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作品名 作者名 カップリング 作品発表日 作品保管日
束の間の安息 サザム氏 ディムロス×アトワイト 2003/05/26 -

雪原の中、二つの人影が寄り添うように歩を進めていた。
力強い足取りで、同行者を気遣いながら進むのは、地上軍第一師団長のディムロス中将。
少し疲れた様子を見せながら、その後を付き従うのは、同じく地上軍の衛生兵長であるアトワイト。
アトワイトは先程までバルバトスに囚われていた処を、カイル達とディムロス、ハロルドらに救い出された。
けれど今、彼らの傍にカイル達一行とハロルドの姿はない。
なかなか二人きりになれない彼らを気遣ったハロルドが、別行動を取る事を勧めたのだ。
思い責任を背負いつつも愛し合う男女にとって、それは願っても無い申し出である。
二人はハロルドの言葉に甘えて、束の間の休息を取るべく、空中都市の残骸に立ち寄る途中であった。
「よし、着いたぞ。……アトワイト、大丈夫か?」
無骨な外観を雪で覆われた空中都市の残骸に辿り着くと、ディムロスは後ろを振り返って言った。
「……ええ、平気よ。私だって、これでもソーディアンマスターの候補者ですもの」
アトワイトは気丈に振舞うが、敵地に一人捕らえられていた心労は隠せない。
彼女を早く休ませるべく、ディムロスは中へと続く扉を開けて──
「なっ、何だこれは!?」
──思わず絶句した。
外観同様、金属地が剥き出しだったはずの内壁は、パステルピンクの壁紙が一面に貼られている。
床には絨毯が敷かれ、大きなベッドにはレースの天蓋が付けられた上、所々にぬいぐるみまで置いてある。
様々な設備もファンシーな色に塗り替えられ、元の雰囲気は見る影も無い。
残骸の中は、堅物のディムロスが逃げ出したくなるほど、それはそれは少女趣味な内装に変貌していた。
「ハロルドだなっ!? こんな奇天烈な真似をするのは、あいつしか考えられん!」
「ぷっ、くすくすっ……。もう、ハロルドったら……」
憤慨して怒鳴るディムロスとは対照的に、アトワイトは堪えきれないといった感じで笑い出した。
「どうもおかしいと思ったんだ! やけにここで休むように強調したのは、こういう訳かっ!」
「ディムロス、そんなに怒らなくてもいいじゃない。ハロルドなりに、私達に気を使ってくれたのよ?」
アトワイトは、滅多に見られない取り乱した様子のディムロスに、苦笑しながら取り成すように微笑んだ。
「それより、ほら。早く入って一息つきましょ? せっかく暖房が入ってるのに、部屋が冷えてしまうわよ」
「おっ、おい、アトワイト、ちょっと待ってくれ。この中に入るというのは、少なからず抵抗が……」
「はいはい、話の続きは中で聞くわ」
笑った事と、中から流れる暖かな空気に触れて、アトワイトはかなり元気を取り戻す。
困惑した表情のディムロスを可愛く思いながら、アトワイトは彼の背中に手を掛け、中に押し込んでいった。

              ◇  ◇  ◇

「ううむ、落ち着けん……」
ディムロスは、乙女チックな部屋の中をウロウロと歩き回りながら、腕を組んで唸っていた。
質実剛健を地で行くディムロスにとって、フリルとレースに囲まれたこの空間は、居心地悪いこと夥しい。
しかも隣の浴室では、アトワイトがシャワーを浴びており、微かな水音まで聞こえてくる。
今のディムロスの心境は、気恥ずかしさが半分、ハロルドへの八つ当たりぎみな怒りが半分といった感じだった。
「大体なんだ、この露骨に並べられた枕は……、ん?」
苛立ちまぎれに、仲良く二つ並んだ枕を叩くと、その下からガサッと何かが擦れる音がした。
イヤな予感がして、ディムロスは枕の下を探り、そこにあったモノを引っ張り出す。
予想通り、そこからずるずると出てきたのは、一綴りになった避妊具であった。
「だあぁっ! 何を考えているのだ、ハロルドはっ!?」
避妊具の末尾にはご丁寧に、ハロルドの筆跡で『好きなだけ使ってね♪』と書かれたメモがくっ付けてある。
メモをぐしゃぐしゃと丸めると、ディムロスはそれを再び枕の下に突っ込んだ。
「はぁ、はぁ……、ゴホン! 少し喉が渇いたな。確かここには、飲料水が置いてあったはずだが……」
照れ隠しに咳払いをしたディムロスは、壁際に備え付けてある冷蔵保管庫に歩み寄った。
ピンク地に白のハートマークという、頭の痛くなるような塗装をされた保管庫の扉を、ガチャリと開ける。
「もう、勘弁してくれ……」
中身を確認したディムロスは、げんなりとした様子で力無く呟く。
保管庫の中には、栄養ドリンクのビンだけが、隙間無くぎっしりと詰め込まれていたのである。
ディムロスも、アトワイトと二人きりでここに来た時に、当然そう言った事も考えなかった訳ではない。
が、こうも露骨に「さぁ、やれ!」と言わんばかりの段取りをされると、逆に醒めてくる。
保管庫の扉を閉め、ディムロスは頭を項垂れてベッドに座り込む。
その時、ちょうど浴室の扉が開き、アトワイトの声が聞こえてきた。
「……あら、ディムロス。浮かない顔をしてるわね」
「ああ、少し気の滅入る事があってな……うっ!?」
アトワイトの声にふと顔を上げたディムロスは、視界に飛び込んできた彼女の姿に、思わず息を呑んだ。
なぜなら、アトワイトは素肌にバスタオルを巻いただけの、あられもない姿だったのだ。
彼女の肌は上気して薄く紅色に染まり、床に届きそうなほど長い薄紫の髪は、しっとりと濡れている。
幾度も肌を重ねた間柄ではあるが、今のアトワイトはいつにも増して魅力的だ。
愛する女性の匂い立たんばかりの美しさに、ディムロスは陶然と見とれてしまった。
「どうしたの? 疲れているようなら、貴方もシャワーを浴びたら?」
「いっ、いや。私はいい……」
「そう? じゃあ、隣に座ってもいい?」
「あっ、ああ、勿論いいとも……」
ディムロスがどもりながら応じると、アトワイトは彼のすぐ脇に腰を降ろした。
バスタオルの下端から、普段はロングブーツに覆われている脚線美が、惜しげもなく晒されている。
軽く止められた胸元からは、豊満な胸の谷間が覗いており、ディムロスの衝動を強く刺激する。
目のやり場に困ったディムロスは、結局アトワイトの顔に視線を固定した。
「まだ疲れているんじゃないのか? 良かったら、先に休んでもいいんだぞ?」
「ううん、まだ平気。……でも、そうね、ちょっと疲れちゃったかな?」
砕けた口調でそう言うと、アトワイトはディムロスの肩にコツンと頭を寄りかからせた。
滅多に見せない甘えた仕草に、ディムロスの胸が少年のように高鳴る。
石鹸の匂いに混じって漂うのは、彼女自身の肌が生み出す馥郁たる香り。
自分の服越しに伝わる、アトワイトの身体の柔らかな感触に、ディムロスは股間が昂ってくるのを感じた。
「……御免なさいね、さっきは思い切り叩いたりして。……まだ、痛い?」
アトワイトは、ディムロスの頬にまだ赤く残っている自分の叩いた跡を見て、癒すようにそっと撫でた。
「い、いや。この程度、戦闘で受ける傷に比べれば、どうと言う事は無い。気にするな」
アトワイトの顔を罪悪感で曇らせたくなくて、ディムロスは何でもない風に装う。
ディムロスの不器用な優しさに、アトワイトの顔がふわりと綻んだ。
「……ありがとう、ディムロス。助けに来てくれて。
 洞窟でも言ったけど、貴方が来てくれて、私、本当に嬉しかった……嬉しかったんだから……」
アトワイトは想いを込めて、ディムロスの身体に腕を回し、ぎゅっと抱きついた。
「アトワイト……。その、そう抱き付かれると、非常にまずいのだが……」
彼女の柔らかな胸を押し付けられたディムロスは、顔を赤らめながらうろたえた口調で呟く。
アトワイトが視線を下げると、ディムロスの股間は物慣れぬ少年のように、強くいきり立っている。
悪戯っぽく微笑むと、アトワイトはえいっ、と可愛い掛け声と共に、ディムロスの胸に圧し掛かった。
「……もう、またお堅い中将殿に戻ってるわよ? 今は二人きり……私も貴方も、ただの男と女なの。
 こういうとき、男と女がどうするか……、分かるでしょ?」
「おっ、おいおい……」
優しく押し倒されて、ディムロスは少し慌てながらアトワイトを見上げた。
圧し掛かった拍子にバスタオルが肌蹴て、生まれたての美の女神のような裸身が露わになっている。
小さく首を傾げながら、自分の瞳を覗き込んでくる様は、抱き締めたくなるほど愛らしい。
愛し合う者同士の自然な欲求に、ディムロスの頭の中から、余計な物が次々と押し退けられてゆく。
「……そうだな。今は、お前の事だけを考えることにするよ、アトワイト……」
ディムロスは、アトワイトの首筋に手を廻すと、ゆっくりと自分の顔の方へ引き寄せていった。

              ◇  ◇  ◇

「んっ……ふ、ああ、ディムロス……」
ディムロスの広い胸板に身体を預け、アトワイトは甘い吐息を漏らした。
まるで所有権を主張するように、ディムロスはアトワイトの顔中にキスの雨を降らせる。
上下の唇を軽く吸われ、耳元に、頬にと唇が触れるたび、アトワイトの背にぞくぞくするような快感が走る。
ディムロスが長い髪に口付けしただけでも、そこに神経が通っているかのように悦びが湧き上がった。
「アトワイト……んっ、んむっ……」
ディムロスは、そんなアトワイトの反応を見ているだけで、興奮が抑えきれなくなってきていた。
片手で滑らかな背中を撫でながら、片手でアトワイトの髪を掻き上げ、口腔に舌を伸ばす。
するとアトワイトも、ディムロスの動きに応えて、自分の舌を差し出し、絡み合わせる。
互いを味わい尽くすかのような舌の動きはしばらく続き、二人の官能は際限なく盛り上がった。
「アトワイト……愛している」
「私もよ、ディムロス……。私も、貴方だけが……んっ!」
ディムロスは、アトワイトの髪を腕に引っ掛けてまとめると、くるりと体勢を入れ替えた。
アトワイトをベッドに寝かせると、動きの邪魔にならないように、彼女の頭の横に長い髪を束ねて流す。
そして、アトワイトの首筋に顔を埋めながら、片手でそっと彼女の胸に触れた。
「いつ触れても柔らかいな……。溺れてしまいそうだよ、アトワイト……」
「あんっ……あ、ディムロス、そんな、囁いちゃ……んあっ!」
首筋の弱い処を吸われながら、やんわりと豊かな胸を揉まれ、アトワイトは喉を仰け反らせて喘いだ。
久しぶりの刺激に、アトワイトの心臓が早鐘のように激しく高鳴る。
アトワイトの胸はディムロスの指の動きに合わせ、つきたての餅のように柔軟に形を変えていく。
唇で鎖骨へと伝いながら、ディムロスは吸い付くような感触の二つの膨らみを、交互に撫で擦る。
頂点の蕾は、すでに硬く充血し、ディムロスの手の平にこりこりとした感触を返した。
「んんっ、ねえ、私だけじゃいや……。ディムロスも脱いで……」
目元を朱に染めたアトワイトは、潤んだ瞳で見上げながら、ディムロスにそう告げた。
もっと強く、もっと近くに貴方を感じたいと、その瞳が語っている。
「ああ、ちょっと待ってくれ……」
アトワイトの求めに応じ、ディムロスは己の着衣を手早く脱ぎ捨てた。
細身でありながらも、鋼をより合わせたように力強い、無数の傷痕が刻まれた肉体が露わになる。
その中でも、胸を斜めに走る、最も新しく大きな傷に気付くと、アトワイトはその痕をそっと指先でなぞった。
「これ……、私を助けようとした時の傷よね?」
「ああ。あの時ほど、己の不甲斐無さを恥じた事はない……」
バルバトスにアトワイトを攫われた時の事を思い出し、ディムロスは顔を歪めて呟いた。
あの時ディムロスは、彼女を失う事さえ覚悟して、ダイクロフトから脱出したのだ。
バルバトスを圧倒出来るだけの力があれば、みすみすアトワイトを囚われの身にしなくても済んだ筈である。
改めて自分を責めるディムロスの頬を、アトワイトは優しく撫でて言った。
「そんな顔しないで。……私、この傷が嬉しいの」
「……嬉しい? どう言う意味だ?」
意味を測りかねたディムロスが尋ねると、アトワイトの顔に茶目っ気混じりの微笑みが花開く。
「だって、私を取り返そうとして付いた傷なんですもの。言ってみれば、私に対する愛の証じゃない?」
冗談に紛らわせようとするアトワイトの気遣いに、ディムロスの口元にも笑みが浮かぶ。
「こいつめ……。そんな事を言う口は、こうしてやる……」
「んっ、んふふっ……」
ディムロスが唇を塞ぐと、アトワイトは逞しい背中に腕を回しながら、満足げな含み笑いを漏らした。

              ◇  ◇  ◇

「んっ……あ、いい……。そこ、もっとぉ……」
「ああ、ここだろう?」
「そうっ……、それがいいの……んんっ!」
ディムロスの頭を撫でながら、アトワイトは妖しく肢体をくねらせていた。
何度も肌を重ねたディムロスの愛撫は、アトワイトの望む場所を望む通りに刺激する。
下乳を掠めるように指先でくすぐり、突き出した舌先で乳首の周りに何度も円を描く。
口中に先端を含み、ころころと転がしながら、片手はさわさわと太腿をさする。
普段の彼女を知る者たちが見たら己が目を疑うほど、今のアトワイトは快楽に乱れていた。
「どうしたんだ? 今日はいつになく感じ易いな……」
「……だって、久しぶりだから……。ディムロスに、その、してもらうの……」
ディムロスが囁くと、僅かに理性を取り戻したアトワイトは、恥じらいに顔を横に逸らした。
その表情に欲望を刺激され、ディムロスは内股の根元にするりと片手を滑り込ませる。
「ふくぅん! や、恥ずかし……」
柔らかな下腹部へと這わせたディムロスの指に、熱くぬめりのある感触が伝わる。
直接触られてもいないのに、アトワイトのそこはすでに、溢れ出た蜜でくちゅくちゅに潤っていた。
「……なるほど。確かにこの所、忙しくてこんな事をする暇も無かったからな。大分溜まっていた訳か……」
「んもう、納得しないでよ……。私、そんなに淫らな女じゃないの……ただ、相手が貴方だから……」
アトワイトは真っ赤になった顔を片腕で隠すと、言い訳をするように呟く。
しかし、その言葉とは裏腹に、アトワイトの秘唇はひくひくとわななき、子宮からは熱い疼きが込み上げる。
そんな身体の反応を気付かれるかも知れない、と考えただけで、アトワイトは消え入りたいほどの羞恥を覚えた。
「別に恥ずかしがる事はないだろう? 私とて、似たようなものだからな」
「え? あっ……」
ディムロスは、そう言って照れ臭げに微笑むと、いきり立った剛直を滑らかな内股に軽く押し付けた。
火傷しそうなほど熱く、鋼鉄のように硬くなったそれの感触に、アトワイトは目を見開く。
別の生き物のように脈打つ強張りから、ディムロスの興奮を感じ取り、彼女の心が和らいでいった。
「ディムロスの……、こんなに……?」
「分かったろう? お前が愛しいからこそ、私もここまで昂っているんだ。お前と同様にな……」
「やはぁっ……! だめぇ、そん……な、ディムロ……スっ、そこっ……くぅんっ!」
顔を隠すアトワイトの喘ぎを聞きながら、ディムロスは手探りで彼女の秘裂を掻き分けた。
あくまでそっと、感触を確かめるように肉襞を摘み上げ、くにくにと指先で擦る。
その度ごとに、アトワイトの言葉が途切れ、媚肉の奥からは新たな蜜が滴り出す。
軽く達しそうになり、アトワイトは唇を噛んで高まりを押さえ込んだ。
「んんんっ、だっ……めぇ! ディムロス、私、このままじゃ……」
「我慢しなくてもいい……。そのまま、達してしまっていいのだよ……」
「いやっ! そんな、……あ、あ、あっ!?」
快楽に耐えるアトワイトの痴態に魅入られたディムロスは、鉤状に曲げた中指で、彼女の中を探った。
アトワイトの意思とは無関係に、彼女の秘洞は収縮し、ディムロスの指を締め付ける。
ディムロスは中指を挿入したまま、親指でその上の肉芽を潰すように押さえ、手首を細かく震わせる。
下腹部に重く響く振動に、アトワイトの意識は掻き乱された。
「ふ……あっ……! だ、だめ……、それ、弱いって……知って……!」
「知っているとも。お前の身体の事なら、誰よりもな……」
乱れる顔を見られたくない一心で、アトワイトはもう一方の腕も挙げて顔を覆い、ディムロスの視線を遮った。
だがディムロスはそれを許さず、アトワイトの腕を顔の上から退かすと、彼女の頭の上で押さえ込む。
アトワイトは、快楽に潤んだ瞳で、縋るようにディムロスの顔を見上げる。
その表情にますます興奮を掻き立てられ、ディムロスは更に手首の動きを速めた。
「アトワイト、隠さないでくれ……。お前の達する時の顔を見せてくれ……」
「だめ……っ! そ……んなっ、じっと……、見詰め、ちゃ……、恥ずかし……っ!」
ディムロスの熱い視線に耐え切れず、アトワイトはぎゅっと目を瞑った。
しかし、視覚が閉ざされると、却って神経が快楽に集中し、絶頂が早まる。
ひたひたと水位を上げる官能に、とうとうアトワイトは屈服し、ディムロスに懇願した。
「あっ、やっ! ディムロス、お願い、見ないで……っ!」
けれど、欲望に突き動かされたディムロスは、愛撫の手を休めず、視線も彼女の瞳から外さない。
「いいぞ……とても綺麗だ、アトワイト……」
ディムロスの甘い囁きが、最後の抵抗を打ち破る。
「おねがいっ、もう、もうっ……、──んんんっ!!」
弓なりに背中を反らし、アトワイトはぷるぷるっと身体を震わせ、達した。

              ◇  ◇  ◇

「っはぁ、はぁ……。もう、ディムロスったら、こういう時だけ意地悪なんだから……」
絶頂の余韻に震える声で、アトワイトは少し恨めしそうに呟いた。
アトワイトの肢体は芯が蕩けたように脱力し、捕らえられた野兎のようにふるふると震えている。
「仕方ないだろう? 堪えている時のお前の顔が、あまりに可愛いので、つい……な」
「やん、ばか、知らないっ!」
甘い言葉を囁かれ、アトワイトはぷいっと横を向く。
しかし、その語調には、隠し切れない媚態が含まれていた。
「ふふっ……済まなかったな。許してくれないか、アトワイト?」
「だぁめ。謝っただけじゃ、許してあげない……」
額に掛かった髪を掻き上げてやりながらディムロスが言うと、アトワイトはつんと澄ました振りをする。
互いにふざけ合いながら、二人は相手への愛しさを高めていく。
「……では、どうしたら許してくれるのかな?」
「そうね……。ディムロスのこれをくれたら、許してあげる……」
そう言いながら、アトワイトは硬く猛り立った男根を、片手で愛しげに撫で擦る。
ディムロスのそこは限界まで膨張し、先端は先走りの汁で妖しく濡れ光っていた。
「ああ、それくらい、お安い御用だ……」
ディムロスはアトワイトの要求に応じ、枕の下から避妊具を引きずり出した。
ハロルドの思惑通りになる不快感は多少残るが、今はアトワイトと交わりたいという欲求の方が勝っている。
だが、アトワイトはちらりと横目でそれを確認すると、ディムロスの手をそっと押さえた。
「ディムロス……。今日は、それ、いらないから……」
「え? いや、しかしだな……」
アトワイトの申し出に、ディムロスは戸惑いの声を上げた。
互いに地上軍の幹部である以上、万が一にも妊娠の危険を犯せなかった二人は、今まで生でした事は無かった。
時にディムロスがもどかしく感じる事があっても、アトワイトは決してそれを許さなかったのだ。
そのアトワイトが、自分からそれを着けなくてもいいと言っている。
恋人の心境の変化に、ディムロスは念を押すように問いかけた。
「……本当に、いいのか?」
「ええ……。ソーディアンが完成すれば、すぐにミクトランとの最終決戦になるんですもの。
 その後も大変ではあるでしょうけど、今までのように戦いに明け暮れる日々は終わるわ……」
そこまで言うと、アトワイトはふっと切なげな表情になる。
「それに……、もし負ければ、世界はミクトランの手に落ちて、私も貴方も生きてはいないでしょう?
 万が一そうなった時に……私は、悔いを残したくないの……」
「………………」
「だから、お願い……。私に、貴方の全てを感じさせて……あっ!?」
薄く涙を浮かべて訴えるアトワイトの頭を胸に抱き締め、ディムロスは力強く答えた。
「万が一になど、ならない。させはしない。お前も私も、生きて地上に光を取り戻すんだ。
 ……だから、そんな悲しい事を言うな。必ず勝って……私達の子を、産み育てる未来を掴むんだ」
「!! ……ええ、そうね、ディムロス……。私も、貴方の子供が欲しい……」
驚きに目を見開いたアトワイトは、自分の愛する男を両手で差し招き、ゆったりと微笑む。
「来て……ディムロス。私に未来を信じさせて……」
「ああ、お前が望むなら、喜んで……」
ディムロスは何よりも大事な女を抱き締めながら、静かに身体を重ねていった。

              ◇  ◇  ◇

「んっ……あ、ディムロスの……すごく、熱い……」
遮る物のない生の肉茎が侵入し、アトワイトは悦びにわなないた。
薄い膜が一枚ないだけで、普段よりも深い快感が生まれ、かつて無いほどの一体感を感じる。
アトワイトは、更に奥へと進む強い脈動に、うっとりとした表情で囁いた。
「くぅっ、アトワイト……。私も、お前の温かさに……融けてしまいそうだ……」
一方ディムロスも、初めて直に感じる蜜壷の感触に、我を忘れそうになっていた。
幾重にも重なった肉襞の連なりが、一つ一つ数えられそうなほど、くっきりと判別出来る。
執拗なまでに絡みつくアトワイトの秘洞から、彼女の心までが直接伝わってくるように感じる。
ディムロスは、自分の全てがアトワイトの中に包まれるような錯覚さえ覚えながら、強張りを根本まで埋めた。
「……っはぁ。まさか、これほどまでに違うとはな……」
「本当ね……。こんなにいいのなら、もっと早くにこうすれば良かったわ……。あっ、やだ、私……」
自分が何を口走ってしまったかに気付き、アトワイトの顔が羞恥の色に染まる。
そんな可愛らしい反応に、ディムロスは愛する者にだけ向ける、慈しみを込めた微笑みを返す。
「これから、いくらでも出来るさ……。今までの分を取り返すぐらいにな……」
「ふふっ、いやね、ディムロスったら……。ね、動いて……」
「ああ……」
アトワイトにせがまれて、ディムロスはゆっくりと腰を使い始めた。
「んっ……あ、いい……。ん……っく、や……は……あん……」
快楽を貪るというより、相手への絆を確かめる感じで前後に動くと、アトワイトはたちまち甘い声を発した。
ただの肉欲では無く、心だけでもなく、魂までが溶け合うような至福の快感。
幾度となく肌を重ねてきたはずなのに、耐え難いほどの激情がこみ上げる。
嵐のような官能に翻弄されつつも、アトワイトの中はディムロスのモノをしっかりと締め付けていた。
「あっ……ねぇ、ディムロス、もっと深くして……」
アトワイトは自分から片足を胴まで引き上げると、身体を横に捻った。
大きく開かれた股の間の、淫靡に濡れ滾った結合部が、ディムロスの視線に晒される。
しかし、そんなはしたない格好をしても、もはやアトワイトの脳裏に羞恥心は浮かばない。
彼女はただ、愛する人とより深く繋がりたいという、強い欲求に突き動かされていた。
「……っ、こうか、アトワイト……」
「くぅっ……そう、もっと奥まで……。私の中を、貴方で埋め尽くして……んくぅん!」
ディムロスは、軽く腰を引いてから、アトワイトの最奥を目指して突き込んだ。
柔らかな亀頭がこりっとした感触の肉壁に押し付けられ、痺れるような快楽を誘う。
その位置を基点にするように体勢を変え、小刻みに身体を揺すり、アトワイトの奥を攻め立てる。
先端が奥に擦れる度に、持ち上げられたアトワイトの爪先がピンと伸び、中の締め付けが強くなった。
「うっ……く、アトワイト、そんなに締め付けては……」
「あっ、だって……、良すぎて……あそこが、言う事聞かない……っ、んうぅ……っ!」
また軽く達したのか、アトワイトはビクンと跳ねると、くたっとうつ伏せに崩れ落ちた。
白い背中に玉のような汗が浮かび、照明を反射して宝石のように輝く。
ディムロスは舌を伸ばして背中の汗を拭いながら、文字を描くように腰をうねらせた。
「ひぅんっ!? やっ……それ、だめっ……! おっ、奥に、ぐりぐりって、響くのっ……!」
「くふっ……くっ、アトワイト……」
落雷に打たれたように痙攣するアトワイトの中を、ディムロスは己の肉棒で掻き回した。
アトワイトの陰裂からは、耐えかねたようにこぽりと蜜が溢れ、糸を引いて滴り落ちる。
自分の体重に押し潰された乳房が、ディムロスの律動に従い、隆起した乳首をシーツに擦り付ける。
ディムロスの動きは一定のリズムを保っているにも拘らず、アトワイトの官能は加速度的に高まっていった。
「もっ……だめっ……! これいじょ……されたらっ……わたしっ……しんじゃうぅ……!」
「ううっ……くぅ、アトワイト……っ、んっ、ちゅ……」
「ふぁ……あむっ……、んっ、んんっ、ん!」
両手でシーツを掴みながら、アトワイトは首を捻り、背後のディムロスに訴えた。
ディムロスは湧き上がる絶頂を追いかけて動きを早めつつも、アトワイトの唇を塞ぎ、舌を突き出す。
忘我の表情を浮かべたアトワイトも、本能のままに舌を絡ませ、ディムロスの口腔を探る。
アトワイトの甘く切ない吐息に、ようやくディムロスの剛直が射精の予兆を迎え始めた。
「うおっ……アトワイト、もうすぐだっ……もうちょっと、でっ……!」
「くうぅっ、ディムロスっ……! 抱いてっ……! 強く抱き締めて、私を離さないで……っ!」
「ああっ、離さない……っ! 離すものか……お前をっ……お前がっ……!」
ディムロスは、アトワイトの華奢な身体を背後から抱き上げると、望まれるままに強く抱き締めた。
交差させた両手で握り潰すように乳房を掴みながら、これで最後とばかりに激しく突き上げる。
身体が壊れそうな強い抱擁と突き上げに、アトワイトは目が眩むほどの快感を受け、きゅっと唇を噛む。
とうに限界だと思っていた快楽の、更に先へと運ばれて、アトワイトの神経は焼き切れる寸前だ。
「い……やっ、も……だめ……ほんと……にぃっ……」
「くっ……アトワイトっ……、いくぞ、いくぞ……っ、くうぅっ!!」
「──────!!」
最深部に勢い良く迸る熱い飛沫に、アトワイトは弾け飛ぶような絶頂感を受け、意識を失った。

              ◇  ◇  ◇

「……い、おい、アトワイト! しっかりしろ!」
「……え? あ……、ディム、ロス……?」
頬を軽く叩かれる感触に、アトワイトがゆっくりと目を開けると、心配そうなディムロスの顔が大写しになった。
アトワイトがぼんやりと応えると、ディムロスはホッと安心した様子で微笑む。
大きく溜息をつくと、ディムロスはアトワイトの横にドサッと倒れ込んだ。
「あまり心配をさせんでくれ……。なかなか意識を取り戻さないから、どうしたのかと思ったぞ?」
「意識、って……? う、あうっ……」
失神するほど乱れていた、先程までの自分を思い出し、アトワイトの顔がみるみる紅潮した。
自分の身体を探ってみると、布団を被せられた肢体は、情事の跡をきれいに拭い取られている。
意識を失っていた以上、それをしたのは当然ディムロスしかいない。
ますます恥ずかしくなったアトワイトは、布団を鼻先まで引っ張り上げて、ディムロスをジロリと睨んだ。
「寝てる間に色々するなんて……。ディムロスのエッチ」
「なっ、いや、別に変な事はしてないぞっ!? ただ私は、あのままでは風邪を引くと思って……」
「すけべ。変態。もう知らない」
「うああぁぁ! 違う、違うんだ、アトワイトぉ……」
ゴロゴロとベッドの上を転がりながら、ディムロスは威厳の欠片もない、情けない声で弁明する。
その様子にクスクスと笑い、アトワイトはようやく許してやる気になった。
「はいはい、分かってるわよ。仕方ないから、添い寝してくれたら許してあ・げ・る」
アトワイトがふざけてそう囁くと、ディムロスは子供のようにむくれて言い募る。
「……アトワイト、実は私で遊んでないか?」
「あらやだ、今頃気付いたの?」
平然と返すアトワイトに、ディムロスはがっくりと肩を落とす。
「全く、お前には敵わないな……」
苦笑しつつも、ディムロスはアトワイトの求めに応じ、布団に入って彼女の横に寝そべる。
するとすかさず、アトワイトがその身体に寄り添い、子猫のように身体を丸めた。
「うふふ……。そう言えば初めてね、こうして寄り添って眠るの……」
「……そうだな。さすがにラディスロウの中では、こんな真似は出来んからな……」
相手の顔を至近距離で見詰めながら、二人は穏やかな声で呟き合った。
互いの体温が、うっとりするような安らぎを与え、たちまち心地良い眠りを誘う。
「今度こうしている時は……。ミクトランを倒して……、平和になってから……かしらね……」
「そうだな……。必ず、二人で……」
「……ね、ディムロス……。いつもの、して……」
布団の中で、ディムロスの指に自分の指を絡ませながら、アトワイトはすっと顎を上げる。
「ああ……。お休み、アトワイト……」
アトワイトの唇にお休みのキスをして、ディムロスも彼女の指を優しく握り締めた。

              ◇  ◇  ◇

翌朝早く、二人は人目を避けるようにこっそりと、ラディスロウに戻った。
別に罰を恐れた訳ではない。ただ、朝帰りの自分達を見られるのが、少し気恥ずかしかったのだ。
幸い、歩哨の兵士はいぶかしむ様子も無く、あっさりと二人を通してくれた。
「ぐふふふふ。お二人さん、お帰んなさ〜い」
「ぬおっ!?」「ハ、ハロルドっ!?」
しかし、ラディスロウの入り口の中に立ち塞がっていたのは、怪しい含み笑いを浮かべたハロルドだった。
昨夜の事を見透かしているかのような笑みに、アトワイトはもじもじと身をよじる。
ディムロスは、そんなアトワイトを背後に庇うと、厳格な表情を取り繕って、ハロルドに告げた。
「済まんが、これから私達は、リトラー司令に報告せねばならん。そこを通してくれ」
「はいはい、お邪魔はしないわよ。さーどうぞどうぞ」
「う、うむ、済まんな……」
てっきりからかうのかと思っていたハロルドがあっさりと道を空けたので、ディムロスは拍子抜けした。
音程の外れた鼻歌を歌いながら、ハロルドはディムロス達と反対の方向に歩いていく。
しかし、二人が司令室の方に歩き始めると、背後からハロルドの声が投げかけられた。
「そうそう、お二人さ〜ん! あんた達の子供の未来を掴む為に、あたしも頑張っちゃうからね〜!」
聞き覚えのあるフレーズに、二人は慌てて背後を振り返るが、そこにはもう、ハロルドの姿はない。
「……ねっ、ねえ、ディムロス……。あれって、まさか……」
「いや……、それ以上は言わんでくれ……」
何とも言えない表情で見詰め合いながら、ディムロスとアトワイトは、しばらくそこで立ち尽くしていた。


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