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制作者:VEVEさん 何だか、頭が痛い。フラフラとした足取りで仲間の待っているトラックへ向かう。 イレギュラーを処分しても罪悪感や嘔吐感、そうゆう感覚はしない。この痛みは何だろう? 足下のイレギュラーの残骸を八つ当たりに蹴っ飛ばし、悪態をつき、レッドアラートのマークが施されたトラックの荷台へ飛び乗る。そして、床の上にどっかりと腰を下ろすと、カラスティングが寄って来た。ふと、軽い振動、トラックが発車する。 ブロロロロロ…… 「おい、お前顔色悪いぞ。大丈夫か?」 「少し頭痛がするだけだ。気にしないでくれ」 カラスティングの気遣いは有り難い、けど少しお節介でもある。僕はカラスティングをライバルと見なしているし、ついこの間、ライバル宣言もした。でも、カラスティングは僕を弟みたいに扱う。世話の焼ける弟かのように。そのせいか、どうもつっけんどんになってしまう。その時。 「軟弱坊やはお家で休んでな」 横からウオフライが口を出してきた。僕は、こいつがどうも気に入らない。その性格も戦い方も。背後を取り、水で足止めしてから斬るという戦法でカワード(卑怯者)等と呼ばれることもある。本人は卑怯者と呼ばれるとキレる。だから、八つ当たりに、嘲りたっぷりに言ってやった。 「うるさい、卑怯者」 「なんだ、殺んのかテメェ?」 戦いに疲れた戦士を安息の家へ送るトラックは、険悪なムードになった。ウオフライが薙刀を取り出した。僕も、アクセルバレットをホルスターから抜き放つ。流血の予感。この近距離だったら眉間に一発ブチ込めば勝負がつく。最も、外せば終わりだが。 「今ここでその眉間に鉛玉をブチ込んでやろうか」 「そうなる前に、テメェの首が体とおさらばだ。バーカ」 次の瞬間、首筋に冷たい刃が、そして奴の眉間に銃口がそれぞれ押し当てられていた。高まる緊張、しかし、突如制止の声が掛かった。 「お主ら、その辺でやめんか。まったく、老体に鞭打って仕事をしているというのに…」 嗄れた声で僕らを制止したのはアリクイック。つかみ所のない変な爺さんだ。因みにまだピンピンしている。 「ちっ 今日は命拾いしたな」 ウオフライが刃を引いた。ウオフライはアリクイックが苦手らしい。ぶつぶつ言いながら隅に行ってしまった。 「お前、大人げないぞ?」 カラスティングが僕に言った。頭痛が酷くなり、受け答えが億劫になる。 「うるさいなぁ、ほっといてくれよ」 適当にカラスティングをあしらうと、ごろんと横になる。 今日は、最悪の日だ。 「おい、アクセル、着いたぞ」 突然、僕は夢の世界から現実の世界へ引き戻された。どうやら、トラックの中で寝ていたらしい。眠たい目を擦りながら、カラスティングに適当に礼を言う。周りの仲間はすでにトラックを降りたようで、トラックの中には僕とカラスティングしかいない。 トラックから出ると空は闇色に染まり無数の星が瞬いていた。変な頭痛も消え、気分は爽快だ。 トラックを降り徒歩で10分行くと、崩れかけの廃ビルがあり、その中に入る。中は当然グシャグシャだが、エレベーターで地下へ下りればそこはレッドアラードの本拠地が広がっている。そして、その規模は下手なハンター支部より上だ。居住区や、ライドメカの格納庫、司令室はもちろんの事、小型艦船に大型メカニロイドまである。噂ではもっとすごい何かがあるらしい。僕はまっすぐレッドの所へ向かった。仕事の報告をしに行くのだ。今日の仕事は終わったから恐らく自室にいるだろう。ノックをすると返事が返ってきた。 そういえばレッドはこの一大組織のトップなのにそんな感じがしない。スカーフェイスで近寄りがたい雰囲気こそあるが、頼りがいがあるし何よりメンバー全員に分け隔て無く接していているからだろうか。 「レッド。これ、今日の仕事の報告ね」 そう言って、レッドに書類を手渡す。 「ああ。……ほう、アクセル、頑張ったな。処分数がカラスティングを抜いてるぞ」 ざっと書類(といってもものの数分で書き上げた代物)に目を通し、褒め言葉を言う。返答は、意味ありげな笑みと、頂戴の手。 「…何だよ」 「忘れたの? レッド言ってたよね。『カラスティングを追い抜いたらボーナスやるぞ』ってさぁ。身に覚えがない訳では…無いよねぇ」 レッド、しばし沈黙。ぐふふふ 「ほらよって、そう簡単に渡すか。帰りにウオフライと喧嘩したそうだから、チャラだ」 今度は、僕が沈黙してしまった。 「わーったよ。全く大人ってどうしてこうなんだろう」 やはりレッドにはかなわない。 「ははは、年の功って奴だ。……それはそうとして、お前のあの力、実はまだ使い道があるようなんだ。だから、今度からはできるだけDNAデータを回収してきてくれ」 この時、快く承諾した事があの惨事に繋がるなんて僕には全く予想できなかった…。 このお陰でカラスティングを始め、みんなどんどん強くなっていった。僕は強化できない体質らしく残念だったが、コピー能力を自在に扱えるようになった。 今日はナイトメアに遭遇し、苦戦したがアリクイックの機転で無事仕事を終えた。そして、今日も書類を数分で書き上げ、レッドの所に持っていく。いつもは10時頃に行くのに、ウィルス検査で12時頃になってしまった。 レッドの部屋のドアから灯りが漏れている。何をしているのだろう。口元に微笑を浮かべ、聞き耳を立てる。すると、聞こえてきたのは、渋い男の声。 「つまりだ。DNAを解析しそのレプリロイドの長所を得る。この作業をこの方法でやれば従来の約四分の一の時間で出来、さらに効果二倍近くに増す。解ったかね?」 レッドとその男は、例のDNAデータ利用について話していた。 「解るが、体への負担の方は……」 「彼のコピーを作るのだよ」 僕のコピー?そんなの絶対に嫌だ。それに呼応したのか、レッドが怒った。 「あいつは道具じゃない!」 「そうか、ならば今までの方法でも良いだろう。実際、効果は予想以上に出ている。所で、ハンターどもが君たちに目を付けた。奴らは君たちを排除しようとするだろう。完膚無きまでに。レプリフォースが良い例だ。実際、今までに何度も誤処理事件が起こっている。しかし、奴らが取った処置は警告と軽い謝罪のみだ。これは君らを排除する予兆だ。これ以上奴らにいい顔されるのは君も私も気に入らない」 驚きのあまり、開いた口がふさがらなかった。レッドアラードがイレギュラー認定されるだって!? 「だから、レッドアラードVSイレギュラーハンターって展開に持ち込みたいんだな? 残念だがそれは出来ない。俺たちとイレギュラーハンターが目指すものは同じ…」 レッドが話していると、男が割り込んだ。 「イレギュラーの定義は?」 沈黙。 「分かったか? 奴らは自分に不利益と判断すればイレギュラーと見なし攻撃する。つまり!奴らはハンターの名を借りたイレギュラーだ! 奴らこそ処分すべき対象!!」 男の言葉に熱がこもる。 「確かに、俺たちは規模を拡大しすぎた。だが、ハンターと会議を開き共存の道も探れるはずだ」 「無駄だ。今こそナイトメア騒動で仕掛けてこないものの、一段落ついたらすぐに認定が下される! いや、既に認定が下されてるかも知れんぞ!」 「……また今度来てくれ。よく考えておく……」 レッドの言葉には迷いが見られた。男がうって変わって優しく語る。 「私はね、君が、君ほどの有望な人材がこの程度の組織の頭で終わるのは余りに忍びないと思うのだよ」 イレギュラーハンターに総力戦を仕掛ければどちらもただ事では済まない。 最強のイレギュラー狽何度も倒したあのXとゼロがくるに違いない。脳裏にセイバーで斬られる自分の姿が鮮明に映し出された。 そして何より、今までとは比べものにならない死傷者がでるだろう。 背筋を悪寒が駆け上がり、体が急激に冷却されたようだ。 今日の仕事の報告なんて、頭から吹っ飛んでいた。 走って、レッドの部屋を後にする。 満月の夜。第二倉庫の非常口。僕はべトレイヤー(裏切り者)と成るためにここに来ていた。謎の男とレッドの会話が頭にこびりついている。その悪夢のような記憶を払拭し逃走経路を考える。ここから、第一次泊蜷で破壊された高速道路に出られる。そして、元Σ軍本拠地のハンターベースへ向かい、密告。そしてめでたくべトレイヤーになるのだ。 自嘲の笑みを浮かべ一歩踏み出す。背には、蔑むかの様な風が吹いていた。 | ||
制作者コメント 管理人コメント |
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