「いい子ね」
そのままの体勢で微動だにしない三成を、女が褒める。
後ろから首元に刀を突きつけられたまま、三成はぎりっと奥歯を噛みしめた。
背後を取られるまで全く気づかなかったのだ。
「…どこの忍だ?」
「どこでもないわ。今は」
どこか艶っぽい声色でくすくすと笑う。
小馬鹿にされたような気分の三成は下ろされたままの両手を強く握る。
反撃の機を狙うが、相手は相当の手練れのようで隙がない。
警戒心の強い三成の後ろを容易く取る上、今手にしている刀は三成の腰刀なのだ。
ほんの一瞬だった。
黒い影が舞い降り、三成の脇を通って背後をとる。
並の忍ではないことは誰の目にも明らかだ。
「周りの兵はどうした」
「…ちょっと眠ってもらったわ。やたら大きな刀持った人も、ね」
左近だ。
あいつほどの猛者が。
「大丈夫。命に別状はないわ。ちょっと気絶してもらっただけよ」
怪しい雰囲気を醸し出す女はふふ、と笑った。
「敵方の忍ではないなら、なぜ俺を狙う?」
威圧感のある低音で呻くように絞り出す。
徳川の忍であれば、三成を暗殺するという命が下っていても不思議はない。
しかし女は「どこでもない」と言った。
「あなたの噂を聞いたの」
刀がゆっくりと引かれる。
三成の頬に、細く赤い筋が現れた。
その臭いに興奮したかのように、女はため息を漏らしながら続きを紡ぐ。
「とっても綺麗で、冷たい人って」
猫の目のようにすっと瞳が細くなる。
まるで肉食獣が獲物を見るような目つきだ。
女の左手が刀を固定したまま右手で陣羽織の紐を外す。
何の抵抗もなくするりと解けたそこから、崩れるように足下へと落ちる羽織。
細い指が帯にかかる。
「……何のつもりだ」
怒気を含んだ瞳の色が揺れた。
殺すだけならば羽織を脱がす必要もなければ帯に手をかける必要もない。
「何って…何だと思う?」
「…貴様…っ…」
楽しげに含み笑いを乗せて、女は三成の首筋に口づけをした。
瞬間、背筋を駆け抜ける言いようのない感覚。
「嫌いでは、ないのでしょう?」
濡れたような艶っぽい吐息混じりの言葉を耳元で囁かれると、思わず反応してしまう自分が情けない。
何度も執拗に繰り返し口づけられ、嫌でも鼓動が高鳴る。
「なにも命を貰おうって思ってる訳じゃないのよ?ちょっと、あなたに興味があっただけ…」
帯から手を離し、ゆっくりと胸元に差し込む。
破裂せんばかりに早鐘を打つ心臓に気づくと、女は三成の顔をちらりと見やり、淫靡な笑いを浮かべた。
「うふふ。かわいいじゃない」
カッと頭に血が昇る。
三成には経験がないわけではないが、初な子供を相手にするような扱いを受けたのだ。
握った拳に更に力が入る。
そんな三成の怒りを余所に、女の細い指が胸の頂を捕らえた。
「…っ……」
その刺激に思わず少し前屈みになり、構えられた刀に首が押しつけられる。
「んー…不要な傷は付けたくないのだけど…」
きゅっと乳首をつまむ。
「っ!」
短い息が吐き出され、鋭い痛みが走ると同時に一筋の鮮血が着衣の合わせを染める。
「ちょっと触るとこれだと…困るわ」
心底残念そうに忍がため息を漏らすと、名残惜しそうに手を引き抜いた。
三成は解放されたにもかかわらず、息が少し乱れている。
「そうね…着たままも好きだけど、あなたの身体…見てみたいの」
「……?」
唇が耳に着くか着かないかのぎりぎりで、そっと耳打ちをする。
「…自分で脱いでちょうだい」
「!!…こ、断る!」
「私だって一枚一枚丁寧に脱がしたいわ。でも全裸になる前にあなた死んじゃうかも」
「……」
「死姦のシュミは残念ながらないのよね」
今までとは違った鋭い声色に、三成は息をのむ。
「難しい事じゃないわよ?いつもの様に、着物を脱ぐだけ」
「…断る」
「あら?そんないじわる言わないで?じゃないと…この刀であなたの首を切り落とす事になりそうよ?」
「………」
今ここで死ぬわけにはいかない。
数里先では自分の家臣たちが死闘を繰り広げているのだ。
だが、総大将である自分が死ねば、それも全て無駄になる。
ここまで大声を張り上げても誰も本陣へ入ってこないところを見ると、助けも期待できそうにない。
万事休すか。
「……わかった」
三成は苦しげに小さくつぶやいた。
女の表情がぱっと明るくなる。
背に腹は代えられない。どうやら女は殺すことが目的ではないようだ。
ならば、言うことをきく振りをして反撃の機を狙うしかない。
「そうじゃなきゃね」
嬉しそうにうなじにキスをする。
だが、刀は相変わらず突きつけられたまま。
三成が苦々しい表情で腰の鞘紐を解くとカラン、と軽い音を立てて鞘が転がる。
それが静止するのを見届けた後腰紐をゆっくりと外し、更にそれも手放す。
陣袴がぱさりと音を立てて落ち、ふんどしを解くと三成のそれが露わになった。
「…いいわね」
好物を目の前にした猫のように喉をならし、上からの視線でそれを眺める。
このような状況下でも熱く息づく下腹部は通常よりも堅さを増しているようだ。
「とても素敵よ?」
刀をぐっと押しつけられ、座るよう命じられる。
安定した姿勢になると上着を肩口まで下げられた。
冷気にさらされて三成は少し身震いをする。
「あら、ごめんなさいね。寒いかしら?…暖めてあげるわ」
「結構だ」
「ふふ。遠慮しないで。ね?」
背中がほぼ全て丸出しになるほど着衣をはぎ取られ、その背にぴったりと女が寄り添った。
意外に大きく柔らかい双丘が押しつぶされる感触。
「……」
三成は刀から視線を外し、居心地悪そうに顔を背ける。
それを見計らったかのように女の手が三成の恥部に伸びた。
「…っ…!」
そっと持ち上げられるようにして触れられたそこは、たいした刺激も与えられていないはずなのに急激に硬度を増す。
「感度、いいわね。それともあんまり経験がないのかしら?」
恥辱的な台詞にも三成は答えず、ゆるゆると動く女の手の刺激にただただ耐える。
既に腕まで露わになっている三成は、手元の着物をぎゅっと握りしめ己に与えられている光景から目を背けるように堅く瞳を閉じた。
「もっと素直に感じてくれてもいいのよ?その方が楽になれるわ」
先を手のひらで包まれ、丁寧にさすられる。
その間、首筋や背中への口づけは止まない。
やがてぬるりとした液体が女の手にまとわりつくように三成から染み出し、更に強い快感が彼の身体を襲う。
「う……っ、あ…」
思わず漏れてしまった声に、しまったと思いつつもそれを止められるはずもなく、三成は呻くように荒い息を吐き出す。
いっそこのまま、首にあたる冷たい刃に血をくれてやったらどんなに楽か。
しかしそんな事はできない。家臣の為に。そして、自分の志の為に。
そんな考えが浮かんでは消えるが、女の執拗な攻めは次第に強くなっていく。
「少しは素直になってくれたようね。嬉しいわ」
大切な物を撫でるような動きから、上下運動に変わる。
見知らぬ女に後ろから愛撫されるという屈辱的な状況だが、快感に飲み込まれ理性が徐々に薄れていく。
「はっ……ぁ…」
耐え切れず口から零れる喘ぎは確実に大きくなっていき、その声が更に女を楽しませているようだ。
女はうっとりしながら三成の苦しげな表情を見つめている。
「とってもカワイイ。イイ顔見せてくれたご褒美に、イかせてあげる」
急激に早まる女の手はぬるりとしたかなりの量の精液で汚れており、強く握られているはずなのにスムーズに滑る。
こうなるともう刀の存在など頭にはなく、唯一つの事しか考えられなくなる。
呼吸をしようと口を薄く開ければ、だらしなく唾液が口端から糸を引いた。

「あ、うっ……っ…!」
浅く短い息を繰り返し吐きながら、三成は高みへと昇っていく。
熱に浮かされたようなうるんだ瞳からは怒りが消え、代わりに欲望に飢えた男の色が濃く写る。
「いいのよ?我慢しなくても…」
女は頃合いかと耳への愛撫を続けながら左手の刀をそっと除ける。
三成はそれに気づいても目で追うことしかできなかった。
勢いよく振りかぶり刀を投げ捨てると鋭い刃はキラリと光り、遙か向こうへと音もなく落下する。
それが何であるかを理解しようとする余裕もなく、うっすらと開けた涙目で見つめながら、三成は背に胸からのしかかる女の体重を支えている。
「は…あ、ぁ…っ…」
「そろそろかしら?」
絶頂の寸前まで三成を追い込んだ女は、くすりと小さく笑ってその手を離した。
「…っ…ぁ…!」
突然解放された隆起は物惜しげに女の手に糸を引いたまま天を向いている。
「…はぁ…っ、あ、は…」
完全に息が上がっている三成は、なぜだと問わん勢いで背後の女を睨み付ける。
そこには忍らしくもなく顔を晒した豊満な体つきの女が艶めかしい表情で三成を見つめていた。
「あなた、本当に私好みだわ…特別に口でしてあげる」
もはや抵抗すらできない三成の前へ、ゆっくりと周り込み跪く。
精液で汚れた右手を三成の頬に添え、自らの方へ引き寄せると深く深く口づけた。
「ん…んんっ…」
ちゅ、ちゅっと貪る様な女の接吻に、いつしか三成はなすがままに身を任せてしまっていた。
絡めとられる舌は濃厚な口内愛撫にとろけるかのごとく踊る。
数センチの距離もおかない二人の視線が一瞬からみあい、すぐに伏せられた。
諄いほどに続けられる口付けをしながら、女の手はするすると三成の陽物へ降りていく。
たどり着いたそこをきゅっと握ると三成の身体がビクンと跳ねた。
「んっ、ふっ…は、ぁ…」
切なげに零れる吐息の合間に、男根を擦るにちゃにちゃという淫らな音が重なる。
形の良い三成の歯を女の舌が辿ると、女は口付けをやめて耳元で卑猥な声色を響かせた。
「たまには…女に犯されるのも、いいもの、でしょう?」
上気した頬やうるんだ瞳を隠そうともせず、三成は首筋に這わされた妖婦の舌の動きのもたらす享楽に溺れる。
いきり勃った己の逸物がドクドクと脈打ち、まるでそのリズムを把握するかのごとく蠢く手淫に覚えず腰が浮いた。
「ふふ…ここまできても、言葉でおねだりはしないの?」
ふしだらな言葉は三成の脳裏に届くが、やはりそこまではプライドが許さないらしい。
肩で息をしながらもぎゅっと口はつぐんだまま、三成は機嫌の悪い子供のように女から視線を外している。
「あはは!いいわ!すごくいい!!そういう素直じゃないところも、とってもそそるわよ?」
額にちゅっ小さな口づけを落とす。
まぶたに、頬に、首筋に、鎖骨に。
少しずつ小さな接吻は下腹部に向って移動し、ついには陰茎に差し掛かる。
触れるか触れないかの微妙なラインで、三成の内股が撫でられた。
女の手の内でピクンと反応を返す隆起。
ぐっと股を開かれ、人前ではあり得ないほど秘所が晒される。
「こんなの、された事ないでしょ?」
敏感な先の部分に桃色の唇が寄せられる。
ちゅ、と若干可愛らしささえ含んだ淫音が三成の耳に届くのと、まるで電流が身体に走ったかのような快感が駆け抜けるのがほぼ同時だった。
「う…あぁっ!」
覚えのない熱い情が三成を支配する。
女は亀頭に啄むような愛撫を続けつつ、チロチロと舌で尿道を刺激する。
包み込むような暖かさとぬるりとした感触。
「ふ、あ!…あぁ…!」
手で擦られていた時とは比べ物にならない感覚に、はしたない程大きな喘ぎが漏れる。
それは安易に耐えられるものではなく、勃起が口内にすっぽりと収まると荒く深い息遣いと共に更に大きくなっていく。
「う、あ、あぁ…は…!!」
直立したそこに、ねっとりと絡みつく女の舌と口腔粘膜。
動きを止めない女の肩を、思わずぐっとつかんだ。
精液混じりの唾液で言いようのない匂いが充満し、二人を興奮させる。
頬を窄め、搾り取るような動きで刺激を与える度に三成は腰を浮かせて与えられる感覚に耐えていた。
先の部分が女の喉にあたる程深くくわえられたそれは、女の動きだけでは満足できないのか、いつしか三成自身も小刻みに律動を繰り返している。
「あ、あ、あぁ!…く…っ!…もう……っ!!」
いやらしい色の飛沫を散らしながら限界を訴える三成。
女はとろけるような視線を送り、狂奔する。
咳き込みそうなほど奥までくわえ、唇から頭が離れるほどに抜く行為は重ねられる毎に速さを増し、怒張した男根を責め立てた。
「…う…あぁ……!!」
壮絶な勢いで放出される白濁液。
「は、あぁ…んっ…」
女は喉を鳴らしながらごくごくと飲み込む。
跳ねる陰茎から受け損なった精液が女の顔や肩、胸を白く汚していく。
「ああ…いいわ…。ね…どう?気持ちよかったでしょう…?」
ちゅうっ音を立てて最後まで搾り取ると、満足そうにうっとりと声をかける。
ぐったりとその場に倒れ込む三成は、息が上がりすぎて答えるどころの状態ではないが、逆にその姿が答えのようにみえる。
精を放って放心状態の三成は、急速に意識が遠のくのを感じた。
「…おまえ……っ、目的は…なんだ…」
ぺろりと唇を舐める女に問う。
「目的?…そうね…。あなたみたいな人の…」
指に絡んだままの粘液を丁寧に舌ですくい取っていく。
「自制心を取り払った姿を見ること、かしら…」
言って三成に覆い被さる。
果てたはずの三成の陰部は、視覚に入るふくよかな女の胸の谷間にまたも熱り立ち存在を誇示するようにピクンと動いた。
「さ、続きよ…?」
三成の鼓動が高鳴り、自然と手が双胸へと伸ばされた瞬間、遙か向こうから大砲の爆音が響く。
敵方の猛反撃が開始されたようだ。
「あら…残念。ここから先はまた今度、ね?」
女は三成を押し倒した形になったまま心底残念そうに妖しい笑いを浮かべた。
そして、微妙な表情を浮かべた三成の額にちゅ、と一つ口づけをする。
「それじゃ、また」
女は音もなく頭上の樹枝へと一蹴りで飛び上がり、ちらりと三成を見やるとにっこり笑い、そのまま姿を消した。
残されたのは彼女が揺らした枝をぼんやりと見上げる三成。
「……の…!殿…!!」
遠くから左近が三成を探す声が聞こえると、ようやくはっと我に返る。
汚れたままの身体に素早く着衣を纏わせ、付着した土を軽くはたく。
「殿!ご無事でしたか!!!」
左近が慌てて陣幕を蹴り倒しながら走ってきた。
「あ、ああ…なんとか…」
開いた口端からに唾液が糸を引いているのに気づき、さりげなく羽織の袖でぬぐうと、扇を広げてゆるんだままの口元を隠す。
ついでに己がはき出し女が飲み下せずに地に落ちた精液だまりに足で土をかぶせた。
「よかった…さっきすごい女がいたんですよ!なんというか…」
そこまで言って、三成の腰刀が抜かれていることにめざとく気づく。
遠くに放り出されたまま太陽の光を受けてキラリと輝く刀と、少し息の荒い三成の間を往復する左近の視線。
(しまった…。刀…)
苦々しく思いながらなんという言い訳をするべきかと秒速で思案する。
「まさか、殿、あの女と戦ったんですかい?」
「えぇ?」
左近から唐突に問いただされ、自分でもびっくりするほど素っ頓狂な声が出てしまった。
「いや、扇子で戦う殿が刀を抜くって…相当強かったんですか…」
「あ、そう。そうそう。な、なかなかの手練れだった…」
「それは…ご無事でなにより…」
左近は一つ大げさな程の息を吐くと、三成の刀をひょいと拾う。
うっすらとつく血痕を袖で拭き取ると特に意図せず言葉を続けた。
「そういえばその女、ちょっと妙な事言ってましてね」
「…妙なこと?」
大分息を整えられた三成はもう何を問われようと平気だと言わんばかりのいつもの冷静な表情になっている。
「ええ。俺一応応戦したんですがね、その時『あなたの噂もきいてるわ☆すごく好さそう』って…」
「……」
「『でも今日は白狐に会いに来たから、またの機会に』って…俺の股間掴んで行きましたよ」
「…!」
その後見事に気絶させられましたけどね、と笑う左近。
股間と聞いて思わずうずく三成の下腹部。
生殺し状態のそこは相変わらず熱を持ったままなのだ。
「殿は変なことされませんでした?」
「されてなどいない!!!断じて!!!!!」
「??…え、あ…そうですか…」
赤い炎が全身からゆらりと立ち上るかのような錯覚を覚えるほどに、三成の闘気が左近にぶつけられる。
訳のわからない己が殿に、今は触らぬ方がよさそうだと一歩下がる左近。
ぎり、と奥歯を噛みしめ扇をへし折らんばかりにぎゅっと力を入れる。
この恥辱、どうはらすべきか。
そして、未だ治まりやらぬこの下半身をどうするべきか。
ぶつけどころのない激情をどうにか沈めなければ。
三成はものすごい気を発しながら松風に飛び乗ると、単身徳川陣に乗り込むのであった…。
鼻歌さんはコチラ、あくまで鼻歌。
コラボは楽しいなぁー稚代さんよ、またよろしく(風魔とか)

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