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作品名 作者名 カップリング 作品発表日 作品保管日
Neoidealism 紫苑氏 ヴァン×リグレット 2005/12/31 2006/01/03

偉大なる我らが指導者よ。
預言に溺れし愚かな者に粛正を。
清浄なる美しき新世界に祝福を。
どうかその御手で。


 少女は最期かと思われた刹那にも、涙を堪えて気丈に立っていたそうだ。

 その図は想像に容易かった。
 あれは少女が初陣を飾ったその夜だったか。
 訓練場の片隅で唇を噛み締め、涙を堪えていた震える背を今も鮮明に記憶している。
 今でこそ教えを厳守し凛然と戦場に立っているが、元が人一倍繊細で脆い少女だ。
 無数の未来を奪い取り、踏み躙り、傷つける。
 その度に彼女はどれだけ苦悩し、その唇を噛み締めてきたのだろう。
 それが面識のない兵士相手ではなく、血を分けた無二の肉親となれば尚の事。
 今彼女の胸を支配するその苦しみたるや、如何ばかりのものか。
 ──進むべき道を違えた身で考えても、詮無き事だが。


「手間を掛けたな」
 聞き慣れた声が頭上から響いた時、ようやく自分の置かれた状況を思い出す事が出来た。
 回想していた少女と同じセルリアンブルーの瞳が、跪くリグレットの姿を捉える。
 それは穏やかさの奥に、揺るがない情熱を秘めた美しい瞳だ。
 久しく目にしたその瞳に見惚れそうになるが、リグレットは緩くかぶりを振ると視線を再び地面に移した。
「いえ。ご無事で何よりで御座いました」
 間近でその声を聞けることは、リグレットにとって何物にも代え難い喜びである。
 ぞくぞくと沸き上がる歓喜をそれでも口には出さず、心中で安堵の溜め息を吐く。
「まったく情けない話だ。レプリカの力を侮っていたとは言え、この私が…」
「喋ってはお体に障ります。近くにお休みになれる場所を確保してありますから、そちらに参りましょう」
 立ちあがり肩を貸そうと屈むリグレットを、ヴァンが片手で止める。
「問題ない。案内を頼む」
「…はっ」
 その姿は痛々しく、お世辞にも問題無いと言える様なものではないのだが。
 多少よろめきながらも、存外しっかりとした足取りで歩くヴァンから一歩下がって、リグレットも歩を進めた。

 複雑に入り組んだ造りのアブソーブゲート内部。
 初めこそ数多い仕掛けとゴーレムの群れに戸惑ったが、慣れてしまえばどうと言うことはない。
 深層部に迷い込まない限り、大事に至ることはないだろう。
 しばらく無言のまま歩いていた二人だったが、不意に口を開いたのはヴァンの方だった。
「お前の教え子は」
 語られるその話題に、一瞬だけ足が凍りつく。
「…益々お前に似てきた。泣くばかりだった娘が、強い目で私を睨み据えてな」
 ヴァンの中では懐古、憎悪、躊躇と言ったあらゆる感情が混在しているようだった。
 そんな複雑な面持ちで言われては、常に傍に侍るリグレットでさえ明確な答えを返しかねる。
「メシュティアリカ…」
 やがて精悍な横顔に苦渋の色が滲む。
 滅多に私情を表さないヴァンにこんな顔をさせるのは、後にも先にも少女…ティアだけなのだろう。
 それを思うと、羨望と醜い嫉妬に心が揺れた。
 ──どうかしている。
 ユリアの血を引く彼女の譜歌は強力であるし、そして他ならぬヴァンの妹だ。
 ヴァンが他人より甘い顔を見せるのは当然だろう。
 何より無駄な情は自らの首を絞めるだけだと、これまで散々説いてきたのは自分だと言うのに。
「閣下」
 だがヴァンを前にして無意識に発せられる声は、紛れもなく愚かな女のそれだった。
 そう自覚したリグレットは、男の広い背に向けて伸ばしかけた指をそっと引っ込める。
 その傍らにあるだけで、心臓は平時より速く脈を打つ。
 教団随一と誉れ高い射撃の腕前をもってしても、胸の奥で燻る欲望を打ち砕くことは出来ない。

 ──私はいつから、どうして、こんな。
 自らに向けた問い掛けの答えが、返されることはなかった。

「ティアの存在は我々にとって有益です。我等の理想を今一度説いて聞かせれば、必ず…」
「時間もない。差し伸べた手を振り払われた以上は、致し方あるまい」
「しかし」
 男はくつくつと肩を震わせて嗤い、リグレットを振り返る。
「かつてはあれを使って私を殺そうとした程だ。やはり出来の良い教え子は大切か?」
「いえ閣下、私は…」
「今更構わん。古い話だ」
 表情だけは辛うじて平静を保っていたが、指先の震えは止まらなかった。
「だが、あれは愚かにも我等ではなくレプリカを選んだ。いずれ障害になるのは目に見えている」
「…閣下にとっても、唯一の肉親でしょう」
「見逃す理由にはならない。例え同じ血が流れていようと、私の道を塞ぐなら只の敵だ」
 強い口調は自分に言い聞かせているようでもあった。
 他でもないヴァンにそう言われては、リグレットも無言で頷くしかない。
 そんなリグレットを一瞥すると、ヴァンは何の感慨も含まない声で静かに告げる。
「…殺せるか?」
 あの娘を。
 ――ずるい男だと思った。
 他のものならいざ知らず、今のこの世に眼前の男より大切だと思えるものは存在しない。
 短い逡巡の末に、リグレットは口を開く。
「閣下のご命令とあらば」

 転移装置で降下した先には、静かに広がる空間があった。
 床にはゴーレムの残骸がいくつか散らばっている。
 この事態を事前に見越したリグレットが、予め片付けておいたのだろうか。
 何にせよ、敵の居ない場所で休めることは今のヴァンにとって有難かった。
「定刻になれば迎えが参ります。それまではこちらでお休み下さい」
「ああ」
 言い終わる前に、ヴァンは力なく壁にもたれ掛かる。
 口では何とでも言えるが、やはりローレライを身の内に取り込んだ負担は大きいのだろう。
 リグレットは見ている事しか出来ない、自身の非力を嘆いた。

「お辛いのですか?」
「時が経てば順応する。今は我が身に取り込まれまいと、躍起になっているだけだ」
 取りつく島もない物言いに、リグレットは顔を伏せる。
 流れるユリアの血に、宿るローレライの力。
 元から常人ならぬ力の持ち主だったヴァンは今、その更に先へ到ろうとしている。
 哀れな人間達に救いを。
 腐り切った世界を新たに。
 全ては我等の悲願の為だ。
 ──だがそれが叶った時、果たして彼はまだ自分の手の届く場所に居るのだろうか。
 それは計画が現実味を帯びる度、リグレットの胸に去来する唯一の不安だった。
「……閣下」
 無礼を承知でそろりと近寄り、その逞しい脚を跨いで向きあう。
 ヴァンは微動だにしない。いや、今は動けないのか。
「…何だ?」
 代わりに真直ぐ見据えてくる青の瞳には、真摯な眼差しで応えた。
「一つだけ、お願いしたい儀が有ります」
「何だと聞いている」
「私を…閣下の物にして頂けませんか」
 ヴァンは少しだけ驚いた風であったが、やはり表情を変えようとはしない。
「笑わせる。お前も六神将も世界も、全ては既に私の手の内だ」
「ええ。いずれは全てがあなたの意のままに、頭を垂れる」
 だが、だからこそ。
「ならば私は、その手の中であなたに最も近い存在となる」
「…おま」
 反論の余地を与えぬように、眼前の唇を塞いだ。
 全く動かないヴァンの舌を自らの舌で絡めとり、蠢かす。
 静まり返る空間に、ぴちゃぴちゃと互いの唾液が絡む音が響いた。
「ん…む……っはぁっ…」
 長く塞いだ口を解放しても、ヴァンの呼吸は乱れていない。
 それ所か荒く胸を上下させるリグレットをよそに、余裕の笑みさえ寄越してみせる。
「…お前も所詮は、只の女だったと言う事か」


 リグレットは自ら着衣を脱ぎ捨てると、再びヴァンに向きあう形で脚を跨ぐ。
 剥き出しにされた肌は現役の戦士とは思えない程肌理が細く、白い。
 熟れた二つの膨らみはつんと上を向き、その裸身は教会の女神像を彷彿とさせた。
「…閣下」
 だがそんな肢体を前にしても、ヴァンの雄蕊が反応する気配はない。
 リグレットは萎えたソレを両手で包み込み、優しく扱き始める。
「手慣れたものだな」
「………」
「何処でこんな真似を覚えた?」
「…ん、んっ…」
 その内鈍い反応しか返さないそれに焦れたのか、そのまま顔を近づけて直接亀頭を口に含んだ。
 唾液を塗り込む様に、丁寧に舌を這わせていく。
「く…」
 背筋を走る感覚に、思わずヴァンがその表情を歪めた。
 下肢に埋まる金色の髪を掴み無言で止めるように促すが、リグレットは一向に止めようとしない。
 寧ろ勃ち上がり始めた事に嬉々とし、改めて両手を添えるとより深く咥え込む。
「んむっ…んぅ…」
「…嘗めるな」
「ぅんんっ…?!」
 そこで初めてヴァンが動きを見せた。
 躯の線に沿って移動していたヴァンの指が、高く掲げられたリグレットの下肢を捕える。
 双丘の狭間は触れられていないにも関わらず濡れそぼち、ひくりと戦慄いていた。
「ん、待っ…!」
 リグレットの制止は当然の如く却下され、人差し指と中指がナカに差し入れられた。
 鉤爪状に折り曲げた指でゆるゆると内部を弄られると、リグレットは堪らなくなる。
 指ではとてもじゃないが足りない。
 欲しいものはそう、もっと質量があって火傷しそうな程熱い──
「ぁっ、ああ…んっ!」
 リグレットは沸き上がる快感に思わず陰茎を零し、顔を伏せて喘いだ。
 見下すヴァンの顔が、さも愉快そうに歪められる。

「もう終わりか」
「ふぁ…ぅん…んっ」
 指がある一点に到達すると、リグレットはひどく甘い鳴き声を上げた。
 無意識だろうか、細い腰を緩く蠢かせて、そこに擦りつける様な動きも見せる。
「この程度では、到底満足出来んぞ」
 望むままぐ、ぐ、と緩急をつけて刺激してやれば、上がる嬌声がより大きなものになる。
 上にある膨らんだ肉芽にまで手を付けられては、もうリグレットに為す術はない。
 脳髄まで痺れる様な刺激に目を瞑った瞬間、意識が真っ白に染まった。
「あっあっ…や、止めっ、んぁあっ…!!」
 快感の頂きはすぐに訪れた。
 堪え難い感覚に躯がびくびくと跳ねる。
 溢れた愛液がヴァンの指とリグレットの脚を伝い落ち、床に染みを作った。
「はぁ……はっ…」
 リグレットは力の入らない躯を奮い立たせ、両腕を突っ張って起き上がる。
 途中でヴァンと視線がかち合ったが、唾液と先走りに濡れた唇を拭おうともせず妖艶に笑いかけた。
 充分に勃き上がったヴァン自身を満足気に指で一撫ですると、それを自ら濡れた秘部の入り口にあてがう。
「…迎えが来るのだろう?」
「心配、には…及びません…」
 ──もうすぐ終わる。
 ヴァンの両肩に手をつき力を抜くと、その太く長い陰茎がずぷりと音を立てて侵入ってきた。
 えも言えぬ感覚に膣全体が疼き、甘く緩む。
「ふ…あぁああっ…!!」
「…くっ」
「ぁっ…あ、あ…」
 だがやはり下肢に力が入らず、リグレットは上体を支えるだけで精一杯だった。
 息は荒く、瞳は潤んでいる。
 やがて挿れただけで動けなくなったリグレットに、焦れたヴァンの方から腰を揺すり始める。
「どうした…そのままで居るつもりか」
「ぅあっ!っぁあっ…や…っ」
 だんだんと激しくなる上下の抽挿に、リグレットの豊満な胸がぷるぷると揺れる。
 ヴァンは顔を伸ばし、すっかり硬くなった頂きを唇で挟んだ。
「ひぁっ?!」
 途端に膣内の締めつけがきつくなった。
 だがヴァンは全く怯まず、肉茎の差し引きは強くなるばかりだ。
 乳房を吸われる音と二人分の体液が混ざる音が、聴覚を更に刺激する。
 何より余裕を失ったヴァンの顔は、リグレットにこれ以上無い悦びを与えた。
 リグレットの興奮と官能は高まるばかりで、止まる所を知らない。
「駄、目…っああっ…かっ、か…閣下ぁっ!!」
「う、ぐ…抜くぞ…っ」
「や…閣下、わ…私のっ…中…にぃ…っ!」
 リグレットは、達する寸前で腰を引こうとするヴァンに必死で抗う。
 脚を更に折り曲げ、益々深くヴァン自身を飲み込んだ。
「ぐぅっ…貴、様…!」
「ぁあっ…閣、下…私にっ…あなたを…っ!!」
 リグレットは無我夢中でヴァンの頭を掻き抱くと、背をしならせて絶頂を迎えた。

 リグレットは気怠い躯を懸命に起こして、皺くちゃになった服を拾い上げた。
 対照的にヴァンの衣服は殆ど乱れておらず、正す必要も無い様だった為、一人だけ後ろを向いて再び衣服を身に着ける。
 淫らな音と喘ぎ声で満たされていた空間には、最初よりも重い沈黙が落ちる。
 今はリグレットが服を纏う衣擦れの音がするばかりだ。
 ──果たしてこれで良かったのだろうか。
 望んだ男の性を得て熱の冷めやらぬ性器と違い、頭はすっかり醒め切っている。
 愛されるティアに嫉妬して。
 或いは間近に迫る決戦を控えて昂ぶっていた、なんて言い訳になるものか。
「申し訳有りません。副官にあるまじき暴挙でした」
「理解しているなら、始めから仕掛けるな。平時ならば殺している所だ」
「…申し訳有りません」
 上層が先程より騒がしくなり、ようやく迎えの部隊が来たらしい事が分かる。
「来たか」
「はい。参りましょう」
 俯くリグレットは変わらず無表情だが、心なしか目尻が潤んでいる。
 ヴァンはその顔をちらりと一瞥しただけで反応は示さず、リグレットの手を借りずに転移装置へ歩み寄った。
「…近い内に、預言の呪いから解放される日が来るのですね」
「ああ」
「私が閣下のお傍に居る理由も…無くなる」
 そこで初めてヴァンが足を止めた。
 だがリグレットはそれに気付かず、自嘲する様に続ける。
「最後に思い出が欲しかったなどと、言う柄では無いのに。これでは良い笑い草だ」
「馬鹿な事を」
「…は」
 一言で一蹴されたリグレットが、目を丸くした。
「お前は私の手の内にあると言った。ある以上は、勝手に離れるなど許さん」
「し、しかし!」
「くどいぞ。お前の意思など聞いてはいない」
 ヴァンは有無を言わさずに言い捨てると、そのまま転移装置に乗り一人で先に浮上する。
 残されたリグレットはしばし茫然としていたが、やがてヴァンの言葉を反芻し、飲み込んだ。

「…気難しい男だ」
 だが心底呆れた風に呟く口の端に笑みが上っていた事を、彼女は知らない。
 ──願わくば、この先もずっとあなたの傍に。
 ヴァンを追って光り輝く転移装置の中央に乗ると、リグレットは静かに双眸を閉じる。

 愛する男の望んだ、まだ見ぬ世界を夢見て。


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