総合トップ>SS一覧>SS No.3-068
作品名 |
作者名 |
カップリング |
作品発表日 |
作品保管日 |
傷跡 |
幻晶氏 |
セネル×クロエ |
2005/09/01 |
2005/09/01 |
「はあ〜……」
朝の日差しが灯台の町、ウェルテスを照らしている。
セネルの家を目指しながらクロエは溜息をついていた。
「クーリッジを起こしにいくのは構わないんだがなあ……むしろ……
いや、私は何を考えているんだ/////」
独り言をいいながら、大きく首を横に振る。幸い周りには人はいないかった。
セネルを起こす事。これは仲間内では日記と同じく当番制になった仕事だ。
あの一件以来、ウェルテスに居を構えたセネルはとてつもなく覚醒が悪い。
それゆえ本人の知らないところで、仕事の順番が決まってしまったのである。
「はぁ……着いてしまった」
セネルの家の扉の前に立ちもう一度溜息をつくクロエ。彼女が何故今、かの災厄の時にみた
黒い霧のような、オーラを纏っているのかというと先日、同じように彼を起こしに行ったとき
「もう少しだけ眠らせてくれ・・・・・・」
あまりに眠そうなセネルについ気を許し、
「仕方がないな・・・・・・」と声をかけたときの次の一言……
「ありがとう・・・・・・シャーリィ」
あまりにも彼の天然と鈍感さについ声を張り上げてしまったのだ。
今朝もひょっとしたら彼は自分を妹と間違えはしないかと後ろ向きな考えばかり起こしてしまうのである。
「クーリッジ、入るぞ」
どうせ寝ているだろうから小声で誰に断るでもなく屋内へ入る。
そして階段を昇り、二階の寝室が見えてきたとき。
「うわ、クロエ!」
「!」
セネルは上半身裸の着替え真っ最中だったのだ。
「き、着替え中だって!」
「す、すまない!!クーリッジ////////////」
クロエはすぐさま後ろを向く目を手で覆う。
セネルも慌てて服を着る。が
「あっ」
ドタン!
後ろを向いていたクロエだが再び目の前にセネル本人が階段から転がって壁にぶつかったのだ。
どうやらズボンを慌てて穿こうとしたためにつんのめって足を踏み外したらしい。
「イテテ……あっ……」
「……」
二人の目が合った。一瞬の間がとてつもなく長く感じられた沈黙……。
「きゃ、きゃああああああああああああ!!!」
ハリエットの地団駄よりも、ゲートの咆哮よりも増す叫び声がセネル宅から轟いた
「?」
「どうしたんだ、エルザ?」
「お父さん、今、クロエさんの声がしなかった?」
「ははは、この病院からセネルくんの家までかなり離れているんだぞ。騎士道を重んじる
クロエさんがそんな大声を出すとも思えないが。もしかして、エルザ。クロエさんの事ばかり考えているか
幻聴でも聞いたのかな?」
「そ、そんな事……////」
「さあ、エルザ。薬を完成させよう。そこの薬草を取ってくれ」
「う、うん」
病院でのひととき…
「……」
「……」
気まずい空気が流れる。
互いに床に向かい合って座るが目を合わそうとしない二人。
「きょ、今日は早起きなんだな」
「お、俺だってたまには早起きぐらいするさ」
「そ、そうか……」
「……」
「……」
クロエがやっとのことで搾り出した言葉も話を続かせる話題の種にはならなかった。
「あ、あのさ。せっかく来てくれたんだし、朝飯でも食べていくか?」
再度の沈黙を破ったのはセネルだった。
「そ、それは嬉しい誘いだが、いいのか?クーリッジ」
「ああ、幸い、サンドイッチの材料も昨日たくさん買ったしな」
「そ、そうか」
「待ってな、すぐに作るからな」
そういうとセネルはキッチンに移動し料理を始める。
「……クーリッジの手料理……」
そういえば男の人の手料理なんて食べたことがなかった。引越し祝いのときもシャーリィと私が
作ったし、ヴァレンス家では男性のコックの料理は食べたことがあったがそれとはまた違うだろう。
「俺、結構料理は上手いらしいんだ。ウィルにそう言われた。まあ、ハリエットの料理ばかり
食べてるウィルの味覚が正常に機能しているかわからないけどな」
「ははは。ハリエットが聞いたら怒るぞ。それにレイナードにもまた殴られるだろうな」
「はは、そうだな。ウィルは親バカだからなあ」
会話らしい会話ができてクロエはほっとした。
今朝は不可抗力だったがそれのおかげでこうやってセネルと朝食を取れることは
とても嬉しい事だった。おそらく、いつも通り起こしていたらこんな時間はなかっただろう。
(・・・・・・本当にさっきは驚いた。大きな声もあげてしまった。クーリッジは変な風に思っていないだろうか?)
思考を巡らすうちに、さっきの光景が浮かんできた。
鍛え上げられた腕と脚。大きい背中。
「わ、私は何を考えているんだ!」
つい声を出してしまった。
「ん?クロエ?何か言ったか?」
「な、なんでもない・・・/////」
キッチンから聞こえてくる声に慌てて言い返す。
「ク、クーリッジ。私も何か手伝おうか?」
キッチンの方へ向かい、先ほどの考えを紛らわすべくセネルに声をかける。
「ん?ああ、大丈夫。あとは切るだけだから」
「そ、そうか」
戻ろうとしたときセネルの背中を見て先ほどの光景を思い出す。
「……」
セネルの背中から腰にかけて大きな傷が斜めに残っていた。おそらく腹の方にも同じように
傷があるのだろう。
「……やっぱり、残っちゃったんだ……」
以前、クロエが心の闇に囚われた時。親の敵であり、トリプルカイツの一人スティングルを
討つがために、セネルを手にかけたときの事を思い出す。
『いくな・・・・・・クロエ・・・・・・』
あの時の事は今でも鮮明に覚えている。セネルはその事を口に出さないでくれている。
まさか傷が残っているなんて。もちろん彼は話してくれなかった。でも見てしまった。
セネルの優しさと、自分の不甲斐なさで視界が霞む。
「クロエ?」
セネルは後ろにいる気配がすれど動かないクロエが気になって振り向こうとした瞬間、
「ク、クロエ!?」
クロエはセネルの後ろから抱き付いていた。あの時のように。
「すまない・・・・・・クーリッジ。私のせいで背中にキズが・・・・・・っ」
セネルは一瞬戸惑ったが、すぐに意味を理解し優しく言った。
「クロエ、謝らなくてもいいんだ。クロエが遺跡船に、この街に留まってくれる。
それだけでも十分だ」
「・・・・・・」
そしてセネルは軽くクロエの手を下ろし、身を翻して微笑む。
「もし償いたいというならばこれからずっと、時間を掛けてやってくれればいい。
俺とクロエ、ずっと一緒だろ?」
「セネル・・・…」
そして今度は正面で抱き合う……。
「そうだ、じゃあ……」
「え?」
「あ〜あ、どーせみんなおまけつきパンか〜」
「!!」
「!?」
唐突に甲高い声が二人以外誰もいないはずの家から聞こえた。
発信源は二人のすぐ横の……
「か、観葉植物がしゃべった?」
「こ、コレは俺が昨日大量にパン屋で食材を買ったときに貰ったおまけ……のハズだが」
「クーリッジ・・・・・・まさか」
「え?あ!!」
「「ミミー!!」」
「呼ばれて飛び出てパパパーパーン!ご名答、28代目ワンダーパン職人、ミミー・ブレッドだパン!」
植木鉢は煙を吹き愛らしい少女(22歳)の姿に変わった。
「クーリッジ、私に気があるように言っておきながら、まさか彼女と・・・・・・」
「ま、まて、クロエ。その剣を下ろせ!これは本当に昨日パン屋でおまけとして」
「それは本当パン。小生今までずっと変身したまま寝てたパン!何もなかったパン。
それに小生はこんなお子様には興味ないパン!」
(お前にお子様と言われたらおしまいだな)【セネル】
(あんな大きい観葉植物がおまけって時点で気づけ。クーリッジ)【クロエ】
「で、何でお前がおまけとしているんだ?」
「事によっては、お前を斬る!」
「ク、クロエ?」
「この街のパン屋は来月から買収されて小生のパン屋、『ブレッド・ブレッド』の傘下の店になるパン。
と、いうわけで、小生この街の消費者のリサーチをするために送り込まれた『えーじぇんと』なんだパン」
(俺のプライバシーは無視かよ)【セネル】
「ところが最近忙しくてすっかり眠ってしまったパン。目覚めたと思ったら目の前でラブシーンが展開されていたパン。
さすがの小生も寝起きにこんなベタベタされていたら不満の一つも言いたくなるパン」
するとセネルは頭をかき、クロエは顔をすぼめて赤面してしまった。
「とにかく、理由はどうあれクーリッジの家に見ず知らずの女を上がらせるなんて許されることではないぞ!!」
顔を赤くしながらもクロエは言う。
「ク、クロエ?」
「しかも、さっきお子様には興味がないと言っていたが、最初に『おまけつき』とか言っていただろう!」
「軽く相手にしてあげるぐらいなら守備範囲だパン!」
「あの・・・・・・ミミー?」
もはや完全に修羅場と化したセネル宅。クロエも先ほどのセネルとの時間を邪魔され相当頭に血が昇っているようだ。
「クーリッジ、たたみかけるぞ!」
「え?あ、はい。まかせてくれ(?)」
急に呼ばれ戸惑うセネル。
「待つパン、せめてこの街ではどんなパンが好かれているかだけでも・・・・・・」
「魔神拳?」【セネル】
「魔神剣!」【クロエ】
バシュッ!
衝撃波が地面を伝ってミミーに直撃する。
「ひ、ひどいパン。死にさらせ〜だパン!覚えてろ〜だパン!アンケート置いていくパン!!」
嵐が去った・・・・・・。ボロボロになった床を見ながらセネルは思考を巡らす。
(なんでこんなことに。床板、貼り替えないとな)
そしてちらりと横目でクロエを見やる。
「ク、クロエ?」
「クーリッジ!」
「は、はい」
「見ず知らずの女を家に上げるなんて金輪際許さないからな」
「・・・は、はい」
そして朝食後……
「じゃあまたなクロエ」
「ああ、朝食ごちそうになった」
「さっき直後にミミーに遮られて曖昧になったかも知れないけど覚えてる?」
「え、あ・・・・・・/////」
『今夜、一緒に過ごさないか?』
「・・・・・・すけべ/////」
「うっ、また新作か・・・・・・今さらすけべもなにもないと思うけどな」
セネルは*1『すけべお兄ちゃん』の称号を手に入れた。
クロエは*2『ツンデレ剣士』の称号を手に入れた。
*1
お兄ちゃんだって立派な男です。やるときはやります。
男としての名誉挽回までもう一息!
*2
普段はツンツン。二人のときはデレっと。
ツンデレ剣士がここに参上!
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