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作品名 作者名 カップリング 作品発表日 作品保管日
移し身の花 水王氏 エロ無し 2006/01/05 2006/01/08

 始まりの場所は、その時と変わらぬ風景のままに見えた。
 
「でも、やっぱ変わっているんだもんな・・・ずっと同じ花じゃあ、ないんだ」
 一人呟いて、彼は足元に広がる草花へと視線を注いだ。
 それぞれに花開き、大小の実をつける野草達。
 真っ直ぐに美しく咲き誇るものもあれば、獣に踏みしだかれて歪んでしまったものも見てとれる。
(・・・俺は、一体どの花なら・・・・)

「――――!!」
 もう何度繰り返したのかも分からない思考に再び没頭しかけた時、突如として背後に現れた気配
 に彼は反射的に身を翻した。

 急旋回する視界に入って来たのは、自身よりも拳一つ分以上は高い背丈の均整の取れた体格の男。
「こんな所にいやがったか、ルーク。・・・ティアがずっとお前の事探してるぞ」
 聞きなれた声に、ルークはほっと胸を撫で下ろして全身の緊張を解いた。
「ガイかよ。びっくりさせんなって・・・・・・」
「びっくりしたのはこっちの方だよ。アルビオールまで勝手に持ち出して何を考えてるんだか・・・
 一体、いつの間に操縦なんて覚えたんだよ」
 呆れた調子でガイは続けてきた――――が、両の腕はしっかりと胸の前で組んだままだ。

(やっぱ、怒ってんなぁ・・・そりゃ仕方ないか)
 胸中で呟きながらルークは悪びれない風を装い、片手をひらひらと泳がせて見せた。
「うちの量産機には、一号機のデータが入ってたの忘れちまったのかよ、ガイらしくないな」
「ほー。・・・機体の外装を見た感じじゃ、随分と手荒く着地したご様子でしたが、自動操縦じゃあ
 あんな風になるとは到底思えないな」
「悪かったな、手荒くて」
 半眼になって、毒づきながらも単刀直入に切り出してこないガイに、少しだけ感謝する。

 正直、今頃になってこんな風になるなんてルーク自身も思ってもいなかったから。
「ガイは、ここは苦手なんじゃないのか?」
「あ?」
 きっとルークの言いたい事はわかってるくせに、「何だよ、急に」とでも言いたげに返してくる。
「ここから見える景色・・・・・つっても、今は何も名残くらいしかないけどさ」
「ああ・・・俺は、懐かしさも感じるから嫌いじゃないさ」
「好きでもないんだろ?」
「嫌に絡むじゃないか。それを言ったら、お前こそ好き、と断言はできないんじゃないのか?」
 うっ、と答えに詰まってルークは再び視線を自分の足元に落とした。

「声を大にして、好きだと言えない場所を避けていたら、それこそ限がないぜ」
 先程までよりも少し厳し目の口調で、しかし組んだ腕を解いて隣に座り込みながらガイは言った。
「ガイは、大人だよな。俺なんて見た目ばかりでっかくて、中身は子供だ」
 ガイに習って、ルークも膝を抱える様にして座り込む。
「ばーか――――実際、お前はまだ子供なんだよ」
 当然だ、と言う風に言って不揃いになったルークの赤毛を一時の間、右の掌でクシャクシャと掻き
 回してから、ガイは真剣な表情になった。
「一体、何を一人で思い詰めていやがるんだ。俺には黙っててもいいが、あんまり彼女を心配させる
 のは関心できないぜ、ルーク」
「・・・悪いとは、思ってるんだ」
「ほんとーかぁ?」
 訝しげな表情でガイは髪に回した掌でそのまま頭を抱え込む様にし、空いてる左の手で握り拳を作 
 ってルークの顔の前でグリグリと捻りをいれて見せた。
「わっ!やめっ、ガイ、ちょっ、それは待った!」
「本当はこんな事したくないんだぜ?わかってくれよ?」
「わかったから!言うって!話すって!」
「別に、無理に言わなくたっていいぜ。ちょっとだけ手間掛けさせてくれた、ホンのお礼だよ」
 がっちりと頭をロックされた状態でルークからはガイの表情は見て取れないが、ニンマリと笑みを 
 浮かべている事は想像に難くなかった。
「だーっ!話させて貰います!是非聞いて下さい!」
「よーし・・・・・じゃあ、ガイ様がじっくりと聞いてあげようか」
 必死の抵抗と叫びを繰り返して、ようやく開放されたルークはぜぃぜぃと息をつく。
「ぜんっぜん、黙ってても良くないじゃんか・・・・」
「何か言ったかー?」
「何も言ってねーよ!」 

「で、何だって連絡も無しに4日間も外をほっつき歩いてたんだ」
 本当に心配していたぞ、と付け加えてガイはルークの少し先をゆったりとした歩調で進んでいた。
「本当に悪かった思ってるって」
「どーだかね。さっきは自分の事で精一杯ですって感じ丸出しだったぞ」
「―――――ガイはさ」
 ぴた、と足を止めてルークは問いかけた。
「んー?」
 ゆったりとした動きで振り向いてガイはルークの言葉を待った。
「・・・俺が・・・・子供作っても、平気だと思うか?」
「―――はぁ!?」
 唐突と言えば余りにも唐突な質問に、ガイは思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。
「そりゃまた、随分と突飛なご質問で・・・・・」
「本当は、ジェイドとかに聞けばいいんだろうけどさ、マルクトでまた研究とか開始してるみたいで
 邪魔するのも悪くて、顔出せなくてさ、そんでふらふらしてたら、いつの間にかここに来ちまって
 考え込んでたら、日が暮れちまって、急に自分が情けなくなってきて」
「まあまあ、まずは落ち着けって。話の順を追って聞かせてくれよ。焦らなくていいからさ」
 堪えていた言葉をまとまり無く吐き出しかけて、混乱気味になるルークをガイはどうどう、いった
 感じで両手で穏やかに制した。
(流石にルーク流の冗談って訳でもなさそうだな、こりゃあ・・・・)
 改めて見てみても、ルークの眼差しは至って真剣だ。
 ここまで思いつめて考えるとなると――――推測される「理由」は一つだった。

「・・・俺、家を出る何日か前にティアに言われたんだ」
 地の底まで沈んだかの様な暗い声音で、ルークは言った。
「『この先、私達どうしようか』・・・って」
「成る程、ね・・・・」
「それで、俺、真面目に考えてみたんだ」
 ティアもストレートな切り出し方だなぁ、と内心呟きながらガイは相槌を打ってルークを促した。
「俺、ティアと一緒になりたい。んでもって、結婚して、子供が欲しいって思ったんだ」
(こっちもこっちで負けず劣らずストレートだな)
 真剣な表情で話すルークを見て、ガイは少し居た堪れない気持ちになった。
「おーおー、一丁前に考えてるじゃないか。そういうの、真面目に考えるのはいい事だと思うぜ」
「・・・わかってんだろ、ガイ。俺の言いたい事」
「――――だから、ジェイドの旦那の所に行こうと思ったわけか」
 思わず、溜息を漏らしてから一呼吸入れ、気を取り直したガイは正面からルークの両肩をしっかと
 掴んだ。
「ガイ、俺・・・・」
「レプリカだから、子供がまともに産まれないかも、育たないかも・・・だろ?」
 この馬鹿は、となんとか声には出さずいたが、ガイは思わず苦虫を噛み潰した様な表情をした。
 しかし、本当に不安な気持ちは分かる、とは軽々しくは言えなくともルークが相当に思い悩んだ事
 だけは理解できた。
「まず、質問に答えてやる前に、だ」
「ガイ?」
 肩に置かれた手を下ろして、拳をゆっくりと固めるガイを見てルークは訝しげな表情を浮かべた。

「歯ぁ喰いしばれよ、ルーク!!」

 突然、地面に転がされてルークは何が起こったのかも分らぬ様子で殴られた頬を押さえた。
 ガイは今までにない厳しさを持った眼差しで、ルークに言葉を続けた。
「お前の悩んでる事は半端なモンじゃないっていう事は、俺にだって少しくらいはわかるつもりだし
 それについては何を馬鹿な事を、何て言うつもりも毛頭ない」
「――――――」
 殴られたんだ、と頭の片隅でやっと状況を把握しながら、ルークは息を呑んでガイの言葉に耳を傾
 けていた。
「だがな・・・お前はティアや、俺達皆と旅をしてレプリカである自分を受け入れてきただろうが。
 ならまずは、ティア本人に真っ先にその話をして、相談するべきだとは思わなかったのか?」
「そうかもしれないけど!」
 言われて、反射的にルークは立ち上がっていた。
 中途半端に中腰のままでしか言い返せなかったのは、頬に残る痛みからだけではなかった。
「しれないけど、なんだ?」
「・・・・赤ん坊が、まともに産まれなかったり、成長しないかもしれないのは、母親ってもんには
 辛い事なんじゃないかって――――」
 言ってはみたものの、ガイの揺るがない強い視線から、ルークは自分の視線を彷徨わせていた。
「じゃあ、聞くが・・・お前はジェイドの旦那が太鼓判を押せばそれでいいのか?順序ってモノと、
 彼女の気持ちってモノを何か別の事と履き違えてやいやしないか?」
「ガイの言う事だってわかるよ!俺だって、一番にティアから答えを聞きたい!」
「この・・・馬鹿野郎が!」
 ガイの怒りすら感じさせる激しい剣幕に、ルークは身を硬くした。
「・・・お前が勘違いしているのは、覚悟なんだよ」
 嵐の様な言葉が続くかと思いきや、打って変わって重く響く声でガイは言った。

「覚悟・・・」
「そうだ、覚悟だ。今のお前は、誰かに保証してもらい、受け入れてもらう事で解決しようとしてい
 る。だが、物事に絶対なんてものはありやしない。ヴァンと、ユリアのスコアの事で、お前が一番
 それをわかっているはずだろうが」 
「・・・・・・」
「お前は誰かに『絶対に大丈夫ですよ』と言われたら子供を作り、子供が産まれてから問題があれば
『大丈夫って言ったのに』なんて言うつもりなのか?違うだろ?」
「!」
 自分なりに考えていたはずなのに、ガイの言う通りに誰かが保証する未来なんて、ありはしないと
 この目で見てきたのに、ルークは自分自身の幼稚な思い違いに気付かされ、呆然とした。
「必要なのは、ティアとその事を話して、どうするのか決める事。そして、その結果について二人で
 覚悟を決める事だ。そんな事もわからないでいて、結婚だの赤ん坊だのなんて言葉、チャラチャラ
 口にするな!」
 自分でもここまで責める様に言う事もないはずだ、と心の中では思っていてもガイはルークを叱責
 する事を止められなかった。
 あの旅で、自らを受け入れて成長したと思っていたルークがこんな風にティアとの事、自身の子供
 の事を考えていたという事に無性に腹が立って自制が効かなくなっている自分にも何故か腹が立っ
 たし、もっと注意深くルークの様子を見ていれば、早く気づいていればと自責の念にも駆られた。

「ガイ、御免・・・」
 一度たりとも見たことのない、苛立つガイの顔と投掛けられた言葉にルークも衝撃を受けていた。
 
 もう、間違いはしない。
 いや、間違ったとしても一人で逃げだしたりはしない。

「俺に言う前に、ティアに言ってやれって今言っただろう」
「うん。でも御免・・・じゃないな、有難うだ」
「――――全く、いつまでも世話の焼けるご主人様だな」
「頼むから、そのご主人様ってのだけは勘弁してくれよ」
 いつものガイだ、とルークが笑う。
 いつものルークだな、とガイは頷く。
「帰るか、バチカルに」
 言って、どちらからともなく手を差し出した。
「ああ。・・・いけね、日記もってくんの忘れちまってた。帰ったら書かないとだ」
「おいおい、もう必要ないんじゃないのか?」
「何だか習慣になっちまって・・・最近はティアも一緒につけてるんだぜ」
「そりゃまた、お熱い事で・・・」
 へへ、と人差し指で鼻を軽く掻こうとしてから、イテッ、と顔を小さく顰めるルーク。
「あってぇー・・・思いっきりブン殴ったろ、ガイ」
「一人だけ幸せになろうとする奴への罰だよ、罰」
「ひっでーなぁ」


 ホドの名残を見下ろすタタル渓谷に、アルビオールの軽やかな駆動音が響く。
 二機の晃翼は、夕日を受けながら大空へと舞い上がっていった。

 始まりの場所は、今はその軌跡を鮮やかに映し出していた。

 季節が巡り、また芽吹く花は、きっと強く咲き誇るだろう。


――――おしまい――――


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