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作品名 作者名 カップリング 作品発表日 作品保管日
バルカ・ヒルトン 丼兵衛氏 ガジュマ×アニー 2005/05/22 2005/05/23

(私・・・一体・・・どうしたんだろ・・・)
アニー・バースは朦朧とした感覚を少しづつ取り戻しつつあった。
自分が木の座席に座っている事や、車輪のきしむ音から馬車に乗っていると感じた。
(いつ乗ったんだろ・・・)
手足の感覚が戻っていくにつれて、異変に気付くまでにはさほど時間はかからなかった。
(なっ・・・!?)
いつも手にしている筈の杖は無く、両手と両足に鉄製の拘束錠がはめられていた。
「なっ・・・これは一体どういう事ですかっ!?」
「黙れっ!!」
理不尽な状況にアニーが立ち上がろうとするなり、カレギア兵がアニーの胸部を槍の
穂尻で突いた。
「がっ!・・・はっ・・・」
余りの痛みと苦しさに、アニーは息も絶え絶えに崩折れた。
「捕虜の分際で五月蝿ェんだよ、このヒューマの小娘が」
(捕虜・・・?)

胸を押し潰される激烈な痛みを堪えつつ視線を上に向けると、アニーと同じく手足
を拘束された数人のヒューマの男女と、勝ち誇った笑みを浮かべたガジュマらしき
カレギア兵の姿が目に写った。
「オラ、小突かれたくなかったらとっとと元の位置に戻れ」
アニーが弱々しく立ち上がろうとすると、両手を差し伸べる金髪の女性がいた。
「アニーさん、大丈夫ですか?」
「…クレアさん!」
「…ご無事で何よりです」
「クレアさん、一体何が…?」
「私達はガジュマ側の捕虜になったみたいです。ヴェイグも、ユージーンさん達も
内戦が起こってから散り散りになって、今は何処にいるのか分かりません」
「そんな事に…それに、ガジュマ側って一体…?」
「あんた、知らんのか?」
「ええ。気を失っていたみたいで…」
「記憶喪失か。まぁ、ある意味で幸せだな」

元商人だという中年の男の話では、ヒューマとガジュマの対立が日増しに高まり、
最初は住民同士の嫌がらせ程度で済んでいたものが、次第に大規模な独立運動やデモ
に発展した。
各地の駐留カレギア軍も例外では無く、それぞれガジュマ軍とヒューマ軍に分裂し、
2つの軍隊と自警団同士がベルサスで衝突した結果、『内戦』が始まったのだという。
旧カレギアの領土や都市はそれぞれの種族が占拠する混迷の様相と化し、血みどろの
殺戮や民族浄化の嵐が吹き荒れる地獄絵図と化した。
(私達はユリスを倒して世界を救った筈…なのに何故?)
「あの・・・、確か、“世界の破滅”が出現して、それが倒されてから民族対立は
沈静化した筈では?」
「お嬢さん、あんたは本当に夢を見てたみたいだね。まぁ、憎悪の塊みたいな怪物が
現れて、そいつを倒して万万歳!…、って御伽噺でも、こんな最低のご時世じゃ、
幾ら荒唐無稽な妄想でも信じたくなるだろうけどね。
だけど、現実に存在する怪物はヴァイラスを除きゃ、目に見えないもんだよ」
「・・・・・・」

そうこうしている内に、捕虜を乗せた護送馬車は旧カレギア王家の紋章が入ったまま
の建物と、新しく作られたものとおぼしき『バルカ収容所』と書かれた大きなアーチを
くぐった。
そして、馬車は辺りをバラックと高い塀に囲まれた中庭らしき広場に止まった。
「降りろ!」
アニー達は馬車の警備兵に槍の穂尻で突かれながら馬車から降りると、収容所の警備兵
と思しき数人のガジュマ兵に取り囲まれ、身体中を調べられた。
勿論、価値のある物を残らず剥ぎ取る為である。
クレアの次に、アニーも身に付けていた装飾品は元より携帯用の医薬品の殆どを取り上げられた。
それは我慢出来ても、父親の形見の聴診器をガジュマ兵が手をかけた時には少なからず抵抗した。
「それは父の形見なんです!」
「へぇ、そいつはご大層な骨董品だな」
警備兵はアニーの抗議に馬耳東風といった感で、取り上げた聴診器を没収箱の中へ
放り込もうとした。
「返して、返してください!」
アニーが必死に懇願していると、クレアが何かを警備兵に差し出した。
「待って下さい!、私のこれと引き換えではいけませんか?」
クレアが差し出したのは、今まで襟元に隠していた高価な指輪であった。
恐らくは、ヴェイグに貰ったものであろう。
「・・・分かった。ほら、持って行きな」
警備兵は指輪を懐にしまうと、アニーに聴診器を投げてよこした。
「有難うございます。でも、大事な物を・・・」
「いいのです。それはアニーさんのお父様の形見なのでしょう?」
クレアはアニーを励ます様に微かに微笑んだ。だが、他のヒューマ達はこれから処刑場
に連れて行かれる死刑囚の如き沈痛な表情であった。
「男女別に分かれて列を作れ!」
「列が整い次第前進!」
「ぐずぐずするな、この豚ども!」
ガジュマ兵の怒鳴り声や罵声が飛び交う中、アニーとクレアは他の女性囚人と共に
女性用の収容棟へと連れて行かれた。

「ヒルダさん!」
「アンタ達、無事だったの」
ヒルダは収容所内に存在する班の“カポ”(囚人頭)で、他の班でもカポはガジュマか
ハーフの囚人であった。
「ヒルダさんだったら、こんな所に入ってる隙に脱走でも…」
「ここに来た時に、不細工なチョーカーを付けられたでしょ」
そう言うと、ヒルダは襟をめくって首筋を見せた。
「何処の馬鹿が作ったか知らないけど、コレは囚人用の認識以外にも、フォルスに
反応して爆発する仕掛けになってるの。勿論、無理に外そうとしても自爆するだけよ」
「そんな…」
「でも、ここで下手に生き残るより、いっそ死んだ方がマシかも知れないわ…」
「ヒルダさん、生きていればきっと希望も出てきます」
このような状況下でも、クレアは尚も諦めてはいなかった。
「クレア…」
「クレアさん…」
アニーはクレアの手を取った。すると、クレアの手が微かに震えている事に気付いた。
(クレアさんも怖いんだ。でも、それを我慢して私達を励まそうとしている・・・)
アニーは、クレアの心の強さに改めて感服した。

「これより、新たに連行されてきた囚人の取り調べを行う!」
「…来たわ。奴らの“尋問”よ」
下士官の怒鳴り声に、ヒルダが身を強張らせた風に見えた。
「…ん?、こいつは・・・」
下士官はアニーとクレアの顔を凝視し、何かを伺っていた。
「衛兵!、この娘を至急、取調室へ連行しろ!」
「え…、あ、ヒルダぁ!」
アニーは訳も分からぬうちに衛兵に両脇を押えられてしまった。
「アニーさん…決して、決して最期まで諦めないで下さい」
アニーとは別に連行されるクレアが最後に声をかけて来た。
「・・・・・・・・・」
ヒルダは顔こそ無表情であったが、強く握り締めた両手からは
掌に食い込んだ爪から血がぽたぽたと流れ落ちていた。

「ほら、とっとと入れ!」
ガジュマ兵はアニーを強引に牢の中に突き飛ばした。
しばらくして、法務士官とおぼしきガジュマの将校が書類の束を持って現れた。
「貴様の父親は先王であらせられたラドラス陛下を毒殺した嫌疑が濃厚である。
更に、貴様はミルハウストと共謀してアガーテ陛下を謀殺した嫌疑もかかっている。
よって、貴様に我々の国家に対する反逆罪の容疑で詳細な調査を行うものである」
「そんなっ!、誤解です!」
「シラを切っても無駄だぞ。貴様は『王の盾』の元隊長である
ユージーン・ガラルドの暗殺を企てていたという証言も取っている」
「それは…本人に聞けば違うと証言してくれるはず…」
「“死人に口無し”とでも思っているのか?。ユージーン殿は貴様等ヒューマのテロ
リストに暗殺された。貴様が以前から謀議に関与したという証言も取ってある」
「う、そ・・・」
「…貴様には近い内に極刑が適用されるだろう。いい気味だ」
確かに、アニーはかつてユージーンを“父の仇”として狙っていた。だが、真相を
知ってからは、彼の事を慕い、共に仲間としてユリスと戦った…その筈であった。

(なのに、何故こんな事に・・・?)

アニーは取調べの後、薄暗くて湿った独房に入れられた。
粗末な寝台に横になって寝ようとしたのだが、ショックで中々寝付けずにいた。
突然、入り口の鉄扉が乱暴に開いたかと思うなり、酒瓶を手にしたガジュマ兵の一団
がアニーのいる独房に入ってきた。
「何です…あなたたちは」
「俺達かぁ?。“お楽しみ”を分けに来たのさ」
「へへ…このヒューマの味はどんなだぁ?」
唐突に、ガジュマ兵の一人がアニーの服に手をかけるなり、力任せに引き裂いた。
「嫌ぁぁぁ!!」
「抵抗すんな、この腐れヒューマめが!」
大きな手がアニーの頬に飛び、アニーは視界に電撃が走ったかの様な衝撃が走った。
「おいおい、余り顔をやるんじゃないぞ。幾らヒューマでも痣だらけの女相手じゃ
興醒めするってもんだ」
「分かったよ。じゃ、お前等はコイツが暴れない様に捕まえててくれ」

「嫌、嫌ぁ!!」
アニーは身体を捩らせて必死に抵抗した。だが、屈強な兵士に抗い続ける事は不可能で
ある。結局は数人がかりで両手と両足を掴まれ、押え込まれてしまった。
「それ、御開帳!」
「嫌ぁ!!」
両足を大股に開かれ、秘所を丸出しにされたアニーは顔を背けた。
「階級順にしよう。兵士長殿からお願いしますよ」
「うむ。俺様がこの小娘に“優生民族の誇り”を教えてやろうか」
下士官と思しき牛型のガジュマ兵は、猛り狂った剛直をいきなり秘所に挿入した。
「ひっ・・・ひぎぃぃぃぃ!!」
アニーは丸太を股間に突き刺されたような痛みに悶絶しかかった。
秘所は鮮血で染まり、小柄なアニーの体格に似合った慎ましい割れ目はガジュマ兵の
剛直によって強引に押し広げられつつあった。
「ぎゃははは、血塗れだぜぃ!!」
ガジュマ兵はアニーが痛がるのも余興の一つとばかりに、腰を深々と沈めた。
「やっ・・・やぁぁ!!」
「ふんっ!・・・ふんっ!・・・俺様のモノの具合はどうだ?」
「あぁ・・・あぁぁ!!」
「イィってよぉ!」
「「「ギャハハハハ!」」」

陵辱の続く間、痛みと屈辱と恐怖で泣き喚くアニーの悲鳴と、それを面白がるガジュマ兵
達の下卑た笑い声が狭い独房に響いていた。

「・・・もうそろそろか、ほら、受け取りな!」
もう十数回目になろうもんか、ガジュマ兵は腰の動きを止めた。
「いやぁあぁあぁあぁ!!」
アニーは身体全体を激しく振って拒絶の意を表したが、ガジュマ兵達にはその様な
ジェスチャーが通用する筈が無かった。
「うっ・・・おぉぅ!」
「やぁぁぁぁ・・・!!」
白濁液はアニーの胎内に放出され、受け取り切れなかった分が割れ目から零れ落ちた。
本来なら子を授かるべき厳かな儀式を、汚らわしい欲望と拭い様の無い憎悪によって
汚されてしまったのであった。
「うっ・・・うっ・・・嫌ぁ・・・、いっその事なら・・・殺して・・・」
「そうはいかねぇな。まだ順番待ちが控えてんだ」
「そら、今度は誰の番だ!?」
「いっそのこと2人で穴を共有してみようか?」
「おいおい、裂けちまうぞ」
「構うこたネェよ。どうせコイツは俺達の敵だ」
「そいつは感心せんな。これからは劣等人種をもっと品種改良せねばならんからな。 
同族やハーフの女ならば、せいぜい追い回して尻を引っぱたく位の悪戯で十分だが、 
ヒューマの雌豚どもには戦場であれ、収容所であれ思い知らせる必要がある」 
「さすが隊長!、じゃ、明日も相手してもらいましょうか?」
「じゃ、今日はコイツで愉しんでみましょうか。ほら、来い!」
「・・・・・・」

ガジュマ兵に連れられて、四つん這いで歩いて来たヒューマの女性を見た途端、
アニーは全身が凍り付く思いを感じた。
「・・・酷い・・・」
…変わり果ててはいたが、紛れも無くクレアであった。
彼女は丸裸で、縄を付けた首輪を付けられた上に目隠しされていた。
しかも、鞭で打たれたのか、体中が傷だらけという惨い有様で片足を引きずっていた。
「そのままじゃ遅くてかなわんわ。立たせろ」
「ほら、立て!」
「・・・はい」
クレアは秘所から白い液体混じりの鮮血を滴らせていた。
「とっとと歩けや、この雌犬が」
ガジュマ兵がクレアの臀部をぴしゃりと叩いた。
「・・・はい・・・御主人様」
「へへへ・・・今夜は腰が立たなくなるまでハメてやらぁな」
獣どもはアニーの身体はおろか、心までも汚して意気揚揚と去っていった。

「う・・・うぅぅ・・・ぁぁぁ・・・!!」

文字通り身体共に打ちひしがれたアニーは、頭から毛布を被り、声を殺して泣いた。

(身体が・・・重い・・・)
翌日、アニーは板に汚れた毛布がかかっただけの粗末な寝台に身体を横たえていた。
横の監視部屋では、ガジュマ兵2人が何やらお喋りをしている様であった。
「・・・ヒューマを一匹捕まえたんだって?」
「許婚だかいう囚人をたった一人で助け出そうとしたんだと。馬鹿なヒューマだぜ」
「あ〜、許婚ってあの雌犬か?。知恵が足らん分お似合いだぜ」
犬のガジュマ兵は鼻でせせら笑った。
アニーが独房の覗き窓から外を見ると、ガジュマ兵達に引きずられる様に連行される
ヒューマの青年の姿があった。
余程抵抗して暴行されたのか、着衣もボロボロで足もガジュマ兵に剥ぎ取られたのか
裸足という無残な姿と化していた。髪も砂塗れであったが、それでも特徴のある水色
の髪がアニーの目に入った。
(ヴェイグさん!?)
突然、意識が無い風に見えたヴェイグは物凄い力で警備兵を跳ね除けると、凄まじい
ばかりのフォルスを発散し始めた。
(まさか、フォルスが暴走!?)
刹那、ヴェイグの首筋に小さな爆発が起こり、僅かな肉隗と夥しい血飛沫を撒き散ら
して倒れた。暫くの間、ヴェイグは口を開いていたが、やがて痙攣して動かなくなった。
(あの首輪が…)
目の前で起こった仲間の無残な死に打ちひしがれたアニーを余所に、警備兵の2人組
はごくありふれた風景でも見るかの様に醒めた目で眺めていた。
「囚人用の首輪付けられてたってのにフォルス使うなんて、トコトン馬鹿だな」
「ま、処刑する手間が省けただけでも良いじゃねぇか」
「でもよ、後始末が大変だぜ? あんなに汚しちまってよ…」
「何、囚人どもにやらせとけばいいって事よ」
「あ、その前にあのお下げは頂いとかなきゃな。あれだけ長けりゃ高く売れるぜ」
「他の奴等に盗られる前に行くか」
「そうすべぇ」
2人組はそのまま独房棟を出ていった。
「う・・・うっ・・・・・・うぅ・・・・・・・・・」
アニーは弱り切った身体を独房の壁に持たせ、爪を食い込ませたまますすり泣いた。

「アニーさん、アニーさん!」
「誰・・・?」
独房の檻の側から、聞き覚えのある少年の声がした。
「僕です、ミーシャです」
「何故、ここに…?」
「収容所付きの医療助手に潜り込んだんです。それより聞いて下さい」
もうすぐティトレイさん達のパルチザンとヒューマ軍が収容所を攻撃する筈です。
アニーさん達は混乱に乗じて上手く脱出して下さい」
突然、独房のある建物の壁が吹き飛び、守衛室にいたガジュマ兵が数人吹き飛んだ。
「敵襲!」
「劣等人種のテロリストどもの襲撃だ!」
「応戦しろ!」
たちまち、収容所は破壊と混沌が渦巻く“魔女の大鍋”と化した。
ティトレイが樹のフォルスを駆使しているのか、そこかしこに樹木が生えては建物を
破壊し、隙間から囚人が一斉に脱走し始めた。
その中で、どさくさに紛れてアニーはミーシャに連れられて逃亡しつつも、必死に
ヒルダとクレアを探していた。
「あの餓鬼、ガジュマの癖にヒューマの囚人を逃がそうとしてるぞ!」
「逃がすか!」
ガジュマ兵の一団がアニーとミーシャを追いかけてきた。
「アニーさんは早く逃げて下さい!、僕が食い止めます!」
ミーシャは自らの“牙のフォルス”でヴァイラスを呼び寄せ、押し寄せるガジュマ兵達を
ひとまず食い止めた。 
「ごめん、ミーシャ、後ですぐに助けを呼んで来るから!」
アニーはフォルスを封じられていた為に、その場から逃げるので精一杯であった。


戦闘の後には、そこら中に酸鼻極まる光景が広がっていた。
半壊した収容所のあちこちには、戦死したガジュマ・ヒューマ両軍の兵士やパルチザンはおろか、
戦闘に巻き込まれて殺されたり焼死したり、果ては運悪く自爆した囚人の
死体が転がっていた。
怒り狂ったヒューマ兵や元囚人達は、降参したり逃げ遅れたガジュマ兵をなぶり殺し
にし、手当たり次第に処刑していた。
そうした死体は元からあった処理用の穴に次々と投げ込まれていた。
「ヴェイグやクレアさんまで…獣どもめ…」
ティトレイは歯を食いしばり、暴走しそうになるフォルスを必死に抑えていた。
彼は毛布に包まれた遺体を抱えており、毛布の裾からは金髪が垂れ下がっていた。
「アニーさん…」
ティトレイの姉のセレーナは、アニーを見守る事しか出来なかった。
解放されたアニーはヒルダの躯を抱き、汚れた頬を布で拭っていた。
「私は何も出来なかった・・・・・・誰も助けられなかった・・・・・・」

(そうだ、ミーシャさんを探さなきゃ…)
アニーは気力を振り絞り、おぼつかない足取りでミーシャを探し始めた。
「…すみません、小熊みたいな子供のガジュマを見かけませんでしたか?」
ヒューマの下士官はある方向を指差した。処刑場所となっていた広場だ。
・・・そこには、ポールに1つ“奇妙な果実”がぶら下がっていた。

「・・・うぁああああああああああああああああああっ!!」

彼女は叫び、喚き、ありとあらゆる罵りの言葉で呪った。
種族で憎み、差別し、殺し合う狂った世界を。
そして、過去であれ、その狂った社会を心から肯定した己自身を…。

そして、アニーはそのまま気を失い、夢を見た。
厳密には、夢を見ているつもりであったのかも知れない。
そこでは、誰かが話し込んでいるのを聞いた覚えがした。

(…やれやれ、ここでも何かのきっかけで歴史が狂ったのかな)
(幾ら修正するといっても、何らかの形で滓が残るだろうね)
(この世界も、結局は“歴史の吹き溜まり”に行くだろうね)
(さて、そろそろ帰らなきゃ。別の世界も同じ風になるかも知れない)
(待って。アニーさんの記憶はまだ完全に消去しきれてないよ)
(大丈夫、気が付いたら全部夢だと思うでしょ)

アニー・バースは、診療カルテの積まれた書類机から跳ね起きた。
(…書類整理の途中で寝ちゃったみたいね)
彼女の目の前には診療室があり、窓の外には見慣れたバルカの街角が広がっていた。
勿論、ヒューマとガジュマが殺戮を繰り広げている訳では無く、増してや死体が転が
っているなどという光景など微塵も無かった。

ユリスを倒し、『世もなべて事も無し』という現実。
だが、ユリスが出現せず、ヒューマとガジュマがあのまま対立していたら?
…その意味では、あの夢は夢と片付けられるものではなく、別の次元のもう一つの
現実でもあった。今の現実でも、ヒューマとガジュマとのしこりは消えた訳ではない。

「…私は闘ってみせる。これまでも、これからも」

「バース先生、大丈夫ですか?。もうすぐ検診の時間ですよ」
アニーの助手のガジュマの女性看護士が診察室のドアを開け、アニーに声を掛けた。
そして、アニーは気を取り直すと聴診器を首元に付け、患者を受け入れる準備を整えた。
「私なら大丈夫です。…患者さんを入れて下さい!」
彼女は今日も駆け出しの医者として、『命に色は無い』事を身をもって示そうと誓った。

・・・あの恐るべき悪夢を現実としない為にも。
                                   [完]


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