総合トップ>SS一覧>SS No.4-089
作品名 |
作者名 |
カップリング |
作品発表日 |
作品保管日 |
Neoidealism |
紫苑氏 |
ヴァン×リグレット |
2005/12/31 |
2006/01/03 |
偉大なる我らが指導者よ。
預言に溺れし愚かな者に粛正を。
清浄なる美しき新世界に祝福を。
どうかその御手で。
少女は最期かと思われた刹那にも、涙を堪えて気丈に立っていたそうだ。
その図は想像に容易かった。
あれは少女が初陣を飾ったその夜だったか。
訓練場の片隅で唇を噛み締め、涙を堪えていた震える背を今も鮮明に記憶している。
今でこそ教えを厳守し凛然と戦場に立っているが、元が人一倍繊細で脆い少女だ。
無数の未来を奪い取り、踏み躙り、傷つける。
その度に彼女はどれだけ苦悩し、その唇を噛み締めてきたのだろう。
それが面識のない兵士相手ではなく、血を分けた無二の肉親となれば尚の事。
今彼女の胸を支配するその苦しみたるや、如何ばかりのものか。
──進むべき道を違えた身で考えても、詮無き事だが。
「手間を掛けたな」
聞き慣れた声が頭上から響いた時、ようやく自分の置かれた状況を思い出す事が出来た。
回想していた少女と同じセルリアンブルーの瞳が、跪くリグレットの姿を捉える。
それは穏やかさの奥に、揺るがない情熱を秘めた美しい瞳だ。
久しく目にしたその瞳に見惚れそうになるが、リグレットは緩くかぶりを振ると視線を再び地面に移した。
「いえ。ご無事で何よりで御座いました」
間近でその声を聞けることは、リグレットにとって何物にも代え難い喜びである。
ぞくぞくと沸き上がる歓喜をそれでも口には出さず、心中で安堵の溜め息を吐く。
「まったく情けない話だ。レプリカの力を侮っていたとは言え、この私が…」
「喋ってはお体に障ります。近くにお休みになれる場所を確保してありますから、そちらに参りましょう」
立ちあがり肩を貸そうと屈むリグレットを、ヴァンが片手で止める。
「問題ない。案内を頼む」
「…はっ」
その姿は痛々しく、お世辞にも問題無いと言える様なものではないのだが。
多少よろめきながらも、存外しっかりとした足取りで歩くヴァンから一歩下がって、リグレットも歩を進めた。
複雑に入り組んだ造りのアブソーブゲート内部。
初めこそ数多い仕掛けとゴーレムの群れに戸惑ったが、慣れてしまえばどうと言うことはない。
深層部に迷い込まない限り、大事に至ることはないだろう。
しばらく無言のまま歩いていた二人だったが、不意に口を開いたのはヴァンの方だった。
「お前の教え子は」
語られるその話題に、一瞬だけ足が凍りつく。
「…益々お前に似てきた。泣くばかりだった娘が、強い目で私を睨み据えてな」
ヴァンの中では懐古、憎悪、躊躇と言ったあらゆる感情が混在しているようだった。
そんな複雑な面持ちで言われては、常に傍に侍るリグレットでさえ明確な答えを返しかねる。
「メシュティアリカ…」
やがて精悍な横顔に苦渋の色が滲む。
滅多に私情を表さないヴァンにこんな顔をさせるのは、後にも先にも少女…ティアだけなのだろう。
それを思うと、羨望と醜い嫉妬に心が揺れた。
──どうかしている。
ユリアの血を引く彼女の譜歌は強力であるし、そして他ならぬヴァンの妹だ。
ヴァンが他人より甘い顔を見せるのは当然だろう。
何より無駄な情は自らの首を絞めるだけだと、これまで散々説いてきたのは自分だと言うのに。
「閣下」
だがヴァンを前にして無意識に発せられる声は、紛れもなく愚かな女のそれだった。
そう自覚したリグレットは、男の広い背に向けて伸ばしかけた指をそっと引っ込める。
その傍らにあるだけで、心臓は平時より速く脈を打つ。
教団随一と誉れ高い射撃の腕前をもってしても、胸の奥で燻る欲望を打ち砕くことは出来ない。
──私はいつから、どうして、こんな。
自らに向けた問い掛けの答えが、返されることはなかった。
「ティアの存在は我々にとって有益です。我等の理想を今一度説いて聞かせれば、必ず…」
「時間もない。差し伸べた手を振り払われた以上は、致し方あるまい」
「しかし」
男はくつくつと肩を震わせて嗤い、リグレットを振り返る。
「かつてはあれを使って私を殺そうとした程だ。やはり出来の良い教え子は大切か?」
「いえ閣下、私は…」
「今更構わん。古い話だ」
表情だけは辛うじて平静を保っていたが、指先の震えは止まらなかった。
「だが、あれは愚かにも我等ではなくレプリカを選んだ。いずれ障害になるのは目に見えている」
「…閣下にとっても、唯一の肉親でしょう」
「見逃す理由にはならない。例え同じ血が流れていようと、私の道を塞ぐなら只の敵だ」
強い口調は自分に言い聞かせているようでもあった。
他でもないヴァンにそう言われては、リグレットも無言で頷くしかない。
そんなリグレットを一瞥すると、ヴァンは何の感慨も含まない声で静かに告げる。
「…殺せるか?」
あの娘を。
――ずるい男だと思った。
他のものならいざ知らず、今のこの世に眼前の男より大切だと思えるものは存在しない。
短い逡巡の末に、リグレットは口を開く。
「閣下のご命令とあらば」
転移装置で降下した先には、静かに広がる空間があった。
床にはゴーレムの残骸がいくつか散らばっている。
この事態を事前に見越したリグレットが、予め片付けておいたのだろうか。
何にせよ、敵の居ない場所で休めることは今のヴァンにとって有難かった。
「定刻になれば迎えが参ります。それまではこちらでお休み下さい」
「ああ」
言い終わる前に、ヴァンは力なく壁にもたれ掛かる。
口では何とでも言えるが、やはりローレライを身の内に取り込んだ負担は大きいのだろう。
リグレットは見ている事しか出来ない、自身の非力を嘆いた。
「お辛いのですか?」
「時が経てば順応する。今は我が身に取り込まれまいと、躍起になっているだけだ」
取りつく島もない物言いに、リグレットは顔を伏せる。
流れるユリアの血に、宿るローレライの力。
元から常人ならぬ力の持ち主だったヴァンは今、その更に先へ到ろうとしている。
哀れな人間達に救いを。
腐り切った世界を新たに。
全ては我等の悲願の為だ。
──だがそれが叶った時、果たして彼はまだ自分の手の届く場所に居るのだろうか。
それは計画が現実味を帯びる度、リグレットの胸に去来する唯一の不安だった。
「……閣下」
無礼を承知でそろりと近寄り、その逞しい脚を跨いで向きあう。
ヴァンは微動だにしない。いや、今は動けないのか。
「…何だ?」
代わりに真直ぐ見据えてくる青の瞳には、真摯な眼差しで応えた。
「一つだけ、お願いしたい儀が有ります」
「何だと聞いている」
「私を…閣下の物にして頂けませんか」
ヴァンは少しだけ驚いた風であったが、やはり表情を変えようとはしない。
「笑わせる。お前も六神将も世界も、全ては既に私の手の内だ」
「ええ。いずれは全てがあなたの意のままに、頭を垂れる」
だが、だからこそ。
「ならば私は、その手の中であなたに最も近い存在となる」
「…おま」
反論の余地を与えぬように、眼前の唇を塞いだ。
全く動かないヴァンの舌を自らの舌で絡めとり、蠢かす。
静まり返る空間に、ぴちゃぴちゃと互いの唾液が絡む音が響いた。
「ん…む……っはぁっ…」
長く塞いだ口を解放しても、ヴァンの呼吸は乱れていない。
それ所か荒く胸を上下させるリグレットをよそに、余裕の笑みさえ寄越してみせる。
「…お前も所詮は、只の女だったと言う事か」
リグレットは自ら着衣を脱ぎ捨てると、再びヴァンに向きあう形で脚を跨ぐ。
剥き出しにされた肌は現役の戦士とは思えない程肌理が細く、白い。
熟れた二つの膨らみはつんと上を向き、その裸身は教会の女神像を彷彿とさせた。
「…閣下」
だがそんな肢体を前にしても、ヴァンの雄蕊が反応する気配はない。
リグレットは萎えたソレを両手で包み込み、優しく扱き始める。
「手慣れたものだな」
「………」
「何処でこんな真似を覚えた?」
「…ん、んっ…」
その内鈍い反応しか返さないそれに焦れたのか、そのまま顔を近づけて直接亀頭を口に含んだ。
唾液を塗り込む様に、丁寧に舌を這わせていく。
「く…」
背筋を走る感覚に、思わずヴァンがその表情を歪めた。
下肢に埋まる金色の髪を掴み無言で止めるように促すが、リグレットは一向に止めようとしない。
寧ろ勃ち上がり始めた事に嬉々とし、改めて両手を添えるとより深く咥え込む。
「んむっ…んぅ…」
「…嘗めるな」
「ぅんんっ…?!」
そこで初めてヴァンが動きを見せた。
躯の線に沿って移動していたヴァンの指が、高く掲げられたリグレットの下肢を捕える。
双丘の狭間は触れられていないにも関わらず濡れそぼち、ひくりと戦慄いていた。
「ん、待っ…!」
リグレットの制止は当然の如く却下され、人差し指と中指がナカに差し入れられた。
鉤爪状に折り曲げた指でゆるゆると内部を弄られると、リグレットは堪らなくなる。
指ではとてもじゃないが足りない。
欲しいものはそう、もっと質量があって火傷しそうな程熱い──
「ぁっ、ああ…んっ!」
リグレットは沸き上がる快感に思わず陰茎を零し、顔を伏せて喘いだ。
見下すヴァンの顔が、さも愉快そうに歪められる。
「もう終わりか」
「ふぁ…ぅん…んっ」
指がある一点に到達すると、リグレットはひどく甘い鳴き声を上げた。
無意識だろうか、細い腰を緩く蠢かせて、そこに擦りつける様な動きも見せる。
「この程度では、到底満足出来んぞ」
望むままぐ、ぐ、と緩急をつけて刺激してやれば、上がる嬌声がより大きなものになる。
上にある膨らんだ肉芽にまで手を付けられては、もうリグレットに為す術はない。
脳髄まで痺れる様な刺激に目を瞑った瞬間、意識が真っ白に染まった。
「あっあっ…や、止めっ、んぁあっ…!!」
快感の頂きはすぐに訪れた。
堪え難い感覚に躯がびくびくと跳ねる。
溢れた愛液がヴァンの指とリグレットの脚を伝い落ち、床に染みを作った。
「はぁ……はっ…」
リグレットは力の入らない躯を奮い立たせ、両腕を突っ張って起き上がる。
途中でヴァンと視線がかち合ったが、唾液と先走りに濡れた唇を拭おうともせず妖艶に笑いかけた。
充分に勃き上がったヴァン自身を満足気に指で一撫ですると、それを自ら濡れた秘部の入り口にあてがう。
「…迎えが来るのだろう?」
「心配、には…及びません…」
──もうすぐ終わる。
ヴァンの両肩に手をつき力を抜くと、その太く長い陰茎がずぷりと音を立てて侵入ってきた。
えも言えぬ感覚に膣全体が疼き、甘く緩む。
「ふ…あぁああっ…!!」
「…くっ」
「ぁっ…あ、あ…」
だがやはり下肢に力が入らず、リグレットは上体を支えるだけで精一杯だった。
息は荒く、瞳は潤んでいる。
やがて挿れただけで動けなくなったリグレットに、焦れたヴァンの方から腰を揺すり始める。
「どうした…そのままで居るつもりか」
「ぅあっ!っぁあっ…や…っ」
だんだんと激しくなる上下の抽挿に、リグレットの豊満な胸がぷるぷると揺れる。
ヴァンは顔を伸ばし、すっかり硬くなった頂きを唇で挟んだ。
「ひぁっ?!」
途端に膣内の締めつけがきつくなった。
だがヴァンは全く怯まず、肉茎の差し引きは強くなるばかりだ。
乳房を吸われる音と二人分の体液が混ざる音が、聴覚を更に刺激する。
何より余裕を失ったヴァンの顔は、リグレットにこれ以上無い悦びを与えた。
リグレットの興奮と官能は高まるばかりで、止まる所を知らない。
「駄、目…っああっ…かっ、か…閣下ぁっ!!」
「う、ぐ…抜くぞ…っ」
「や…閣下、わ…私のっ…中…にぃ…っ!」
リグレットは、達する寸前で腰を引こうとするヴァンに必死で抗う。
脚を更に折り曲げ、益々深くヴァン自身を飲み込んだ。
「ぐぅっ…貴、様…!」
「ぁあっ…閣、下…私にっ…あなたを…っ!!」
リグレットは無我夢中でヴァンの頭を掻き抱くと、背をしならせて絶頂を迎えた。
リグレットは気怠い躯を懸命に起こして、皺くちゃになった服を拾い上げた。
対照的にヴァンの衣服は殆ど乱れておらず、正す必要も無い様だった為、一人だけ後ろを向いて再び衣服を身に着ける。
淫らな音と喘ぎ声で満たされていた空間には、最初よりも重い沈黙が落ちる。
今はリグレットが服を纏う衣擦れの音がするばかりだ。
──果たしてこれで良かったのだろうか。
望んだ男の性を得て熱の冷めやらぬ性器と違い、頭はすっかり醒め切っている。
愛されるティアに嫉妬して。
或いは間近に迫る決戦を控えて昂ぶっていた、なんて言い訳になるものか。
「申し訳有りません。副官にあるまじき暴挙でした」
「理解しているなら、始めから仕掛けるな。平時ならば殺している所だ」
「…申し訳有りません」
上層が先程より騒がしくなり、ようやく迎えの部隊が来たらしい事が分かる。
「来たか」
「はい。参りましょう」
俯くリグレットは変わらず無表情だが、心なしか目尻が潤んでいる。
ヴァンはその顔をちらりと一瞥しただけで反応は示さず、リグレットの手を借りずに転移装置へ歩み寄った。
「…近い内に、預言の呪いから解放される日が来るのですね」
「ああ」
「私が閣下のお傍に居る理由も…無くなる」
そこで初めてヴァンが足を止めた。
だがリグレットはそれに気付かず、自嘲する様に続ける。
「最後に思い出が欲しかったなどと、言う柄では無いのに。これでは良い笑い草だ」
「馬鹿な事を」
「…は」
一言で一蹴されたリグレットが、目を丸くした。
「お前は私の手の内にあると言った。ある以上は、勝手に離れるなど許さん」
「し、しかし!」
「くどいぞ。お前の意思など聞いてはいない」
ヴァンは有無を言わさずに言い捨てると、そのまま転移装置に乗り一人で先に浮上する。
残されたリグレットはしばし茫然としていたが、やがてヴァンの言葉を反芻し、飲み込んだ。
「…気難しい男だ」
だが心底呆れた風に呟く口の端に笑みが上っていた事を、彼女は知らない。
──願わくば、この先もずっとあなたの傍に。
ヴァンを追って光り輝く転移装置の中央に乗ると、リグレットは静かに双眸を閉じる。
愛する男の望んだ、まだ見ぬ世界を夢見て。
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