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作品名 作者名 カップリング 作品発表日 作品保管日
愛でることの呪縛 105氏(3スレ目) ディムロス×アトワイト 2003/05/20 -

○月△日  仏滅
ディムロス・ティンバー中将は立派な人物だと、常々思っている。
普段から冷静な態度を崩さず、部下には寛大、同僚からは信頼されている。
そんな彼が怒るとしたら、天上軍の非道な行いだったり、部下の規則違反だったり、
と、まあおおよそ私情などとは、縁のなさそうな人物なのだ。
だが、そう、例外というものは何処にだってある。
それは恋人のアトワイト・エックス大佐。ああ…名前を口に出すのも今となっては恐ろしい。
彼女が他の男と親しくしている姿を見ようものなら、言葉には出さないが、
静電気にも似た怒りのオーラが一日中吹き出していたり、グラスを握りつぶしたり、
書類書きをしていて、ペン先を潰したり、ペン軸にヒビを入れたり………傍にいるから否応なくそれが分かる。
いつだったか、ハロルド博士の実験の(爆発を伴った)失敗に巻き込まれたとき。
あのときアトワイトさんに診てもらったときも、大変だった、本当に、大変だった。
体の至る処に怪我をしていたから、効率を良くするため下着一枚にされて消毒薬を塗ってもらっていただけなのに、
……そもそもあの人は医者なんだから裸だろうが、皮膚の一枚下だろうが見たところで、表情一つ変えやしないじゃないか。
たまたまそこで医務室に入ってきた(今考えたらサボりだ!逢い引きだ!)ディムロスさんが、裸と恋人を見て
案の定わかりやすい誤解をして…そこまではいい。
そこで…あろう事か剣を抜いた。
その後、(ほぼ全裸で)散々基地中を追い回された末に、クレメンテさんとアトワイトさんが止めに入って
事態は事なきを得たのだが……表面上は。表 面 上 は。
寒かったし、皆に指さして笑われるし、風邪まで引いた。事なきを得た…自分にとってそんなことはない。
とまあ…彼女に手を出してはいけない、二人だけでいるところを見られてもいけない、ということだ。

「(…今度は誰なんだろう…アトワイトさんはもてるからなぁ…)」
命知らずな奴だが、それよりなにより自分にとばっちりが来るというのに。…やめて欲しい、本当に、絶対に。

「…大変ですね、いつもいつも」
イクティノスが心底同情した声で言う。
同情するだけなら、ディムロスのとばっちりをくらうより余程楽なことだ。
ディムロスに訓練と称して殺されかけては自室に担ぎ込まれる彼を看るうちに、手当の腕も上がったようで
薬を塗り込んでいくその手つきには無駄がない。
「…なら代わってくださいよ」
ディムロスの機嫌が悪いと見ると、さっさと姿を消す同室者に心底恨みがましい眼を向ける。
「遠慮しますよ。しかし今日は…ああ、特に酷い。災難でしたね、シャルティエ」


「――だから、ディムロス。ねえ……」
シャルティエの尊い犠牲(?)も虚しく、夜になってもディムロスの機嫌は直っていなかった。
時間を作り私室を訪ねてきたアトワイトに対しても、その態度はとげとげしい。
「私何かしたかしら、それなら言って頂戴。ね、わけを話して」
「…何でもないと言っている」
「嘘!」
堂々巡りを繰り返す会話。次第にアトワイトの声色に苛立ちが混じっていく。
何でもない、と言いながらもディムロスの目がアトワイトに向けられる事はなく、
机上に山と積まれた書類から離れる事はなかった。何としてでも彼女の方を見まいとしているかのように。
「嘘ではない」
相変わらず書類に目を通すディムロスの、その揚げ足を取るかのような返答に
ついにアトワイトの苛立ちが頂点に達した。
「ディムロス!」
怒りにまかせ、――おおよそ普段からの彼女らしくはなかったが、だん、と重い音とともに足を踏みならす。
その拍子にそれぞれに音を立てる彼女の持っていた紙袋や酒瓶にかまうことなく
ディムロスと、その視線の先にある書類の山との間に躰を割り込ませた。
「…!」
常葉色の瞳がまばたきすら忘れ、彼女の胸――そこに抱かれている一つの紙包みに吸い寄せられる。
「お願いだから言って。どうして怒ってるの、どうして私を見ようとしないの」

――敢えて正確に言えば、ディムロスが目を逸らしていたのはその包みだった。
やや時はさかのぼって、早朝。
かねてより恋人と、夕食後の逢い引きを約束していた彼は、それこそ朝から夜まで公務に忙殺される身。
そのため早くから酒や肴の調達に基地内を駆け回っていた。
その帰りのこと、入手した貴重な火酒や果実酒、乾果を手に自室の扉をくぐろうとした時だった。
「……本当に、突然伺ってしまって――」
それは彼の恋人、アトワイトの声だった。
だがしかし彼の背後、声のする方にあるものはカーレルの私室。
――嫌な予感がディムロスの背筋を撫でた。
見てはいけない、振り返るべきではない。だが、しかし。
強張る首を後ろに向け、そしてディムロスは予想通りの光景を目にすることとなった。
カーレルは、そこにいた。寝間着のままアトワイトと親しげに語らいながら、彼の部屋から上半身を
出して部屋の外の彼女に何やら手渡している。
無地の紙にくるまれた、飾り気のない紙包みだった。
「いや、私はかまわないよ。君ならいつでも歓迎する」
「そう言って下さると嬉しいです。貴方とはこういった時間にしか会えませんし」
その言葉の意味すること。…おそらく彼女は今までそこに居たのだろう。
――厭だ!
………厭だ、……厭、だ…!
悶えるほどの嫌悪感。それが何に対しての感情だったのか、分からないほどに心が乱れた。
いつ私室に戻ったのかなど憶えていない。ただ気付いたときには壁にもたれ床に蹲り
嘘だ、嘘だと狂ったように呟いていた。
何故、アトワイトがあの時間にカーレルの私室に居た?何があった?
寝台で睦み合う男女の姿。紫の髪の女が相手の躰に脚を絡みつかせ、睦言をせがんでいる。
相手の男もまた、女の白い肢体に溺れていく。紅と紫の密やかな交情。
脳裏にそれを明確に描きだし、暴れ出しそうな己の心を押さえるのにどれだけ苦労しただろう。
「――――――ッ!!」
思わず火酒の瓶に手が伸びる。それを止めるものもなく――。
訓練場に酔眼のディムロスが現れた時、シャルティエが怪訝な表情を浮かべたのは
彼自身にも分かっていた。今は昼だ、その目がそう語っている。
常日頃のディムロスなら、このような時分に酒気をまとわりつかせ、剣を振るうなどと
いうことはありえないことだった。
だがそれでも人前に出るために、酒で一時でも気を紛らわすしかなかったのだ。
結果として手加減が出来ず、哀れシャルティエは昏倒するはめになったのだが。

常に他人から意志の強靱さ、強い自戒、揺るがぬ己を讃えられ、
ディムロス自身も己を強い人間と思っていた。…そう思い込み、錯覚していた。
一見すればか弱くすらある目の前の一人の女が、その自己を根底から揺さぶっている。
「分からない…ということはないだろう」
アトワイトの手の中にある包みから視線を引きはがし、あくまで平然を装った皮肉を言う。
「分かりません!」
あくまで強情な返答。あいつを庇っているのか。何故あいつからの贈り物をここまで持ってくる?
たった一人の女にこうまでも狂わされる。愛して、愛して、焦がれて、求めて……渇望する。
一旦手に入れば、今度は奪われまいとする、悪循環。

――やめてくれ。もう、いい加減にしてくれ。

ディムロスは再び書類の山に意識を戻す。
これ以上彼女と不毛な押し問答をしていても意味がない、とでも言いたげな態度だった。
「………っ」
今の彼には何を言っても無駄だ。アトワイトは小さくため息をついた。
「…ごめんなさい。仕事の邪魔をしてしまったのなら出直します…」
アトワイトにとってそれは、ディムロスの不機嫌の理由をそう取ったが故の言葉だったが、
それは彼女の恋人の解釈とは大きく食い違っていた。
ぴたりとディムロスの手が止まる。
「(カーレルのもとにいくのか…?)」
考えたくはなかったが、可能性としては充分あり得ることだった。
しかしそれを想像した瞬間、ディムロスの心の闇は大きく広がり、普段からきわめて理性的な彼でも
どうにも押さえられない衝動に駆られていた。
ゆっくりと椅子から立ち上がり、立ち去ろうとするアトワイトに手を伸ばす。
「(他の男に君を渡しはしない…!)」
一旦独占欲と愛情とを燃料にして燃え上がってしまえば、嫉妬という炎は、容易には消えなかった。
「…それは、許さない」
不意に肩を掴まれ、仰向けに机に躰を押しつけられた。
その拍子にアトワイトの手荷物が彼女の手を離れ、机上の書類と共に床に落ちる。
酒瓶がけたたましい音を立てて割れ、中の酒を床と書類に吸わせていく。
「痛ッ…!」
いつもと違う乱暴な扱いを受け、悲鳴を上げるアトワイトにのしかかりながら囁きかける。
「こうされたくて、ここへ来たんだろう?だったら、私も満足させてもらおうか」
そう言いながら短衣の裾から手を潜り込ませ、下着の上から指で秘所を軽く押す。
「やっ…嫌ッ!………っ、違う…」
少々優しすぎるほどに優しく扱ってくれる、普段のディムロスとはかけ離れた
行動に怒りよりも怯えが勝る。抵抗はおろか、異様な気配に射すくめられたように身動きすらままならない。
「離して!いやっ…違うの、そうじゃないッ」
だが何としてでもディムロスの拘束から逃れようと、必死になって身を捩らせる。
「(怖い…。いつもの彼じゃない…!)」
半ば錯乱し、脚をばたつかせるアトワイトを全身で押さえつけ、彼女の耳朶を舐め、低く囁く。
「違わない」
アトワイトには知るよしもなかったが、抵抗すればするほどディムロスを刺激し
拒めば拒むほどに相手を興奮させ、結果として彼を陵辱へと駆り立てていた。
「ッちが…んむぅッ」
叫ぼうと開かれた唇にディムロスの指がねじ込まれ、それ以上訴えかけることは不可能だった。
「…違わない」
幼い子供を諭すかのように、アトワイトの耳にもう一度囁く。
ディムロスの顔を間近に見ながら、アトワイトはただ口内を犯す指を舐ることしか出来なかった。
「んっ…ふっ……う…うぅ…」
ちゅぷちゅぷと淫猥な音を立てて、アトワイトはディムロスの指をひたすら舐め、しゃぶっていく。
その長い指は口腔内を蹂躙し、生き物のように暴れ回っている。
頬の内側や舌の暖かく柔らかい粘膜の感触を楽しむかのように、時に優しく、時に激しく口腔内を犯していった。
彼女が涙の滲んだ瞳で訴えかけても、それを非情にも黙殺する。
流れる涙をもう一方の手の指先で拭ってやりながら、彼女を眺めるのみ。
と、耳元に顔を寄せ、追いうちをかけるように何事かを囁いた。
「…私のモノをしゃぶる時のように、もっと舌を使うんだ」
「……っ…ッ……!」
羞恥に顔が染まる。
だが、命令の主は目線でさらなる痴態を促すのみ。声にこそ出せなかったが、アトワイトは泣いていた。
何故、こんな仕打ちを受けなければならないのか、いくら考えてもわからない。
それがますます彼女の怯えと恐怖心を煽り立てた。
「…ふ……そうだ、もっと吸って…舌を絡めるんだ」
満足げに自分を見下ろす恋人を見返しながら、アトワイトはふと考える。
性交とは違う、だがこの行為は陵辱以外の何物でもない。
「(今の私…きっと、とても淫らだわ)」
そう思った瞬間、かっと躰を灼くような獣慾が全身を駆け抜けた。だが、躰の一点がその欲情の嵐をすり抜ける。
脱力した体が机から滑り落ちようとしたが、瞬間、男の膝がちょうどその位置を受け止めた。
下着越しとはいえそこが湿っている気配はなく、さらりとした感触をその脚に返す。
「……そうか」
一拍おいて彼の面に理解の色が浮かび、ゆっくりとアトワイトの顔を見やる。ディムロスは怒ってはいなかった。
しかし、逆に奇妙に穏やかなその表情が、怖い。
口内への陵辱が突然やみ、唾液の糸を引いて指が引き抜かれる。
「っ…ふ……」
ぬらぬらと唾液に濡れた指を、ディムロスはそのまま口に含んで見せる。
「……やだっ…」
おもわず目を固く閉じる。が、相手はそれをとがめる風でもなかった。
「物足りない、ということか」
その言葉と躰が持ち上げられる感覚に目を開いた時には机に腰掛けさせられ、
投げ出された両脚は床に膝をつきまるで、跪いているかのような体勢のディムロスに持ち上げられていた。
とっさに脚を閉じようとするが、彼の肩に掛かった脚はその頭を柔らかな太腿で挟み込むことしか出来なかった。
「やっやぁっ…ああぁ…いや…」
閉じない脚の間にディムロスの顔が割り込み、秘所を視姦されている。
指先が触れるでもなく、唇で吸うでもない、ただ薄布越しに視線が嬲るだけ。
途方もない羞恥、だが秘所の奥に湧き出た疼くような熱がじりじりと全身に広がりつつあった。
「ディムロス…やめて、やめてぇ…ああ……だめ…ぇ」
視線に耐えきれず両手で顔を覆い、いやいやをするように頭を振るアトワイトだったが、
ディムロスはというと意に介した様子もなく、或いはそう装いつつ滑らかな内腿をゆるやかに愛撫している。
そして、いつしか彼女の躰にも変化が訪れていた。
「ぁ…あ…?そん、な…ぁ…」
秘所の熱は収まらなかった。
寧ろ下腹部だけに留まらず、全身を灼き、心なしか呼吸をも速めている。
首をほんの少し傾げれば、乳房の先端が服の胸部をわずかに持ち上げているのが見て取れた。
「感じたのか?」
「……ッぁ……」
視姦されることで昂ぶった己を恥じ入ったのか、さらなる辱めを受けることに怯えたのか、微かに肩を震わせる。
知らず知らずのうちに、何かを求めて唇がわなないていた。
「…どうした」
限界まで掻き立てられた羞恥心がひどく邪魔をする。
…言えない。けれど、この疼きを早く鎮めて欲しい。理性と欲望がせめぎ合い、気が狂いそうだった。

「――……あはぁ…っ」
言葉の続きを促すように、ディムロスの指先が薄布越しに秘裂をなで上げた。指先にじっとりと湿った感触。
「強情だな、君は。…ここはこんなにも素直なのに」
「うぅっ………っく…」
アトワイトは答えない。目を瞑ったまま左右に首を振り、泣き声を上げている。
そんな彼女を一瞥すると、内腿への愛撫を再開する。
尻の曲線をなぞる指先に加え舌で足の付け根、秘裂ぎりぎりの箇所を丹念に攻めていく。
あくまでもソコには触れない。ディムロスの舌先は湿り気に近づいては離れ、を執拗に繰り返した。
「…くぅぅ…っん」
いたずらに高まった性感が身を捩らせる。
しかし中途半端な愛撫では、達するはおろか、昇ることもままならない。
それでも、残酷なその責めは続く。
「ディム…あぁ…ディムロス…」
「さあ…どうして欲しい?」
とん、と下着の愛液の染みに指の腹が乗せられる。軽い、刺激というにはほど遠い感触。
「や…ひどい…」
「(ひどい…か)」
自分でも知らなかった己の嗜虐性。
「言うまでは、あげられない」
新たに流される涙にぞくりと背筋が震える。恐怖ではない、それは性的な快感だった。
「(どうかしているな…私は)」
アトワイトを抱き、彼女が自分のものなのだとそう確信が欲しかっただけなのに、
彼女が自分の責めに言葉に悶える姿を見た瞬間、自分の中の何かが狂っていた。…或いは自分自身が。
否、そもそも最初から嫉妬に狂わされていたか…。
くつくつと笑うその姿に、アトワイトが柳眉を顰めている。
「…どう、したの?」
「うん?、…ああ」
アトワイトの顔を見て、唐突に我に返る。
そして、それと同時に彼女への渇望と独占欲が急激に甦った。
「…アトワイト、私が欲しいか」
「え」
言いたくて、口に出来なかった一言をいきなり与えられたことに、アトワイトは驚きを隠せなかった。
その表情は寧ろ訝しげ、といってもいい。
だが疼く躰は素直だった。…数秒の間を置き、彼女はこくりと頷いた。
「いいこだ」
嗜虐的な満足にディムロスは笑みを浮かべた。
アトワイトの肌は白い。
陽の差さない地上において、肌の色の薄い者は多いが、それでも白磁の肌というのは稀である。
その彼女の白い脚の付け根には、薄紫の秘毛が申し訳程度に覆い隠す秘所。
僅かに秘唇を開けば、珊瑚のように鮮やかな薄紅の秘肉が覗いている。

愛液に湿った薄布を横にずらし、薄紅色の媚肉に指を忍ばせる。
くちゅりと濡れた音を立て、アトワイトのそこは歓んで指先での刺激を受け入れた。
「……あ…」
片手は愛撫を休めず、空いた手が手慣れた様子で服の胸部をはだけさせ、まろび出た白い乳房を手の中に納める。
ややディムロスの手にも余るそのふくらみは、揉みしだかれる度に柔らかい感触と心地よい弾力を掌に返し、
彼の中の雄を昂ぶらせていく。
「く、ふぅ……ん」
巧みに舐め回されすでに、先端の紅い蕾はかたく尖っている。
いつの間にか秘所を蹂躙していたもう片方の手も、空いている乳房を握りこんでいた。
暖かく柔らかな感触にしばしの間溺れるように、やわやわと乳房のまろみを揉みしだく。
「…ディムロス…あの…」
もじもじと腰をくねらせるのは、下の方を刺激して欲しいのだろう。
ふと、一つの想像が、あくまで想像が脳裏に甦った。…カーレルに抱かれ、彼と愛を囁き合うアトワイトを。

その瞬間、気が狂うかと思った。

ディムロスの指が、無造作に秘所の裂け目を押し広げる。
「…ッ!?いたっ…!や、やめて、ディムロス」
限りなく敏感な柔肉を突然乱暴な手つきで触れられた痛みに、アトワイトが悲鳴を上げた。
だが、そのことにかまう余裕など今のディムロスには無い。
寧ろその悲鳴が、自分を拒絶する声としてさえ聞こえるのだった。
「……ッ」
「うぁあっ…」
力の加減など知らないかのように、秘裂の内部を擦る指の動きに合わせ、
柔らかな秘唇が引きつるようにして震える。
痛々しいアトワイトの声はディムロスの耳に届いていたが、もう聞こえてはいない。
おおよそ彼らしくはない事だが、ディムロスはひどく焦っていた。
ただひたすらに、ここは自分だけが触れられるのだとでも言いたげに、秘所を指と舌とで蹂躙していく。
「お願い…優しく…して……くぅっ…」
「(カーレルは、アトワイトを抱いたのか…?)」
一度そう考えると、疑惑の念は強くなる一方だった。
振り払っても振り払っても、頭から離れていこうとしない。
「(アトワイトは…私のものだ。…誰にも、渡さない)」
「…ディム、ロス…?」
つい昨日までは自分のものだと、彼女の身も、心も、寝台の上で見せる媚情も、情欲に濡れる声もまなざしも、
自分だけのものだという、確かな自信があった。
そう確かめるように秘所に留まらず這いずる唇は、さながら所有のしるしを付けるかのように、
内股、太腿と口づけの紅い痕を残していく。
「だ…め。人に…見られる…とこ、ろ、は……っああぁ」
「見せてやればいい」
そうすれば他の男がアトワイトに触れることも、無い。ディムロスはそう信じたかったのだろう。
そんな彼を見つめる真紅の瞳が、新たに涙を落とすと同時に伏せられた。
「ん、っううん…ふ…」
さらさらと溢れ出す愛液を舌先で舐め取りながら、指は肉色の真珠を弄んでいる。
その突起を捏ね回す度に、アトワイトの嬌声が頭上から聞こえてきた。
さらに充血した花芽を口に含み、吸い上げつつ舌先で突く。
「っ…あふ……ぁん」
身を捩り、切ない喘ぎ声を上げ続けるアトワイト。
だが先ほどとは違い、満たされぬ性感は甘い疼きに変わっていた。
流れる愛液は次第に粘り気を増し、舐め取りきれなかった蜜が机上に零れていく。
相変わらず、秘所への愛撫はどこか荒々しい。だが幾度となく躰を重ね、彼女の感帯を知り尽くした相手の
指と舌先はアトワイトの官能を執拗に引き出し、昂ぶらせていった。
二本三本と指を潜り込ませ、熱く滑る柔肉を押し拡げていく。
「あっ……やっ…吸わないで…そんなところ…」
じゅるり、と淫らな音も高く蜜を啜る。喜んで口にするものとは思わないが、抵抗はない。
口内に広がった酸味を舌全体で味わいつくし、飲み下す。
その中に男の味がしないことに安堵し、膣内に潜り込んだ指はそのままに秘裂から唇を離す。
無造作に掻き回された蜜壷が、とぷん、と悩ましい水音を立てていた。
「もうぐちゃぐちゃ…だな。ここを弄られるのが、そんなにいいのか?」
「嫌……。い、言わないで…やめて…、そんな……しないで」
弱々しい抵抗がディムロスの粗暴な愛撫を微かに拒む。
ただ、それは彼を拒絶するというよりも、優しく触れられたいが故にだった。
…だがそれが今のディムロスにとって、どれほど辛いことか。
手酷い拒絶。
触れることさえ拒絶される。
「ふん…」
根元まで挿入させた指がくいと曲げられ、上壁を押し上げるように力を込めて擦る。
「――く、ふぅ……ッ!」
ぼたぼたとディムロスの掌に零される蜜。アトワイトの背が仰け反り、机上にぐったりと頽れる。
「言ったから…何だ」
冷たい声だった。アトワイトの身をびくん、と竦ませるほどに。
「事実を述べただけだろう。君は私の指でよがっている、…違うのか?」
だけど…。…喉まで出かかった言葉は、叩き付けられる冷徹な暴言に遮られた。
「君は何をされても欲情するんだな。ここを見られただけで濡らすし、
今だって私の指を咥え込んで放そうとしない。こんなにひくつかせて…厭らしいな、君は」
冷ややかだった口調が途中でわずかに優しくなる。だが、声が冷たい事に変わりはない。
「違うわ…違う……そんなこと、ない…」
「だから…厭らしい子には仕置きが必要だろう?」
怯えきった瞳に涙を浮かべ必死に否定するアトワイトを、あやすような口調が残酷に嬲っていく。
その冷たい言葉は本心から出たものなのか、あるいはそうではなかったのか。
「君が厭らしいから…誰でも良くなったりしないように」
「そんなこと…っ。私…」
「私だけを受け入れるように、…そうだ、君が私なしではいられないように」
ただ、ディムロスが自分を求めている。それだけはアトワイトにも分かった。
しかし、何をどれだけ訴えかけたところで、ディムロスは聞こうともしないのだった。
「私はっ、私はあなただけを……」
ずるりと秘所に咥え込ませていた指を抜き、アトワイトの顎を掴み
袖まで重く濡れた手を彼女の眼前に突き付ける。
「口だけならいくらでも言えるだろう。下の口はどうだ?
もう誰でも、何でもいいから咥えたいんじゃないのか?机の上も、私の手までこんなに濡らして…」
ディムロスの指と指の間に絡みついた愛液が蜘蛛の巣のように糸を作り、室内の明かりの下、
ぬらぬらと淫靡に濡れ光っていた。そしておそらく、机上も似たような有様なのだろう。
そのまま蜜塗れの指先をアトワイトの唇に滑らせ、口内へとねじ込もうとする。
「やめてっ!」
音高くディムロスの頬が叩かれる。半歩ほど後ずさったディムロスを押しのけ、床に降り彼に詰め寄った。
「何で?ひどいわ!私はそんな女じゃない……どうしてそういう事を言うの!?」
頬を叩いた手がディムロスに掴まれる。
「そう言って逃げるのだろう?…誰か他の男の処へ…」
両手が捕らえられ、ディムロスと正面から向かい合う。
劣情とは違った感情にぎらついているその眼に射すくめられ、背筋がぞくりと震えた。
なのにディムロスのその眼から、視線を逸らすことが出来ない。まるで呪縛にかかったかのように。
「…あ……」
「逃がさない」
耳に熱い囁きがかかる、それは彼女をいつも酔わせる声と変わらなかった。
ぶるりと熱い欲情の震えがはしり、躰から力が抜けていく。
「ディムロス……んんっ…だ…めぇ…っ」
「私から逃げることは許さない、抵抗する事も」
――私から離れ、他の男を受け入れる事も。

アトワイトの躰を机に押し付け、大きく尻を突き出すような体勢をとらせる。
天板に手を突き白い服の裾をたくし上げられながらアトワイトは、あらためて机上を見渡していた。
机の上はさながら粗相をしたかのように濡れている。
「(…私…こんなに汚して…。…いやだ…)」
意地悪な言葉に嬲られることでここまで昂ぶってしまったことが、恥ずかしかった。
しかもディムロスが公務をする机の上で、彼の執務中に、こんな……。
「(でも……彼だから、かしら)」
どろどろに濡れ、既に用を為していない下着が下ろされ、潤いきった秘所を露わにする。
外気に晒された媚肉が淫らに蠢いて、満たすものを求めている。貫かれる事を期待しているのだった。
……密かにこの陵辱を悦んでいる自分がみっともなくて、ひどく顔が熱かった。
「(ディムロスが欲しいから、だから、こんなに…厭らしいの…)」
だが、ディムロスはなかなか躰を重ねてこなかった。
「ディムロス…」
机に押し付けられたまま、何もしてこないことを訝しく思ったのか、心細げな声が先ほどから呼びかけていた。
その躰を折れよとばかりに後ろから抱きしめ、うなじに唇を這わせる。
「…どうしたの…?」
「(この髪、この瞳、アトワイトのすべて。すべて私のものだ)」
後ろから覆い被さり熱く潤った秘裂に昂りきった自らを宛うと、アトワイトの耳朶に囁きかける。
「アトワイト…君は誰のものだ」
「え…?」
「言うんだ」
腰を押し出し、濡れそぼる柔肉に自らの先端を埋め込んでいく。
「………ど、して……?」
快楽を待ちわびる躰には、言葉を組み立てる余裕も理性も、無い。
溢れ出す蜜を掻き乱していた剛直が僅かに後ろに引かれ、焦らされた秘肉が切なげに震え上がる。
「や、意地悪しないで…っ」
アトワイトが腰を押し付けてくるが無情にも肉茎を蜜壷から抜き、ぽたりと太腿に蜜を滴らせた。
ああ、と悲鳴に近い呻きが上がる。
「…言うんだ、アトワイト」
言わなければおあずけ、とほのめかす。
お互い限界の近いことは分かっていたが、それでも彼女の口から言わせたかった。
「…ディムロスの……。わ…たし、は…あなただけの…もの…っ」
「…いいこだ、アトワイト…ご褒美だ」
――そうだ、アトワイトは私のものだ。
くちゅりと音を立てて花弁に宛われた剛直が、柔肉をかき分けて押し入ってくる。
「あはぁ…っ…あ……んあ、あッ」
貫かれる悦びにアトワイトは歓喜の悲鳴を上げた。
熱く濡れそぼった秘肉を、指などとは比べ物にならない熱量が押し開き、その蠢く胎内を奥へ奥へと突き上げる。
締め上げる媚肉に逆らって腰をぐいぐいと進めていき最奥まで辿り着けば、その肉茎に今度は
逃がすものかとばかりに、ぬめる襞が絡みついて離れない。
肉と粘膜が直に擦れ合う甘美な高揚感。ともすればそれだけで達しそうだった。
「……ッく……」
躰の奥で深く繋がったディムロスの背筋を、恐ろしい程の快感が這い上がる。
――まだだ、まだ…
絶頂感を振り払い、アトワイトの腰を掴むと怒張を先端まで引き抜き、再び一気に最奥まで突く。
ずん、と亀頭が子宮を思い切り突き上げた。
「…あ…やぁ…ディムロス…きもち…いい……ッ…」
その刺激にアトワイトが背をのけぞらせ、ぞくぞくと震えるその躰が、次の瞬間には脱力する。
軽い絶頂を迎えしばし恍惚にひたるアトワイトだったが、ディムロスが腰を使い始めると
半ば無意識に、彼の呼吸と腰使いの律動に息を合わせていく。
「う…んふぅ……あ…ふぁぁんっ…」
怒張の先端が柔襞を引きずり出さんばかりに、媚肉を擦り上げる。
漸く心に余裕の出来たディムロスも、ただ突くばかりでなく、肉襞全体を押撫で
膣内を掻き回したかと思うと最奥に己を激しく突き込む。
「…ッ……くっ……っは…っ」
がくがくと激しく揺れる互いの躰。飛び散る大粒の汗。
壊れよとばかりに抽挿を繰り返し、互いの快楽を高め合う。
「あ、あッ…!…」
一際激しく突き上げられたアトワイトの脚が均衡を失い、倒れかかったところを
ディムロスの手に腰を抱きとめられ、辛うじて踏みとどまる。
引き寄せられては戻っていく腰。机上に押し当てられた乳房がその動きに合わせ形を変えていた。
粘りつく体液が結合部から飛び散り、アトワイトの尻や腿を濡らしていく。
「やぁっ…く…る……わた、し……っ……っちゃ、う…」
「…あ、ああ…いって、くれ…」
アトワイトを絶頂へ導くために、深く浅く膣内を満遍なく突いていく。
――感じてくれ、もっと私を、私だけを…。
「はぁ…あっ…ディム…ディムロスぅ…、あっ…あ……ッんあああぁぁ……ッ」
アトワイトの絶頂とともに媚肉がぎゅっと締まり、急速に射精感が高められる。
「…アトワイト……っ…う、ぁっ」
内襞の収縮に引き込まれるようにして、最奥で肉茎が小さく震えた。
咄嗟に膣内はまずい、と感じ吐精の前兆に膨れあがる怒張を一息に引き抜く。
「…はっ…はぁっ……っ…」
勢いよく溢れ出した白濁液が菊座を濡らし、秘裂を伝ってとろとろと床に落ちていく。
尻にまとわりつく生暖かい液体。そのこそばゆい感触に、アトワイトが身をよじった。
「…ん…ん、う……。…アトワイト…」
「はぁ…ふ……ん…んふぅ…う……」
射精の余韻にディムロスが躰を微かに震わせる。
その体重を預けられたアトワイトもまた、冷めやらぬ興奮に身を任せていた。

「…さむい…」
汗と内股を流れる劣情の滴は既に冷えきり、冷たい空気がアトワイトの躰を震わせていた。
僅かに背中に感じるディムロスの体温と、穏やかになっていく彼の鼓動だけが暖かい。
粟立った肌を撫でさすられる、ただそれだけが嬉しかった。
大きく息を吸い込み、吐息を微笑に代えてゆっくりと吐き出した。
「(二人きりになるのも久しぶり…)」
絡み合った片手はそのままに、空いた手で気怠い仕草ながらも簡単に身仕舞いをする。
ふと絡ませていた二人の手が何かにぶつかった。
それに目を向けた瞬間、耳をかすめていた恋人の息が一瞬詰まり、その手が強張る。
二人の視線の先、机上の隅にあの包みが落ちていた。
「よかった」
机上に落ちていたそれをアトワイトが拾い、傷の付いていないことを確かめ安堵の微笑を浮かべる。
その動作の一つ一つがディムロスの胸を鋭く刺し、その度にちり、と心が音を立てる。
「…来い」
「え、え?」
突然凄い力で腕を掴まれ、机から躰を引きはがされる。
「待って!ディムロス、痛いッ!いたッ…離して。離し…きゃっ!」
室内の隅に設えてある寝台まで、半ば引きずられるようにして連れて行かれ、
放り投げられるようにして横たえられた。躰が弾んだ衝撃で、包みが宙を舞う。
「あッ」
手から離れた包みに必死で手を伸ばす姿が、酷い裏切りのように思える。
甦った仄暗い狂気と嗜虐心は、今度こそ押さえきれなかった。
「う…ぁっ……いたっ…」
力の加減など出来ない。アトワイトが苦しげな呻きを漏らすほど、その手首を握りしめる。
押さえつけるように彼女にのし掛かりながら、その呼吸は獣のように荒ぶっていた。
「そんなに、大事なもの、なのか?」
「…え、ええ。カーレル中将が」
鏡が無くとも自分の眉根が寄ったのが分かった。
今、最も聞きたくなかった人物の名前に対する過剰な反応。思わず大声で怒鳴っていた。
「その名前を口にするな!!」
「―――ッ!?」
その名前。そしてそれ以上の言葉。…あいつが、どうした?
「…聞きたくない…。…聞きたく、ない」
狂ったように呟きながら、白い躰をまさぐっていく。
「私のものだ。私の…。アトワイト…」
アトワイトの肩に顔を押し付け、荒く苦しげに息をついているその肩に白い手が回される。
「ねえ…私……どうして…。あなたを…そんなに怒らせたの…?」
――何故この人をここまで追いつめてしまったのだろう。
今となってはどうしようもないことだとはわかっていたけれど。
止めるべきだったのか。否…止めたところで、彼の荒々しさに拍車がかかるだけのこと。
ディムロスの手が衣服にかかり、素肌を、未だ張りつめている胸の頂を剥き出しにされる。
「はぁ…」
乳首が外気に触れ、硬く立ち上がる。手で隠そうにも躰に力が入らない。
虚ろに開いた唇を舌でなぞられ、口内へと忍び込む舌先に情欲を掻き立てられた。
「カーレル中将は…ただ、私はあの人が…」
一旦離れた唇が、再び近づいてくる。口づけをされるのだろうか。
そう感じ、目を閉じてその瞬間を待つ。
だが、愚かにもアトワイトは相手の逆鱗に触れてしまっていた。
カーレル中将。
アトワイトの声が紡ぐその名前は、刃物のように容赦なくディムロスの心を抉る。
女を喜ばせる術も知らない自分。あいつはどうだろうか。
――いっそのこと、傷付けてくれようか。

突如駆け抜ける、電流にも似た衝撃。それは口ではなく胸からだった。
「――っ……!?い…、いやあぁぁっ!」
敏感になっている胸の先端に噛み付かれ、歯を立てられる。
神経が捩られるような激痛に冷たい汗が全身から噴き出した。
「っく、あ…あ、あぅ…、あああぁぁ……」
甘噛みとはわけが違う。
ぎりぎりとディムロスの歯が、柔肉の感触を楽しんでいるかのように食い込み
その弾力に押し返される度に歯に力が加わり、刺激されることで
硬さとふくらみを増すアトワイトの乳首は哀れなほどに押し潰されていく。
――喰い契られるのではないか。
「いたっ……ゃあぁ……」
痛みと恐怖に頭を振り躰を捩り、懸命にディムロスの暴挙から逃れようとしても
噛み付く歯は離れなかった。
それだけではなく、身を遠ざけようとすることで乳頭を引っ張られる痛みまで加わり、
アトワイトはただ髪を振り乱し、細い頤を仰け反らせることしか出来なかった。
「ひ……う…」
漸く解放された乳頭にはくっきりと歯の痕が刻まれていた。
うってかわっていたわるように乳首を舐りながら、乳房全体を優しく責め立てる。
アトワイトが胸への刺激に弱いことは知っている。
優しく愛撫してやれば秘所を熱く蕩けさせることも、強すぎる刺激は苦痛でしかないことも。

乱れた格好のまま組み敷かれ、呼吸を乱し涙を零すアトワイトの姿は哀れですらあった。
「どうして…」
「何故、こんな時にまで他の男の名を口に出す」
短衣を捲り上げ、秘所を覆い隠す濡れきった薄布を眼下に見下ろす。
「そうされると男がどんなに不愉快な思いをするのか…知らないのか?
アトワイト…君が悪い。それくらい分かるだろう」
穿き直した下着のその下はディムロスに侵食されたことを示し、
溢れかえった蜜で塗り固められたような有り様だった。
「…ご、ごめんなさい……でも…っ……」
声色に底知れない憤りを感じ取り、アトワイトが反射的に謝罪を口にする。
先ほどの陵辱劇が思い起こされたのか、怯えるように睫毛が震えていた。
爪に引っ掛けられた薄布を透かして見える秘唇は真っ赤に充血し、ひくついている。
その光景はひどく淫猥だった。それを自分にだけ見せるのならどんなに良いだろう。
ディムロスは己の欲望を抑えつつ、ふん、と露骨な蔑みの眼を向ける。
「まだ咥えたがっているじゃないか…。…だから罰が必要なんだ」
我ながら恐ろしい事を淡々と吐いているものだ。
内心そう自らを嘲笑しながらも、恋人の躰をまさぐる彼の手つきには迷いも澱みもなかった。
今更引き返せるはずもない。
熱い熱い、滾るような情欲に支配されながら、彼の半ば伏せられた眼は冷たく凍り付いていた。
「…わかるか?いつも君と一緒にいて、私がどれだけ焦っているか…。君は――……」
不意に、その一言がアトワイトの耳に届いた。
――あいつの部屋でもこうしたのか、と。
見開かれ瞬いた目が瞬時に理解の色に染まった。

むしり取られた服が音もなく床に舞い落ち、無防備になったその躰をディムロスに委ねる。
せめて大人しく抱かれればそれ以上は傷付けられないだろう。
それに、もう怖くなどない。彼が何を思っているのかは分かっている。
何よりも躰の奥で燻る劣情に彼女自身が気付いていたのだった。
敷布の上にアトワイトを組み敷いたまま、ディムロスもまた己の服に手をかける。
留め具を外し、長衣を衣擦れの音とともに取り払い引き締まった体躯を露わにしていく。
汗ばんだ男の躰。
逞しく引き締まり、いくつもの戦いの傷痕が刻まれたその裸身に思わず劣情の吐息が漏れる。
愛撫されるでもなく、貫かれるでもない、ただ目の前にいるだけでもこの人はどこまでも自分を昇らせる。
いつも自分を昂ぶらせ、狂わせる躰を見てしまった、ただそれだけで子宮が切なげに疼いていた。
本能の前には一時の感情など儚いものだった。
求めずにはいられない。
「ディムロス………」
こみ上げた衝動に突き動かされ、縋り付きながらやっとのことで哀願の言葉を紡ぎ出す。
たった一言。して欲しい、と。
「……!」
それは彼にとって、単純に嬉しかった。
「(だが、…いいのか)」
先ほどの行為を気にしているのは彼とて同じだった。
あれだけ酷い事をされた彼女が自分から求めてくるはずなど無い、そう思っていた。
求められて、初めて正気に戻るというのも実に皮肉なものだったが。
「(滑稽だな…)」
何時しか独占欲は戸惑いに転じていた。
あくまで拒絶されるならば再び力ずくでアトワイトを犯し尽くし、最悪、彼女の心と躰に
自分の所有物としての消えない自覚と絶望を刻み込むつもりでさえあった。
幾度も幾度でも抱いて、朝になってもまた夜になるまで離さない。
確かにそれは、それこそ血の迸るような苦渋の決断ではあったのだが。
…偏狭な思考は視界までも狭めるのだろうか。
力無く横たわる、暴虐の限りを尽くされた白い肢体。
涙と苦痛にまみれ、許しを請うために自分の名を呼んだ唇。
見たくもないものばかりが唐突に開けた視界に飛び込んでくる。
自分はこれからまた、この躰を蹂躙するのだ。
――だめだ。
「また、君が傷つくだけだ…」
今ならまだ引き返せる。
これ以上理性が揺らがぬうちに、アトワイトをここから逃がすべきだったろう。
だが彼女はディムロスの心情を察することはなかった。或いはそう装っていたのかもしれない。
「傷つく?どうして」
どう言うべきか、ディムロスは迷いながらも言葉を選び取る。それは恋情の吐露でもあった。
「飢えているんだ、君に…」
喰らい尽くしたいと思うほどに。
声が掠れ、わなないている。怯えでも怒りでもない、押さえ切れぬ情欲の震え。
「そうね…それは怖いわね。でも少しだけ嬉しいかもしれない…」
「…何故だ?」
その問いに、目には微かに媚さえ含んで見つめ返す。
「私を求めてくれたから、かしら」
応えないわけにはいかず、既に彼自身押さえが利かなかった。

ひとつ気になることがある。
彼女の躰には交接の残滓が無かった。
白磁の肌に口づけの痕は無く、すべてにおいて恋人に教え込まれ、開発されたいつも通りの反応を返す躰。
ディムロスを受け入れた内壁は、久しく押し開かれていなかったかのように狭かった。
或いは本当に貫かれていなかったのか。だとすれば……。
――引っかかる事が多すぎる。
それは胸の奥深くで燻るような不快感を催していた。だがカーレルの事は、今だけは忘れたかった。

指先が皮膚をかすめ、ただそれだけでどこまでも昇らされる。
しかし昇りつめて昇りつめて、…どこまでも満たされない。それだけではなかなか達せない。
「んん……っ!」
絶頂の火照りが甦りつつある躰は、何時にも増して過敏だった。荒れ狂う鼓動が
頭の中でまでがんがんと痛いほどに鳴り響いている。理性が甲高く悲鳴を上げた。
徐々に熱を帯びる胎内を早く満たして欲しかった。
「くふ…ん……」
白い首筋に歯を立て、噛み付くようにして舐る。
ぬるりと舌が乳房を這いずり、臍をなぞって下腹へと降りた。
「ふ、うぅ…っ……んっ………んんぅ…」
同時に指で転がされる乳首は押し潰される度、健気に指先を押し返そうとする。
かりかりと爪の先で引っ掻かれた乳頭が痛々しい程にふくらみを増した。
「堪えなくていい」
きつく吸い上げられる度、柔肌に紅い花が狂い咲く。
「んん、んっ…、…っく…」
愛撫だけで達してしまいそうで、言葉にすればあまりに率直に、淫らに求めてしまうだろう。
それが恥ずかしくて必死に声を殺し目をかたく瞑り、ふるふると首を振る。

愛情と嗜虐心はどこかよく似ている。
あくまで強情な彼女に嗜虐心がそそられ、ほんの少し、少しだけ苛めてみたくなった。
敷布とアトワイトの躰との間に手を滑り込ませ、臀部の曲線をなぞりあげる。
掌に収めた尻の双丘のすべらかな感触を堪能しつつ、時折指を割れ目にそって滑らせていく。
その度にアトワイトがかすかに身を悶えさせた。
「ふあぁ…、…ん、くすぐったい……あは…」
下腹部にディムロスの顔が押し当てられ、熱い息がかかり、それが不思議に気持ちよくて
さながら火を灯されたように熱い。全身が性感帯になった気がするほどに。
「あ、駄目…汚れる…」
とぷりと音を立てて腿に粘り気のある液が伝っていく。
アトワイトの尻を伝う愛液がその下の寝台へと零れ、質素ではあるが清潔な敷布を汚していった。
思わず腰を浮かせた時、たまたま滑った指が尻の狭間を擦り
不意に菊座を撫でられたアトワイトがびくりと身を跳ねさせる。
意外なほど大きな反応が返ってきたことを面白がるように、ディムロスは更に指先で菊を嬲る。
「…ここが感じるのか?」
尻までもどろどろに濡らす愛液を絡め取ったディムロスの中指が、少しずつ力を込める。
長い指がぬるりと窄まりに飲み込まれ、暖かく窮屈な感触に包まれた。
「やっ、汚い!いやぁぁ…そんなところっ」
尻を嬲られる途方もない羞恥。
そしてむずむずとした異物感に苛まれ泣きそうになりながら、それでもアトワイトは
愛撫がもたらす未知の感覚に悶えていた。
漸く直腸を犯していた異物が抜かれ、安堵の息をついた次の瞬間
張りつめた花芽を摘み上げられ、一瞬の内に思考が焼き切れる。
「うぁ!…っ…あぁ、あ、あ…う……」
しかしすんでのところで達しきれず、無情にも意識は現実に引き戻された。
咄嗟に達してしまわぬよう堪えてしまった。それがいっそ悲しい。
寧ろディムロスは自分をいかせるつもりなどなかったのかもしれない。
激しい息づかいの中、胸を上下させながらそのやるせなさがくふん、と涙混じりの嘆息を漏らさせる。

蕩けた秘唇をまさぐる指にまとわりつく蜜はひどく淫らで、ひどく女の匂いがした。
だが、これほどまでに濡れている。自分を求めて、アトワイトはこんなにも艶めいている。
滾るような獣欲に、下半身の一点に血液が流れ込むのを感じた。
恋人の顔を引き寄せると怒張を突きつけ、舐めるよう促す。
アトワイトも素直にそれに従い、先端のくびれを指先で軽くなぞり、舌を這わせた。
ディムロスの口から堪えるような声が漏れる。優越感だろうか、それが妙に嬉しい。
「…っふ…。ん、んぅ、ふ…」
何度口にしても慣れない味。苦く生臭いばかりの精液がこびり付き、美味とは言い難い。
唾液に精液と愛液が混じり合い、粘りつくディムロスのそれは彼と、自分の味だった。
はしたない行為とは思う。それでもこれが彼の一部だと、
自分を愛したくて屹立しているのだということが自分をかき立てた。
「ふっ……ん…む…」
ごつごつとした幹に唾液をまぶし、歯を立てないように唇だけで咥える。
舌を絡みつかせ雁首を擦り上げ、たちまち熱を増すそれをより深く咥え込み頭を上下させる。
その度にぬるつく口腔内の粘膜がじゅぷ、ちゅくと湿った音を立てた。
先走りの汁が更に潤滑油となり、奉仕をより滑らかにする。
口腔内を満たす液が唇の端から一筋零れ、ちゅる、と音を立てて口内を吸い上げる。
「……っく…アトワイト…」
指をしゃぶらせるのとはまた違った興奮がある。
暖かい柔らかな紅唇が自分のモノを愛おしげに包み込む。その光景にディムロスが
ぞくりと腰をわななかせ、恋人の髪を撫でていた手に一瞬力が籠もった。
「……ん!」
膨張を増す一方の剛直は顎を疲労させ、やむなく口腔内から抜き出される。
口腔内で攪拌され、剛直にまとわりついた分泌液の糸を引いて離れた唇が、先端に軽い口づけをする。
小さく脈打って反応する肉茎をそろそろと胸の谷間に導いた。
「…?」
ディムロスの怪訝そうな顔をちらと見上げると、意を決して両乳房を寄せ上げる。
むにゅりと柔肉が、乳房の間にそそり立っていた剛直を左右から包み込んだ。
……が、唾液と先走りでぬるぬると滑るそれは、なかなか思うように挟み込めない。
「あぁ…もうっ……」
ようやく陰茎を双丘で捉えたアトワイトの息は興奮して弾んでいる。
その熱い息が亀頭にかかり、胸の谷間で怒張が更に膨れ、ふるりと柔肉を震わせているのが見えた。
「ディムロス…気持ちいいの?」
ふくよかな胸に包まれながら先端の窪みに感じる暖かい滑り。
じわじわと溢れ出す先走りを舐め取っている姿が、たまらなく艶めいていた。
背徳感に満ちた艶姿に、背を駆け上がろうとする射精感を必死で堪える。
「く…あ……」
全身の筋肉に力が籠もり、射精を押しとどめようとする。
「…出して……。いいから…」
言うと同時に再びディムロス自身を口に含み、舐りあげた。
「……っ、アトワイト…!」
ぬるりとした感触が先端に触れた瞬間、剛直が力強く脈動する。
口腔内に吐き出される白濁液。アトワイトがその苦みをこくこくと喉を鳴らし飲み下す。
ディムロスの屹立は口から引き抜かれてなお脈打ち、恋人の頬を白く汚した。
「んぅっ……あ、ふぁ……」
未だ息も整わず、それでもディムロス自身や彼の下腹部、自らの指にまとわりついた
白濁をアトワイトは丹念に舐め取っていく。
振りまかれた精が放つ雄の匂いに秘裂の内部が蠢くのを感じたアトワイトが、堪らず腿を擦り合わせた。
「はぁ……、…うぅんっ……ん…」
脚を開くのが辛いほどに、じくじくと痛いほどに秘所が疼く。
切なげに脚をすり合わせる姿に、ディムロスも何かを感じ取ったらしい。
閉じたままの両脚を抱え上げ、両脚の間に覗くつつましく閉じられた秘唇に剛直を押し当てる。
分け入るように先端のくびれまでを埋め込み、
そのまま体重を思い切りかけ一息に怒張を最奥まで突き入れた。
「ひっ…あ、あぁあ!」
脚を閉じているせいで、膣内はひどくきつい。
それでいて淫猥な水音を立てながら、充血した媚肉が誘い込むようにディムロス自身にむしゃぶりついてくる。
己の全体重をかけていないと、締め上げてくる秘肉に肉茎が押し戻されてくる。
「アトワイト……っは…そんなに…締めては…っ…」
アトワイトには答える余裕すらない。
浅く速い呼吸を繰り返し、二人分の体重に撓む躰を寝台に押し付けられながら
抽挿の都度雁首に恥骨を引っ掛けられ、ごつごつと擦られる鈍い痛みに顔を歪めるばかり。
「うっ……く…ぅん……っ。…つ、あっ、…あぁ……、……っ…」
関節が真白くなるほど力のこもった指に引っ張られた敷布が、深い皺を刻む。
しかしそれと同時に、浅い箇所を小刻みに突き上げられ肉壁越しに刺激される陰核が、
鈍く痺れるような快感を生み出していく。
呼吸に合わせて膣内が弛緩する瞬間に、剛直が一層深く内部を抉った。
「はぁっ………うあ…」
思いがけず感じる箇所を擦られ、痛みに震え上がり同時に快楽にわななく媚肉が
ディムロスのモノをそのまま深く咥え込む。
絡みついて離れない花蜜。
繋がった箇所の最奥が熔けてしまったかのように、熱い粘液がとめどなく流れ出し敷布を汚した。
「っ…ああ…あぁぁあ……っ、ディム、ロスっ……っあ、ふぁっ…」
内壁を掻き回されることで湧き上がる逸楽に、アトワイトの眦から歓喜の涙が零れる。
疼きに勝る充塞感と刺激を得、アトワイトはこれ以上ないほどに乱れた。
ディムロスもそれに応え、膣内のより深みを求めて怒張を突き入れる。
とくとくと脈打つ熱い内襞に包み込まれ、膨張しきった彼自身が
彼女の媚肉を痛々しい程に押し広げていた。
――もっと深く繋がりたい。
アトワイトの脚を大きく開かせ、改めて激しく己を打ち込んでいく。
それに応えるようにアトワイトもディムロスの躰に脚を絡ませ、より深い接合を求めて躰を引き寄せる。
奥の奥まで埋没させた剛直に幾度も子宮が押し上げられ、しなやかな肢体が弓なりに反り返った。
結合部からは泡立った蜜がぬるりと溢れ出し、蠢く花弁はさらなる抽挿を誘う。
菫色の髪が灯火に照り映えて、さらさらと宙を舞い、敷布の上に降り積もる。
「あっう……ふああぁっ…ん、ふ…」
ふるふると揺れる乳房。その果実に齧り付き吸い上げる度、高められた躰が敏感に反応し
唇から漏れる甘い嬌声とともに、花蜜に潤いきった内襞がきゅっと締め上げられた。
振り乱され、汗で己の顔にまとわりついた蒼い髪を、慈しむかのようにアトワイトの手が掻き上げる。
「ん…んむ……んうぅ」
視線が交わり、どちらともなく抱き合い、躰を重ね、唇を貪り合う。
荒々しく、だが愛欲に満ちた口づけ。繋がった箇所から聞こえる、くちゅくちゅと濡れた音がひどく艶めかしい。
「ディムロス、あ、あぁ…ディムロス…」
心まで溶け合うような深い口づけに、アトワイトはうっとりとした眼差しを恋人に向けた。
「…アトワイト…」
愛しさに駆られ、それ故に続く言葉が見つからない。
ただ無我夢中にアトワイトを抱きしめたまま力任せに腰を揺さぶり、彼女の胎内を蹂躙する。
「誰も、受け入れないでくれ…。…私だけでいい」
「……ディムロス…」
この瞬間、確かに二人は互いだけのものだった。

「く……!」
絶頂が近い。ディムロスの体躯が何かを堪えるように震えている。
「っ…あ、ディムロス……膣内は…っ…」
彼女には、ソーディアンマスターとしての役割がある。一戦力である以上、妊娠など許されなかった。
「……………」
しかしいらえはなく、それがひどくアトワイトを怯えさせる。
「お願い、抜いて…もう…。…おねがい…」
縋るようなアトワイトの眼差し。だが、ディムロスの心のどこかに甘美な欲望が渦巻いている。
アトワイトにとってディムロスとの交接はあくまで愛情の発露であって、
少なくとも今だけは生殖行為としての情交ではないつもりだった。……あくまでも彼女にとっては。
「(…子供か…。いや、今は…)」
これ以上の酷いことをすれば、間違いなく彼女は一生心を開いてはくれないだろう。
それだけは避けなければならなかった。
一瞬心によぎった悪意を押し殺し、気休めの避妊に過ぎないが体外に吐き出すべくディムロスが腰を引いた。
「……え…、…っ、あ……っ!」
その刹那。不意に秘肉が締まり、ディムロスを胎内に引き留める。
絶頂の予兆に震える膣内を思い切り擦られ、反射的に収縮する媚肉。
誰のせいでもなく、彼女の意志にさえ反していた。
「――――ッ、…っ」
どくん、と胎内で欲望が弾け、灼けつくような熱がじわりと内襞に広がっていく。
「……ふあっ…あ……あ、あ…ぁっ…?」
涙を零しながら目を見開くアトワイト。
「う…そ……」
しまったと思うより一瞬早く白濁液に満たされ、灼かれる胎内。
過敏な粘膜が感じ取った熱はそれ自体をうねるような快楽に変えていった。
ディムロスの背中に回されていた手に力が籠もり、ぎりりと爪を食い込ませる。
悔恨に満ちる心から切り離された躰は、恋人と共に絶頂へと昇りつめ、その熱さに柔襞がひくついている。
爪の食い込んだディムロスの背からは血が流れていた。
「……あぁ……あ…熱ぅ…い……」
達した悦びに全身が甘く痺れ、やがて脱力する。
絶頂に酔いしれ結合も解かないまま、もつれるようにして二人は敷布に倒れ込んだ。
ぐちゃり。そんな生々しい音と共に秘所から陰茎が抜かれ、注がれた精液が逆流する。
泡立った蜜にも白いものが混じり、虚ろになった膣口から敷布の上にどろりと零れ出していた。
部屋を満たしている粘りつくような薄闇と、冷え冷えとした静寂に押し潰されそうだった。
空気が湿っているのは二人の汗と淫液とが溶け込んでいるからか。
自然、彼の腕に不自然な力が籠もり、抱かれているアトワイトがかすかに鼻を鳴らす。
――いつもは、こんなに優しいのに。
行為の後のディムロスは優しかった。今もその大きな手、
剣を握る無骨な手は自分の背をいたわるかのように撫でてくれている。
相変わらず目を合わせようとはしないけれど。

今この時が終わったら、君は私を見限るだろうか。…せめていま少し…。――そう思った瞬間。
ぺち、と小気味よい音が薄闇の澱みに響き渡った。
白い両手に挟まれた顔を引き寄せられ、罪悪感に苛まれつつもディムロスは観念したかのように目を開ける。
すぐ目の前にあるだろうアトワイトの顔。瞼を持ち上げるのにひどく労力を使った。
彼女は今、どんな表情をしているのだろうか。
蔑まれ、睨まれるだろうか。それとも涙に濡れた眼差しか。
「――――………………」
しばし無言で見つめ合い、紅の眼の中に嫌悪の色が無かったことに密かに胸をなで下ろす。
「……朝の事だけど」
悲しみ、怒り、戸惑い……それでもどこかアトワイトの瞳は愛と優しさを宿していた。

…枕に顔面をめり込ませるディムロスの無様な姿は平身低頭の上、謝罪しているように見えなくもなかった。
「…………すまなかった。君には何と……言ったら良いのか…」
「当たり前よ。乱暴されて怒らない女なんていないわ。
…それに私、疑われて…とても悲しかった」
思い込みと誤解と嫉妬に狂った自らの恥ずべき行いが、ディムロスの頭をよぎっていく。
すべて誤解だった。
彼女がこれをカーレルから受け取っていたのは、夜中まで激務に追われる自分のため。
彼の自室に居たのは軍師の目覚ましの珈琲を分けて貰うため。
だから軍師の公務のない早朝に彼の私室へと赴いたのだ。
そして自分に渡すものなのだから、ここに持ってくるのは当然のことで……。
「本当に……すまない」
友と愛する者を疑った自分への怒り、アトワイトへの狂おしいまでの恋慕の情、
そして彼女に対しこれ以上ないほど罪悪感が掻き立てられた。
今度こそ目を開けたくなかった。
その辺に転がっているだろう贈り物を、直視することなど出来るはずもない。
潰れたような呻き声とともに再び沈み込んだ、そんなディムロスの頬を細い指が愛おしげになぞっていった。
丁度彼女が叩いた箇所を狙って。痛みに顔を顰めた恋人を見、アトワイトはくつくつと笑った。
「…いいわ。今日のところは許してさし上げます。最初に誤解を招いたのはこっちだし…。
……わたしもよ、愛してるわ…」

どんなに大切に思っていても、想うほどに大切にしてやれなかったのか。
想えば想うほど、愛すれば愛するほどに、傷付ける。
ただ、たとえ彼女が自分を拒絶しても、今更手放す気など無かった。
愛でることとは呪縛にかけること。ふとディムロスはそう感じた。
呪縛にかかったのはどちらだったのか、或いはどちらもなのか。
笑いがこみ上げてきた。ならばアトワイトはこれからも私のものでいてくれるのだろう。
そこにはそれを苦々しいながらも、無性に心地よく感じている自分がいた。


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