総合トップ>SS一覧>SS No.2-081
作品名 |
作者名 |
カップリング |
作品発表日 |
作品保管日 |
君よあなたはアカかった |
丼兵衛氏 |
エロ無し |
2005/01/30 |
2005/01/31 |
事の発端はサニイタウンの一角で、マオが突然告白した一言であった。
「僕は・・・・・・前世は異世界の革命家だったんだ!」
「「はぁ!?」」「!?」「………」
余りに唐突かつぶっ飛んだマオの告白に、ティトレイは素っ頓狂な声を上げ、アニー
は目を白黒させ、ヴェイグは文字通り言葉を失ったまま凍り付いた。
「…どういう事だ、マオ」
動揺しながらも、表面上は落ちついた様子を取り繕っていたユージーンが尋ねた。
「人民達よ!、堕落したブルジョア的封建政治を打倒しましょう!、造反有利!」
「…ゾウハンユウリ?何だそりゃ?」
ティトレイが呆気に取られながら尋ねた。
「ティトレイ、あなたのようなプロレタリアートこそが知らなければならない事です。
自分の娘恋しさに立場の弱い人間を犠牲にして保身を図る支配階級は、打倒しなければ
ならない社会の敵であり、歪みの根源です!」
「余計訳わかんなくなってきた。大体、幾らなんでも“社会の敵”って言い過ぎじゃ…」
「甘過ぎます! あなたはその敵に情けをかける態度によってあなたの姉を犠牲に
したのです!! その前時代的な奴隷根性は反社会的ですらありますよ!!」
マオは炎のフォルスを背景にティトレイに詰め寄った。普段のマオからは想像もつか
ない凄まじい迫力である。
「何か、何かキャラ変わり過ぎだよぉ・・・」
思いも因らぬ人物にいきなり凄まじい口調で詰問されたのが堪えたのか、ティトレイは
いつもの減らず口も何処かに忘れてその場にへなへなとへたり込んだ。
「一体、炎の聖獣に何を聞かされたんだ…?」
「革命を成功させる為には農民階層の支持を取り付けなければなりません。
という訳で、いざスールズ村へ出発!
♪起て! 奴隷となることを望まぬ人びとよ! ・・・」
マオは(文字通り)使命感の炎に燃え、妙に勇壮な歌を口ずさみつつ勇ましい足取りで
勝手に歩み始めた。それも呆然としたヴェイグ達を取り残す格好で、である。
「な、何てこった…どうする?」
マオに“論破”されたティトレイが腰を抜かしたまま、ようやく口を開いた。
「放っておく訳にもいかんだろう。それに、上手くすれば正気に戻せるかも知れん」
「まぁ、そうですが…もしも、もしもですが、マオが正気に戻らなかったら?」
「………なるようにしかならんだろう」
「「「………」」」
沈黙した四人の側では、ヒルダが何やら思案げに占いのカードを引いていた。
「…“古い世界を壊す”か。面白い事になりそうね」
<数ヶ月後>
バルカの北方にそびえる獣王山に突如出現した破滅の予兆…ユリスの領域にヴェイグ
達は乗り込んでいた。
…ただし、6人ではなく10万人という凄まじい規模で。
マオを先頭に赤鉢巻を締め、赤旗を振りかざしながら進む彼等はマオの「革命思想」
に感化されるかなどして付いて来た民衆や王国軍の元兵士達であった。
彼等は人海戦術に物を言わせて領域内の仕掛けやバイラスを踏みにじりながら突破し、領域内に満ちて
いる筈の邪悪な気をも、お祭り騒ぎにも似た集団意識で吹き飛ばしながら強引に突き進んで行った。
ヴェイグ達はというと、集団に押される格好でマオの脇を同行している格好であった。
「…ヒトの意思って凄いものだな」
「それはそうですけど、ティトレイさんがあんなになるなんて…」
アニーの言う通り、マオの横では赤鉢巻を締め、赤旗を握り締めたティトレイが気勢を
上げて群集を扇動していた。
「同志諸君っ!!、狂暴な怪物は今や我等の意思の前に打倒されんとしているっ!!
邪悪な獣を殲滅し、我々のぉ革命を達成するのだぁ!!」
フォルスを暴走させて辺り一面密林にしかねない勢いでティトテイがアジると、群集
もそれに釣られる様に騒ぎ、一斉に革命歌を歌い出した。
「「「♪暴虐の雲光を覆い 敵の嵐が荒れ狂う
迷わず進め同胞(はらから)よ 敵の嵐を打ち砕け・・・」」」
数万人もの人間が一斉に歌い出した為に、凄まじい轟音が領域内を駆け巡った。
とはいえ、領域内に満ちた邪悪な空気が消える分ヴェイグ達にとっては有難かった…
というより有難迷惑であったが、気の毒なのは群集の最後尾からやや離れてついて来て
いたアガーテである。
諸悪の根源は種族間の差別や憎悪にある…と革命思想では謳われていた。
だが、解釈次第によっては差別を生み出すきっかけとなった旧体制や象徴であるアガーテに
矛先が向く恐れがあり、アガーテとクレアの護衛を務めていたミルハウストに至っては
いつ不測の事態が起こってもアガーテを護れる様に剣に手を掛けている有様であった。
もし、マオとクレアがアガーテとミルハウストに手を出さない様に群集に訴えかけねば
即座に“総括”されてしまっていたであろう。
そうこうしている内に、領域の最深部にまで辿りついた。そこには破滅の象徴である
強大な敵、ユリスが待ちうけている…筈であった。
「…何だありゃ?」
「…もしかして、あれがユリスか?」
「…恐らくな」
彼等の目の前にいたのは、聖獣王を蹴散らしたとは到底思えないまでに衰え、ただの
白っぽい気持ちの悪い生物と化したユリスの姿であった。
「・・・い、イチさぁぁん・・・・・・ハァハァ・・・」
ユリスは呼吸するのもやっとかという荒い息を吐き、意味不明の言葉を吐いた。
「…余り気が進まないが、奴を倒さない訳には行かないだろう」
ヴェイグ達は少し拍子抜けはしたものの、それぞれの得物を抜いた。
結局、ユリスは呆気ないほどに倒された。
元々、ヒトの負の感情の高まりによって生み出された怪物であっただけに、マオが起こした
革命騒ぎによってヒトの憎悪は革命熱にとって代わられ、結果計り知れない打撃を受けた上
に、その巨大な体躯に群がった数千人の群集によって袋叩きにされて息の根を止められると
いう皮肉な最期を迎えた。
群集は自らの勝利(実は少し違うのだが)に沸き立ち、獣王山…それも王室の霊廟で
(平時であれば不敬罪に値したであろう)マオ達を祭り上げて大騒ぎした。
…その騒ぎの中でアガーテ女王がひっそりと崩御した事はまるで省みられずに。
結局、彼等は気付かなかった。
ユリスという邪悪(?)な気は払ったものの、マオと革命というより強大かつ常軌を
逸した気に完璧に飲み込まれていたという事を・・・。
その後、マオは“赤い人民の太陽”を名乗ってアガーテ女王死去後の混乱したカレギア
でスールズ村を根拠に解放区を広げ、民衆や王国軍、王の盾の元兵士で編成された
紅軍を率いて首都バルカに無血入場し、カレギア人獣共和国の国家主席に就任した。
混乱の極にあった国を統一した彼は人種を問わず民衆から敬愛されたが、『四人組』
(旧カレギア王国の四星に該当する国家首脳部の面々)の暗躍やミルハウスト元帥
(将軍から昇格)の謎の事故死など絶えない政治的暗闘に明け暮れ、施政の晩年には
四人組が引き起こした「風俗大革命」により“マオ肖像バッジ”を胸に付け“マオ主席
語録”を手に持った若いヒューマやガジュマの集団が“差別的・封建的思想”を有する
と名指しされた首長クラスの人々を吊し上げ、“謝罪”させるという騒ぎまで起きた。
(引廻しにされた中にはペトナジャンカの元工場長の姿もあったという)
彼の死後、防腐処理を施された遺体がバルカ博物院(旧カレギア城で解放後は博物館に
改装された)に安置され、人民の霊廟として末永く保存された。
[再見]
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