side : M





何に因るのかは

知らぬ。


ただ、

月を酷く間近に視る夕刻が

稀にある。










その月は

大抵赤味を帯びていて


まるで

血の緋を

思わせる。


















大きく近く妖しいほどに

燃ゆる瞳の如く、見開き


視る者の心

惑わせる。














不安

歓び

懼れ

高揚




あらゆる衝動を

掻きたてる。













それが













何にも増して





















心地良い。




























吾を

月に擬えるなら




恐らくは


この月だ。














そして




















かの娘を

例えるならば


地から遠く天高い

あの蒼白い満月



と、言ったところか。


















何も


語らず










何も


掻きたてぬ


















平穏の


月。






















吾と反対の



















月。







































− kiss of death −
encounter : 1 / 月下舞踊








































side : P



一瞬の交錯、世界が倒錯
僕と彼女の視線が絡む。


「・・・あなた、誰?」


沈黙破って問われた言葉に
刹那迷って答えを返す。


「僕の名は・・・プラトー。」





ある意味で、僕はプラトー
ある意味で、僕はマキャヴィティ

でもそれは、彼女には知られたく、ない。













舞踏会の日に偶然出逢った。
否、
偶然という言葉は、似つかわしくない。


敢えて言うなら、引き逢わされた。
誰に?
敢えて言うなら、予感と必然。それに月。



全ては月が支配している。
それを知る者は少ないけれど。


僕が己を失するのも
猫と猫とが出逢うのも
寄せては返す波の規則も
一匹の猫の生き死にでさえも



人も猫も、月に狂わされて生かされている。
それを知る者は少ないけれど。



おそらく、僕は誰よりも
それを知っているに違いない。


それは僕が誰よりも、
月に狂わされて生きている筈だから。















彼女は月のような猫だ
出会った瞬間そう感じた。


ジェリクルムーンとはまた違う。
あの忌まわしい緋色の月でも勿論なくて。


言うなれば、そう、天空高く懸けられた
蒼く白いあの満月。




あの月の出る夜には
僕も自分を失さずに済む。


白く冴え渡る光がまるで
たぎる僕の不安全てを
冷やし固めて
取り去ってくれるような気がするものだから。










端から見れば、限りなく偶然で
限りなく不可解な
二人の交錯

でも、僕には分かる。

この交錯は
あの月食のように
定められた交錯なんだということが。





だから僕からも問い返そう。


「君は?」


月の面影宿す君の名を。


「…ヴィクトリア」


そしてその名を心に刻み


「ねぇ」


惹かれるままにその手に触れて


「踊りましょう」


この月に、踊らされるだけで良い。








~next~ /  ~kiss~



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