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制作者:VEVEさん 海上警備隊、略して海警のマッコイーンから依頼が来たのはつい三週間前だった。依頼内容はレプリロイド海賊団「クリムゾンブレイド」の捜索を手伝って欲しいとの事。俺の本職はバウンティ・ハンター、つまり賞金稼ぎなのだが、心優しい俺は依頼を快く引き受けてやった。しかし、クリムゾンブレイドの起こした事件は俺の想像より遙かに凶悪なものだった。何時何処に現れるか全く不明、何を狙うのかも全く不明、そして狙われた船の船員は必ず全滅。二週間前には商船「ラージン号」が襲撃された。ラージン号もやはり前例に漏れず船員は全滅だった。俺とマッコイーンとの契約は一ヶ月、残り二週間の間に奴らを一網打尽にしなくては… 自己紹介をしよう。俺の名はウオフライ、スプラッシュ・ウオフライだ。 窓ガラス越しに見る空は、雲。空一面全て雲で覆われている。雲からは雪がこの世を全て白に塗りつぶそうとしてんじゃないかってぐらい雪が降っている。ここは極東の島国、日本の港だ。ラージン号襲撃事件以来、レプリフォース海軍も捜査に協力してくれている。世界中の海からの情報を調べ、日本海溝付近に奴らが潜んでいることが分かり、俺とマッコイーン達、海警のエリート数人に、RF海軍ジェット・スティングレン大尉とクロムウェル艦長の部隊を加えたクリムゾンブレイド捜索隊はこうして日本に来ているわけだ。クロムウェル艦長は常日頃からヤマートスピリッツだの、ノヴナーガだの言っている程の日本好きで、今日もニコー江戸ビレッジとやらに観光に行っている。それで文化人の艦長様がお戻りになられるまで俺らはくそ狭くて汗くさい海軍の軽巡洋艦「ジャベリン」の中でお留守番だ。クソヒゲ艦長、と口の中で悪態を突き、備え付けの堅いベッドの上に身を投げ出す。すると部屋に突然スティングレンが入ってきた。 「ウオフライ、退屈してないか?」 「してない理由がねえだろ」 侵入者の問いに思い切り不機嫌に答えてやる。それでも気分は良くならず、俺は寝返りをうってスティングレンに背を向けた。 「だったら海に行かないか? 見回りも兼ねて」 外に出られるなら何でもOKだ。俺は即答した。 「ばーか、行かないと思う理由がねえだろ」 日本の冬は地域によってかなり差があるらしい。俺達が泳いでいるこの海はきっと南の地域に違いない。水温が前いた海、北極海に比べて5℃も暖かいからな。そんな事はともかく、スティングレンと競泳していたらいつの間にか俺達はかなり沖の方にいた。 「おい、大尉さんよ。俺達もう随分沖に来てるらしい。そろそろ戻らないか?」 水面ギリギリを飛行するスティングレンに叫ぶ。 「そうだな。そろそろ艦長も戻ってきているだろう」 その答えを聞くと同時にUターンして泳ぎ始める。少し遅れてスティングレンもターンして飛んだ。 一体どれくらい泳いだのだろうか。いくら泳いでも一向に岸は見えてこない。そればかりか、雪の代わりに何故か靄が発生していた。既に両腕両足の筋繊維は乳酸漬けの状態となり、スピ−ドも落ちてきていた。不意にスティングレンが叫んだ。 「ウオフライ! 灯りだ! ようやく船に辿り着いた…」 よくよく見てみれば、靄の中に確かに赤い光が瞬いていた。その周りはジャベリンに酷似したシルエットが見える。甲板に上がるために一度潜り、一気に加速し空中へ飛び出す。次の瞬間には俺の体はジャベリンの甲板上を滑っていた。船縁に手を掛け起きあがるとすぐ側にスティングレンがワンテンポ遅れて着地する。その瞬間衝撃が来た。耳を聾する轟音が至近距離で轟き、海面に向かって青白い一条の光の帯が伸びる。ジャベリンの主砲だ。しかし何故こんな所で? 俺の疑問の答えはすぐに分かった。すぐ側で中年のだみ声、クロムウェル艦長の声が聞こえた。といっても本人が居るわけではなく、音声だけだ。 「囮役ご苦労だったな! スプラッシュ君!」 どうやら俺は艦長とスティングレンに謀られたらしい。そう思うと体中から沸々と怒りがこみ上げてきた。その怒りの矛先を側のスティングレンに向ける。 「てめぇ、謀ったな!」 すると野郎は、キッと睨み返して来やがった。 「軍の誇りに賭けて、そんな事はしない! …結果的にそうなった事は謝罪する。すまなかった」 ふん、仕方ないから許してやろう。 「二人とも、クリムゾンブレイドの船はすぐそこだ! 口喧嘩してる場合じゃないだろう!」 今度はマッコイーンが割り込んできた。うっとおしい奴らだ。しかし、実際口喧嘩なんかしてる場合じゃないので急いで愛用の薙刀を取りに船室へ向かう。船内の通路からでも砲撃戦の音はいやとゆうほど聞こえる、ってゆうか聞こえないとおかしい。薙刀を引っ提げ甲板に飛び出ると目の前にはもの凄い物が横たわっていた。巨大な潜水艦だ。濃紺の塗装を施され、左舷の全六の砲門がこちらを睥睨していた。圧倒される俺を尻目に甲板上のプラズマキャノンが一斉に火を噴き、周囲から海警の援護射撃が開始される。無論クリムゾンブレイドの潜水艦が黙っているわけがない。六門の砲台が次々と青白いビームを放つ。内三発がジャベリンに直撃した。凄い衝撃が船を揺らし海面が波立つ。追い打ちを掛ける様に潜水艦が魚雷を発射した。我に返ったのは、海に飛び込んでからだった。引き返せない、そして、艦を守らなくては、その思いで俺は魚雷を凝視した。 水上から視認できた魚雷は三機、水中から視認できた魚雷は四機。処理しきれぬ量ではない。背部に背負ったハイドロジェットで一気に加速し薙刀で一つ目の魚雷を割、スプラッシュレーザーで二つの魚雷の軌道を曲げて衝突させる。水中に三つの赤い爆炎が膨れあがる。残りは一機だがその一機は、今からでは到底間に合いそうに無い距離にあった。しかし、その魚雷も間もなく爆発した。スティングレンのグランドハンターだ。チェバルでも追いつけない速度で疾駆するエイ型メカにとっては、大きく、遅い魚雷を破壊するのはいとも容易い事だろう。海上ではまだ激しい砲撃戦が繰り広げられている。海面に顔を出して潜水艦を見てみると、うっすらと緑色のバリアフィールドが展開している様で、ジャベリンや海警の船の光弾、実弾を拡散、無力化している様だ。あれじゃあいつまでたっても落とせない。そうこうしてるうちに味方の艦は傷ついていく。そして、ゆっくりじわじわと潜水艦が迫ってくる。俺は決して、潜水艦に近づいて白兵戦に持ち込む、なんて愚行は犯さない。ここはひとまず撤退だ。また勢いをつけて海面からジャベリン甲板上にジャンプしようとしたとき、側頭部に灼熱感、潜水艦から銃撃されたのだ。そのまま後ろを振り返らずに甲板上に飛び込み、俺はそこで気絶してしまった。 「ぁ…」 目を開けると、白い天井が目に飛び込んできた。そして救護室特有の薬臭い空気。どうやら俺は生きているらしい。そして砲撃戦の音もない。 部屋には医師も看護婦も居ない。…静かだ… 戦いは終わったのだろうか… 一つの疑問を皮切りに急に雑多な感情が沸き上がってきた。 適当にそれらを胸の奥に仕舞い込み、なんとなしに右手を顔の前に翳してみる。意味のない行動も盤石の重みを持つ様に思えた。 静寂の支配する空間が終わりを告げたのは余りに唐突だった。突然、ドアが荒々しく開かれ、数人の男を呑み込む。部屋は急に賑やかになった。 「ウオフライ、大丈夫か? 喋れるか?」 部屋に入ってきた見舞客(?)の中でも一際目に付くマッコイーン。 「ばーか、俺があんな事で死んで溜まるか。生憎俺はピンピンしてるぜ。そう言えば、俺がぶっ倒れた後、どうなったんだ? 奴らを捕らえられたのか?」 実際はかなり危なかった。その恐怖が脳裏に蘇るが、表情には出さずに問いかけてみる。 「いや、捕らえることは出来なかったが、アグストがバリアを破壊してそのまま沈めてしまった。バリアがなければ思ったより手こずることは無かった。これも日頃の訓練の賜物だな」」 意外な奴の名が出て、俺は少々驚いた。アグストとは海警の中でも一二を争う無口無愛想冷徹野郎の事だ。本人はその事を否定も認めもしない。 「がはは、スプレッド君。君にも立派なヤマートスピリッツがあるぞ!」 「スプラッシュだ。覚えとけ、ジパングマニア」 少し辛辣すぎた? まぁ鈍感な艦長の事だ。気づきも怒りもしないだろう。 二人に隠される様にスティングレンが無表情で突っ立っていた。 「ん? 大尉さん。どうした? 」 からかい口調で話しかけても少しも表情はほぐれない。まさか、何かあったんじゃなかろうか。 「今朝、クリムゾンブレイドから通信が届いた。来週の深夜にハワイから西に五百キロ、第三次世界大戦で有名に戦場となった海域、HW5hkに来いとのことだ」 スティングレンの放った言葉にその場にいた者は全員凍り付いた。マッコイーンが捲し立てる。 「馬鹿な! そんなことはあり得ない!! この目で奴らの船が沈むのを見たんだぞ!」 「奴らは軍事演習中に突然、船一隻集団イレギュラー化した、と聞いた。だから艦は一隻だけのはずだ」 「所が、奴らは襲撃の度に船を奪い組織を拡大させていたんだ。通常のイレギュラーならあり得ないことだ。つまり、誰か正気の奴が裏で糸を引いてるのさ。それに、集団イレギュラー化したときに奴らが乗っていたのは揚陸艇で、潜水艦では無い」 マッコイーンとクロムウェルの反論をやんわり遮るスティングレンの言葉。 数秒間を置いた後、スティングレンが呟いた。 「あのシグマが関わっているのかも…知れない…」 シグマだって!? 話が大きくなりすぎてる。レプリフォースはともかく、一介の賞金稼ぎや海警が関わる事じゃない。 「しかし、この二、三ヶ月ほど前にハンターが北極でシグマを処分した、と聞いたが。」 「今回、シグマが反乱を起こしたのは二度目だ。二度ある事は三度ある、そうじゃないか…?」 部屋が重苦しい雰囲気に包まれた。マッコイーンが口を開きかけたとき、空間が爆ぜ、割れた。空間の割れ目からは、青い立体データの塊が吐き出された。青い立体データの塊の中から現れたのは、赤いアーマーに身を包んだ長身痩躯の男、手には二つの鎌を点対称にくっつけた様な武器。 まさか、こいつがクリムゾンブレイドのキャプテン『七つの海の破壊神』… (続く) | ||
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