総合トップ>SS一覧>SS No.4-078
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作品発表日 |
作品保管日 |
約束 |
鶏氏 |
ルーク×ティア |
2005/12/24 |
2005/12/30 |
―――――懐かしい歌が、聞こえた。
綺麗な声で紡がれる旋律。
詠っているのは、誰だろう。
いや―――覚えている・・・そうだ、俺は知っているじゃないか。
そうだ、そうだろう?ルーク・フォン・ファブレ。
忘れることなんて出来やしない。
忘れることなんて絶対ありえない。
詠っているのは、俺の、大切な人だから―――――。
―――銀色に照らされた彼女が、茫然と俺を見ていた。
それで、俺という存在に与えられた時間が、また動き出したんだと気付く。
そうだ。
俺は、生きているんだ。
俺は、帰ってきたんだ。
「・・・・・・待ってた。ずっとずっと、ずっと・・・待ってた・・・!」
「・・・うん。ごめん、ティア」
「ばか・・・!」
掠れたような声―――初めて見せてくれた顔で、彼女はすがりつくように俺を抱きしめた。
「ルーク、ルーク・・・!ルークッ・・・・・・!」
「・・・ティア。約束、果たせたよ。ローレライとの約束も、みんなのところに帰って来るって約束も」
「―――うん・・・よかった、本当に・・・本当に・・・!」
それきり、ティアは嗚咽を殺して泣き続けた・・・俺の前で、初めて、泣いてくれた。
俺はもうそれを止めることもしないで、いつかアニスたちに言われたように、華奢な身体をそっと抱きしめる。
―――長い間待たせてしまったという、その重罪の償いも込めて。
「ねぇ・・・大佐ぁ。アレ、ほんっとーにルークかなぁ?すっごい大人な対応しちゃってるよ・・・?」
「どうでしょう?見かけだけなら確かにルークですが・・・私も疑ってしまいそうですね」
「・・・アンタら、もうちょっと素直に喜べよ。にしても・・・ホント良かったな、ティア。ルーク」
「・・・ルーク・・・・・・アッシュ・・・」
・・・しばらくして、胸の中の嗚咽は静まった。
大丈夫か?と声をかけると、ええ、といつもと変わらない語気で言葉が返ってきた。
「おーい、お二人さーん!いいトコ邪魔しちゃって悪いけど、そろそろ危ないから帰ろうだとさ!!」
「「っ!!?」」
―――と、そこで静寂をぶち壊す景気のいい声が渓谷中に響き渡る。
「ティーアー!続きはユリアシティなり、バチカルなりで楽しんじゃってねぇー!!」
「あ、あ、アニスっ!!ば、馬鹿なこと言わないでっ!!」
「では、邪魔者はさっさと引き上げましょう。あ、アルビオールお貸ししますね。『ガイア』から降ろしておきますから」
「・・・ティア、ルーク・・・・・・よい夜を、お過ごしくださいませね」
それぞれが好き勝手に、しかも言うが早いか、四人は脱兎の如く去っていった。
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・は、は」
ティアは顔を真っ赤にして俯いてしまって。
一方、俺は乾いた苦笑いしか出てこなかった。
それから少し、間が空いて―――ティアのため息が沈黙を破るきっかけになった。
「・・・みんなの言うとおり、夜の渓谷は危険だわ。行きましょう、ルーク」
「あ、あぁ・・・でも、どこに?」
「・・・・・・ユリアシティでいいかしら?」
「ユリアシティか。わかった、行こう・・・ところでティア。『ガイア』ってなんだ?」
「ええと、確かタルタロスの後継機だそうよ。タルタロスに負けず劣らずの、立派な艦だったわ」
「へーぇ。っつーかなんでこんなとこに、そんなご大層なモンを・・・」
「・・・さぁ?それより、早くここを出ましょう」
「あぁ、そうだな」
三度目のタタル渓谷は、あの夜から何も変わってはいなかった。
でも。
俺たちは、あの夜から多くのことを経験し、悩み、苦しみ、その果てに多くのモノを得た。
―――・・・ティアに対して抱いている、これも・・・きっと、そのうちのひとつだろう。
それを意識した途端、急に気恥ずかしくなって言葉が出なくなった。
深夜のユリアシティは、申し訳程度の明かりで俺たちを迎えた。
人気も無く、聞こえるのは、カツン、カツンという足音だけ。
―――気まずい。何か、何でもいいから話をしたい。
話したいことはあったはず。
・・・けれど、そうやって考えれば考える程、俺の口は錆び付くばかりで開きはしない。
結局、どちらも何も話すことなく、いつの間にかティアの家に着いてしまっていた。
久しぶりのティアの家は、やっぱり相変わらずだった。
どこか殺風景な印象の、飾り気のない家。
そしてそれは、ティアの部屋でも同じだった。
・・・クローゼットの上に、赤髪のトクナガらしき人形があるのは・・・・・・いや、見なかったことにしよう。
「ルーク・・・こっちに、来て」
ようやく口を開いたティアは、そう言って奥への扉を開ける。
そこは銀色の花が咲く部屋。
俺が髪を切って『変わってみせる』と誓いを立てた場所。
・・・いつか見た剣―――恐らく、あれは師匠の墓標―――の前に立ち、ティアは外を見る。
タタル渓谷と同じような空間。夜風にティアの長い髪が微かに揺れる。
「ルーク。あなたは変わったわ。あの日からずっと、あなたを見てきたけれど・・・。
自信を持っていい。胸を張っていい。あなたは、ちゃんと変われた。私はそう思ってる」
こちらを見ずに、まるで独り言のようにティアはそう呟いた。
あぁ―――――やっと。やっと俺は、ティアに認められた。
そう思うと、なんとも言えない感情が込み上げてきた。
なにか、嬉しさと気恥ずかしさがない交ぜになったような。
ちょうど、あの音素学の勉強を終えた時の様な、そんな感じ。
「・・・ありがとう、ティア。こんな俺のこと、ずっと見ててくれて」
「ううん・・・・・・・・・も・・・・・・っちゃった・・・」
「え?」
「―――もう、なくなっちゃった・・・!」
空気を一変させる、銀の夜を震え上がらせる、突然の叫び。
ただその声が震えて掠れているのが、分かってしまって。
「あなたを見守ることが、私とあなたを繋いでいた特別な理由だったでしょ?
でも、それももう必要なくなった。だから、私とあなたは、もう、ただの・・・・・・―――――」
―――共に戦った仲間、でしかない。
そしてそれは、これからの時を一緒に居る理由には、成り得ない。
「ティア・・・」
「でも、そんなの・・・・・・私は・・・!
―――――あなたが好きだってことを、もう、嫌って程に、自分で・・・分かっ、ちゃって・・・!」
振り返って、ティアは告げた。頬に一条の輝きを伝えながら。
あぁ。
初めてその胸の内を―――強がりじゃない、本当を―――見せてくれた。
―――・・・あのときの言葉は、幻聴じゃなかったんだ。
そんな幸せな確信を抱いて、俺はティアとの距離を詰める。
一歩、また一歩、やがてゼロになるまで。
「・・・まさか、先に言われるなんて思わなかった」
「え・・・」
「その、好きだ・・・って。こういうのは男が先に言うもんだぞ、っていつかガイが言ってたからさ。
だから、俺が先に言おうと思ってたのに・・・」
「ルー―――きゃっ!?」
今度は、自分からティアを強く抱きしめる。
理性からの行動じゃなくて、ただ、そうしたいという想いに駆られたから。
・・・本当に細いこの身体に、いったいどれだけの辛さを仕舞い込んでいたんだろうか。
―――それを考えると、より一層強く抱きしめたい想いに駆られる。
「おまえさ、ナタリアに言っただろ?
『理屈じゃなくて、流されることで得る答えもある』・・・って、そんなようなコトをさ」
「!・・・き、聞いてたの?」
「ごめん、そんなつもりじゃなかったんだけどさ。
・・・・・・俺たちが一緒に居ることに、理屈めいた理由なんて必要なのか?
『一緒に居たい』っていう、その想いに流されちゃ駄目なのか?」
お互いが一緒に居たい、そう望んでいるのなら―――それは理由にならないのか?
「・・・好きだ、ティア。伯父上や父上がなんと言おうと、俺は、おまえと一緒に居たい」
「・・・!」
それから、互いの距離が完全にゼロになるのに、なんの疑念も不安も恥じらいもなかった。
ただ―――ティアの唇は冷たいな。なんて、そんなことを思った。
―――ヴァン師匠。
あなたの大切な妹・・・メシュティアリカは、あなたが認めようとしなかった『愚かなレプリカルーク』を、認めてくれました。
だから、あなたの代わりにというワケではないけれど・・・ティアは、俺が護ります。
俺という存在に与えられた時間が停止する、その時まで。
ずっと、ずっと・・・ずっと。
『いいか、ルーク。いつかおまえの前にも"運命の女性"が現れるだろう。
・・・それは許婚のナタリア殿下なのかもしれないし、そうじゃないかもしれない。
まぁ、いずれにせよ知っておかなきゃいけないことがある。もしナタリア殿下だったら・・・尚更、だがな。
俺が教えられるのは紙の上での知識だけだが、無いよりかマシだろう』
『・・・・・・で?なんだよ、その知っておかなきゃいけないことってのはよ?』
『それはな――――――――――』
・・・あの頃は剣術の稽古に熱中してたせいで、ロクに聞いてなかったような気がする。
そしたらガイに本気で怒られたっけ。俺もまだ馬鹿だったから、言い争いで終わらずについ手を出してしまった。
もっとも、その後は父上にすごい剣幕で叱られたな・・・俺だけ。
「・・・ルーク?」
「―――ぁ。な、なんだ?」
「どうしたの?ぼーっとして・・・」
っと、マズい。つい思い出に浸ってしまっていた。
「いや、なんでもないよ」
そう取り繕って我に返り、今、自分が置かれている状況を改めて理解する。
ティアの部屋、俺とティアの二人きり。
ティアはベッドに腰掛けて、俺は居場所もないかのように立っている。
交わす言葉もないまま。
ついさっき、互いに好きだと言って、そのせいかティアの頬は上気している。
無意識だからこそ、ひどく扇情的なそれ。見るだけで、全身の体温が跳ね上がるような錯覚。
何かを言おうにも、口が渇いて、声がうまく出ない。
・・・ガイやアッシュなら、こんなことにはならないんだろうか。
「ルーク・・・その、えっと・・・・・・」
ティアも俺と同じみたいで、何かを言いにくそうにもごもごしている。
その顔はやっぱり真っ赤で、それだけで本当に俺を昂らせる。
でも、だから余計に言葉が出せない。もう何度目かも分からない、気まずい時間―――――。
『―――いい加減覚悟を決めろ、臆病者!惚れた女一人も抱けねぇのか、この屑が!!』
「え―――?」
ガン、と鈍器で殴られたみたいな衝撃。
内側から俺を罵倒する、懐かしい怒号。
その声に記憶を揺り起こそうとして、止めた。
・・・今見るべきは、感じるべきは、この見えない存在じゃない。
「俺でいいのか?ティア」
「ぇ・・・?」
どこか呆けた様子のティアに、俺は大げさに上着を投げ捨てる。
バキンッという剣と床の衝突音に、ティアの表情が少し強張る。
「血塗れの・・・この、ルーク・フォン・ファブレに抱かれて、本当にいいのか?」
「ルーク・・・」
ティアの表情に、翳が過ぎる。
でも、それは一瞬。すぐにいつもの表情で。
「私たちは仲間だから、いくつも同じものを背負ってきた。だからあなたの手が血塗れというのなら、この手も同じ。
でも・・・・・・あなたは、いいの?私なんかで・・・本当に、後悔しない?」
―――・・・はは。
なんだ、なんて幸せな馬鹿馬鹿しさだろう。
お互いに想っているのに、引いているなんて。どちらかがほんの少し押すだけで、ぜんぶ綺麗に片付くじゃないか。
なら、もう、臆病になることはない。
「・・・その。上手く出来ないだろうけど、さ。出来るだけ、優しく・・・する、から」
「ぁ―――・・・最初なんて、誰でも上手に出来ないわよ。だから、少しずつでも覚えていけば・・・ね?」
その言葉と微笑が、一線を踏み越える合図だった。
「んっ・・・」
ひとつキスを交わして、覆い被さるようにしてティアをベッドに寝かせる。
それからまた、長いキス。息が切れそうになったら、少しだけ離して、それでもまたくっついて。
「は、ぁっ・・・ん・・・」
零れる息遣いが、ひどく甘い。その甘さは耳から入り込んで、俺を冒す毒になる。
この空間も、俺の思考も、どんどんと染まっていく。
「ひゃあっ!」
長いキスから解放して、右手をそっと胸にあてがう。
旅の間、何度か話のネタにされた・・・この、メロンみたいな胸。
服越しからでも、信じられない程に柔らかくて、何度も何度も揉みしだく。
「ん、ぁっ・・・ルー、ク・・・」
「ティア・・・すっげ、可愛い」
その度に返ってくる嬌声。俺が犯しているはずなのに、俺は今、確実に冒されている。
続ける。指で、掌で豊かな膨らみを弄ぶ。飽きることの無い独り遊びを繰り返す子供のように。
「ぁ、ぁっ・・・はあ、はぁっ・・・!」
けれど、そろそろ違う刺激が欲しいと思う心が芽生えてくる。
何度触れても飽きそうにない感触だけど、そればっかりが目的じゃない。
「ティア・・・悪ぃんだけど、その」
「ぁ―――ぇ・・・どう、したの・・・?」
「・・・脱いで、くれる・・・か?」
「っ―――――!!」
たたでさえ紅潮していた頬が、さらに色濃く染まる。
無理もないと思う。本当なら脱がしてやりたいんだけど、この教団の服は、どういう構造なのかイマイチ分からない。
「・・・わ、分かったわ。でも・・・」
「お、俺、あっち向いてるからっ」
組み敷いていたティアから離れて、背を向けて下を見る。
それはティアを気遣うというより、自分が恥ずかしさに耐えられそうにないと思ったから。
・・・・・・恥ずかしいのはティアのはずなのに、どうしてそう思ってしまうのか。
する、ばさり、と衣擦れの音が聞こえる。そのひとつひとつに、息を呑むような昂ぶりが湧いてくる。
「・・・いいわよ、ルーク」
「あ、うん―――――」
ぺたり、と座り込んでいたティアは、本当にぜんぶ脱ぎ去っていた。
そのひどく白い身体は、ただ綺麗だと。安い飾りかもしれないけど、本当にそうとしか言えなかった。
手で触れるのですら躊躇ってしまいそうになるくらいに、それくらいに、美しかった。
「・・・・・・・・・」
「ぁ・・・ティア。すごく、綺麗だ」
豊かな胸を隠すよう組んだ腕に触れて、ゆっくりと、またティアを押し倒す。
―――今度は、なんの邪魔もない。そっと、さらけ出された胸に触れてみる。
「ひぁっ!」
びくっ、とティアの身体が跳ねる。それをあえて無視して、今度は少し乱暴に鷲掴み。
「っあぅ!ゃ、ぁ・・・っ」
服越しでも十分だと思っていたのに、それを軽く凌駕する本当の柔らかさ。
その感触と、悶えるような喘ぎが、俺の理性を激しく削り取っていく。
「・・・本当に、可愛い」
「ふぁ!?ゃ、ルー・・・ッ!!」
今度は手に加えて、唇を、そして舌を胸の頂に当てる。
舌先でつつき、転がす。もう片方は指でつついたり、きゅっと力を入れてみたり。
「んっ、はぁっ・・・!や、め・・・あぁっ!」
やめて、と言いたいんだろうそれですら、今は逆に加速させる言葉でしかない。
絶え絶えの嬌声と息遣い、潤んだ瞳と紅潮した頬が俺を駆り立てる。もっと、もっと、もっと。
その想いに突き動かされるままに―――すっ、と右手を下ろしていく。
無駄のない身体をゆるゆると撫でて、鳴き声を奏でさせながら、ゆっくりと、大切なトコロに指を当てる。
「っわ・・・熱。なんか、濡れて・・・」
「っ〜〜〜・・・ルークッ!ヘンなこと言わないで、ばかっ―――――ふあっ!?」
つぷ、と人差し指で軽く突くだけで、今までよりも激しい反応。
痛かったか、と尋ねると、ティアは黙って首を横に振った。
「〜〜・・・っぁ、はぁ、ああっ・・・!」
火傷しそうな熱を包む、ティアの秘所を慎重に弄ぶ。
端から見れば拙いであろうそれでも、俺たち二人には十分過ぎる行為。
擦るように、でも、時々は熱の中に指先を埋めてみたり。
「はぁ、あぁっ、ん、はぁっ・・・!!」
その喘ぎ声に比例するかのように、指先に触れる液体が増してくる。
くちゅ、くちゅ・・・互いの息遣いと、その音だけが無機質な部屋に響く。
零れてくる液体は粘性を持っているせいで、擦れる度に鳴る水音は、まるで卑猥の象徴のようで。
自分のアタマが、熱に浮くのを―――――。
『―――初めての女性は、本当に痛いんだそうだ。
それは男には一生理解できない痛みだからこそ、その時に男がしっかりしてなきゃならないんだ。
もちろん・・・相手がお姫様とか、そういうのは抜きでな。
ルーク。おまえがいつか辿る道のことだから、記憶の端にちゃんと留めておけよ―――』
―――その浮いたアタマにふと過ぎった、親友の懐かしい忠告。
あぁ・・・よかった、思い出せて。もしも忘れたままだったら、きっとティアを苦しめていただろう。
心の中で親友に数え切れない程の感謝をして、それから身体を自制する。
「はぁ、ぁ、はぁっ・・・ルーク・・・?」
肩で息をしながら、行為を止めた俺を不思議そうに見るティア。
その蒼瞳が潤んでいて、頬が上気している―――――駄目だ。もう、堪えられない。
「・・・・・・ティア。その・・・いい、か?」
「あ―――・・・え、ええ・・・・・・大丈夫。その・・・えっと・・・」
「・・・いいん、だよな?」
「・・・・・・ええ」
それは確認というより、お互いに心の準備をしただけ。
ティアの微笑に純粋な想いが心を掠め、俺もそっと笑いかける。
それから綺麗な長い髪を梳くように一撫でし、"優しくするから"と半ば自分に言い聞かせるように呟く。
・・・そうしたら、ティアは―――初めて見せてくれた、心からの笑顔で、言ってくれた。
"ルーク・・・大好きよ" と。
全部脱ぐのはなんだか面倒だったので、ズボンのジッパーだけを下げてやる。
―――いきり立った俺のモノが見えたらしく、ティアは豆鉄砲でも喰らったかのような表情。
それが普段なら笑えるんだろうけど、今はちょっと複雑な気分だった。
「・・・・・・まじまじと見るなよ。恥ずかしいっつーの・・・」
「あ―――ご、ごめんなさいっ!そ、そんなつもりじゃなくて、そ、その・・・」
「・・・いいよ。じゃ・・・いくぞ、ティア・・・」
「・・・・・・うん」
すっかり濡れた秘所に先をあてがうだけで、けっこうな刺激が貫く。
それを堪えて、ゆっくりと挿れようと―――――して、戸惑う。
・・・・・・要領を得ない、というか、上手く入らない、というか・・・。
「・・・ルーク。落ち着いて、ね? んっ・・・・・・ほら、ここ・・・に」
情けない俺に、ティアは救いを差し伸べてくれた。
そのおかげで、今度はなんとか・・・・・・情けないな、と自分で自分を哀れに思う。
「く、ぅ・・・!」
先がなんとか入って、その時点で段違いの快楽が襲う。
一方、ティアは苦しそうに顔を歪めている。それは男には一生理解できない苦痛。
だからせめて、言葉を投げかける。
「ティア・・・だい、じょうぶ・・・か・・・?」
「ぅ、ん・・・だか、ら・・・そのまま・・・」
その言葉に頷いて、ゆっくりと、腰を前に進める。
―――絡んでくる熱い感触に、痺れる程に強烈な感覚。歯を喰いしばって、なんとか堪える。
「ティア、ティアッ・・・!!」
「〜〜〜・・・・・・っ!!」
ゆるゆると進むと、やがて、なにか妙なモノに触れた感覚があった。それは僅かな抵抗、のような。
記憶の糸を手繰り寄せて・・・・・・そういえば教わった記憶がある。
これが、女性だけにある、純潔の証明。一生を許す人だけが傷つけていいモノ、だっけ。
そして破る時には、激痛を伴うと。
「・・・いくぞ、ティアッ・・・」
「・・・・・・ええ・・・だいじょうぶ、だからっ・・・きて、ルーク」
途切れ途切れの言葉に、頷く。
・・・そっとやるよりは、いっそ一息のほうがいいかもしれない。
―――――ぐっと大きく、腰を前に突く。
ブツ、っという―――ひどく重い意味を持った軽い音が、聞こえた気がした。
「〜〜〜〜・・・・・・った、ぁ・・・うぅ・・・!!!」
「・・・ご、めん。でも、なんとか、入った・・・」
「う、うん・・・うれし、い・・・。ルークッ、キス、して・・・」
ティアの懇願にすぐさま応える。
三度目のキスは、今までとは違う舌を絡めるモノ。
互いの息遣いがダイレクトに脳髄へと届く。それがまた、一層、俺を駆り立てる。
しばらくして顔を離すと、ティアの頬に、一条の涙が伝った。
痛みのせいか、それとも違う何かがそうさせたのかは分からないけれど。
「ティア、大丈夫か・・・?」
「・・・だいじょうぶ。ね、ルーク・・・動いて、いいよ」
「・・・・・・痛かったら、言えよ」
「ありがとう・・・大好きよ、ルーク」
つぅ・・・、と繋がった部分に、一条の赤が流れてきた。
痛々しい赤色、けれど、決して不幸の証ではない。
むしろ、幸福の証であるこの血―――今は、そう、自信を持てる。
ティアの言葉を合図にして、ゆっくりと、しかし確実に、腰を動かしていく。
「く、ぅ・・・、はぁ、はぁっ・・・!」
意識がまともに保てそうにない。理性が剥がされていく。
「っ、つ・・・・・・んっ、うぅっ、はぁ・・・っ」
最初はひどく苦しそうだったティアも、少しずつながらも慣れていったみたいで。
淫らな音がひとつするたびに、お互いの息遣いが激しくなっていく。
「っ、はぁ・・・ティ、アッ・・・・・・!」
「ぁっ、はっ、あぁ、っ・・・ル、ク・・・あんっ・・・!」
―――満たされていくのは、心。
―――与えられているのは、快楽。
きゅう、と締め付けてくるティアの膣内に、狂ってしまいそうな程の快激。
トびそうな意識でも、それだけはしっかりと理解していて。
―――ただそれでも、自分本位で動くことだけは。
やがて。
大して動くこともままならず、終わりはすぐそこに。
「・・・っ、や、べ・・・・・・そろ、そろ・・・ティ、アッ!」
「はぁっ、あんっ・・・、くぅっ、ふあ・・・いい、よ・・・!」
「っ―――――ティア、ティア・・・ッ!!」
「ルー、ク・・・ルーク、ルークッ・・・―――――!」
ドグン、という音―――――ティアの膣内に、欲望の塊を吐き出した。
激しい奔流、そう思えるくらい、強く―――――。
「っ、あ・・・!」
「あぁぁっ・・・ルー、クッ!!」
一際大きなティアの声を最後に、全身の力が失われていくのを感じた。
――――――――――――――――――――――――。
「―――お父様、ナタリアです。こんな夜分に申し訳ありません」
「おぉ、ナタリア!どうしたのだ、式典にも出席せずに・・・心配したぞ!」
「申し訳ありませんでした・・・それよりお父様、ルークは生きています。私は先ほどまで、彼と会っていましたの」
「なんだと!?ナ、ナタリア!それは真か!?ルーク・・・!こうしてはおれん、今すぐ―――」
「いいえ。その必要はありませんわ、お父様。それと・・・不躾ですが、お願いがありますの」
「・・・お願い?ふむ、言ってみなさい」
「はい・・・・・・・・・私と、ルーク・フォン・ファブレ子爵との、婚約を・・・―――――」
「今頃、よろしくやってるんだろうか・・・ルークのヤツ」
「ん〜、どうだろ。あの二人じゃ期待できないんじゃないかなぁ?ねぇ、大佐ぁ?」
「さぁ、どうでしょうか?意外と・・・なんてこともあり得るんじゃないでしょうかねぇ?ルークが馬鹿でなければ、ですがね」
「っはは。まぁ少なくとも、ケンカだけはしてないと思うぜ。ルークもそこまでバカじゃ・・・ない、と思うんだけどねぇ」
「あ、逆にキスとかしちゃってるかも?それとも、もっと・・・きゃーっ♪ルークってば意外と・・・」
「・・・アニース。よい子はお家で眠る時間ですよ? まったく・・・」
「ははは・・・・・・まぁ、真偽の程は・・・今度きっちり聞かせてくれよ、親友。俺たちの三年間を埋めるついでに、な」
「・・・ルーク。その、身体は・・・どう?」
「あぁ・・・分からない、ってのが正直なところ。消えるのかもしれないし、消えないのかもしれない。
もしかしたら、ローレライにいじってもらえたから大丈夫かも・・・なんて、な」
「・・・・・・ごめんなさい。こんな話・・・」
「いいよ。いずれにしてもさ、もう成すべきことは果たしたんだ。
だからあとは、俺たちが護ったこの被験者の世界の日々を楽しもうって・・・それだけだよ」
「ルーク・・・ええ。そうね、そうやって生きていきましょう、一緒に・・・」
「あぁ、一緒に・・・一緒に、な」
ティアと二人、約束を交わす。
そして、キス。触れるだけの、本当に軽い口付け。
「・・・好きよ、ルーク」
「・・・俺もだ、ティア」
静かな静かな夜が更けていく。
世界を照らす銀色の月は、まるで綺麗なガラス玉のよう。
この夜が明けたら、どうしようか。
そんな風に考えられる、この幸せを噛み締めながら。
隣に在る、愛しい人に触れながら―――――綺麗な夜に、意識を沈めることにした。
『―――約束、か・・・・・・・・・ナタリア・・・すまない・・・・・・』
FIN
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