総合トップ>SS一覧>SS No.2-065
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作品発表日 |
作品保管日 |
無題 |
双子萌え氏 |
ヴェイグ×クレア(アガーテ) |
2004/12/25 |
2004/12/25 |
ヴェイグたちが再び旅に出てから数日後のこと――
「ラ、ラーラ、ラララ、ラー」
ミナールの安宿で与えられた一人部屋。
そこでわたくしは、小さな頃大好きだった歌を口ずさんでみました。
「ララ、ラーラ、ラーラララー」
小さな頃と同じ旋律を歌っているはずなのに、音色が全然違う。
今は澄んだ声。
声からだけでも、"私の姿"の美しさが想像できるような、そんな声なの。
それは、わたくしの身体が変わってしまったから。
ガジュマの身体を捨て、美しいヒューマになったから。
そう、
――わたくしはクレアの身体を奪った身――
わたくしは満月の夜、ヒューマの身体を手に入れた。
長い間、待ち望んでいた夢。一生叶えられないと思っていた夢。
それが今、現実となっている。
美しい村娘の身体は、最初こそ違和感があったとはいえ、
慣れれば良い心地で過ごすことが出来ました。
――早く、バルカに行きたい。
都で愛しいあの方に会いたい。女王という殻を捨てて、あの方との恋に生きるの。
ヒューマの身体に慣れたわたくしは、早くも恋の焦りを感じていました。
――1日でも早く。
あの方にこの歌声を聞いて欲しい。この身体を褒めて欲しい。
そう思うと、口ずさむ歌声が少し大きくなってしまったの。
葡萄色のスカートを靡かせるように、踊りもつけてしまおうかしら。
上機嫌になってゆるやかなステップを踏み出したとき、
聞こえたのは、部屋の扉が2回叩かれる音。
「クレア、いるか」
"クレアの幼なじみ"の声が聞こえたので、"私"は扉をゆっくりと開けました。
扉を開ければ、白銀の髪が飛び込んでくる。
高い身長の男。
彼は扉を閉めるとすぐに、"クレアの"身体を抱きしめましたわ。
「どうしたの?――ヴェイグ」
「……クレアの顔が見たくなった」
抱きしめたがる彼の胸を押し返して、わたくしは彼の顔を見上げる。
"私"が碧の目で見つめると、
長い、白い前髪の奥に光る瞳が、優しく光っているのがわかりました。
彼の瞳は、カレギア城の屋上でわたくしと対峙した時とは正反対。
「クレアの姿が見えないと、不安だ。
もう傷つけたりしない。だから、傍にいてくれ」
甘い、恋人に語りかける口調を唇が紡いで、
この男の気持ちがわたくしには、簡単にわかってしまったのです。
それから男は、まるで一連の動作のように"私の顎"に指を這わせ、
薄い唇を"私の唇"に重ねました。
突然のことに少し驚きましたが、わたくしは作法として目を閉じました。
ヒューマはガジュマ程耳が良くないので、
瞼を閉じてしまえば、頼りになるのは感覚だけ。
今は、触れている唇のみが私の感覚のすべて。
目の前にいるだろう男の、少し低い体温。かたい唇。
わたくしは『この相手が"あの方"だったなら』と思いました。
――ねえ、クレアはこの男をどう思っていたの?
わたくしは急に、「キスを拒むべきだったのではないか」とさえ考え出してしまいました。
しかし全ては後の祭りで、
そっと口の中へ割り込もうとしている男の舌を拒む手だてはもう、どこにもなかったのです。
ベッドの上で抱きしめあった"私"と"幼なじみの男"は、
幾度目かの、身体の芯がつながりあってしまうほどの深い口づけを交わした。
女王だった頃は、キスやその先なんて、耳で聞いただけの話だった。
それがこんなに、刺激的なものだなんて。
とろけてしまいそう、ですわ……。
唇を離すと、わたくしは身体が熱くなっているのに気が付きました。
顔が火照り、私の瞳は潤んでいるようなのです。
わたくしは男を見上げ、目が合うとすぐにそらしてしまいました。
だって、男の熱っぽい瞳もまた、"私"を見つめていたんですもの。
「クレア……」
男は、わたくしを先ほどより強く抱きしめると、
"私"の首筋に噛み付くようにキスをしてきました。
「あ……ぅ」
男が顔を動かすたびに顔に擦れる髪がくすぐったい。
首筋をきつく吸われる度に、背中をなにかが駆け抜ける。
ああ、ヒューマも、獣じみた事をするのね……。
やがて男の唇が胸のあたりまで降りてくると、
彼は鼻先を胸にあてたまま口を開きました。
「……嫌がらないんだな」
「?」
「いつもは首に痕をつけると、怒るのに」
「……」
わたくしが何も言えずに思案していると、
男は"私"の胸にやわらかく触れてきました。
「ん……ぁ」
男の手の中で形を変えていくやわらかな乳房を見て、
わたくしはクレアを思い出しました。
――すき、だったのかな。
わたくしが"あの方"をだいすきなように、クレアも彼を愛しているの?
それなら貴女は今どう思っている?
わたくしが、貴女の皮をかぶって、貴女の恋人に抱かれようとしているのを。
白銀の髪の男は、クレアを心底愛しく思っていることが分かる、
そんな愛撫がわたくしの思考を止めさせていました。
「ヴェイ……グ……んぅ」
彼の指が、私が思案しているうちに
服の上から乳首をとらえ、すこしだけ強く擦りました。
わたくしの背中はそれだけでふるえ、
しかしもっと強い刺激がほしいと思っていました。
「もっと……」
わたくしの思考は"私の唇"に、そう言うよう命じました。
そのときわたくしは、愛撫をねだることが恥ずかしい事だと知らなかったのです。
男は"私"の顔を、一瞬びっくりしたような表情で見つめ、
それからほんの少しだけ嬉しそうに目を細めました。
男の指が胸元へ、服をこじ開けるように滑り込んできました。
肌へ、直に触れられるだけで、こんなに気持ちよくなるなんて。
服の上からされるそれとは明らかに異なる愛撫が、私をさらに驚かせました。
身体すべてが、彼の手の中で溶けてしまいそうなのです。
「ふ……んぁ……っ」
彼の指は乳首を自由に弄びました。
その度に、身体の末端まで快楽が押し寄せるのです。
何度か、指が複雑に(と、わたくしは感じたのです)"私"を責め、
わたくしは次第に息が荒くなりました。
『気持ちよさ』が、どんどん高まっていくのです。
そしてわたくしは、乳首が強くつぶされたときに快感が頂点を極め、
そのあと全身から力が抜けてしまったのです。
"私"は整わない自分の息を聞きながら、男にもたれかかりました。
彼はそんな"私"を抱きしめます。
「……かわいい」
男がクス、と、耳許で笑いました。
更に「いってしまったのだろう」といった意味のことを"私"に言うのですが、
わたくしは何のことだか分からず、曖昧に笑い返しました。
「……そろそろか」
息が整い始めた頃、男が"私"の身体を起こしながら、そう言いました。
さすがのわたくしでも、それが何を意味するのか分かります。
彼はクレアと、繋がるのだわ。
わたくしは不安と、期待とが混じった瞳で男を見つめました。
――怖いわ。
だって、わたくしは初めてなんですもの。
でも、わたくしはクレアを演じなければならない。
慣れているふりをしなくてはならない――
不安が相手に伝わったのか、彼は"私"の右手を握りました。
「ひさしぶりだから、怖いかもしれないが……」
「……」
いつの間にか男の低い声には吐息が混じり、どことなく切なさをたたえていました。
「もう待てないんだ。わかるだろう、俺が、もうこんなになってるって」
言うと、彼は"私"の手をグイと引き寄せ、彼の股に押しつけました。
そこには熱を帯びたものが、硬く脈打っていました。
「いやぁっ」
わたくしは思わず、右手を払いました。
だってわたくしは、こんなことはじめてでしたもの。
頭が一瞬のうちに混乱して、
気付けば乱れた服を直し、部屋を飛び出していました。
わたくしは宿屋のテラスに座って、ミナールの夜風に当たっていました。
瞳からは、わたくしの意志とは関係なく、涙が幾筋も零れるのです。
――わたくしは、
わたくしは、ヴェイグと交わりたくなかったのかしら。だから涙が出るの?
確かに、この身体を"あの方"のために綺麗にしておきたいとは思うけれど、
他の男と繋がるのが「わたくしの本意」ではないのだけれど、
泣けてくるのは、それだけではないわ。
――わたくしは、
"クレアであるわたくし"は、ヴェイグを拒んだ。
例えばわたくしがヴェイグの立場だったら、どう思うかしら?
きっとひどく傷つく気がするわ。
わたくしは、この身体の持ち主の――クレアの恋人を傷つけたんだわ。
それに気が付くと、また涙が出てきました。
私は"クレアの"頼りない肩を自分自身で抱きしめました。
「こうしてくれるのがあの方なら――ミルハウスト、あなたならいいのに」
おわり
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