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作品名 作者名 カップリング 作品発表日 作品保管日
ゆりかご カマクラ・メイカ氏 ユージーン×アニー 2005/10/20 2005/10/21

 ウォンティガの試練を終えた一行は、船に乗り込みノルゼンへと向かっていた。

 ゆりかごのように揺れる船の上、アニーは一人船の縁に寄りかかり海を見ていた。
 既に日は落ち、空を彩るのは無数の星々と美しく輝く月。
 彼女の服もいつもの服ではなく、厚手の寝巻きを着ていた。
 水面は月に照らされ穏やかな光を放っていたが、
 それを見る彼女の心は決して穏やかな物ではなかった。

「お父さん……」
 ぽつんと、自分にしか聞こえない位小さい声で呟く。
 冷たくも穏やかな風が頬を掠める。髪が乱れないように抑えながら、
 アニーは空を見上げた。
 試練によって知った父の死に関する事実、
 それは彼女の心を乱すには十分過ぎるものだった。
 大好きだった父が何故国王の毒殺を謀ったのか、
 確信の無い推測や憶測が彼女の頭で渦巻いていた。
 そして、もう一つ。

(ユージーン)
 胸中でその名を呟くと、アニーは胸が締め付けられる様な感覚を憶えた。
 かつては父の敵とし命を狙い、その体にナイフを突き立てた事すらあった。
 だがユージーンは、今までのアニーの行いを許し「共に真実を探し出そう」とまで言ってくれたのだ。
 しかし彼女がやったことが無かったことになる訳ではないのだ。アニーの心を罪悪感が苛んだ。
(ううん……駄目よね、こんなことじゃ)
 夜空で変わる事無く輝いている月を見ると、彼女はネガティブな思考を振り払うかのように頭を左右に振った。
 ユージーンは「共に」と言ってくれたのだ。ならば彼の言葉に応えないといけない。
 そして真実を探し出した時こそ、今まで彼にしてきたことの償いをしよう。
 そう結論を出したアニーの体を、先ほどのものよりも幾分強くなった風が吹きつけた。
 晴れているとは言え、ノルゼンは雪国だ。厚着をしていてもそれでもまだ寒い。

「……明日も早いし、もう寝ないと」
 予定では明日の明け方にはノルゼンへと到着する。
 アニーは体を縁から離すと、船内の自分の寝室へ向かうため歩き出した。が、
「ぅ……ぐぅぅぅ……」
「えっ?」
 何処からかうめくような声が聞こえ、アニーは足を止めた。

 草木も眠る、と言うほど夜は更けていないが、もうすぐ日付が変わる位には遅い時間である。
 仲間達は既に眠っているだろうし、船員も今は見張りを除いて皆眠っている筈だ。
 彼女は声を聞き取ろうと耳を澄ませた。

「ぅぅ……ぅぅっ……」
 どうやら空耳ではないらしい。
 風が強くなっていてはっきりと聞き取れないが、
 どこか恨めしげなうめき声のようなものが船尾の方から聞こえてくる。

「まさか……お、おばけ?」
 その手の物が全く駄目な彼女は、思わずゴクッと息を飲む。
 早鐘が鳴るかのように心拍が上っていく。
 船尾は今アニーがいる船の中ほどからは距離は無いものの、
 途中階段を上らなければならない位置にある為、ここからは様子を確認することが出来なかった。
 しかし、あの声がおばけのものであろうとなかろうと、無視することも出来なかった。
 このまま寝室に戻っても気になって寝付けないだろうし、
 もしかしたら、誰かが急な発作か何かで苦しんでいるのかもしれない。
 アニーは手を握り締めると、ゆっくりと船尾へと歩き出した。
 一歩毎に木製の甲板が微かに軋みどこか気味の悪い音を立てるのに耐えつつ、
 縁に沿って足を動かした。

「ぐっ……はぁ……はぁ……」
 近付くにつれうめき声がはっきりと聞こえてくるようになる。
 小さくくぐもった声だが、確かにはっきりと苦痛に耐えるようなうめき声と、
 荒く息を吐く音が聞こえてくる。
 アニーは船尾へと上る階段を、一度大きく息を吸ってから一段ずつ上っていく。
 階段を登りきって船尾を見回すと、
 そこにはうずくまり苦しげに息を吐く黒い毛並みのガジュマがいた。

「……ユージーン!?」
「くっ……ア、アニー……か?」
 船に乗っているため、鎧姿でなく普段着を着ているが間違いなくユージーンだ。
 甲板に手をつき苦しげに言うユージーンの表情は、
 普段の凛とした物ではなく衰弱の色が伺えた。
 その上目は血走り、顔を被う黒い毛並みは掻き毟った様な後が残っていた。

 彼のあまりの様子にアニーは駆け寄ろうとした。が、
「駄目だ! 近付いては……はぁっ、いけないッ」
 ユージーンが無理矢理声を張り上げて、彼女を押し留める。
「何を言っているんですか。今の貴方を放って置ける訳ないじゃないですか!」
「駄目だ……絶対に近付いては」
 何度も大きく呼吸をしてからユージーンは続けた。
「今近付いたら……きっと君を、傷付けてしまう……」
「……!」

 息も絶え絶えに話すユージーンの言葉に、
 アニーは以前彼がノルゼンで鬼気迫る勢いでバイラスを蹴散らしていたことを思い出した。
 ゲオルギアスの思念の力は鎮魂錠だけでは抑えきれず、
 彼は思念による衝動をバイラスに向けることで発散していたのだ。
 しかし今は船の上、彼の中で渦巻く衝動の対象となるものはこの場にはいない。
 ユージーンはこの雪国の海で一人それと戦っていたのだった。

「でも、だからって……」
 アニーはかぶりを振った。
 この寒空の下、しかも風が出始めていると言うのに彼をこのままにして置く事などできない。
 しかし先の彼の言葉を頭の中で反芻してしまい、彼女はどうすべきか躊躇した。

「……クッ!?」
「ユージーン!?」
 一際強い苦痛を感じたのか、ユージーンは唐突に大きなうめき声と共によろめく。
 その姿を見たアニーは、彼の名を呼びながら弾かれたかの様に駆け寄っていく。
「駄目だ、来るな!」
「きゃっ!」
 アニーを遠ざけようと、ユージーンは手で力強く払った。
 大きな手がアニーを払い除け、彼女の体勢をよろめかせ、彼女はニ、三歩後ずさりした。
 そこに一際強い風が彼女に向かって吹きつけられる。
 そして彼女の後ろには──彼女が先ほど上ってきた階段があった。

「やっ……きゃあっ!!」
「アニー!!」
 背中から階段へと倒れこむアニーへユージーンはとっさに飛び付いた。
 そしてアニーを自らの胸に抱き留めると、自分が下になるように階段を滑り落ちた。
「ぐふっ! うぐっ!」
「きゃあぁっ!」
 二度体を階段に叩きつけられ、苦しげに声を上げるユージーンと悲鳴を上げるアニー。
 最後に甲板の上に落下し、数回跳ねてから二人の勢いは止まった。

「くぁ……アニー、大丈夫、か?」
「ユ、ユージーン、ごめんなさい。わ、私は大丈夫ですから。それより自分の心配を……!」
「いや、大丈夫……だ。心配をかけた」
 そう言うとユージーンはアニーを急いで胸から解放した。
 もしそのままの状態で居たら、いつ思念の力で暴走してしまうか分からない以上に、
 思念よりも遥かに本能的な何かを抑えきれないように彼には思えたからだ。
 アニーが自身の上から退くのを確認してから、ユージーンはよろめきながら立ち上がる。

「……俺はもう寝よう。アニー、お前も早く寝たほうが……」
「! 危ない……!」
 ふらふらと歩きながら言葉を紡ぐが、それは最後まで紡がれる事なくユージーンはよろめいた。
 その姿を見てアニーは急いでユージーンへ近寄った。
 そして甲板の上に倒れ込む前に、何とかアニーはユージーンを支えることに成功する。

「お願いですから自分の事も心配してください!
 ともかく、医務室に運びますから大人しくしていてください」
「あぁ、すまない……」
 今にも消え入りそうな声でそう返すと、ユージーンは完全に沈黙した。気を失ったらしい。
「本当に他人の心配ばかりなんですから……」
 悲しげにそう言うと、かなりの重量の体を担いでアニーは歩き出した。
 そんな人だったから、今私はこうしていられるのだと分かっているから、彼女は余計に悲しくなった。


 医務室のベッドにユージーンを横たえると、アニーは大きく息を吐いた。
 もう旅をして随分経つため、同年代の普通の女の子よりは力も体力もあるが、
 それでも彼女にとって彼の大きな体を運ぶのはかなりの重労働だった。
 吐いた息がランプと窓から注ぐ月明かりに照らされ白く濁り、空気をかすかに湿らせる。
 アニーは頬を伝う汗をぬぐうと、怪我が無いか診る為にユージーンの服をたくし上げた。
 そして黒く艶やかな毛並みの上からユージーンの体に触れ、
 落下の時に打ったと思われる背中を中心に慎重に探っていくと、
 ユージーンは痛みを感じてなのか時折苦しげにうめいた。

「骨は……折れてないみたい」

 アニーは良かったとばかりに息をついた。
 打ち付けられた所は熱を持っていたが、骨に異常は無いようだ。

「ともかく冷やさないと」

 アニーがベッドから離れ医薬品を収めた棚へ向かおうとした時、
 ベッドで横になっていたユージーンが身を起き上がらせた。

「くっ……」
「ユージーン、駄目です。まだ安静にしていてください!」

 上半身を起こすユージーンに駆け寄り、アニーが彼の体に手を触れた瞬間──

「ぐっ、がぁぁっ!」
「えっ!? あうっ!」

 ユージーンは狂ったように吼え声を上げながら、自らの体に触れる少女の首に片手を掛けた。
 片手の力だけで彼女を持ち上げると、隣のベッドの上へと押し倒す。
 そしてそのまま首を絞められくぐもった悲鳴を上げるアニーに跨がった。

「っ……!!」

 血走っていて何処か焦点が定まらないユージーンの目に、アニーは恐怖を覚えた。
 満足に呼吸もできないまま首に掛かる手を外そうとするが、力のこもったユージーンの手は
 彼女の腕力では到底外す事は叶わず、身をよじり逃れようとしても彼の体に押さえ込まれ
 抵抗は徒労に終った。

「ヒュー……マァッ!!」

 熱に浮かされたようなかすれた声を上げるユージーン。
 思念による暴走──アニーの脳裏に言葉がよぎった。
 締め付ける手の力が徐々に強くなっていく。

「ユ……っ!」

 肺を引き絞り何とか彼に呼びかけようとするが、喉を締め付ける力にかき消された。
 息苦しさの為か、アニーの瞳に涙が浮かび、彼女の視界を歪ませた。
 徐々に血の気が薄れゆくアニーの顔を睨みつけながら、ユージーンがもう片方の手を首へ伸ばす。
 アニーはただ見ていることしか出来ず、覚悟を決めたかのようにそのまま目を閉じた。
 が、締め付ける力はそれ以上強くならない──いや、むしろ弱くなっていった。

「はぁっ……! はぁっ……!」

 首にかかる力が抜けたことで余裕が生まれ、アニーは生存本能に命じるがままに肺に酸素を取り入れる。
 一体何が起こったのか、疑問に思い彼女が恐る恐る目を開くと、
 首に掛かる手がもう片方の手に掴まれて、ゆっくりと引き離されていった。

「げほっ! げほっ!」
「くっ……ヒュ……!」

 首へと伸ばそうとする手をもう一方の手で押さえつけながら、苦しげにユージーンはうめいた。
 苦しげな表情で、何かを必死に否定するかのように首を左右に振り続ける。
 アニーは咳き込みながらも、その間にユージーンの下から抜け出そう身をよじり、
 上半身を両手で支えて起こした。

「俺は……俺は……」

 ユージーンは力が抜けた両手で頭を抱えた。
 何処か虚ろなままではあるが、瞳は穏やかな色を取り戻しつつあった。

「ユージーン……大丈夫、ですか?」

 アニーは起こした身をそのままに、やや震えた声ではあるが心配そうに語りかける。
 ついさっきまで、自身の首を絞めてきた相手に対する反応にしては、驚く程穏やかなものだった。

「アニー、俺は何てことを……」
「ユージーン、その」

 苦悩に満ちた声で呟くユージーンに、何と言っていいのか分からずアニーは口ごもる。
 ユージーンは何も言うなとでも言うかの様に、その大きな手でアニーの目元の涙を優しくぬぐった。
 そこで初めて涙を流していたことに気付いて、アニーの頬が赤く染まった。

「あははっ。なんだか私ったら、泣いてばかりですね」

 試練を終えた時にユージーンに泣き縋ったのを思い出して、
 彼女は恥ずかしさを紛らわすかのように明るく笑い飛ばした。
 しかし、ユージーンはアニーの言葉など聞いていないかのように、
 何かを小さく呟いたまま彼女を見つめ続ける。
 いや、確かに顔はアニーの方へ向いているが、
 ランプと月明かりに照らされた彼の目は、何処か違う所を見ているように思えた。
 アニーは訝しみながらも口を開いた。

「あの……退いてくれませんか?」

 今は体重をかけられていないため、身動きが取れないだけで息苦しい訳ではない。
 だが第三者がこの光景を見れば、何と言うか妙な誤解をされかねない。
 親と子程年が離れているとは言え、一応性別の違う人間が夜中に部屋に二人きり。
 その上、片方は胸元まで服をたくし上げた状態でもう片方の上に跨っているのだ、
 見られてしまったら妙なことになるのは間違いないだろう。
 しかし、ユージーンはアニーの発言など全く無視し、逆に彼女へと覆い被さった。

「きゃっ! な、何を!?」

 ユージーンはアニーの両手を掴み、そのまま再度ベッドへ押し倒す。
 そしてアニーの両手をベッドに押さえながらも、アニーを押しつぶさないよう四肢で体を支えた。
 ユージーンの突然の行動に、アニーは悲鳴を上げた。だが、

「……そう、憎しみは何も生まない。憎しみ合ったりいがみ合うのではない。
 我々”ヒト”は新た関係を築き上げなくてはならない!」
「へっ?」

 その悲鳴は、語気を荒くしたユージーンの言葉で間抜な声に変わった。
 今何だか妙に気になる発言があった気がするのだが──
 それが何なのか、何故気になるのかがアニーは分からなかった。
 良く分からない疑問で思考が半ば停止しているアニーなどお構いなしに、
 ユージーンはアニーの顔を覗き込んできた。
 アニーの視界をユージーンの顔が占拠し、アニーの瞳がユージーンの瞳を映す。
 穏やかで優しげな目に見えるのだが、何処かおかしいとアニーは思った。
 どうおかしいのか、説明しろと言われると上手く言えないが、
 絶対に何処かおかしいと確信が持てた。

「えっと、あの、それは一体どういう……んんっ!!?」

 困惑の表情を浮かべるアニーの口を塞ぐ様に、ユージーンのキスをした。
 驚くままに口を開いていたアニーに、自身の舌を侵入させる。
 顔の構造が違うためか、それは殆ど噛み付くかのような強引な口付けだ。

「ちゅっ、んっ……ふっ……むーっ!!」
「フーッ、フーッ」

 ヒューマとは違った、ざらついた舌がアニーの口内を舐め上げ唾液の交換を強要する。
 体を押さえつけられてしまい身動きが取れないまま、
 アニーは押し入ってきた舌に唾液を流し込まれ、吐き出すことも出来ず嚥下した。
 唾液の混ざり合う水音と、二人分の呼吸音が部屋に響く。
 深い口付けを十分に味わってから、ユージーンは口を離した。

「んくっ……はぁっ、はぁっ。な、何を」

 突然の出来事に頬を真っ赤に染め、信じられないといった表情で問い掛けるが、
 ユージーンはそれに構わず、まだ汗の残る彼女の首筋に鼻先を押し付けて
 音を立てて匂いを嗅ぎ出した。
 アニーはユージーンの湿った鼻の冷たさに、びくっと身を震わせる。

「やっ、に、匂いなんて嗅がないでください!」

 試練を受けるためノルゼンを出発して以来、満足にお風呂には入る事ができずにいたので、
 アニーはもちろんユージーンも体を拭く程度で身を清めていた。
 そんな状態の体の匂いを嗅がれるというのは、決して気分のいいものではない。
 アニーは何とか抗おうとするが、ユージーンは彼女の抵抗など全く気にも留めず
 首筋に顔を埋めていた。

「もう、いい加減にっ……!」
「生産性のある肉体関係を……」
「ちょっ、な、何を言ってるんですか!?」

 耳元で囁くユージーンの発言に、素っ頓狂な声を上げるアニー。
 彼のその目は、既に何処か遠くへと焦点が固定されている。
 正気という言葉は、今のユージーンには最も縁遠いものだろう。
 そこまで考えたアニーの脳裏にふと疑問がよぎり、口に出す。

「って、別に新しくは無いような気が。
 ヒルダさんの様なハーフの方たちもいる訳ですし」
「さぁアニー、俺たちなら人々の導けるような関係が築けると、俺は信じている。
 力を合わせ共に頑張ろう」
「あぁ、聞いてない!?」
「大丈夫、これでも俺はカレギアの黒豹と呼ばれ皆から可愛いと評判だったんだ」
「や、え、言っている意味が全然」

 アニーの両手を片手で押さえつけると、空いた手でユージーンは彼女の寝巻きの下へと手を伸ばし、
 彼女の肌を優しく撫で上げるように寝巻きを脱がせていった。
 アニーの、まだ汗でしっとりと湿っている肌が外気に触れる。
 暖房機器が付いている室内とは言え、外は雪が降っていてもおかしくないほどの寒さだ。
 肌を刺激する空気の冷たさに、アニーは身を震わせた。

「や、やめてください。恥ずかしいです……」
「普段も出しているじゃないか。それとも常日頃から恥ずかしい服装でいたのか?」

 アニーは消え入りそうな声で訴えるが、その様子を面白がるようにユージーンは語りかける。
 あうぅ、と反論できずにうめくアニーをよそに、ユージーンはガラス細工を扱う手付きで
 アニーの寝巻きの上を脱がしていき、その手がついに彼女の胸を被う下着へと伸びる。

「だ、駄目です!」

 アニーは必死に抵抗するが、元々力で敵わない相手に弱った状態で抵抗した所で意味も無く、
 彼女の下着は強引に剥ぎ取られただの布切れと化し床の上へと落ちた。

「ううっ……」

 体を拘束され乳房を隠すことも出来ず、恥ずかしさのあまり顔をそむける。
 露わになった彼女のそれは、15歳と言う年相応の柔らかな曲線を描いていた。

「ふむ、硬くなっているな」
「んくっ……! お願いです、もうやめて下さい」

 寒さのせいで硬く尖っているアニーの胸の先端を軽く摘まみ上げると、
 ユージーンはそのまま包み込むように胸を揉みだす。
 掌の毛並みが生み出す痒みと、優しく揉み上げられる刺激に
 目をぎゅっとつむり身を縮こませながらアニーは耐えた。

「まだ何もしていなかったと言うのに、こんなになっているなんて……
 アニーがそんなに淫乱だったとは知らなかったな」
「ちがっ、私そんなんじゃ……きゃあ!」

 目じりに涙を溜めて訴えるアニーを無視し、ユージーンがもう一方の胸に手を伸ばすと同時に
 先ほどまで触れていた胸を頬張る。
 舌に唾液を乗せ塗りつけるように乳首を転がし、乳房を卑猥な水音を響かせながらきつく吸い上げる。
 両胸を交互に口と手で愛撫されて、アニーの体から力が抜けていく。

「あ、はぁっ! だめぇ……」
「じゅっ……ちゅ。大丈夫だ、優しくする」

 アニーの両手から力が抜けたのを確認してから、ユージーンは手を放した。
 今までに体験した事の無い行為に、アニーは頬を真っ赤に染めながら大きく呼吸を繰り返す。
 うっすらと汗をかいている肌と、散々愛撫された双丘が淫靡な輝きを放っていた。
 全身を脱力感に支配され、もう抵抗する力は残っていないようだ。
 ユージーンはアニーの体の上から退くと、今度は下の寝巻きへと手を伸ばす。

「あっ……」

 思う侭に蹂躙を行うユージーンから逃げ出すチャンスだったが、
 アニーは声を発するだけで為すがままになっていた。
 ユージーンはどこか卑猥な手つきで、ゆっくりとアニーの寝巻きと下着を脱がしていく。

「……綺麗だ」

 下着を脱がされ局部が見えないようにしようと身を縮込ませるアニーを、
 ユージーンは強引に体を開かせ仔細に眺めた。
 アニーの薄い茂みに覆われたピンク色の秘唇は、かすかに湿っていた。
 アニーの下腹部を優しく撫でると、ユージーンは彼女の両足を両肩に担ぎ、
 目の前にきた彼女の秘所を舌で愛撫し始めた。
 まだぴったりと閉じた秘唇を、そのざらついた舌を上下に這わせる。

「は……ぁっ、んっ……くっ」

 半ばぶら下がるような格好でアニーは喘ぐ。
 既に瞳に理性の色は薄く、虚ろな目で視線を泳がしている。
 ぴちゃぴちゃと音を立て繰り返される舌戯に、アニーの秘部が少しずつほぐれていく。
 唐突にユージーンは秘部の上部、小さな肉芽を舌でつつき皮を剥く。
 より強い性感帯への刺激に、アニーは弱々しい嬌声を上げる。

「ふあぁぁっ! な、んだか……へんでっ……!」

 クリトリスを軽く舌で吸い上げられた瞬間、筆舌しがたい感覚が体中を駆け巡り、
 アニーは全身をびくっと震わせた。
 絶頂を迎えたアニーをユージーンは静かにベッドの上へ降ろす。

「もうそろそろいいだろう」

 そう言ってユージーンがズボンと下着を下ろすと、そこには彼の赤黒いペニスが膨張しつつあった。
 横たわったアニーの足をM字型に持ち上げると、
 まだ柔らかさの残る自分自身を数度擦り上げてからアニーの陰唇へとあてがう。
 その感触に僅かに残った理性を総動員して、アニーは言葉を紡ぐ。

「ユ……ジーン、もうやめ……あっ……!!」

 アニーの声を無視して、ユージーンはゆっくりと腰を押し出した。
 全く経験の無い彼女には大き過ぎる亀頭が、秘裂を割り開きゆっくりと沈み込んでいく。

「くっ! 少々キツイか……」
「はっ……あっ! ぬ……いて……いたいっ……!」

 まだほとんど入りきっていない状態で、顔を歪め呟くユージーン。
 だが既にアニーは苦痛の声を上げ、シーツを握り締め痛みに必死に耐えているようだ。
 このまま続けてはアニーにかかる負担が大きすぎると判断すると、今度はゆっくりと腰を引いていく。
 そして完全に抜ける前に再度腰を押し出し、彼女の中にペニスを埋めていく。

「あぁ……はっあぁっ!」

 異物が入り込む感覚に声を上げるアニー。
 ユージーンはじっくりと慣らすように腰を動かし、徐々にアニーの中へ侵入していく。
 少しずつ奥深くまでペニスが飲み込まれていくと、
 同時にアニーの体が愛液を分泌し、よりスムーズに挿入が行われていく。
 そして、

 ズッ、グッ、ブツッ!
「あああぁっ! はあっあぁ!!」

 ユージーンのペニスが根元まで埋め込まれ、とうとう純潔の証を散らすまでに至る。
 破瓜の痛みに、今までよりはるかに大きな声で苦痛を訴えるアニー。
 痛みが和らぐまで、ユージーンはそのままの状態で待った。
 やがて声が収まると、破瓜の痛みに理性を取り戻したアニーは陰鬱な表情でユージーンを見る。

「はぁはぁ、わ、私……なんでこんなことに」
「そろそろ大丈夫そうだな。では動くぞ」
「あぁ、もう……」

 根元まで埋め込まれたペニスをぎりぎりまでゆっくりと引き抜き、一気に奥深くまで突き入れる。
 先ほどまでの緩やかな物とは全く違う力強い挿入に、アニーの声はまた力を失っていった。
 既に限界まで膨張した肉棒が何度も行き来し、膣内を擦り上げ愛液を掻き出していく。
 ユージーンは身を乗り出すと、繰り返される律動に声を上げるアニーに口付けをした。

「ああっ、はぁ! ん……ちゅっ」

 押し入ってくる舌がアニーの口内を暴れまわる。
 膣内を掻き回され、苦痛が徐々に薄くなり快感が沸き起こっていく。
 アニーは無自覚により強い快楽を求め、腰を動かし始める。
 ズチュッ! パン! グチュッ! パン!
 音を立てるほど腰を打ち付けあう二人の動きにベッドが軋んだ。

「ぐっ、はぁ! アニー、出すぞ!!」

 やがて限界を迎え、ユージーンの動きが大きいものから性急なものになっていく。
 息をつく間を与えない突き上げの連続に、壊れたかのような断続的な声を上げるアニー。

「あっ! はっ、ひゃぁっ! んぁっ!」
「うおおぉぉっ!!」

 アニーの膣奥にペニスが突き刺さった瞬間、ユージーンは雄叫びを上げながら大量の精を吐き出した。
 白濁が注ぎ込まれ、アニーはその熱さに体をびくびくと震えさせた。

「な、中に……出されちゃった……」

 ぐったりとベッドに身を預けながら、大きく息を吐くアニー。
 胸中は複雑だったが、妊娠してしまうかもしれないと言う事よりも終わった事での安堵感が勝っていた。
 ユージーンは、未だアニーに覆いかぶさりながら荒い呼吸を繰り返していた。
 その瞳は――正常なものに戻っていた。

「アニー、これは……。俺は何故こんな……」
「ユージーン……」

 現在の状態を見回して、ユージーンは暗い表情でアニーを見た。
 流石に今度は何と言うべきか分からず、アニーはぎゅっとユージーンを抱きしめた。

 身を整え、汚れてしまったシーツや体液をふき取ったタオルを医務室の片隅に追いやると、
 二人はベッドの上に腰を掛けた。
 流石に先ほどまでの寝巻きを着る気にはなれず、アニーはいつもどおりの服装になっていた。
 しばし二人の間に沈黙が訪れるが、意を決したようにユージーンは口を開いた。

「……今度は、刺されても何も言えないな」
「そんな……! そんな事を言うのはやめて下さい……」

 今にも泣き出しそうな顔で言うアニーに、ユージーンは真剣な表情で向き合う。

「だがアニー……」
「やっと……やっと貴方の事が信じられるようになったんです!
 なのに、そんな事……」

 ユージーンは目元に涙を溜めて言うアニーを抱きしめようと手を伸ばし、
 一瞬考え直して彼女の目元の涙ををぬぐった。

「すまない……。俺はアニーを泣かせてばかりだな」
「……違います。私が泣き虫なだけです」

 俯いてつぶやくアニー。
 ユージーンはアニーとは反対側の壁に顔を向け、言った。

「アニー、俺はお前を実の娘のように思っていた。
 いや、そうだと思い込んでいた」

 顔を上げユージーンを見るアニー。
 顔を背けているため、彼の表情は見えなかった。

「最初の頃は、娘のように思っていたのかもしれん。
 だが共に旅を続ける内に、お前を異性として見るようになっていた」

 亡き友の忘れ形見、自分が殺してしまった親友の娘。
 命に変えても守らなければと、彼女を大事に思い旅を続けていた。
 彼女の父を殺してしまったと言う負い目が、何時しか大切な女性を守ると言う意識に
 変わっていくのに時間はかからなかった。
 ユージーンは自嘲するように口元を歪めた。

「親と子ほど年が離れていると言うのに、な。変態と罵られても仕方ない」

 自身の中にある感情を否定し続けた結果が今日の暴走だ。
 思念の力によってたがが外れ、かなりおかしな形で発露してしまった。
 自分のした事、言った事のすべてを覚えてはいなかったが、
 記憶に残る自分の行動は精神異常を起こしたとしか思えないものだった。

「……ユージーン」

 肩に手が置かれユージーンが振り向くと、不機嫌そうな表情のアニーがいた。

「それじゃあ、まるで私を好きになるのは変態的行為だって言われている気がします」
「なっ……!? ち、違う、そう言う意味では」

 ふくれっ面で言うアニーを見て、慌てて弁明をするユージーン。
 その慌て振りを見ている内に、耐え切れなくなってアニーは吹き出した。

「ぷっ……。すいません。嘘です、ユージーン」
「あ、アニー?」
「ふふっ、ユージーン凄く必死でしたよ?」

 ハトが豆鉄砲を食らったような顔で固まるユージーンを見て、
 今度は違う意味で目元に涙を浮かべアニーは笑った。

「アニー、ふざけないでくれ……」
「すいません、でも、泣くよりは良いかなって」

 困り果てた表情でうな垂れるユージーンとは対照的に、
 アニーはどこかすっきりとした表情だ。

「ユージーン、その、私も貴方の事が好きです。
 その……男女関係のそれとは違うかもしれませんけど、私はユージーンが好きです。
 だから……」

 きっぱりとした口調で言うと、アニーはユージーンの手を握った。

「二つ、約束してください。
 一つ、思念の力に耐え切れそうになったら、私に相談してください。
 二つ、責任はちゃんと取ってください」
「責任……?」
「はい」

 きょとんとした顔で見つめるユージーンを見て、アニーは真剣な面持ちで頷いた。



 ユリスを打ち倒して数年が経った。
 未だ各地でヒューマとガジュマの問題は残っているが、
 ミルハウストや王の盾のワルトゥ、ミリッツァの働きで大きな争い事に至ることは無かった。

 ギイッ……ギイッ……

 部屋の中を木の軋む音が響く。
 アニーは一人椅子に腰掛け、「それ」を揺り動かしていた。
 開いた窓から、茜色の日差しが風と共に流れ込んでくる。日はすっかり傾いて来ていた。
 と、唐突に扉をノックする音がした。

「アニー、居るか?」

 扉が開くと、そこには大柄のガジュマが立っていた。
 艶やかな黒い毛並みを持つ黒豹のガジュマだ。

「ユージーン」
「こんな所に居たのか。もう夕食だぞ」

 ギイッ……ギイッ……

 そう言うと、大股で窓へ近づき窓を閉めカーテンを閉じた。

「窓を開けっぱなしにすると体を冷やすぞ」
「もう、まだ暖かいんですから大丈夫です!」

 ふくれっ面でそっぽを向くと、「それ」から手を放し立ち上がろうとする。
 それを見て、ユージーンは顔色を変えてアニーに駆け寄った。

 ギイッ……ギイッ……

「一人で立ち上がるのは止めてくれと言っているだろう。寿命が縮みそうだ」
「……ユージーン、ちょっと過保護過ぎです。
 それじゃあ、私一人では何もできなくなっちゃいます。
 まだ大分掛かるのに、少し気が早いですよ」

 ユージーンに支えられながら立ち上がると、アニーは呆れた様に言った。
 だがユージーンはいたって真面目な顔でアニーにぴったり付き添う。

「用心するに越した事はない。
 それに気が早いと言う事に関しては、アニー程ではないつもりだ」

 ギイッ……ギイッ……

「でもお料理もさせてもらえないなんて……。
 きっと近いうちに、私丸々太ってお団子みたいになっちゃいます」

 ギイッ…………

 部屋に響く音が止む。
 二人で「それ」を一瞥してから、部屋を出た。

「しかし、やはり何かあってからでは遅い。できる事なら付きっ切りで居てやりたいんだが」
「まだ半年も先なのに、今からそんなことでどうするんですか……」

 二人の会話が遠ざかっていき、やがて部屋が静寂に包まれる。
 アニーの座っていた椅子のそばには、木製の船の形を模したゆりかごが置かれていた。


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