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無題 363氏(8スレ目) バルバトス×アトワイト? 2004/06/16 -

その日も地上の雪は止むことがなかった。
加えて今日は風も強い。視界は最悪で、一寸先も不確かだった。
吹きつける氷雪に青い髪と外套を靡かせ眼を細めて吹雪の帳に覆われた建造物、それが佇んでいるであろう方角を睨め付ける男が一人。
地上軍第一師団団長、ディムロス中将である。
極秘任務のため、数十名の部下と共にこの雪原まで赴いたはいいが、
この吹雪の中立ち往生していたのだった。そしてそのまま今に至っている。
「……くそ」
食いしばった歯の間から無意識の呪詛が漏れた。
自分から志願したとはいえ、こんなにも不愉快な任務はないと思った。

地上軍を裏切ったバルバトス・ゲーティアが逃走の末にあの建物に立て籠もったという。
そしてたまたま運の悪いことに、衛生兵数人がその時その場に赴いていた。
無事でいるか案じているより、助けに行きたいとディムロスは思う。しかしこの吹雪だ。ここで焦燥に駆られて立ちつくすより他になかった。
ようやく吹雪が弱まり、うっすらと建物の輪郭が見え隠れしている。
あれは確か後方支援の物資を貯蔵する倉庫だ。
以前アトワイトに付き合って来たことがあったと、吹雪に外套をはためかせながら、ふと思い出していた。
そういえば、恋人であるアトワイトとはここ数日まともに逢っていない。
そのことを思い出すと急に心が寒くなる。
この任務を終え拠点に帰還したら、真っ先に会いたい。できるなら今夜は彼女の暖かな体を抱いて眠りたい。
アトワイトと過ごす時間はかけがえのないもので、彼の数少ない楽しみのひとつだった。

いつしか吹雪も止む時を告げていた。物思いにふけっていた彼の背後では何やら騒ぎが起こっている。
あまりに場違いな甲高い声にディムロスは怪訝な顔をしつつ、声の方へと振り返った。
「どうした。何かあったのか?」
「はっ、この者たちが……」
後に控えていた部下数人が困惑の表情で一人につき一人ずつ、誰かを押さえつけている。
拘束されている人物はいずれも小柄で、声は高い。こんな部下はいただろうかとディムロスも不思議に思ったほどだ。

「中将閣下ぁ!」
ついに兵士を振り払い駆け寄ってきたのはうら若い少女たちだった。
アトワイトの部下の衛生兵だ。部下の兵士に目で合図を送り、下がらせる。
おそらくバルバトスの恐怖から解放されたばかりで気が高ぶっているのだろう。
彼女らの年からすれば無理からぬ事だ。叱責するほどのことではない。
「無事だったか」
ディムロスは胸を撫で下ろした。目の前の少女たちは、泣いてはいたが怪我一つしていない。
だが、次の一言がディムロスを絶望の底へと突き落とした。
「あの中にはまだ大佐が、アトワイトさんが……!」

薄暗い倉庫の中は血の臭気が充満していた。その中にふたつの人影が対峙している。
「……ディムロス中将はあなたを探しているわ」
震える足を奮い立たせてアトワイトは相手を睨み据えた。精一杯の虚勢を張って、淡々とした声を作って。
「せめて、最期ぐらいは堂々としたらどう?」
口の端が震えた。怖かった。
せめてもの救いは、部下の少女たちをここから逃がしたことだった。
助けは来ない。だが脅えた表情だけは見せたくない、我ながら見栄っ張りだと自分でも呆れる。
目の前の男はただ蹲って自嘲の表情を浮かべているだけだ。
だのに、彼を取り巻いた異様な空気はアトワイトほどの戦士をも竦み上がらせていた。
「お前は正しい」
一体何人殺したのか、石床の上にどかりと座り込んだままのバルバトスの全身は
返り血でどす黒く染まっていた。巨大な戦斧は血や漿液で濡れきっている。
その生臭さにアトワイトは吐き気すら覚えた。この男の性根の卑しさと、粗暴さにも。
「俺はもう破滅だ。地上のどこにも居場所などない。どこへ逃げようとあいつが俺を殺しに来るだろう」
「………………」
「ただ一つだけやり残したことがあったのでな」
そこでようやくアトワイトを見、にやりといやらしい笑みを浮かべる。
「やり残したこと?」

嫌な眼だ。人を人とも思わない。女を物としてしか見ていない。
アトワイトはバルバトスが心底嫌いだった。
この男が自分という一人の人間を愛しているのかも定かではなかった。
ただ一言、俺の物になれ、と一度だけこの男が自分を口説いたとき、こっぴどくはねつけたものだった。
バルバトスはアトワイトの美しさを愛でた。ある者は彼女の艶やかな髪を賞賛し、ある者は彼女の紅玉の瞳を美しいと言った。
馬鹿げている。アトワイトはそう思う。根っからの軍人である彼女にとってそれは侮辱だ。
整った容姿など要らない。うわべに引き寄せられるだけの男も嫌いだ。
けれど、ディムロスは違う。
他者を癒し救うために働きつめやつれた白い頬を無骨な手で包み込み、
剣を振るい、血に汚れ、多くの命を守った手を綺麗だと褒めた。
アトワイトが彼の愛に応えたのは当然と言えた。ありのままの彼女を受け止めてくれる。
そんな彼の隣を歩んでゆくのだと思うと、アトワイトの胸は誇らしさと愛しさで一杯になる。
最も憎む男に愛された女をバルバトスは憎んだ。
それからのバルバトスがアトワイトを見る眼は愛でるためのそれではなく、逆恨みと妄執に曇っていた。

たまたま逃げ込んだ倉庫にアトワイトが滞在していたのはただの偶然だ。
だが、その幸運を最大限に利用するまでだとバルバトスは信じてもいない神に感謝した。
今ならディムロスもいないのだ。

バルバトスの顔に不気味な笑みが張り付いている。あらゆる醜悪な感情の露呈そのものだ。
ゆらゆらと近づいてくる相手の狂気じみた気配に、全身がざわっと総毛立つ。
気丈なアトワイトでさえ恐怖を感じるほどだった。
ここから逃げたいと本能が悲鳴を上げるも、殺気に絡め取られた鉛のように重い手足は動いてくれなかった。
手が上がった。殴られるのか、武器を持っていたから斬りつけられるのかもしれない。本能的に目を瞑る。
だが、アトワイトの予想は外れ、無骨な指は華奢なおとがいを掴んでいた。

「殺すには惜しい」
囁きは猫撫で声だった。
ここで靡くようなら、生かしておいて自分の愛奴にしてやってもいい。
自らの寛大さに酔っているかのような声。
だが、顎にかけられた手は無下に払われた。
「…あなたに命乞いしてまで生きようとは思わない。未練はありません、殺しなさい」
向けられた眼は気高さを宿し、凛として冷たい。露骨な嫌悪を読みとったバルバトスの顔が険しくなった。
この状況下にあっても屈服しようとしない、その剛毅。気丈さ。ディムロスへの貞節。
自分もかつてこの女のそんなところに、そんな女だったからこそ想いを寄せていた。
だが、手に入ることはないという事実を突きつけられたときから恋情は憎しみに変わり、
彼の中でほんの些細なことで堰を切ろうと待ちかまえていたのだろう。


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