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作品名 作者名 カップリング 作品発表日 作品保管日
素直な気持ちで サザム氏 ゼロス×しいな 2004/08/18 2004/08/19

「ゼロス様、杯が空になっていますわ。ささ、どうぞ」
「おっとっと。いや〜、美人のお酌で飲む酒は最高だね〜!」
着物を着た妙齢の女性に楚々とした手付きで酒を注がれ、ゼロスはご満悦の顔で放言した。
隣に座っているしいなが、そんないつもの軽薄さに、呆れた顔をして酒杯に口をつける。
ここはしいなの住む、イガグリの里にある大広間。
テセアラとシルヴァラントの和平交渉が一段落した事を祝う席に、ゼロスは主賓として招かれていた。
「しっかし、他の奴らも薄情だねぇ。せっかくの宴会だってのに、俺様以外に誰も来ねえんだからよ」
「仕方ないだろ、みんなそれぞれ忙しいんだからさ。どっかのアホ神子と違ってね」
やれやれとかぶりを振るゼロスに対し、しいなは突き放すような声色でボソッと呟いた。
ロイドとコレット、リフィルとジーニアスには連絡が取れず、リーガルとプレセアは都合がつかずに欠席。
実はゼロスも貴族達との舞踏会の予定があったのだが、そんな事はしいなの前ではおくびにも出さない。
代わりにおどけた調子で肩を竦めると、ゼロスはお酌をする女性の身体にさり気無く手を伸ばした。
「ま、お陰で俺様は、旨い酒も綺麗なお姉さんも、こうして独り占め出来るんだけどな?」
「あら、いやですわゼロス様。お戯れを……」
手馴れた動きでするりと身をかわしつつも、その女性は満更でもない表情で微笑み返した。
そんな様子を横目で窺っていたしいなは、にわかにすっくと立ち上がると、少しとげのある口調で釘を刺す。
「あんたね。言っとくけど、ウチの子たちにあんまり変な真似したら承知しないよ?」
「およ? どこ行くんだ、しいな?」
「あたしゃちょいと外の風に当たってくるよ。ここにいるとあんたのアホが感染しそうだからね」
ぶっきらぼうに告げて広間を出てゆくしいなの姿を、ゼロスは苦笑を浮かべて見送った。

「……いや、済みませんなゼロス殿。全くもって無愛想な孫娘でして」
「ん? ああ、いいってことよ。しいなに愛想がねえのなんて、いつもの事だしな」
しいなが姿を消すと、彼女とは逆の隣に座っていた、現棟梁のイガグリ老がゼロスに頭を下げた。
彼女がいる時を見計らって何度もこの里へ通い詰めている内に、この老人ともすっかり打ち解けている。
ゼロスが軽く受け流すと、イガグリ老は珍しく渋い顔つきで、小さく首を横に振る。
「いやいや、そう言って頂けるのは有難いのですが、ちと男勝りに育て過ぎたと反省しております」
「ははっ、そりゃ確かに。俺様にあんな態度を取る女なんて、あいつぐらいのもんだぜ」
軽く笑い声を上げながら、ゼロスはイガグリ老の言葉に同意した。
ロイド達に会う前は、神子という地位にこだわらず、普通に接してくれる相手はしいなしかいなかった。
最初は面白く思いながら、それが次第に特別な感情へと変わってゆくを自覚したのは、もう随分前の話だ。
だが、生真面目で純情なしいなが相手では、軽い気持ちで口説く訳にもいかない。
それに、今の気の置けない友人としての付き合いも、これはこれで悪くは無い。
ゼロスがそんな考えを内心で思い返していると、イガグリ老は悪戯っぽい笑みと共に愚痴をこぼし始めた。
「本当に、しいなときたら乳と尻ばかり育って、肝心の女らしさなど欠片もありませんからの?」
「おっ、言うねぇ爺さん。まあ実際の処、胸はあっても色気ってもんが決定的に足りねえけどな?」
冗談めかした言い方で語るイガグリ老に、ゼロスは自分の想いは棚に上げて、陽気に話を合わせた。
「ゼロス殿もそう思われますかな? その上あの性格ですから、言い寄る男などあるはずもなく……」
「そりゃそうだ。あんなじゃじゃ馬を乗りこなせる奴なんて、そうそういないって」
調子に乗ってゼロスが戯言を吐くと、イガグリ老は共感を覚えたように大きく頷く。
「いや、仰る通り。やはりしいなには、少々強引にでも婿を取らせるしかありませんな」
「……は?」
しかし、続いて呟かれた台詞に、ゼロスは口元に持って行きかけた杯をピタリと宙に止める。
そんな彼の変化もそ知らぬそぶりで、イガグリ老は得々と語り出した。

「しいなももうすぐ二十歳になりますからな。そろそろ身を固めてもらわねばなりますまい」
「そ、そうかぁ? 何もそんなに急ぐことは無えんじゃねえの?」
「しかし、イガグリ流正嫡の血を絶やす訳にもいきませんしな。こういう事は早い方が良いでしょうて」
出来る限り軽い口調を保ちつつ、ゼロスはイガグリ老の訴えをそれとなく否定した。
するとイガグリ老はぱたぱたと手を振って、ゼロスの問いへ鷹揚に答える。
「それに、婿の当てはとうにつけておりますからな」
「いっ?」
「ゼロス殿も、おろちの奴は知っておりますよな? あ奴なら次期棟梁の夫としても充分ですしのう」
「はぁっ?」
自分に振られるのかと身構えたゼロスの耳に、思い掛けない名前が不意打ちで飛び込んでくる。
ゼロスは何度か顔を合わせている忍びの青年の姿を思い浮かべ、身体をずらしてイガグリ老に向き直った。
「ちょちょ、ちょい待った。あいつらって、そういう関係にはなりそうもないぜ?」
「確かに今の処は唯の幼馴染ですがの。なに、棟梁のわしが命じれば嫌とは言いますまいて」
平然と告げられた言葉に、ゼロスは強い焦りを覚えた。
確かに棟梁の命令とあれば、生粋の忍びであるしいなにそれを拒絶する事は出来ないように思える。
「そ、そりゃどうかと思うけどなぁ。そういうのはホレ、やっぱお互いの気持ちが一番大切じゃねーの?」
「しかし、しいながあの調子では、この先も婿候補を連れてくる事などありえそうに無いですしの」
ゼロスが遠回しに異を唱えても、イガグリ老はしれっとした顔で言い放った。
突然の話にゼロスは上手い言葉も浮かばず、ただ焦りと不安と反発が、次々と心の底から湧き起こる。
「流石に連れ合いが出来れば、少しは淑やかにもなりますじゃろ。そうは思いませんかな?」
「あ、ああ、そうかもね……」
上機嫌でうそぶくイガグリ老に気の無い声で相槌を打ちながら、ゼロスの脳裏で複雑な思いが巡る。
ゼロスは生じた胸のわだかまりを飲み下すように、手にした杯を一気に呷った。

                      ◇  ◇  ◇

「んっ、あれ……」
「あ、起こしちまったかい?」
額に心地良い冷たさを感じて、ゼロスは妙に重い瞼をゆっくりと開いた。
少しぼやけた視界には、見慣れない板張りの天井と、上から覗き込むしいなの姿が映る。
錯綜する思いを誤魔化す為に無理にはしゃぎ、限度を超えて杯を重ねたせいで、途中からの記憶が無い。
酔い潰れて、いつの間にか布団まで運ばれて来たのだと理解して、ゼロスは大きく溜息をついた。
「はぁ……、みっともねぇ。俺様ともあろうものが、酔っ払ってダウンなんてよ」
「確かに、いつも格好ばっかつけてるあんたにしちゃ珍しいね。身体の調子でも悪いのかい?」
「……別に、そんなんじゃねえよ」
少し心配そうに告げてくるしいなの問いへ、ゼロスは曖昧に言葉を濁した。
素直に理由を告げられるぐらいなら、最初から意識を失うほど深酒をしたりはしない。
ふらつきながら上体を起こすと、ゼロスの額の上からしっかりと絞られた濡れ手拭いがポトリと落ちた。
「しいな……。もしかして、ずっと介抱してくれてたのか?」
「あ、うん、まあね。だってほら、一応あんたも客なんだし、放っとく訳にもいかないしさ……」
ふと思いついたままに問い掛けると、しいなは急に照れ臭くなったのか、弁解するようにそう答えた。
軽く頬を染めて恥らう様が、今夜はやけに魅力的に映り、ゼロスの心を騒がせる。
「ふうん、そっか……」
「か、勘違いしないどくれよ? 別にあんたがどうとかじゃなくって、そのっ、仕方なくなんだからねっ!」
混沌とした想いの渦巻く中で呟くと、それをどう解釈したのか、しいなは少々むきになって言い立てる。
普段なら軽く受け流せるはずの彼女の言葉が、しかし今だけは鋭い棘となって、ゼロスの胸を深々と抉った。

「……勘違い、なのかよ?」
「ちょっ、え? ゼロス、な、何を?」
「俺のこと、何とも思ってないのかって訊いてんだよ」
初めて覚える強い衝動に内心で戸惑いを覚えつつも、ゼロスはしいなの手首をぐっと引き寄せた。
小さく身を乗り出すと、しいなは常に無い雰囲気を察してか、微妙に声を上ずらせる。
束縛を振り解こうとする腕を抑えつけながら、滅多に他人へは見せない真剣な表情がゼロスの顔に浮かぶ。
「俺は、お前の事、好きだぜ?」
「すっ!? あ、あんたねぇっ、いくらなんでも、冗談にしちゃ度が過ぎるよっ!」
「冗談じゃ無えよ。だいぶ前っから、お前に本気で惚れちまってるんだ」
酒の酔いのせいか、普段の軽薄な仮面が外れ、ゼロスの口から秘めていた想いが堰を切ってあふれ出る。
声に込めた真情が伝わったのか、しいなは小さく息を呑み、自信なさげに語気を弱めた。
「ゼ、ゼロス、あんた、酔っ払ってるんだよ……。じゃなきゃ、そんな……」
「素面で言える訳ねえだろ? この俺が、一人の女にベタ惚れしてるなんてよ」
「う、嘘だよ……。だってあんた、今までそんな事、一言も……」
「嘘ついてるように見えるか? 俺だって、本気の相手にゃ少しは慎重にもなるっての」
うろたえるしいなに向けて、ゼロスは畳み掛けるように自分の想いを告げていった。
突然の告白に揺れ動く心情を反映してか、しいなは落ち着きなく視線を彷徨わせる。
「えっと、その……。じゃあ、ほ、ほんとに、本気で言ってんのかい……?」
「ああ、信用できなきゃ、何度でも言ってやる。俺はマジでお前に惚れてんだよ、しいな……」
いつも女性を口説く時の装飾も衒いも無く、ただ本心の命じるままに、ゼロスは率直な言葉を繰り返す。
ゼロスが掴んだ腕を軽く引き寄せると、しいなの身体はよろめくように胸の中へと倒れ込んだ。

「それで、お前はどうなんだ?」
「ど、どうって、何がだい?」
「本当の処、俺の事をどう思ってるのかって意味だよ」
間近に迫ったしいなの瞳の奥を覗き込みながら、ゼロスは性急に答えを求めた。
甘い言葉と雰囲気で、上手く相手をその気にさせるというのが、普段のゼロスが女を口説く時の流儀である。
しかし、強く込み上げる、彼女の全てを自分の物にしたいという思いが、そんな手管を忘れさせている。
「えっ、あ、でもそんな、急に言われたって、あたし……」
「答えられねえか?」
急な展開に混乱した様子のしいなは、耳の先まで真っ赤に染めて、もごもごと口篭もった。
ゼロスが途切れた台詞を代弁してやると、恥ずかしげに視線を逸らしながら、困ったようにコクンと頷く。
「だったら首を振るだけでもいい。俺の事、ダチとかそんなんじゃなく、男として……好きか?」
「…………」
重ねて問い詰めると、しいなは少しの間思い悩んでから、再び小さく頭を縦に振る。
その初々しい仕草に胸の昂ぶりを抑え切れず、ゼロスは俯いた彼女の顎に手をやって、そっと持ち上げた。
「え、あ……?」
胸板に凭れ掛かったしいなは、状況が理解できていないのか、半ば呆然とした面持ちでゼロスを見上げた。
しかし、互いの吐息を感じられるほどにゼロスの顔との距離が狭まると、ハッと我に返って慌て出す。
「あ、あの、待っとくれよ! だからってそんな簡単に許すほどあたし軽い女じゃ!」
「知ってるよ。けどな、お前のこと誰にも渡したくねえんだよ、しいな……」
「誰にもってあんた何の話をしてるんだいっ? ねっゼロスだからちょっと待ってっ、んんっ!」
早口でまくし立てるものの、しいなは身体を離すでもなく、ただ戸惑いがちに声を震わせる。
そんなしいなの頭を軽く抱き寄せ、ぐっと顔を乗り出すと、ゼロスは半ば強引にその唇を奪った。

「んむ〜っ、んんぅ! んっ、らめっ、む……んうっ!?」
口を開いた隙にゼロスが素早く唇の間に舌を差し入れると、しいなの身体がビクンと強張った。
頭の芯が痺れるほどの欲求に操られたゼロスは、更に深く唇を重ね、温かな口腔を探ってゆく。
舌同士を触れ合わせると、しいなは思い出したように身悶えて、両手で胸板を押し返すような動きをする。
しかしその力はあまりに弱々しく、ゼロスの緩やかな抱擁からすら抜け出す事は出来なかった。
「んふぅ、んっ! ん、んっう……! ふぁ、んむぅ……」
逃げる舌を追い詰めて、絡みつかせるように舐っていくと、しいなの瞼は次第に力無く下りていった。
息を吸い尽くさんばかりの激しい口付けに、黒い瞳が潤んだ光を帯び、懇願の色合いを浮かばせる。
しばらくキスを続けてから静かに唇を解放すると、しいなは小さく肩で息を継ぎ、震える声で訴えた。
「はっ、ねぇ、ゼロス、やめとくれよ……。こんな、いきなりなんて、あたしっ……」
「……ワリィな、もう止まんねぇわ」
「止まらないって……あ、駄目っ、ほんとにこれ以上はっ、や、んっ!」
それ以上の反論を唇で塞ぎ、ゼロスはしいなの背に回した腕を、着物の帯の結び目へと伸ばしていった。
指先でうなじをそっと撫でながら、もう一方の手で器用にその縛めを解いてゆく。
いつもはこんな時でも頭の隅に残っている冷静な部分が、しいなへの愛しさ故にその境を揺るがせている。
「んぁ、ゼロスっ……。っん、駄目って、言ってんのにっ……、あむ、んくぅ!」
「どうにも我慢できねえんだよ。お前の全てが欲しいんだ、しいな……」
「あっ、や……。ん、ふぅ、んんっ……」
熱情を込めた口付けを交わす度に、しいなの瞳は頼りなく揺れ動き、全身の力が抜けていく。
ゼロスは解いた帯を床に滑り落としてから、くったりとなった肢体を抱きかかえる。
唇を幾度もついばみながら、彼女の身体を巻き込むようにして、ゼロスはしいなを布団の上に引き寄せた。

「はぁっ……。ゼロス、あんた、ずるいよ……」
「ん、何がだ?」
力無く横座りになったしいなの唇から、熱い吐息と共に抗議の声が洩れた。
ゼロスが短く訊ねると、拗ねたように口を尖らせて、少し恨みがましく上目遣いに睨んでくる。
「あたしが、こんなの慣れてないからって……。その、変な気分にして、抵抗できなくさせてさ……」
「俺とこういう事すんのが、そんなに嫌か?」
「そうじゃないけど……。でも、なんか、ずるいよ……」
複雑な感情を露わにしたしいなは、意固地になった子供の如く同じ言葉を繰り返した。
心の準備も無しで、いきなりその気にさせられてしまった事が、どうにも納得できないでいるらしい。
そのあまりに初心な反応にゼロスが思わず顔を緩めると、しいなは少し恥じ入った風に眉を下げる。
「な、何だい、笑うこたないじゃないのさ……」
「いや、ずいぶん可愛いこと言ってくれるな、と思ってよ」
「ばっ……! あっ、あんた、こんな時まであたしをからかってっ!」
ゼロスの囁きに、今度は照れと憤りとを織り交ぜて、しいなは声を荒げた。
コロコロと変わる表情が、ゼロスの目にこの上もなく好ましく映り、内なる欲求が膨れ上がってゆく。
「からかってる余裕なんかあるかよ。マジで可愛すぎるぜ、しいな」
「あ……!」
朱に染まった頬に素早くキスをすると、しいなは途端に大人しくなる。
力の抜けた頭を肩口に引き寄せて、ゼロスは良い香りのする黒髪に浅く鼻先を埋めていく。
「ったく、こっちもただでさえ堪んねえってのに。これ以上興奮させてどうする気だよ……」
「違っ、あたし、そんなつもりじゃ……んんっ!?」
耳元にひっそりと囁き掛けてから、ゼロスは熟れた木の実のように紅く染まった耳朶を唇で挟み込む。
訂正の言葉を遮られたしいなは小さく身を震わせて、新たな刺激にくっと背筋を反らした。

「やっ、ゼロス、それ、くすぐったいよっ……!」
「ここ弱いのか、しいな?」
「そっ……だよっ! だから、もうやめっ、くぅんっ!」
耳元に吹き掛けられる吐息と耳朶を食む唇の感触に、しいなは伸び上がるようにして逃れようとした。
けれど、しっかりと肩を抱いて押さえる力強い腕に阻まれ、それも果たせない。
ゼロスの尖らせた舌先が耳の形をそっとなぞると、しいなの口から可憐な悲鳴が洩れる。
過敏な反応に気を良くして、ゼロスが執拗に耳朶を責め続ける内に、柔らかな肢体は更に熱を帯びていった。
「お願っ、もうっ……んっ! そこ、やめてったらっ……」
「……いいぜ。んじゃ、他のところもな」
「えっ? ……あくぅ! や、そこも、だめっ……」
許しを請うしいなの背中を軽く揺すり上げてから、ゼロスは唇で細い首筋をつつっと伝い始めた。
白い喉元をゆるやかに辿り、同時に彼女の上着の襟をはだけ、肩口を晒させてゆく。
きめの細かな素肌に見入りつつ首の根本まで降りると、今度は浮き出た鎖骨の線に沿って唇を滑らせる。
肩の近くを少し強めに吸い上げると、そこにうっすらと紅い痕が残った。
「あ、やだっ……。痕、付けないでおくれよっ……」
「別にいいだろ? ここなら服着てりゃ見えねえんだからよ」
「やっ、だって、そんなのっ……あっ!」
拒むしいなの言葉を受け流して、ゼロスは彼女の滑らかな肌に、もう一つ自分の口付けの証を刻んだ。
新雪に落ちた二片の花びらにも似たそれが、自分の所有権を示す烙印のように映り、ゼロスの心を躍らせる。
紅くなった場所を癒すように舌の腹で撫でてやると、しいなの細い肩がピクンと跳ね上がる。
唇と舌で密やかな愛撫を続けながらも、ゼロスの手は休み無く動き、彼女の衣服を着々と解いていった。

「あっ、やだっ!」
上着を剥ぎ取られ、胸を覆うビスチェを取り払われると、しいなは小さく叫び声を上げた。
解き放たれた柔肉はゆさりと重たげに揺れ、自身の量感を示して僅かにその形を変える。
張りのある乳房はそれ以上崩れずに見事な曲線を保ち、頂点の突起はぷっくりと頭をもたげかけている。
ゼロスの視線がそれを捉えたのも束の間、しいなの腕が抱え込むようにして素早く胸元を隠した。
「こら、隠すなっての」
「だっ、だってその……。やっぱり、恥ずかしい、よ……」
ゼロスが軽く咎めると、しいなは斜め下に視線を落とし、普段とは打って変わったしおらしさで呟いた。
両腕でも隠し切れていない豊かな双丘が、浅い呼吸に合わせてふるふると波打つ。
魅惑的な光景に引き寄せられるように、ゼロスは頭を下にずらして胸元を正面から見据える。
そこからそっと顔を寄せると、腕からはみ出した膨らみの上へ軽くキスをした。
「恥ずかしかったら、目ぇ閉じててもいいんだぜ?」
「んっ、や……!」
ゼロスは優しく囁きかけつつ細い手首を捕え、彼女の腕を静かに押し退けていった。
一瞬だけ腕に力を込めたしいなは、しかしそれ以上の抵抗を諦め、ゼロスの手の導きへ従順に従う。
続けてもう一方の手首を掴まれると、羞恥に耐えかねたようにギュッと目を瞑り、軽く唇を噛む。
両腕を脇に下ろさせてから、ゼロスは細かく震えるしいなの白い裸身を、しっかりとその目に焼き付ける。
「……綺麗だぜ、しいな」
「んふぅっ!」
心からの賛美の言葉を投げ掛けて、ゼロスは淡く色づいた乳首をすっと口に含む。
たったそれだけの刺激に、しいなは強く首を竦め、雷に打たれたかの如くビクンと身体を跳ねさせた。

「しいな……」
「んっ、くぅ! んん、っふ、ん……!」
じりじりと反り返ってゆく背中を片腕で支えながら、ゼロスはしいなの身体を布団へ横たえていった。
仰向けに寝かせた彼女の乳房は自重で緩やかにたわみ、立ち上がった二つの頂点が小さく不規則に揺らめく。
ゼロスはしいなの下から腕を抜き取ると、両手を伸ばして元の位置へ戻すように外側から掬い上げる。
それほど力を入れていない指は柔らかな肉に沈み込み、充実した手応えをゼロスに伝えてきた。
「やっぱ大きいな。俺の手が埋もれちまいそうだぜ」
「んっ、ばかぁっ……。あんた、そんな事ばっか……あ、やっ!」
感触を確かめるように指先を動かすと、丸い双丘はたふたふと弾み、刻々とその形を変えていった。
うっすらと目を開けたしいなは、ゼロスの手によって妖しく歪められた己の胸を見るや、パッと顔を逸らす。
ゼロスはそんな物慣れない反応に微笑ましさを感じつつ、支えた双丘の間へ慈しむように頬をすり寄せる。
軽く開いた唇で膨らみの中腹をついばむと、しいなの肢体がぷるっと身震いした。
「惚れ直したって言ってんだよ。お前のそういう態度も何もかも、全部ひっくるめて、な」
「そんっ、な、ことっ……ひゃうっ!? んっ、くぅっ……あん!」
愛を囁きながら片手を脇腹に添えると、しいなは息を呑みつつ奇声を上げ、ゼロスの下でビクンと跳ねた。
掌で滑らかな肌の感触を堪能し、指先は楽器を爪弾くように踊らせながら、優美な曲線を遡ってゆく。
悶えるしいなの乳首を音高く吸い上げれば、堪え切れずに唇から甘い喘ぎ声を洩らし、顎を仰け反らせる。
「やぁっ、あたしっ、おかしいよっ……。こんなのっ、くすぐったいのにっ……」
「おかしくねえよ、それが普通だっての」
「うそ、だって、こんなの変っ……くふぅん!」
豊満な胸に顔を埋めながら、ゼロスは刺激に慣れていないしいなの身体を徐々に目覚めさせてゆく。
抜けるような白い肌は血の色を透かし出し、官能の昂ぶりを示して薄く汗ばんでいった。

「あっ、ふ、んんっ……。ん、っは、ぁ……」
白紙の上を塗り潰すように、ゼロスが丁寧な愛撫を重ねていくと、しいなの緊張は次第に薄れていった。
火照った肢体は更に艶やかさを増し、唇からは緩急をつけた刺激に合わせて小さく喘ぎを洩らす。
腰の脇から太腿に掛けてをするすると撫で下ろすと、黒いタイツに包まれた脚がピクンと浮き上がる。
しいなの官能を引き出しながら、ゼロスは上着を脱ぎ捨てて、引き締まった上体を露わにしていた。
「んっ、くぅ……。ゼロスっ、あたっ……し、頭がっ、くらくらして……」
「俺もだぜ。お前が魅力的過ぎて、目眩がしそうだ」
「うそ、ばっかりっ……。あんた、こんな事っ、ん! 慣れてる、くせにっ……」
実際、愛する者に悦びを与えているという充実感に、ゼロスは初めての時を上回る昂ぶりを覚えていた。
しかし、しいなは快楽に息を弾ませながら、疑いと妬心を込めて小さく呟く。
「嘘じゃねえって。……ほら」
「え……あっ!? えっと、そ、それって、そのっ……」
自身の状態を示す為に、ゼロスはそっと下半身を寄せ、しいなの腿に軽く宛がった。
布越しにも歴然と分かる硬い感触に、しいなは狼狽してゼロスのその場所へおずおずと視線を移す。
「これで嘘じゃねえって分かっただろ? お前が感じてくれると、俺も同じぐらい興奮してくるんだよ」
「そっ、そういうもんなのかい?」
「ああ。お前も、俺がこうなってるって分かったら、少しはそんな感じにならねえか?」
「うっ、うん、ちょっと……って、な、なに言わせるんだい……」
反射的に頷いてからその意味に気付き、しいなは自分の失言を悔いるように目を伏せた。
けれど、ゼロスが自分と変わらぬ気持ちでいると知った安堵と喜びが、態度の端々から顔を覗かせている。
僅かに残っていた身体の硬さも、太腿から伝わる熱に当てられたかのように影を潜めていった。

「くんんっ! あっ、はぁ、ゼロスっ、それ、痺れちゃ……ぅんっ!」
「これがいいのか?」
「……っ! はっ、やぁ、んっ、いっ……」
快楽を受け入れ始めたしいなは、しきりに頭を左右に振り、豊かな肢体を官能的にうねらせていた。
乱れた黒髪が幾筋か、紅潮した頬に汗で貼り付き、ぞくりとするほどの色香を醸し出している。
口に含んだ乳首を前歯の裏に押し当てて舌で転がすと、乳房を差し出すように大きく背中を反らす。
下乳の輪郭を立てた指先でスッと撫でれば、肩を震わせて甘い声を上げる。
一つ一つの反応に意識を引き込まれながらも、ゼロスは持てる技巧を凝らしてしいなを責め立ててゆく。
やがてしいなは半ば無意識のうちに、尿意を堪える時のように内股を擦り合わせ出した。
「しいな、こっちもいいか?」
「え……? あ、ぅ、うん……」
ゼロスは愛撫の手を休めると、指先をしいなのタイツに潜り込ませ、優しく問い掛けた。
一瞬だけ躊躇った後、しいなが弱々しく頷くのを確認してから、ゼロスは身体を後ろにずらす。
両手で抱え上げるようにして、下着ごとゆっくりと引き下ろしていくと、しいなも軽く腰を浮かせる。
貴婦人の長手袋を扱う騎士にも似たうやうやしい手付きで、太腿から膝の先へと布地を滑らせてゆく。
「脚、上げてくれるか?」
「ん……」
足首の辺りまで脱がされると、しいなは秘所を隠すように太腿を閉じたまま、片方ずつ爪先を抜き取った。
手に残った衣服を脇へ置き、ゼロスは一糸纏わぬ姿になったしいなの下肢を改めて視界に収める。
引き締まった脚線はあくまで伸びやかで、その艶かしさは薄いタイツで隠すことすら無粋に思えてならない。
滑らかな下腹部の終わりには、黒絹のような深い色合いの茂みが、白い肌に鮮烈な彩りを加えていた。

「本当に、どこも眩しいぐらいに綺麗だな……」
「くふぅ! あっ、はぁ……っ!」
ゼロスは軽く立てられた膝の脇を起点に、しいなの太腿へ地面で戯れる小鳥のように点々とキスを連ねた。
頭の動きに合わせて、もう一方の脚に添えた掌を滑らせながら、身体をゆっくりと前進させてゆく。
流れるような動きで下腹部まで辿り着くと、艶やかな毛の生え際へ顔を寄せ、小さく鼻を鳴らす。
立ち昇る乙女の香気が胸を灼き、ゼロスの欲求を激しく掻き立てた。
「いい匂いだ、ますますおかしくなりそうだぜ……」
「やっ、ん……! うっ、あ、ゼロ、スっ……」
ゼロスはそのまま一気に事を進めたくなる衝動を抑え付け、唇と舌でしいなの胴を上へと遡っていった。
臍の窪みをくるりと一周し、迷走するような軌跡を描き、ときおり音を立てて肌を吸う。
腰骨に親指を掛けた手だけはその場に残し、まろやかな尻肉をさわさわと撫でさする。
肘を突き、顎を引いたしいなの首を支えるように腕を回すと、ゼロスは彼女の脇にそっと寄り添った。
「ゼロス……。んっ、あむ、ふうっ、ん……」
「むっ、ふぅ……。しいな、本当に可愛いぜ? ん、ちゅっ……」
ゼロスは潤んだ瞳で見上げてくるしいなの唇に、再び熱い口付けを注ぎ込んだ。
舌先を割り入れると、今度はぎこちないながらも舌を持ち上げて、懸命に応えてくる。
濃厚なキスを続けながら、ゼロスは片手を尻から太腿の付け根へと移し、外へ内へと往復させる。
羞恥心を上回る快楽への期待ゆえか、しいなは閉じていた膝を少しずつ開いてゆく。
「はぷ……ん、はぁ……。んんっ、くぷっ、あ……」
ゼロスが空いた隙間から内股に手を届かせると、汗とは違う感触の湿り気が指先をつるりと滑らせた。
ときおり唇を離すたびに、薄く開いた歯列から薄桃色の舌先が覗き、再びの接触を求めて小さく揺れ動く。
その要求に応え続けながら、ゼロスは秘毛の周囲で回遊するように下腹と内股を撫でていった。

「んむっ、あ……。ねっ、ねぇ、ゼロスっ……」
「……ん?」
秘所を避けるように愛撫を始めてから幾らもしない内に、しいなは切なげな口調でゼロスに呼び掛けた。
ゼロスが手を止めて顔を窺うと、今にも泣き出しそうな表情で震える声を紡ぐ。
「お願い、だからっ……。もう、あたし、もうっ……」
「ああ……」
もどかしげに腰をずらすしいなの真意に気付き、ゼロスは小さく頷いた。
耐性のない彼女にとって、これ以上焦らされるのはもはや苦痛でしかないらしい。
ゼロスが真っ直ぐに秘所を目指して指を進めると、軽く立てられた膝が更に外へと傾く。
湿った巻き毛を軽く掻き分けてから、ゼロスは下から掬い上げるようにして、揃えた指をそっと宛がった。
「んんぅっ! ……あ、はあぁっ……」
ゼロスの手がそこに触れた途端、しいなは軽く達したのか、ぷるぷるっと身体を震わせた。
一瞬強張った身体は、安堵に似た溜息と共にくたりと脱力し、ゼロスの腕に頭の重みを委ねる。
濡れた粘膜はゼロスの指の腹にぴたりと吸い付き、しいなの興奮を熱として伝えてくる。
しいなの目尻から零れた涙を唇で吸い上げ、ゼロスは秘所に添えた中指をゆっくりと折り曲げていった。
「あっ、んんっ! んはっ、ああっ、くぅ!」
浮かせた指先で秘裂を軽くなぞってゆくと、しいなはゼロスの手を捕らえるように、きゅっと脚を閉じた。
肉の花弁はまだ少ししか綻んでおらず、男を知らない事をはっきりと証し立てている。
ゼロスの指が上端に至ると、硬いしこりの埋まった場所に行き当たり、しいなの腰がビクンと跳ねる。
その上をトントンと指で叩く都度、白い肢体が過敏に反応し、短い喘ぎが洩れる。
縦に長い楕円を幾重にも描くようにして、ゼロスはしいなの秘所を少しずつ解していった。

「はんっ……く、ぅん! ふぁ、やっ、ん、ぅ、はふ……んっ!」
ゼロスのツボを心得た愛撫に、しいなは快楽の波に飲み込まれ、更なる高みへと登りつめつつあった。
秘所からは小さく身を震わせるたびに新たな雫がこぼれ、尻の谷間を伝って敷き布に染みを落とす。
柔らかさを増した肉襞は緩やかに花開き、指の重みだけで浅く沈み込むようになる。
寝かせた中指を細かく左右に揺らすと、ちゅぷ、ちゅくっと小さな音を立て、粘膜が絡みつく。
充分に潤った事を確認してから、ゼロスはしいなの耳元へ静かに囁いた。
「しいな。……そろそろ、いいか?」
「あ……、うん。いい、よ……」
か細い声と共に、目線で同意を示すしいなの答えを受け、ゼロスは彼女の横からそっと身を離した。
残った衣服を手早く脱ぎ捨てて、しどけなく開かれた脚の間にするりと入り込む。
しいなは初めて目にする屹立した剛直に、僅かな怯えをその顔に浮かべる。
真上から覆い被さるようにしながら、ゼロスは慈しみに満ちた声色で語り掛けた。
「やっぱ、恐いか?」
「うっ、うん、少しだけ……。なんか、あたしがあたしじゃ無くなっちゃうみたいで……」
「そんなに変わりはしねえよ。それにもし変わったとしても、俺の気持ちは変わったりしないぜ?」
「あ……。ゼロ、ス……」
ゼロスはそう呟くと、軽く握られたしいなの手に、ふわりと自らの手を重ねた。
縋るように開かれた指と勇気付けるように伸ばされた指が絡み、想いを込めて互いに握り合う。
「信じて……いいんだよ、ね?」
「ああ」
様々な意味を含んだ問いにゼロスが力強く頷くと、しいなは怖れを振り払い、小さく笑みを見せる。
愛する女とのより確かな繋がりを求めて、ゼロスは片手で押し下げた亀頭をゆっくりと近づけていった。

「んうっ! ん、んんんんん……っ!」
ゼロスが宛がった先端をくっと押し付けると、狭い膣口は抵抗を示しながらも、それを内部へ招き入れた。
そのまま静々と腰を沈めていくと、しいなはきつく結んだ唇の間から、くぐもった息を洩らす。
重ねた手を命綱のようにぎゅっと握り締め、身体の芯を貫くような硬い感触を耐え忍ぶ。
溢れんばかりの雫が動きを助け、強い締め付けにもかかわらず、ゼロスの剛直は滑らかに進んでゆく。
最奥の肉壁に突き当たり、ゼロスが軽く息をつくと、しいなの四肢からもゆっくりと力が抜けていった。
「はぁっ、は……、ゼロスっ……。いまっ、あたしの、なか、に……?」
「……ああ、入ってるぜ。全部な」
どこか信じられないといった面持ちで呟くしいなに、ゼロスは優しく囁いた。
彼女が浅く息を吐く度に膣道が小さく収縮し、肉襞が内部の剛直を確かめるようにきゅうっと押し包む。
甘やかな刺激に痺れにも似た充足感が湧き起こり、ゼロスの胸を満たしてゆく。
「痛むか?」
「ううんっ……、思ったほどじゃ、ない……。けど、すごく、不思議な感じだよ……」
顔に掛かった乱れ髪をそっと払ってやると、しいなはくすぐったそうに目を細めた。
その言葉通りに、彼女の表情は苦痛の陰りよりも、初めての感覚に対する戸惑いが大勢を占めている。
しいなの様子を窺いながら、ゼロスは小さく腰を揺すり上げる。
「つっ……」
「まだ、動くと少し辛いか……」
ゼロスは軽く顔をしかめたしいなを見下ろして、納得したように呟いた。
出来るだけ腰から下を動かさないよう気を使いつつ、頬を撫でた手を首筋から胸へと滑らせる。
耳元に唇を寄せて柔らかく挟み込むと、ゼロスは片方の乳房をゆるやかに揉みしだいていった。

「あっ、ん……。ゼロス、あたしっ、平気、だからっ……んっ!」
「いいから、俺に任せておけって……」
「んんっ、く! っはぁ……、ん、ぁふ……」
健気に訴えてくるしいなの痛みを少しでも和らげる為に、ゼロスはより一層の熱意を込めて愛撫を重ねた。
隆起した乳首を指先で捏ね回し、コリコリとした耳朶に軽く歯を立てる。
組んだ手の甲を親指で宥めるようにゆっくりとさすり、上下の唇を交互についばむ。
掌全体を使って滑らかな肌を撫でながら、時折小さく腰を前後させ、身体を馴染ませてゆく。
動きの間隔を狭めていくにつれ、最初は辛そうだったしいなの顔からも、次第に苦痛の色が薄れていった。
「はっ、んんっ……。ねぇっ、ゼロスっ……」
「ん? どうした、しいな?」
「あたし、だいぶ、慣れてきたから……。いいよ、もっと、動いてもっ……」
微かな呼び声にゼロスが手を休めると、しいなは切れ切れの息と共にそう訴えた。
ゼロスが自分の身を気遣って動きを抑制しているのを、雰囲気から読み取ったらしい。
申し訳なさそうにしている態度に愛おしさを覚えたゼロスは、ふわりと包み込むような笑みを洩らす。
「そんな事、気にしなくたっていいんだよ。それよりお前の方こそ、して欲しい事とかないか?」
「え……あ、ううん、あたしは、べつに……」
軽く水を向けると、しいなは何か言いたげな表情を浮かべ、口先だけでそれを打ち消した。
しかし、ゼロスがじっと視線で促すと、やがて観念したように望みを告げる。
「えっと、それじゃその……。ぎゅって、抱き締めて、欲しい……」
「……おっけ。お安い御用だ」
ささやか過ぎる願いに応じてゼロスがそっと抱きかかえると、しいなも背中へ腕を回して強く抱きついた。

「はぁっ、あ……。こうされてると、すごく、落ち着くよっ……、ん……」
「ああ、俺もだ、しいな……」
一つに溶け合わんばかりの固い抱擁を交わしながら、ゼロスはゆったりとしいなの中を行き交っていた。
凪の海のように穏やかな動きでも、今まで感じた事のない安らぎを感じる。
豊かな二つの膨らみがゼロスの胸板を受け止め、触れ合う肌から伝わる柔らかな温もりが心を満たす。
出したいという欲求よりも、いつまでもこうしていたいという想いの方が遥かに強い。
だがそれに反して、昂ぶった剛直には徐々に痺れにも似た快感が凝り、捌け口を求めて渦を巻き始めた。
「しいな……、しいなっ……」
「んっ、はぁ、ん……あっ、ゼロスぅ……」
それでもゼロスは律動の拍子を変えず、ただしいなの身体をきつく抱き締めた。
しいなも抱きつく腕へ更に力を入れ、動きを妨げない程度にゼロスの腰を軽く挟み込む。
互いの名を呼び合うだけで、相手の想いの全てが読み取れる、無上の一体感が生じていく。
堪えようとする気すら起こらず、自然な感覚の促すままにして、ゼロスはそのまま最後の高みへと至った。
「く……っ!」
「ん、あっ……! はっ、はあぁ、ゼロ、スっ……」
最奥で熱い精を迸らせると、しいなの内部はそれを受け止めるかのように、きゅうっと収縮した。
剛直の短い痙攣が途切れ、ゼロスが大きく息を吐くと、しいなの顔にも満ち足りた淡い笑みが浮かぶ。
ゼロスは心地良い脱力感に浸りながら、しいなの瞳を正面から見つめ、もう一度強く抱き寄せる。
「もう、何があっても放さないぜ、しいな……」
「……うん。あたしも、だよ……」
夢見心地な表情のしいなは、甘い愛の囁きに小さく頷いて、ゼロスの背中をそっと撫でさすった。

                      ◇  ◇  ◇

一方その頃、宴の続く大広間では、イガグリ老と副棟梁のタイガが並んで酒を酌み交わしていた。
イガグリ老はすこぶる上機嫌で、それこそ鼻歌でも歌いそうな風情を漂わせている。
底なしにさえ思える飲みっぷりに付き合っていたタイガは、頃合いを見て話を切り出していった。
「……それにしても棟梁、随分とあざとい手を使われたものですな」
「んん? 何の事かのう?」
「おとぼけを。あのような嘘でゼロス殿の気持ちを煽るなど、あまり感心できたものではありませんぞ」
「はて、わしは本気じゃったぞ? もっとも、あれでゼロス殿が少しも動じなければ、の話じゃがな」
諌めるタイガに白々しい声色で答えながら、イガグリ老は稚気たっぷりに笑み崩れた。
本人達が隠していた積りでも、練達の忍びである彼らにしてみれば、二人の心情など容易く読み取れる。
今回の一件が、二人を結びつける為のイガグリ老の策略である事など、タイガはとうに見抜いていた。
「それだけでは無いでしょう。ゼロス殿の杯に何を混ぜました?」
「なに、見栄を捨てて素直になれる薬をほんの少量じゃよ。軽く背中を押してやったようなもんじゃて」
「良く仰いますな。当人達に聞かせたら何と申す事やら」
「なんの、気付いておったくせに黙って見過ごしたお主も同罪じゃ。ゆめゆめ他言せんようにな」
タイガが苦言を呈しても、イガグリ老は悪びれもせずにそう混ぜ返した。
諦めたようにかぶりを振りながら、タイガは差し出された酒杯に徳利を傾ける。
「しかし、随分とゼロス殿を買っておられますな。一夜限りの間柄で終わるとは思いませんので?」
「ほっほっほ。あの手の御仁は、軽そうに見えて芯は物堅いもんじゃ。まず心配はいらんじゃろ」
「なるほど、経験者は語る、ですかな? 聞く所によると、棟梁も昔は相当、浮名を流されたとか……」
「これ、年寄りをからかうものではないわ」
ようやく一本取ったという顔で笑みを洩らすタイガを、イガグリ老は軽く睨みつける。
しかしすぐに小さく吹き出すと、からからと快活な笑い声を上げて、注がれた酒を飲み干していった。

〜END〜


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