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作品名 作者名 カップリング 作品発表日 作品保管日
裏切りの代償 サザム氏 シャルティエ×アトワイト 2003/01/17 -

吹雪の吹き荒ぶ中、悄然と頭を垂れた兵士の群れが、のろのろと重い足取りで進んでいた。
彼らは地上軍の第一師団。その目前には、地上軍の本部基地が聳え立っている。
彼らは敗残の身を抱え、やっとの思いで帰還したところであった。
先だっての天上軍補給基地への奇襲作戦は、逆に天上軍の待ち伏せに会い、戦死者が2割を超える惨敗となった。
どうにか包囲網を突破してきた兵も、半数以上が手傷を負い、生命に係わる重傷の者も少なくない。
そして、そんな疲れ果てた隊列の中程に、シャルティエの姿もあった。
(…やっと、やっと辿り着いた…)
シャルティエは、ラディスロウの威容を目にすると、その場に倒れこみたくなる程の安堵を覚えた。
今度の戦いで、シャルティエの率いる分隊は、特に大きな被害を受けた。
天上軍が最初に襲い掛かったのが、隊列の中央近くにいた彼の分隊だったのだ。
彼自身は片腕の軽い裂傷で済んでいたが、その顔は、まるで死人のように青白かった。
元は貴族の師弟であった為か、シャルティエは逆境に弱い所がある。
地上軍結成以来、最悪と言っていい今度の敗戦は、シャルティエの心に深い傷を刻んでいた。
(…あなたの居るこの場所に、帰ってくる事が出来ました、アトワイトさん…)
シャルティエは、心の痛みを忘れる為に、密かに想い続ける女性の姿を思い浮かべた。
怜悧な美貌と、女神のような慈愛を備えた、地上軍の衛生兵長。
臆病な自分を何度も慰めてくれた彼女に、シャルティエはいつしか恋情を覚えるようになっていた。
しかし、その時すでに、アトワイトはディムロスと深く愛し合っていたのである。
ディムロス中将に比べれば、自分など取るに足らない存在に過ぎない。
そう思いつつも、アトワイトを求める気持ちは、日毎に募ってゆく。
恋心と劣等感、やり切れなさと悔しさの間で、シャルティエの心は揺れ動いているのだった。
(ん…?あれは…)
ふと目線を上げたシャルティエは、基地の方からこちらに駆けて来る人影に気付いた。
長い髪が吹雪に乱されることさえ気にもせず、一心不乱にシャルティエに向かって走ってくる。
近づいてきた人影の正体に気付き、シャルティエの胸が大きく高鳴った。
(…アトワイト、さん?)
驚きに顔を上げると、アトワイトもぱあっと歓喜に顔を染め、さらに足を速める。
(アトワイトさんっ!)
シャルティエも、どこにそんな力が残っていたのかという勢いで、彼女に向かって駆け出そうとした。
「アトワイトさ…!?」
しかし、二人の軌跡が重なることは無かった。
アトワイトは、シャルティエの脇を通り抜け、振り返った彼の目の前で、ディムロスに勢い良く抱きついたのだった。
「ディムロスっ!あなた、無事だったのねっ!」
「おっ…! おいおい、アトワイト…」
押し倒されたディムロスは困惑した様子で、両腕を所在無げに宙に浮かせている。
アトワイトは尻餅をついたディムロスの胸に取り縋り、安堵に震える声を上げた。
「わたし、部隊が酷い被害を受けて、あなたも負傷したって聞いて…。
 でも、元気そうで良かった…本当に良かった…」
「アトワイト…」
ディムロスは、優しい微笑みを浮かべると、安心させるようにアトワイトの背中を軽く抱いた。
「見ての通り、私は軽傷だ。心配をかけてしまったな…。
しかし、だな。他の兵も見ている事だし、こう言う格好では部下に示しがつかん。
それに、さっきからシャルティエが、挙げた手のやり場に困っているのだが…」
「えっ…あっ!し、失礼しました、ディムロス中将!」
公衆の面前で抱きついてしまった事に気付き、アトワイトは顔を赤らめて、慌てて立ち上がった。
そして、硬直しているシャルティエに向かって、はにかみながら声を掛ける。
「ごめんなさいね、シャルティエ。あなたも大変だったでしょう?お疲れさま」
「…いえ、ありがとうございます…」
シャルティエは、言葉少なく答えると、雪避けに被っていたフードを、深く被り直した。
瞳の中に揺らめく、嫉妬の炎を隠すかのように…。

                    ◇  ◇  ◇

「んっ…んくっ…。はぁっ…」
酒盃を一気に空にすると、シャルティエは酒精にまみれた吐息を吐き出した。
あれから自分の部屋に辿り着いたシャルティエは、ろくに食事も取らずに、ひたすら酒を飲み続けていた。
結構な数の酒瓶は、殆どが空になり、乱雑に床に転がっている。
落ち込んだ時には、酒で気を紛らわし、そのまま泥のような眠りに付くのが習慣となっていた。
しかし今夜ばかりは、いくら杯を重ねても、気分は昂る一方であった。
(あの人も…あんな顔をするのか…)
今度の敗戦に対する心の傷も、シャルティエの悩みの一部ではある。
しかし、それ以上に心を揺さぶるのは、アトワイトの見せた、輝かんばかりの歓喜の表情だった。
軍務の間は、アトワイトも節度を守り、恋人らしい雰囲気は殆ど見せない。
ただ、ディムロスを見る時の瞳は、傍から見ても美しい、と今までは思っていた。
ところが、愛する者へ向ける飾らない素顔は、それより更に美しかったのだ。
「あの輝きを、独り占めするなんて、許せない…」
シャルティエは、暗い感情に歪んだ声で、ぶつぶつと呟く。
呟くほど、悩むほど、胸の中のしこりは硬く、大きくなる。
そうと判っていながらも、シャルティエの頭はそこから離れない。
「…許せない…許せない…」
まるで呪詛のように、薄暗い部屋にシャルティエの呟きが響く。
その呟きは、酒に曇ったシャルティエの脳裏を染め上げ、次第に理性を失わせてゆく。
「…許せない…そうさ、許せなければ…奪えばいいんだ…」
シャルティエはゆらりと幽鬼のように立ち上がると、外に続く扉へと近づいていった。

                    ◇  ◇  ◇

シャルティエは、壁にもたれ掛かるようにしながら、ラディスロウの通路を進んだ。
そして、アトワイトの部屋の前に着くと、扉の横の通話機に声を掛けた。
「アトワイトさん。僕です、シャルティエです。…アトワイトさん?」
何度か呼び掛けるが、通話機からは何も返事が無い。
「もう、寝てしまったのか…」
勢いを削がれ、シャルティエはその場にずるずると座り込んだ。
(大体、こんな夜更けに、彼女が部屋に招き入れる訳もない、か…。
それとも、特殊鋼の扉を破って、彼女の寝込みを襲うか?…馬鹿馬鹿しい。全く、僕って奴は…)
シャルティエは、自嘲に顔を歪め、くっくっ、と暗い笑いを洩らした。
その時だった。
「…シャルティエ、あなた、こんな所で何をしているの?」
「えっ…?」
シャルティエが顔を上げると、そこにはアトワイトが立っていた。
アトワイトは、まるで頭から被ったようなアルコールの匂いに気付くと、少し眉をひそめた。
「シャルティエ、お酒は控えなさいと、前にも言ったでしょう?
それに、その腕。ぼろ布で巻いたまま、手当てもしていないようじゃない。
…さあ、とりあえず立って。わたしの部屋で手当てしてあげるから」
「あ…はい。…!?」
呆然としていたシャルティエは、近づいてきたアトワイトの身体から漂う香りに、体を強張らせた。
それは、真新しい湯上りの香りだった。
上級士官の部屋には風呂があるので、外の風呂を使う必要は無い。
そして、アトワイトの後方には、ディムロスの私室がある。
アトワイトの充実した笑顔と、少し乱れた髪から見ても、何があったかは明白だった。
(そうか…そういう事か…)
一時は下がった狂熱が、再び鎌首をもたげるのが判る。
しかし、それは決して表に出さず、シャルティエはアトワイトの肩を借り、彼女の部屋に入っていった。

                    ◇  ◇  ◇

「…はい、お終い。大して深い傷ではないから、一週間もすれば、普通に動かしても平気よ」
アトワイトは、余った包帯を巻き取りながら、シャルティエに微笑んだ。
しかし、治療中もずっと首を垂れていたシャルティエは、その声にも答える様子が無い。
その態度を、落ち込んでいる為と勘違いしたアトワイトは、慰める口調で語り掛けた。
「…気持ちは判るけど、あまり自分を責めない方が良いわ。
あなたの隊が大きな被害を受けたのは、たまたま敵が最初に襲い掛かったせいでしょう?
むしろ、あなたの隊が奮戦したお陰で、被害は最小限で済んだと、あの人も言っていたわ」
「あの人…ディムロス中将がですか?」
最後の言葉に、シャルティエはピクリと反応し、顔を上げる。
アトワイトは、その瞳の中に蠢くものには気付かず、さらに言葉を続けた。
「ええ、そうよ。『私が軽傷で済んだのも、シャルティエのお陰だ』ってね。
あなたは立派に戦ったのよ、もっと胸を張りなさい。
わたしからも、お礼を言いたいぐらいなんだから…え、シャルティエ、どうしたの?」
急に立ち上がったシャルティエに驚き、アトワイトはそう問いかける。
それに対し、シャルティエは能面のように無表情なまま、平坦な声で囁いた。
「…『あの人も言っていた』?…一体どこで聞いたんです?」
「え?…あ、あの人の…部屋だけど…?」
シャルティエの真意が分からず、戸惑った様子でアトワイトは答えた。
するとシャルティエは、表情を下卑た笑みに急変させ、揶揄するように言った。
「あの人の部屋?…あの人のベッドの中、の間違いではありませんか?」
「…っ!?あ、あなた何を…」
羞恥に頬を染めながら、アトワイトは尚も戸惑いを込めた問いを投げかけた。
棒立ちになったアトワイトに、シャルティエはじりじりと歩み寄る。
その異様な雰囲気に、アトワイトもずるずると後じさった。
「お礼をしたいと言いましたね…。
では、その体でお礼をして貰いましょうか!!」
「きゃあっ!?」
シャルティエは、いきなり声を荒げると、アトワイトに飛び掛かり、ベッドの上に押し倒した。

                    ◇  ◇  ◇

「ちょっと、あなた一体…んっ!?」
シャルティエは、状況が把握できないでいるアトワイトの唇を、強引に奪った。
「…っ!!」
ビシイッ!!
その所業に、アトワイトはカッと頭に血を昇らせ、シャルティエの頬を思い切り平手打ちにした。
そして、両肩を組み伏せられたまま、横を向いたシャルティエを怒鳴り上げる。
「莫迦な事はやめなさい!…警備の者を呼びますよ!」
しかし、シャルティエはゆっくりと正面に向き直ると、冷笑を浮かべながら答えた。
「…呼べばいいじゃないですか。その後で、どうなっても良いのならね…」
「…!!」
シャルティエの言葉に、アトワイトは大きく息を呑んだ。
確かに、警備兵を呼べば、この場は助けられ、シャルティエは捕まるだろう。
だが、問題はその後だ。
仮にも少佐の地位にいる者が、劣情から大佐に襲い掛かったとなれば、一般兵は大きく動揺するだろう。
ただでさえ、先の敗戦の為、兵達の士気は落ち込んでいるのだ。
そこにこんな醜聞が広まれば、地上軍全体が瓦解しかねない。
シャルティエの言葉は、明らかにその可能性を示唆していたのだ。
一瞬でそこまで思い至ったアトワイトは、蔑みと嫌悪で体をわななかせ、シャルティエを睨み付けた。
「あなたは…あなたという人は…っ!」
しかし、そんな怒りを込めた視線を、シャルティエは嬉しそうに受け止めた。
「ははは…。そうだ、それでもいい。
怒りに染まった眼でも、僕一人に向けられるのなら、それでいいんだ。
あなたの心に、体に、僕という存在を刻み込んでやる…!」
「シャルティエ、あなた…」
完全に正気を失ったシャルティエの言葉に、アトワイトの顔から血の気が引いた。
それは正に、嫉妬と欲望で狂った、歪んだ愛の発露であった。

                    ◇  ◇  ◇

「く…っ!はぁっ、アトワイトさん…」
「んっ、いやっ!…やっ、やめなさいっ!」
シャルティエは、アトワイトに顔を寄せ、再び唇を奪おうとした。
しかし、アトワイトは顔を左右に振り、シャルティエの口付けを拒む。
それに業を煮やしたシャルティエは、片手でアトワイトのおとがいを掴み、無理やりに唇を重ね合わせる。
そして、さらに舌を伸ばし、アトワイトの口腔を探った。
「むうっ…、んっ!」
ガリッ…!
「んっ…むんんっ!?」
侵入したシャルティエの舌に、怒りに任せて噛み付いたアトワイトは、驚愕のうめきを洩らした。
シャルティエは、鋭い痛みをものともせず、更に舌を動かしたのだ。
慄くアトワイトの口の中に、唾液混じりの金臭い血液の味が広がっていった。
「むっ…むうっ…ぱあっ! ふぅ、ふううぅ…」
しばらく口の中を犯したシャルティエは、ようやく口を離すと、さらに昂った様子で、荒い息をついた。
そして、アトワイトの胸元に掴みかかると、上着を引き裂こうと、両腕に渾身の力を込める。
「やっ…やめなっ…さいっ…こんなっ…」
アトワイトは、シャルティエの手首に爪を立て、必死に押さえ込もうとするが、尋常でない怪力にそれも果たせない。
「ぐうっ…ぐぐぐっ…があっ!!」
「きゃあぁっ!」
シャルティエの、戒めを破る獣の様な叫びと共に、アトワイトの上着は音高く破り去られた。
アトワイトの両の乳房は、無理やり解放された衝撃で、激しく揺れ動く。
その動きに獣欲を刺激され、シャルティエは片方の乳房を荒々しく掴むと、そこにむしゃぶりついた。
「むおっ…むっ…ふむっ…ぴちゅ…」
「やあっ!はっ、放しなさい、シャルティエっ!」
アトワイトは、両手で彼の髪の毛を掴み、強引に引き剥がそうとする。
しかしシャルティエは、掴まれた髪が音を立てて抜けるのも構わず、その手を煩げに振り払う。
さらに両手で胸を揉みしだき、先端を代わるがわる嘗め回し、膨らみに強く歯を立てた。
ぢゅっ…じゅるじゅるっ…きちっ!
「痛っ、止めっ!…くうっ…嫌だって…言ってるのにっ…!」
「んぷっ…そんな事言って…乳首が立って来ましたよ…。
本当は、感じているんでしょう…?」
「くっ…だっ、誰がっ…!」
シャルティエの下から逃れようと暴れながら、アトワイトは否定の声を上げた。
実際、アトワイトは一片たりとも快感を得てはいなかった。
乳首が隆起していくのも、単に体が刺激に反応しているだけで、決して快楽には繋がらない。
しかしシャルティエは、体の反応を引き出しただけで、彼女の全てを支配した気になっていた。
「そんなに強がらないでいいんですよ…。
それとも、こっちを愛してあげたら、素直になるのかな…?」
ずっ、ぐぬぬっ…。
「いっ、痛っ!」
シャルティエは、片手を素早く下着の中に潜り込ませ、まだ濡れてもいない秘所に指を突き入れる。
力任せの侵入に、アトワイトは苦痛の叫びを上げた。
しかし、シャルティエはアトワイトの悲鳴も気に掛けず、そのまま指を蠢かせる。
アトワイトは、腿でシャルティエの手を思い切り締め付けるが、痛みに手を緩める気配すら無い。
それは、先程の言葉に反し、アトワイトの快楽を呼び覚ます愛撫などではない。
自分が柔肉の感触を楽しむためだけの、ただの陵辱であった。

                    ◇  ◇  ◇

ずっ…ずちゅ…。
暫く指を動かしていると、やがてアトワイトの秘洞から蜜が染み出し、湿った音が響き出した。
ぬめるような感触に、シャルティエは勝ち誇った笑みを洩らして言った。
「ほら、ここはこんなに正直だ…。
涎を垂らして、僕の指をこんなに締め付けてくる…」
「…っ、…っく…つぅ…」
アトワイトは、無理に掻き回された痛みと衝撃に、声も出ない。
濡れてきたのも、敏感な粘膜を守るための、身体の自動防衛機能に過ぎないのだ。
しかし、情欲に支配されたシャルティエには、そんな事も判らない。
今度は、アトワイトの膝頭を両手で掴み、強引に脚を開かせようとした。
「…くっ…本当に、もう止めないと、本気で怒るわよっ!」
アトワイトはそう怒鳴ると、これ以上はさせまいと、両腿に渾身の力を込めて閉じ、自分の爪先を絡み合わせた。
だが、シャルティエは足首を握り締めると、隙間に肩をねじ込み、裂くようにして脚を開かせる。
そして、尚も暴れるアトワイトに、癇癪を起こした子供のようなわめき声を発した。
「くそっ!何でそんなに僕を拒むんだ!
どうせ、あの男の前では、自分から股を広げるんだろう!?」
「!!…シャルティエ、あなたっ…最低よっ!?」
自分ばかりか、愛するディムロスの事まで辱められ、アトワイトの口から深い蔑みの声が漏れた。

                    ◇  ◇  ◇

力ずくで晒されたアトワイトの花弁は、乱暴な刺激の為、赤く腫れ上がっていた。
普通の男なら、血が滲むようなその痛々しさに目を背ける所だ。
だが、シャルティエの中の獣は、その程度では止まらない。
それどころか、花弁の奥から僅かに香る、栗の花に似た匂いに、屈辱感混じりの興奮が沸き起こった。
「おや…?アトワイトさんのここから、精液の匂いがしますね。
やっぱり先程も、あの男に、たっぷり注ぎ込んでもらって来たんですね…」
「やっ…!お願い、そんな事言わないで…」
シャルティエの頭を両手で押しやりながら、アトワイトは羞恥に震える声で呟く。
淫靡な囁きに、大佐としての威厳も剥ぎ取られ、そこにいるのは、陵辱に脅えるただの女だった。
「そんなにヒクヒクとここを震わせて…。
さては、あの男のモノでは満足出来なかったんですね…。
いいですよ、僕があなたを満足させてあげましょう…」
シャルティエは、ズボンのジッパーを引き下ろすと、猛り立った怒張を引き出した。
「さあ、これが欲しいんでしょう…?」
「いっ、嫌っ、駄目ぇ…」
最後の一線を越えようとするシャルティエから、アトワイトは後ずさって逃げようとする。
しかし、ここまできてシャルティエが逃がす筈もない。
アトワイトの腰を掴んで強引に引き戻すと、秘洞の入り口に亀頭を宛がう。
そして、体重を掛けて、一気に根元まで押し込んだ。
ずずずっ…!
「ひっ、あぁぁぁっ!」
悲痛な叫びと共に、アトワイトは自分の中で、何か大事なものが瓦解する音を聞いた気がした。
一方シャルティエは、前々からの望みを遂げた事で、歪んだ喜びに浸っていた。
「これで、あなたは僕のものだ、アトワイト…」
「ううっ…いやぁ…。ディムロスぅ…」
「!!…このっ!」
バシィッ!
思わずアトワイトが愛する男の名を呟いた途端、シャルティエは怒気を漲らせ、彼女の頬を張り飛ばす。
激しい勢いで横を向いたアトワイトの頬は、みるみるうちに赤く腫れ上がっていった。
「ふざけるなっ!お前は僕のものだと言ったはずだっ!
僕の前で、あの男の名前を呼ぶなっ!
今、お前が呼ぶのは僕の名だっ!お前が見るのは僕の顔だっ!」
「…っ!」
しかし、激昂して叫ぶシャルティエの顔を冷たい目で一瞥すると、アトワイトは横を向き、そのまま目を閉じた。
それは、言葉にするよりも明らかな、完全な拒絶だった。
その拒絶に、シャルティエの僅かに残っていた正気は、音を立てて崩れた。
「うっ、うおおおおっ!」
叫びながら、シャルティエは激情の全てを叩き込むように、激しく腰を振った。
そうしながら、両手と舌と唇で、アトワイトの身体中を這い回る。
部屋の中には、ずちゃずちゃと陰部の擦れ合う音と、ぺちゃぺちゃと肌を嘗め回すシャルティエの舌の音が響く。
しかし、いつまで経っても、アトワイトは目を開こうとはしなかった。

                    ◇  ◇  ◇

「…くそっ!なら、こうしてやるっ!」
「…っく!?」
そう怒鳴ると、シャルティエはアトワイトの腰を持ち上げ、後転の途中のような体勢を取らせた。
両腿を胴体に押し付けた格好で逆さにされ、アトワイトの顔の上に二人の結合部が位置するようになる。
身体を強引に折り曲げられ、アトワイトの口から苦しげな息が漏れた。
「さあ、顔を上げて見てみろよ…。
お前のアソコが、僕のモノを美味しそうに咥えている所が、丸見えだぞ…。
ほらっ、見ろって言ってるだろっ!?」
グポッ、ゴプッ、ブチュッ!
「…っ、くっ…、んんっ…」
辱めの言葉を紡ぎながら、シャルティエはわざと大きな水音がするように、腰をくねらせた。
しかし、こぼれた雫が顔に降り注いでも、アトワイトは唇を強く噛み締め、顔を逸らし続ける。
逆手でシーツを握り締め、現実を拒絶するかのように、さらにきつく眉根を寄せた。
「ははっ、何だ、声も出せないほど気持ち良いのかい?
こうか?これが良いのかっ!?」
ズチュ、パン!ニュグッ、スパン!
「ぐっ!…くうっ…!」
アトワイトの態度を、快楽に耐えていると勘違いしたシャルティエは、上機嫌で腰を打ち下ろす。
出入りする陰茎が立てる水音と共に、陰嚢がアトワイトの尻を打つ、濡れ布巾を叩くような音がこだまする。
次第にアトワイトの心は身体を離れ、脱力した肉体だけがシャルティエの欲望を受け止めていった。
「くっ…そうだ、そうやって、僕を、受け入れれば、いいんだ…。
はあっ…そろそろ、中に出してやる…お前の身体に、僕の証を刻み込むんだ…」
「…っえ!?」
シャルティエの言葉に、アトワイトは一瞬で我に返った。
そして、自分の中で、ビクビクと放出の予兆に震える男根の感触に、ゾッと総毛立つ。
「いっ、嫌っ!やめて、それは、それだけはっ、駄目っ…!」
深刻な嫌悪感に突き動かされ、アトワイトはじたじたと暴れ出す。
しかし、無理な体勢を取らされている為、シャルティエを跳ね除けるほどの動きは出来ない。
そして、アトワイトの言葉は、シャルティエの耳には届いても、欲望に狂った頭までは届かなかった。
「さあ、もうすぐ、出してやる…くっ、おおおおっ…」
「やっ、駄目っ、お願いっ…外にぃっ…」
悲痛なアトワイトの懇願をよそに、シャルティエは怒張を根元近くまで埋め込み、そこで小刻みに腰を振る。
「イクぞ…イクぞっ…くううっ、くはあっ!!」
ドキュッ!ズピュ、ドピュッ!
「やっ、嫌あぁあぁぁぁっ!!」
最奥に注ぎ込まれる感触の余りのおぞましさに、アトワイトは絶望の叫びを上げた。

                    ◇  ◇  ◇

絶頂に身体を震わせていたシャルティエは、しばらくすると、寝ぼけたような声を出した。
「あ…僕は…何を…?」
快楽の余韻が冷めていくと共に、シャルティエの頭に、ゆっくりと理性が戻ってくる。
「…!!」
正気に戻った目で見たアトワイトの姿は、酷いものだった。
その顔は、涙と汗と愛液で汚れ、振り乱された髪がその半ばを隠している。
白い肌には至る所に赤い指の跡が残り、強く噛んだ歯型には、うっすらと血が滲んでいる。
大きく曝け出された陰部からは、愛液混じりの白濁が、つうっと糸を引いて零れ落ちる。
その全てが、欲望に狂った自分の行為の証だった。
シャルティエは彼女から顔を逸らすと、すっかり縮み上がった己のモノを、そそくさと仕舞い込む。
そして、ベッドサイドに足を下ろすと、その場で頭を抱え込んだ。
「違う…。僕は、こんな事がしたかった訳では…こんな筈じゃ、無かったんだ…」
シャルティエは、頭を掻き毟りながら、自己弁護と自己欺瞞で罪悪感を消し去ろうとする。
しかし、いくら誤魔化そうとしても、罪の意識は消せはしない。
徐々に広がる恐怖に脅え、シャルティエはふらふらと立ち上がると、部屋から逃げ出そうとした。
「…待ちなさい、ピエール・ド・シャルティエ少佐」
「!!!」
その時突然に響いた、冷静な制止の声を聞き、シャルティエの足は凍りついた。
激しく震えながら、声のした方をぎこちない動きで振り返る。
そこにいたのは、はだけた胸すら隠さずに、しっかりと上体を起こした、アトワイトの姿であった。
「シャルティエ少佐。貴官の取った行動は、将官として、そして人間として、唾棄すべき醜態です。
本来ならば、軍事裁判に掛け、厳しい処分を受けて当然の行為です」
「あっ…あぁぁ…」
書類を読み上げるような、感情の全く篭らない、平坦な声。
しかしその声はシャルティエに、激しく怒鳴られるよりも、何倍も激しい衝撃を与えた。
「しかし、この様な事の為に、地上軍を瓦解させるような真似は、私には出来ません。
そこで貴官には、わたしから、二つの罰を与えます」
「いっ…いやだ、やめてくれ…」
シャルティエは、凍えるような冷たい視線に耐え切れず、ガクガクと膝を震わせる。
だが、冷厳な雪の女王のように、アトワイトは軽く息を吸うと、罪人に判決を告げた。

「わたしは、今夜の事を、忘れます」

「そして、あなたには、自分の罪を忘れる事を、許しません」

その言葉に、シャルティエの身体は、永久凍土の中に閉じ込められたように、芯まで凍りついた。
氷結したシャルティエの脳裏に、尚も続くアトワイトの言葉が刻み込まれる。
「わたしは今後も、今夜の事など無かったかのように振舞います。
明日になれば、あなたにも以前の通りに話しかけ、笑いかけることさえするでしょう。
けれど、あなたには、忘却という救いは許しません。
あなたは、わたしの声を聞く度に、わたしの顔を見る度に、今夜の事を思い出すのです。
これが、あなたの罪の代償であり、…あなたに心を許していた、かつてのわたしからの復讐です」
「うっ、うああああああああっ!!!」
もう限界だった。
シャルティエは絶叫を上げながら、アトワイトの部屋を飛び出し、自分の部屋へと駆け込んだ。
「おおっ、おおおおおおおおぉぉっ!!」
そして、ベッドに頭から潜り込むと、どうしようも無い激情に、いっそ狂ってしまえと言わんばかりに泣き叫んだ。
シャルティエは、一時の下らない欲望の為に、二度と手に入らない、貴重な宝を失ったのだ。
あたかも、欲に駆られて、金の卵を産む鶏を殺してしまった、愚かな農夫の童話のように…。

                    ◇  ◇  ◇

結局、言葉通りに、アトワイトはこの夜の出来事を、他の誰にも悟らせなかった。
だが、アトワイトに言われるまでも無く、シャルティエの心には、決して癒えない傷が刻まれていた。
アトワイトの姿を見かけただけで、胸の奥に、耐え難いほどの痛みが走る。
そして、以前とは一つだけ変わったことがあった。
アトワイトがシャルティエを見る目からは、暖かい労わりと信頼の光が消えたのだ。
代わりに、無機物を見るような冷たい色が視線に加わり、それを見る度に、自分の罪の深さを思い知った。
シャルティエの反応は、周囲の者に不審に思われたが、本当の事を誰かに話せるはずも無い。
どうにか、表面上だけでも平静を装えるようになったのは、それから数ヶ月も後のことだった。
しかし、上っ面を繕うだけでは、傷は深まるばかりである。
そしてその傷は、ソーディアンに転写された人格にも、否応無く受け継がれていた。
一夜の裏切りの代償は、実に一千年を超える、魂の牢獄での責め苦だった…。

                    ◇  ◇  ◇

(シャル…シャル…)
<…坊ちゃん?>
完全に事切れているはずの、リオンの思念を感じ取り、シャルティエは回想から現実へと思考を切り替えた。
ここは、ダイクロフトの中心部。
シャルティエは、リオンの死体と共にミクトランに操られ、かつての仲間達との戦いに敗れた所だった。
すでに仲間達は、それぞれのマスターの手の中で、ミクトランとの最後の戦いを繰り広げている。
こちらの小さな思念を感じ取る者は、誰もいないようだった。
<坊ちゃん、どうしたんです?>
(済まなかったな…こんな僕の為に、仲間を裏切るような真似をさせて…)
<…いいんですよ、坊ちゃん。そんな事は、気にしないで…>
なぜなら自分は、もっと最悪な裏切り者なのだから。
戦友の信頼を人知れず裏切り、愛した人の真心さえも踏み躙った、卑劣で臆病な裏切り者なのだから。
そう心の奥で呟くと同時に、辺りの景色がすうっと暗くなり、センサーからは一人と一本以外の反応が全て消え去る。
そして暫くすると、光り輝く女性の姿が、ゆっくりと近づいて来た。
<あれは、天の使いですかね…?それとも、地獄への使者かな…?>
(どちらでも良いさ…シャル、お前と一緒ならな…)
<坊ちゃん…>
誰よりも深く心を交し合った、孤独な少年の囁きに、臆病な剣の魂は深い感動を覚えた。
<でも、出来れば皆と、最後の責任を果たしたかったな…>
リオンに聞こえないよう、こっそりと呟くシャルティエの音響センサーに、高貴な響きを持った女性の声が届く。

「わたしの名は、エルレイン…」

シャルティエの最後の願いが叶えられるのは、もうしばらく先のことだった。


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