総合トップSS一覧SS No.4-027
作品名 作者名 カップリング 作品発表日 作品保管日
邪神降臨・侵食 丼兵衛氏 Lを除くP〜Rまでの登場人物(+α) 2005/11/09 2005/11/10

異世界の珍客を加えたロイド達生き残りは、ジベールの家から通じる緊急避難用の 
地下通路を通り、カレギア城までようやく辿りついた。 
城内は、主だった部屋や広間はおろか通路にまで着の身着のまま避難して来た市民で 
埋まり、慌しく動く王国軍の衛兵でごった返していた。 
「皆さん、ご無事でしたか!」 
怪我人の救護を行っていたアニー・バースが、彼らの姿を見つけると駆け寄ってきた。 
「俺達は何とか逃げてきたが、あとは・・・」 
ロイドが暗い顔をして俯いたので、アニーはそれ以上触れない事にした。 
「・・・来られた方々が皆、バルカに留まっていなかっただけ幸いでしたね」 
首都に居なかったテイルズ世界の住人は、ヴェイグとクレア、ティトレイとセレーナの 
案内でスールズとペトナジャンカを訪れていた。フィリアとリフィルに至っては、
ヒルダ・ランブリングと考古学者のラックの案内で各地の聖獣遺跡を熱心に調査して回っている最中であった。 
「あ、将軍閣下、ご無事で・・・」 
アガーテ女王の崩去後、実質的にカレギア王国の統治者の立場に居るミルハウスト将軍で 
彼等の姿を見つけるなり、足早にやって来た。 
将軍は目の下に隈を作り、かなり疲れた様子であった。 
「アニー君、君は万が一の時の為にマオと共にこの方々を安全な所まで案内してくれ。 
避難民の方は軍と王の盾で保護する」 
この状態でも適切な命令を下す辺り、彼の非凡な才覚を思わせた。 

王の盾のリーダー格、“四聖”の1人であるミリッツァがミルハウストに進言してきた。 
「将軍、今回の件について、お話があります」 
「・・・そうか、私の私室で話そう。諸君等も来てくれ」 
ロイド達もミルハウストの私室へと向かった。 
部屋に入ると、“四聖”の隊長に就いていたワルトゥが出迎えた。 
「今回の騒動の原因らしき物を押収致しました」 
そう言うなり、机の上に置いたのは破壊された人形の残骸であった。 
「ぶっさいくな顔だなぁ。誰が作ったんだ、こんなの?」 
ロイドが人形を手に取ろうとして、手を引っ込めた。破壊されているとはいえ、酷く 
禍々しい感じを受けた為である。 
「・・・この目と顔、リビングデッドもどきに似てないか?」 
リアラは壊れた人形に見覚えがある様で、暫く思案した後にこう呟いた。 
「これ・・・ロニが持ってた」 
「やはり。・・・これには強力な催眠をかける呪いがかけられていました。 
恐るべき事に、この呪いはヒトの精神に干渉する性質を有しております」 
「ワルトゥが使う催眠術みたいなものかな?」 
「その様な生易しい代物ではありません。強いて例えるなら“洗脳”です」 
「・・・ヒトを“リビングデッド”にしたのは“リビングドール”って訳か」 

「所で、ずっと気になってたんだけど、アンタもこの人形に似てない?」 
ハロルドの一言と共に、一同の視線がコスモスに集中した。 
「・・・諸君等はこの異常な事件の原因を知っているのではないのか?」 
ミルハウストも気にかけていた様であった。 
「私達かこの領域に来た理由を話した方が、皆さんにも理解し易いですね」 
シオンは事の一部始終を説明し始めた。 

・・・事の始まりは、初代KOS-MOSの成功に気を良くしたヴェクター社が2代目KOS-MOS 
を製造した事であった。彼女を模した販促品まで用意するという念の入れ様であった。 
ところが、蓋を空けてみれば不評・酷評の嵐で、こんな物はKOS-MOSとは認めないという 
抗議が連邦中に巻き起こる騒ぎとなった。不幸な2代目KOS-MOSは販促品も含めて 
“MOC-COS”と皮肉を込めて揶揄される有様となり、売り込みも惨憺たる結果に終わった。 
これを受けて、ヴェクター社は初代KOS-MOSを改修して復帰させる事を決定、2代目は 
販促品もろ共ブラックホールに投棄処分された。 
だが、彼女はそのまま闇に消え去る事に甘んじはしなかった。 
何と、ワームホールを開けて異世界(テイルズ世界)に逃亡したのである。 
彼女と販促物はグノーシスから、精神に作用する効果のあるウイルスを抽出した。 
それを最大限に利用する為に、バルカにグノーシスの存在時空に似た領域を張り巡らし、 
感染の為のお膳立てを行った。その上で、ウイルスに耐性を備えた者を直接襲撃した。 
グノーシスとの接触時の劇的な変化(白化)程では無いにせよ、ウイルスの精神干渉に 
侵されれば次第にヒトの感情は無くなり、感性によって邪神を崇め仲間を増やす行動を 
至上とする奴隷と化してしまうのである。 

「・・・彼女はこの領域でエーテルを貯め、私達の世界に復讐しようとしているのです」 
「その為に我が国の民と客人達が・・・何たる事だ」 
ミルハウストとワルトゥは事の理不尽さに肩を落とし、ミリッツァは天井を仰いだ。 
「自分の世界で勝手にやってりゃいいものを、八つ当たりもいい所だぜ」 
リッドは忌々しげに毒付いた。 
「モッコス本体は、必ずこの場所に存在しています。 
怨念に取り憑かれた彼女は、何処かに存在している筈です」 
「それで、モッコスとやらを見つけたらどうするんだ?」 
「それは、私も知らされておりません。コスモス、任務はどうなっているの?」 
「現段階では口外出来ません・・・現在は、対象との接触が最重要です」 
コスモスは普段よりも機械的に答えた。 
「はぁ、私にもそうとしか答えてくれないのよね・・・」 
シオンは溜息をついた。 
どうやら、重要な任務はコスモス以外には知らされていない様であった。 
「マオ、地下通路に脇道はあるのか?」 
マオにそう尋ねたのはジューダスことリオン・マグナスである。 
彼は城に滞在していたが、騒動の勃発と共にカレギア軍の衛兵と共に正門を警護していた。
セインガルド軍の客員剣士の能力を生かして兵の指揮に当たっていたが、ミルハウストの 
命令でロイド達と合流するべく私室に来たのであった。 
「雨水を流す下水管ならあるけど・・・そこから?」 
「構造が同じなら、ダリルシェイドの地下水道と同じで通り抜けが出来る筈だ」 
「ある程度なら首都の外郭に逃げられますが、流石に外までは・・・」 
「それで十分だ。ここから出られなけなければどっちみち袋の鼠だ」 
それを聞いていたロイドは、こう呟いた。 
「結局、あの地獄に戻るのか・・・」 

彼等は王城から地下水道を通り、再び市街地へ抜けた。 
「また、アイツ等と出くわさなきゃいいけどな」 
「仲間と戦うのは・・・」 
「アンタ等まだ言ってんの?、アイツ等に同情した挙句、あんな姿にされるのは御免よ」 
「ハロルドの言う通りだ。・・・僕も、もう操られて仲間と戦う羽目は二度と御免だ」 
ハロルドとジューダス(リオン)は妙な所で気が合っていた。 
そうこうしている内に、彼らを見つけて興奮した生ける屍達が群がってきた。 
100人は優に超える数である。 
「数が多過ぎる!」 
下手に晶術や魔術を使えば、彼らの命を奪いかねない。 
「ヴェイグさんかティトレイさんが居れば、フォルスで足止め出来るのですが・・・」 
アニーが言う通り、氷か樹のフォルスであれば有効であろうが、アニーの雨のフォルス 
では無力過ぎ、マオの炎のフォルスは危険過ぎた。 

「対象確認、排除します」 
所が、コスモスは何の躊躇もせずに腕部の武器―X.BUSTER―を発動しようとした。 
それを見たロイドが彼女の前に立ち塞がって止めた。 
「馬鹿っ!、アイツ等を皆殺しにする気か!」 
「何故です?、この方法が対象の排除に最も有効と判断しましたが?」 
「コスモス、彼らはグノーシスじゃなくて原住民よ! 殺しちゃ駄目よ!」 
「原住民って・・・私達は野蛮人なの」 
「アタシから見てもアンタ等は文化水準が低いから、尚更そう見えるんじゃないの?」 
シオンの言動にリアラは渋面を作ったが、ハロルドは冷静に受け止めた。 
「・・・了解しました、シオン」 
コスモスは、襲い掛かってきた生ける屍達を次々と手刀で沈めていった。 
「何だ、素手でも十分強いじゃないか」 
「それでも、十分過ぎる程やりすぎだと思うんですけど」 
「・・・あれでも、彼女は十分手加減しているつもりなのよ」 
素手とはいえ、コスモスは全機械製のアンドロイドである。 
生ける屍達の歯や角を手刀で砕き、骨をへし折りながら叩きのめしていった。 
「対象排除。我が方に損害無し。ルックス1%低下。シオン、洗浄の必要はありません」 
哀れな生ける屍達は半死半生の怪我人の山を築き、か細い呻き声をあげていた。 
「これでも出力を20%に抑えていましたが?」 
「・・・異界の先端技術って凄ェな」 

テイルズ世界の住人達がコスモスの能力に驚嘆していた頃、“チビ様”ことJrは古式銃を 
手にアパートの屋上に潜んでいた。傍には、プレセアが背後をガードしていた。 
Jrは古式銃・・・旧ソビエト製ドラグノフSVDのパッシブ照準付きの眼鏡に眼を当てていた。 

「・・・君は、僕と同じタイプの人間だろ?」 

眼鏡は、一向の向こうから彷徨い出てくる生ける屍の姿を捉えていた。 

「・・・何故分かったのです?」 

生ける屍の脚に照準を定めると、トリガーにかかった指が後退した。 

「・・・僕と同じ匂いがしたからさ」 

眼鏡の向こうでは、生ける屍が打ち抜かれた脚を抱え、溢れる血液に塗れて呻いていた。 

「・・・チビ様もそれなりに楽しんでるみたいね」 
脚から血を流しながら呻く生ける屍を横目に、シオンは呟いた。 
「ちょっと、残酷過ぎやしないか?」 
ロイドもそれを見て眉を顰めた。 
「これでも、比較的殺傷能力の少ない古式銃などの旧式兵器を用意したのです。 
私達の時代の武器は、この領域で使用するには余りにも危険過ぎます」 
「・・・まぁ、確かに魔術や晶術を使わないし、弾が遠くまで飛ぶだけ十分物騒だけどな」 
シオン自身はヴェクター社製のM.W.Sが主装備であったが、非致死性のゴム弾と催涙弾 
装備のアメリカ製M4&M203突撃銃に換えた程である。勿論、この古式銃もJrの目利き 
で決めた事は言うまでも無い。 
「しかし、さっきのコスモスのアレ・・・アイツは本当にやるつもりだったのか?」 
技で例えるならば、エターナル・ファイナリティやクレイジーコメット並の威力である。 
市街地で、しかも一般人に向けて発動するには余りに危険過ぎた。 
「彼女は、私達を危険に晒さない事を最優先にプログラムされているの」 
かく言うコスモスは、無表情で“接触対象”の反応を探っている様であった。 
「・・・冷酷非道の殺戮人形コスモスちゃん、かぁ」 
マオの減らず口にシオンは顔を顰めたが、コスモスは特に気にした様子は無かった。 
「・・・シオン、反応がありました。現地点から北に10キロ程向かった場所です」 
「北っていうと・・・獣王山?」 
「私達がここに居る事を他の皆に知らせる必要があるわね」 
そう言うと、シオンは信号拳銃を取り出した。 
「それも、あのチビの?」 
「・・・伝書鳩を使う事も考えたんだけど、鳩を調達するコストがかかり過ぎたのよね」 
鈍い音と共に、上空に赤と青の閃光が光り、白い煙がゆっくりと曲線を描いた。 

「あれは・・・」 
「どうやら、合流しろって合図の様だな」 
ウッドロウとコングマンは、追いすがる生ける屍達を追い払っている最中であった。 
「後衛は俺が務める。ウッドロウ殿とコングマンは前方の露払いをしてくれ」 
「任せた・・・陽炎っ!」 
「任せとけ・・・マイティボンバー!!」 
ウッドロウは素早い弓捌きで襲い来る生ける屍達を次々と狙い撃ちにし、コングマンは 
雪辱戦とばかりに手当たり次第ぶちのめしていった。 
ユージーンは豪破槍を連発して鋼鉄の障害物を作り、後方から追いすがる生ける屍達を 
引き離していった。 

「どうやら、シオン達は目星を付けたみたいだな。引き上げだ」 
Jrは信号弾を目視で確認すると、早々と引き上げの準備を始めた。 
「・・・ロイド達と合流するのですか?」 
「そう行きたい所なんだが、アイツ等が市街地を脱出するまでの援護をしなきゃ」 
マカロフの装弾を確認すると、ベルトに手挟んだ。 
「あ、あとコイツが必要になるな・・・装着方法を教えてやるよ」 
Jrが差し出したのは、やたらとゴツゴツした合成ゴム製のマスクであった。 

「おい・・・そりゃ何だよ?」 
奇妙な形状のマスクに、リッドは怪訝な顔をした。 
「まさか、ガスを使うつもりなの?」 
地上軍の技術者だけあって、ハロルドは意味をすぐに理解した様であった。 
「その通り、催涙弾よ。皆さん、ガスマスクを着けて下さい」 
ハロルド以外はゴムのすえた匂いと圧迫感に悪戦苦闘しながら、何とかガスマスクを着けた。
素顔のままのコスモスが1人1人の側頭部をチェックし、空気漏れが無いか確かめていた。 
耳との密着が上手くいかないと、隙間が生じてそこからガスが入り込んでくる為である。 
「シオン、全員の装着確認を完了しました」 
「コスモス、ありがとね」 
シオンはM203に催涙弾を込めると、城壁に通じる路地に向けた。 
「うわぁ・・・ぞろぞろ来たなぁ」 
早速、気配を感じた生ける屍達が路地に集まってきた。 
催涙弾を数発、生ける屍の達の群れに投げ入れる様に発射した。 
たちまち、彼等は顔面をぐしゃぐしゃにするとほうぼうの体で這い回り、逃げ惑った。 
シオンはM4のゴム弾をのたうち回る屍達に撃ち込んで止めを刺した。 
コスモス以外の皆が呆気に取られる中、ハロルドのみが瞳を輝かせて息を荒くしていた。 
「凄い威力だわ!、後で成分教えてもらおっと・・・グフフフ」 

結局、シオン達はこの調子で市街地を抜け、ユージーン達やJr達と合流した。 
こうしてやって来た目的地の前には、崩れ落ちた奇山の跡が広がっていた 
・・・獣王山である。 

「又来たか・・・一度だけかと思っていたが・・・」 
ユージーンが渋い顔をして唸った。 
「ユージーン、ちゃっちゃと終わらせて僕達の仲間を迎えようよ」 
マオはユージーンを気遣って言った。 
「ま、汚染の元を断てば皆元に戻るかもしれないからな」 
「しかし、街は雑魚ばっかりで妙に手ごたえが無かったな。何でだろうな?」 
ロイドが素朴な疑問を口にした。 
「こういう時は、手練は大概は目的地で待ち受けてるものよ」 
リアラが見も蓋も無い答えを返した。 
「・・・聞くんじゃなかった」 
「ったく、若ェのに威勢がネェな!、“赤信号、皆で進めば怖くない”と言うじゃネェか!」 
「アンタ等の時代に車なんてあったの?」 
コングマンが見当違いなハッパをかけ、ハロルドに容赦無く突っ込まれた。 

皆は緊張を解かれ、どっと笑った。 
コスモスも、口元を半月状に変形させて笑っている風に見せた。 
・・・感情値はおろか、感情そのものを有しない彼女なりの表現であった。 

獣王山内部の遺跡はユリス出現の影響で半壊していたものの、仕掛けは尚も生きていた。 
それ等を渡っている最中、ハロルドがおもむろに口を開いた。 
「ねぇ、アンタ達はどうやってこの世界に来たの?」 
「突然、ブラウン博士とフリオさんとキャロさんが“ドリーム号”という時空転移機で 
私達の前に現れたのです。 
転移機の技術を私達に提供する代わりに、この領域の危機を救ってくれと。 
流石に全員でくる訳には行かなかったので、私達3人だけで来た訳です」 
「成る程ね。ま、アタシ達がこうして一堂に会したのもソイツ等のお陰なんだけどね」 
「その点ですが疑問があります。私達もブラウン博士の力添えでこの領域に来ました。 
しかし、モッコスは・・・彼女はどうやって元の領域に戻るつもりなのでしょうか?」 
「確かにね・・・どーも嫌な予感がするわ」 

そうこうしている内に、ゲオルギアスの霊廟まで辿り付いた。 
だが、そこにモッコスの姿は無く、半透明のゴーストの如き生物が徘徊していた。 
「・・・グノーシス!?、何故ここに・・・!?」 
シオンが叫んだ通り、4700年代に棲息するという人型のグノーシスであった。 
「ヒルベルトエフェクト展開、武装制限解除、攻撃を開始します」 
コスモスも片腕を武器状に変形させ、臨戦態勢に入った。 

テイルズ世界の住人にとっては未知の生物とは言え、シオン達の前では雑魚であった。 
グノーシスはコスモスの特殊攻撃―S.CHAIN―で状態異常にされ、シオンのエレクトボム 
で簡単に殲滅された。 
「それにしても、何故グノーシスが?」 
流石に、シオンは疑念を払拭できない様だ。 
「恐らく、モッコスが利用しているウイルスの採取源はこの存在と思われます」 
「・・・ひょっとすると、モッコスとか言う奴のダミーかも知れないわよ」 
屈み込み、携帯道具でグノーシスの死骸を調べていたハロルドが指摘した。 
「エーテルの反応は同一でした。ハロルド様の言う通り、撹乱の可能性も考えられます」 
「もう1つあるぞ。モッコスは俺達を本当に袋の鼠にするつもりだったんだ」 
「リオン、何で分かるんだよ?」 
呆然としたジューダス(リオン)の顔をロイドが覗き込んだ。 
「・・・アレを見ろ」 

蒼ざめたリッドが指差した先には、異形と化した仲間達が退路を塞いでいた。 

「アニー、危ない!」 
クレスに斬り付けられたアニーを、ユージーンは身を挺して庇った。 
「ぐうっ!!」 
剣先が肩口に深く突き刺さり、黒い毛皮はみるみる内に赤く染まった。 
「ユージーンっ!!」 
血相を変えたマオが炎のフォルスを吹きかけてクレスを追い払った。 
マオとアニーが傷を負って蹲ったユージーンの元に駆け寄った。 
「俺は・・・もう・・・駄目だ・・・、早く・・・殺せ・・・」 
顔を覆ったユージーンの掌から覗く瞳は、既に赤く染まり始めていた。 
「そんな・・・」 
「嫌だよぉ!!」 
アニーは衝撃の余りその場に立ち尽くし、マオは悲痛な声で叫んだ。 
「こういう時はこうするんだ」 
Jrはマカロフを抜くと、照準をユージーンの方へ向けた。 
「駄目っ!!」 
アニーが血相を変えて止めようとしたが、Jrは何の躊躇いも無く引き金を引いた。 
「があっ!!」 
野太い声と共にユージーンの大きな身体がくず折れた。 
「ユージーンっ!・・・よくもぉぉっ!!」 
マオは殺気立ち、トンファーをJrに向けた。アニーの杖の穂先もJrに向けられていた。 
「落ち着きなよ、お2人さん」 
よく見れば、ユージーンは両腿を打ち抜かれただけであった。 
「ウイルスは血液感染だ。動きを止めてる内に止血と防毒処置を施せば進行は抑えられる」 
そう言うと、Jrは抗ウイルス剤らしき錠剤をユージーンに投げてよこした。 

「出来ない・・・出来ないよぉ!!」 
じりじりと迫り来るカイルを前に、リアラは杖を握りしめたまま動けずにいた。 
咄嗟に、リッドがリアラに襲い掛からんとするカイルを弾き飛ばした。 
「リアラ、お前もアイツ等みたいになりたいのか!?」 
「でも・・・」 
それぞれ、仲間と刃を交えなければならない過酷な戦いを強いられていた。 
ウッドロウとコングマンはスタンとルーティの刃を受け止め、ハロルドとジューダスは 
ファラの拳を受け止めていた。 
中でも、最も過酷な戦いを強いられているのはロイドであった。 
彼は更に無残な姿と化したコレットとジーニアスと対峙していた。 
衣服は更に汚れ、肌は磁器の如く蒼白となり、赤い瞳と口元は涙と涎が垂れ下っていた。 
「畜生、こんな姿になっちまって・・・」 
ジーニアスがけん玉で、コレットがチャクラムを投げつけてロイドを攻撃していたが、 
彼も幼馴染に手を掛ける事を躊躇しているのか、二の足を踏んでいた。 
「ロイド、早く攻撃しないと・・・!」 
援護射撃をしつつも防戦一方に追い込まれていたシオンがロイドに向かって叫んだ。 
その隙を突かれ、後方に移動したジーニアスがサンダーブレードを発した。 
「しまった・・・!」 
サンダーブレードの電撃は地面を伝わり、彼等は足を掬われて動きを封じられた。 
身動きの取れない彼等に、生ける屍達がにじり寄って来た。 

・・・絶体絶命の状況であった。 


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