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作品名 作者名 カップリング 作品発表日 作品保管日
酩酊の長夜 723氏(6スレ目) クラトス×リフィル 2003/10/11 -

「ねぇねぇ、見て見てロイド」
港町の食堂の一角、弾むような幼なじみの声にロイドが顔を上げた。

先ほどから卓上の料理に没頭していたせいで、膨らんだ頬もそのままだ。
粗末な食事を強いられた、先日までの野営の反動に違いない。
テーブルの向かいで同じようにおもてを上げたジーニアスが
その栗鼠の頬袋のような顔と真っ正面から向かい合ってしまい
むぐぐ、と奇妙な笑い声を漏らした。

危うくパンケーキを吹き出しかける彼とは裏腹に
もとよりロイドの方など見ていないコレットの視線は、隣の卓に釘付けられている。
正確にはそこに向かい合う二人、クラトスとリフィルだった。

「素敵……。いいなあ、恋人〜って感じがするよね」
明かりの下で杯を傾ける大人の男女というと聞こえは良いし、実際それは絵になる光景でもある。
黙っていればどちらも美形なのだから。

「そうかぁ?」
「そうかなあ」
コレットの目にはそう映っているのだろう。
ロイドとジーニアスが思わず交わし合った目線がそんな結論をはじき出した。
実際、コレットが見ているのは、そんな風に良いムードになっている
ロイドと自分の未来想像図に違いなかった。
頬を赤らめて一人で盛り上がっているのを見ればおのずと見当は付く。

なにしろ件の二人はムードもへったくれもない状況だったのだから。
「さあ!今宵は飲み明かそうぞ、クラトス!」
「……リフィル、もうその辺でよしておけ」
半ばうわずった声のリフィルとは逆に、クラトスの表情はいかにもうんざりとしていた。
どぼどぼとグラスに注がれる酒はとうに溢れ出し、持ち主の手までもぐっしょり濡らしている。
無表情を装ってはいるが、クラトスの機嫌は明らかによろしくない。
その酒浸しになった手がピクッと引きつったのを見てしまったジーニアスは、
顔を伏せてしまった。
ごめん。ただ一言だけ、申し訳なさそうにそう呟いた。

酒気にあたったせいなのか唐突にぶち切れ、いわゆる遺跡モードに突入したリフィルが
誰彼構わず酒を飲ませようとするものだから、ロイド達未成年組はクラトスの指示で
隣の卓に避難する羽目になった次第である。
乱心の姉を一人で相手しているクラトスには、後でお礼と謝罪をしなくてはならないだろう。
(…それにしても、今日の姉さんは変だ)
遺跡に近づいてもいないのに、この荒れ様は少しおかしい。
やけっぱちのように高笑いしながら、それでいてどこか翳っている。
漠然とした予感はあるものの、それは確信ではなかったし、
確信ではない以上、解決法も生み出せない。密かに、だが深刻に少年は悩む。

姉の暴走は加速する一方だ。

乱心のリフィルを一手に引き受けて、クラトスもまた彼女の違和感に気付いていた。
それでもただ押し黙ってつぎ足された酒を黙々と呷っている。
どう見ても、怒りを堪えている。深まる一方の眉間の皺を見れば一目瞭然だ。

そしてついに、
「いい加減にしろリフィル!お前は酔いすぎている」
さすがのクラトスも怒りを露わにした。
が、リフィルはリフィルでけらけらと笑いながら杯を呷っている。
そして不意に、螺子が切れたからくり人形にも似た動きで卓の上に倒れてしまった。
――……一瞬の内に皆の周りには沈黙が染み渡り、重い空気となって皆の上にのしかかる。
「あ。…倒れた」
ようやく沈黙を破り、コレットが呟いた。


ひとしきり暴れまくり、今はすうすうと寝息を立てるリフィルを横抱きにし、
クラトスがいささか不機嫌な様子で廊下を歩いていく。
その背中に追いすがり何度も謝っているジーニアス、そして彼に付き添うロイドとコレットに
明日も早い、休んでおけとただ一言だけ言い残して彼女の部屋へと姿を消した。

クラトスにはああ言われたものの、
割り当てられた部屋へと戻る間も三人は、様子のおかしいリフィルが気がかりで仕方なかった。
「今日の先生、少し変だったよな」
小首を傾げるロイド。その隣ではジーニアスがうんうんと頷いている。
「何かあったとかじゃないといいけど」
リフィルの弟の逆隣では、
「ここには遺跡が無いのに性格変わっちゃってたもんね」
変だよねえ、とコレットがロイドに囁きかけていた。
……あるわけないだろ。答える少年の声に力はなかった。
「でも」
天然な反面、きわめて善良な少女の声が心からの同情に満ちている。
「先生どうしたのかな。……心配だよ……」
ロイドは黙って頷いた。ジーニアスもまた同じ心境だった。

ややあって、酔い覚ましのための水差しを手に、再び仲間の部屋の扉を開けたクラトスが見たものは、
ベッドの上で起き上がろうとするリフィルの姿だった。
いつの間に持ち込んでいたのか、その手は酒瓶を握りしめている。

大股で部屋を横切り無言のままに瓶を奪い取ると、
酒を奪われたリフィルは憎々しげに顔をしかめた。
「やめておけ。これ以上は体に触る」
「……邪魔しないで」
ベッドの上にぺたりと座り込むリフィルの前髪の隙間から、
剣呑な光を宿す紫の瞳がクラトスを睨め付けている。
それを寄越せと言っている、なんとも雄弁な眼だ。
「それ、ちょうだい。返しなさいよ」
酔眼にしては鋭すぎ、少々醒めきっている。とっくに酔いがさめているのは明らかだ。
クラトスは首を横に振った。
酒を渡したところで、酔ったふりが本物の酔いに変わるだけのことだ。
「嫌、嫌よ。飲ませて……おねがい」
「よせと言っている」
再び酒に伸ばされた手を無下に払われ、唇を噛むリフィル。
「なにするのよぉ…邪魔しないで!」
言葉遣いも普段の優雅な口調とはかけ離れてしまっている。

半ば自棄の表情で掴みかかってくるリフィルを抱きとめる形で押さえつけたとき、
ふと甘い香りが鼻腔をくすぐった。
酒精に混じって女の躰の匂いがした。かつて愛したひとと同じ匂い。
ぐらり。音を立ててクラトスの中の何かが揺らぐ。

「…あ………」
気が付いたときにはすでに、彼の腕は香りの主を抱きすくめていた。
腕に伝わる心地のよいあたたかさ、柔らかな肢体、彼の指に絡みつく銀色の髪の、絹のような手触り。
間近に見た、わずかに赤くなった目には大粒の涙が浮いていた。
ぞっとするほど扇情的だった。
酔いに任せ、溺れてしまいそうだ。

無理矢理に飲まされた酒精が彼の中で劣情を燻らせていた。

酔いが回る。
その事実に酔いしれる。

そこには理性などはたらかない。

「っ……、冗談はよして」
クラトスの手が背中に回され、服の隙間から手を忍び込ませてきたとき、
彼の行動が冗談などでは無いことに気付く。
だが、冗談だとしても悪質過ぎる。
「――クラトス!いい加減になさい!」
さすがに貞操の危機を悟り右手を振り上げるも、頬を張る前にその手首は掴まれている。
口惜しげにクラトスを睨みつけるが、逆に
とろんと濁った半ばまで伏せられた眼に見つめられ、気圧される。

息を飲んだ瞬間に力がゆるみ、不埒な行為を許してしまった。
それが本意では無かったとしても。

「何故、泣いていたのだ?」
「泣いてなんかいないわ……、…いや…離して……!」
外套はすでに引き剥がされ、もみ合ううちに開けてしまった襟からは
下着に覆われ、形良く上を向いた胸が半ば覗いている。
身を捩ってクラトスから逃れようとするが、
抱きすくめてくる腕の力はゆるむ気配すらない。むしろ強くなっている。
「……やめ、て…!…離しなさいっ……」
かぶりを振るたびに振りまかれる髪の芳香がクラトスを煽っていることに
リフィルは気付いていない。
とうとうもつれ合ったままベッドの上に倒れ込んでしまった。

クラトスに押し倒された。それは偶然と捉えられないでもないのだが、
服の下に潜り込む手は明らかに滑らかな肌の感触を求めている。
――ぞっとした。
嫌悪とは違う、心細い怯えが走る。
こころを暴かれる。なぜかそんな気がしたからだ。

「いや…!いや……っ」
ろくな抵抗も出来ないまま組み敷かれ、露わになった乳房は
クラトスの大きな手の中に収められてこね回すようにして弄ばれていた。
じんわりとした暖かい快感が全身に広がろうとしている。
快楽に蝕まれる体からは見るまに力が抜けていった。
「ああ……駄目!」
もう逃げられないのだと理解した瞬間、不意に目の奧が熱くなり、大粒の涙が溢れた。
こんな奴に泣いている顔など見られたくないのに。

皆の“先生”、常に凛として、冷静で、真面目なリフィルは何処へ行ってしまったのだろう。

(――最低!)
仲間とはいえ、信頼に足る人間とはいえ、結局その場限りの肉体関係を持とうとしている。
自分にはそれだけの価値しかないのだと宣告されたようなものだ。
抱かれて快楽に喘ぐだけの女。クラトスは自分をそんな目で見ていたのだろうか。

リフィルを見下ろすクラトスの目が酔眼であることは明らかで、
眼前の彼女が見えているのかさえ定かではない。
それがリフィルには面白くない。優しいだけの愛撫も、面白くない。

リフィルのそんな物思いが相手に通じているはずもない。

奇妙なほど慈しみに溢れる手つきで一度だけ細い輪郭をなぞると、
そのまま顎を掴んで唇を重ねようとする。
「……いや…」
貞操を散らされようと、心だけは譲らない。
「あなたは……恋愛対象ではなくてよ」
露骨に顔を背けられ、拒絶の態度をとられてもクラトスは別段気を悪くした風でもなかった。
拒まれた唇をほろほろと溢れる涙の上に這わせ、塩の味の雫を舐めとっていく。

そのまま頬、首筋、うなじをなぞって、到達した耳朶を甘噛みしてやると
ひゃっと小さな悲鳴が上がった。
「すまない」
加減できなかったかと瞬間的に謝罪を口にする。
クラトスのその行為は、リフィルの感情を再び逆撫でした。
「……偽善者」
――傷心の女につけ込んで襲っておいて、優しくするなんて。

……違う。いやいやするようにリフィルはかぶりを振る。
私への同情?彼なりの優しさ?
わからない。わからない……何も。

熱い吐息だけが夜気を震わせる。
「……随分と優しいのね」
いらえはなく、相手は黙々と前戯に耽ったままだ。
クラトスの指先が一層熱を孕んだ。

まろやかな膨らみを、包み込んだ手でゆったりとさすり上げながら
色づく先端にちゅっと音を立てて吸い付いた。
張り詰めた乳首を舌で転がし、時折歯を立てると組み敷かれた体が小さく跳ねる。
「……ふ…っ……」
唇の離れた胸の先から、唾液が伝って落ちていく微妙な感覚すら感じ取って
身をわななかせるリフィルの姿は、まとわりついた衣服と相まってこの上なく艶めかしい。

熱を持ち始めた肌の上を胸から腰へと撫でられて、彼女の声は一層甘くなった。

飛び火のように熱を伝染された秘所を、クラトスの指が下着越しになぞった。
ほんの少し力を込めただけで濡れた音を立てて指先が沈み込む。
そこから指を引く、ぬるりと絡まった液が糸を引いて腿に落ちた。
「濡れているな」
「なっ……!」
一瞬の内に全身が火照り、膣の奧が更に潤んだ。
何て事を言うのだと憤慨すると同時に、少し気が楽になる。

このお堅い男が仮面を取って本性をさらけ出しているのだとすれば、
自分一人で皆の知るリフィルとして振る舞うのも馬鹿げている。
今の自分たちは酔っているのだ。
そう思い至った瞬間、全身に与えられる執拗な愛撫は途方もない快楽を生む。

為す術もなくリフィルは押し流された。

幼子のようにすすり泣き、彼女はただ混乱していた。

ただ、愛して欲しいのだ、と。
そもそも酒に手を出したのは、両親のことを思い出したから。

弟を愛している。包み込むその心は、母の優しさ。
普段は弟の手前、彼が頼れる存在となれるよう懸命に振る舞った。
泣きたいときもどうしようもなく喚き散らしたいときも、心を殺して堪えた。
だからこそ時折やりきれなくなる。

両親との最後の思い出の場所。
確かに遺跡が好きなのは本当かもしれない。大笑い出来るほど、…好き。
そうして笑っていれば、少しは気も晴れるし、妙な行動に出ても怪しまれない。
それは酔ったふりをするのも同じこと。
人が変わる。皆はそう言う。
ならば我が儘で奔放で無茶苦茶なリフィルは偽物の私?

いいえ。そんなわけないじゃない。
自嘲の笑みが零れた。

「……フ」
何がおかしいのか、目の前の男が笑っている。
リフィルにはそれが気に障って仕方ない。
「笑いながら泣くとは器用だ」
「あなたには……わからないわ」
わからんな。
呟くクラトスを露骨な不快の眼で睨め付けるものの、
次の瞬間にはその瞳は霞がかった情欲の眼差しに変わり、またかすかな苛立ちを宿す。
その繰り返しだった。
渦巻く快楽に身を委ねればあとはなされるがまま。
内腿を撫でる手の動きに応え、その腰は怪しくくねる。
「…………あ……、…っ……」
愛液で濡れた秘所は正直で。
クラトスの指を何の抵抗もなく飲み込んでしまった。

「……ふ…う……っ」
……ぬるり。
と、秘唇よりもはるかにぬめった膣壁を撫でられて
リフィルはあられもない声を上げた。
普段の彼女を知る者なら、今の姿を“らしくない”と思うのだろう。
それはクラトスも同じ事だった。

だが。
嫌だ、こんなの私じゃない。“リフィル”はこんなことしない。
「い……、やあ…」
すすり泣きの声と共に涙を零すだけの彼女を
腕に抱きしめて、ゆったりと背をさすってやる。

甘く切なく、リフィルが溜息を漏らした。
大きなものに包み込まれ、理由など無く愛してもらえる。
リフィルはそんな優しさに弱いのだ。

このひとは自分よりもひどく老成していて、厳しいけれどどこか暖かくて。
……まるで、父親のようで。
こういうのはダメだ。甘えたくなってしまう。
この優しい腕(かいな)の中では
わたしは“リフィル先生”になんか――もう、なれない。
意地を張っていたことがすでに馬鹿馬鹿しい。肩の力がみるみる抜けていくのがわかる。
その自覚は口惜しくはあったが、たまらなく甘美でもあった。


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