労。所でこのお嬢ちゃんはどうしたのですか?」
「あ…、あの…これは………」
気が付くと、リアラは自分が涙を流している事に気が付いた。
「勿論、将軍様のお姿を拝見できて感極まったのでしょう」
(この声は!?)
リアラは飛び上がらんばかりに驚いた。
(エルレイン!?、どうしてここに…)
何と、『将軍様』の側にはエルレインの姿があった。
「そうだな。さて、2人共こちらに来なさい」
「はい!!」
「は…はい」
カイルは堂々と、リアラは少し怖気づきながら『将軍様』の方へと歩み寄った。
「君は勇敢だねぇ〜、ウリが直々に勲章を着けてやるニダ」
「英雄勲章だ…。エ…エへへ………」
余り上等では無さそうな作りの勲章を胸にぶら下げ、カイルは得意満面である。
「で…、そっちの可愛いお嬢ちゃんは?」
「え…、あの………」
「私が招待したのです」
「エルレイン!?」
「ほぉ、君の知り合いかね。それにしても君に良く似ているニダ」
一瞬、中年男の顔がでれっと間延びしたかに見えた。
「では、私は踊りの準備がありますので、これで…」
エルレインは舞台になっているとおぼしき段の厚い幕の中へ入っていった。
「将軍様、準備が整いました」
幕の向こうから女性の声がした。
「うむ、良ければ始めてくれたまえ」
『将軍様』の言葉と同時に、舞台の幕がさっと開いた。
「!!………」
リアラは目の前に広がる光景に、大きな瞳を更に広げて驚愕した。
何と、エルレインを始めとする踊り子達は全員素っ裸だったのである。
おまけに、怪しげな踊りを踊り、お子様には目に毒な部分をよりによってカイルの
目の前で見せ付けている。これには、幼いカイルのズボンも小さなテントを立てた。
「カイル、カイルったら、いい加減目を覚まして!」
とうとう我慢が出来なくなったリアラはカイルの服の襟を掴んだ。
「何言ってるの…おばさん………」
「お…オバさん!?」
この一言で、辛うじて平静を保っていたリアラの理性が吹き飛んだ。
「…カイル、貴方がここまで馬鹿だとは思わなかったわ」
そう言うと、カイルの体を羽交い締めにして関節技で締め上げた。
ナナリーさん直伝のコブラツイスト(通称『死者の盆踊り』)である。
「い…痛いよおばさん!」
「オバさんって言うな!!」
リアラは更にカイルをぎりぎりと締め上げた。
「思い出して、私達との冒険を!、そして、私が可愛い美少女だと言う事を!!」
「うぅ…、俺は………」
関節技が効いたのか、カイルは徐々に記憶を取り戻している様であった。
「…リアラ…ここは…一体………」
「エルレインが作り出した夢の世界よ」
「そうだ!、他のみんなも助けに…うわっ!!」
カイルは自分の下半身の状態に気が付いたのか、慌てて中腰の姿勢になった。
「もう!、カイルのなんか夜の時にいっぱい見てるわよ!」
リアラのその言葉に、エルレインは露骨に不快な表情をした。
(無能であるばかりか、つるぺたの小娘の分際であの少年と…)
「…愚かな、あくまで(私に)反逆(嫌がらせ)する道を選ぶというのか」
「は…反逆!?」
その言葉に反応して衛兵やSPが一斉に白頭山拳銃やAK74自動小銃の銃口をカイルと
リアラに向けた。
「ま、待つニダ!、美少女は世界の宝ニダ!!」
慌てた『将軍様』が止めに入ったが、後ろから来たフィリアに蹴散らされた。
「…敵は容赦無く抹殺するに限りますわ」
フィリアはスーツのボタンを外すと、裏地から瓶に入った液体を取り出した。
「リアラ、早くここから逃げないと…」
「もうやってるわよ!」
リアラのペンダントからは眩いばかりの光が溢れ、カイルの体を包み始めていた。
「共和国マンセェー!!」
自爆するのか、フィリアは両手に瓶を持って突っ込んで来た。
「わ、来る、来る!!」
リアラ達を包む光球は大きくなり、そして消滅した。
*
「…それで、アイツが来たって訳か」
ロニは俄かに理解し難いという風でぐしゃぐしゃと頭髪をかきむしった。
「夢だと思っていたのだけど…まさか………」
リアラも疲れ果てたといった感じである。
「………………」
何か思う所があったのか、ジューダスはずっと無言のままである。
「何だかややっこしい話だねぇ………」
ナナリーも状況が中々掴めない様であった。
「ウリは後学の為に色々見聞したくて来たニダ。宜しく頼むッソヨ」
…カイル一行の中に、あの『将軍様』こと金正日の姿があった。どうやらどさくさに
紛れてリアラの光球に飛び込み、そのまま天地戦争の時代まで付いて来たのであった。
「俺は一緒の方が良いと思うな」
カイルが明るく答える。
「どうしてなの?。この世界じゃ事情が全く異なるし、あの世界に影響が…」
リアラは必要とあらばすぐに元の世界に送り返す算段の様だ。
「だって、仲間は多い方が何かと心強いじゃない!」
「そうそう。それに、異世界の人間のデータなんて貴重じゃない。グフフフフ…」
HRX-2を回収したハロルド博士は垂れ気味の瞳を爛々と輝かせた。
「…あのババァ、覚えてなさいよ」
リアラは誰にも聞こえない声で毒付いた。
[完]
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