「花火」
大きな爆音とともに夜空に広がる色とりどりの炎の弾。
夏の風物詩の一つ、花火大会にエリカと一緒に来た。
花火はすぐ側で上げられており、腹の底まで響くような大きさの爆音を感じる事が出来た。
目の前、と言うよりはほぼ上空を見上げる様な状態で花火を楽しむ大会だった。
傍には明るい紺色の浴衣に身を包んだエリカが、一心不乱に上空の花火を見つめている。
薄暗い闇夜の中、花火の明かりだけに照らし出される浴衣姿のエリカ。
───急に、触れたくなった。
俺はエリカの右ナナメ後に立ち、彼女の腰を左腕で抱き寄せる。
突然の行為にエリカはだいぶ驚いたようだったが、俺はかまわず今度は右手を浴衣のあわせに滑り込ませた。
「ッ…!」
エリカの身体が硬直するのがわかる。
右手が彼女のやわらかな胸に触れ、そのままゆっくり揉みしだいていく。
「やッ…ちょ、っと、何するのニクス、こんな所で…ッ」
「あんまでかい声出すと、前のヤツ等に気づかれるぜ」
俺達は前に広がる人垣からは、4.5歩離れた場所にいた。
気付かれた様子は全く無い。皆上空の華やかな花火にすっかり心を奪われているようだった。
…エリカは、それどころでは無くなっていたが。
「やめて…やめてってば…」
「ヤだ」
後からエリカの耳朶を軽く噛み、耳元で彼女の願いを断った。
指を次第に胸の中心へ向かって這わせていき、弱い部分を優しく摘み上げる。
「ッ!」
エリカの上げた声は、運良く上がった大玉の花火の音に掻き消された。
「もう…もう、本当に止めてよ…ッ」
「んー…じゃぁ花火が終って、家に帰ったらヤらしてくれるって約束してくれたら、やめる」
「…な、なんでそうなるのッ?!」
いきなりな申し出に非難の声を上げるエリカ。だからって止めたりはしない。
先刻からずっと触れている部分を、今度はもっと強く摘んだ。
「ぃッ、ぃやぁ…ッ」
連続花火の音に、今回の彼女の声は消されていった。
「で、どうする?約束する、しない?」
「する…するから、もうやめて…」
その返事を聞いて、右手を浴衣のあわせから引き抜いた。
相当感じていたのか、俺の手が離れると同時にエリカは力が抜けた様にその場にへたり込んでしまう。
すばやく抱き止めて支えた。紅潮した顔が俺を睨み付けている…可愛い事この上無い。
「どうしました?気分でも悪くしましたか?」
振り向くと、警備服を着た男が立っている、花火大会の警備員の様だ。
「いや、平気スよ、立ち眩みしただけみたいだから」
さらっと言って笑う。警備員はそうですか、とだけ言って立ち去った…俺の笑い顔、恐かったかもな。
「…もぅ…ニクスの馬鹿」
抱き止めた胸の辺りから、エリカの最後の非難の声。
「馬鹿なのはわかってる…好きなんだからしょうがないだろ」
…好きなんだから、しょうがない。心からそう思ってる。
「…私だって好きよ…それに、こんな事しなくても…今日は…別に…」
彼女の科白は、花火の爆音に掻き消されて聴き取れなかった。
「何か言ったか?」
「何でもないッ!」
まだ自分で立つ事のできないエリカは、俺にしがみ付きながら立っている。
そんな状態でも非難がましく俺を睨んでる…そんな目付きは、誘ってる様にしか見えないが。
「約束。忘れるなよ?」
「…」
エリカは返事の代わりに小さく頷いた。
END