<< top << text << novel |
(スプラッシュ・ウオフライ編) 制作者:mariさん 「ん? 何やってんだあいつは。戦意喪失か?」 海の中を泳ぎまわっていた彼は、アクセルの様子がおかしいことに気がついた。 なんと足場の上に寝転がっているではないか。 「……フッ、まあいい。すぐにギタギタにしてやる」 『ザバーン!!』 「くら……何?!」 「かかったね」 いきなり体が回転し、わけが分からないまま彼は足場の上に叩きつけられた。 (くっ、痺れる…) 「『ボルトルネード』……君の弱点だったよね?」 「!! じゃあデボニオンは…」 「………処分したよ」 「へっ、そういうことかよ。正義のためなら昔の仲間も平気で葬れるってか」 「それは違う!!」 さっと顔を上げて反論する。 「僕だって嫌だったよ。でも……頼まれたんだ」 「何?」 「僕とエックスに「自分を止めてくれ」って、そう言ったんだ。体のコントロールが出来ない、自分でなくなる前に処分してくれ、って……」 ウオフライは最初開いた口が塞がらなかったが、すぐに気を取り直した。 「…口からでまかせなんて幾らでも言えるぜ?」 「!! ウオフライ…」 「所詮裏切り者なんてそんなもんだ。あんなに仲良くしているように見えたのもウソだったんだろうしな」 アクセルは彼の目をまともに見ることが出来なかった。怒りと憎しみ、そして仲間を殺された悲しみ―――。そのすべてが混じった瞳は、アクセルの戦意をそぐのには十分すぎるほど暗く輝いていた。 「そらっ、ボーっとしてんじゃねぇよ!!」 彼はアクセルに怒涛のごとく攻撃を仕掛けたが、今度は全く反撃してこなかった。そのうちアクセルは持っていた銃を取り落として、地面を滑るように倒れこんだ。 「………!」 体勢を整えはしたが、一向に拾おうとしない。完全に戦意喪失状態だ。 「何故戦おうとしない」 「…………」 「答えろ」 「……もう君とは戦えない……好きにしていいよ」 ついに彼が一番聞きたくなかった言葉が出てきてしまった。額に青筋が浮き出る。 「…ふざけるな」 「ふざけてなんかいないさ。仲間同士、戦うのが嫌になっただけ」 「レッドアラート俺達の掟を忘れたのか?!」 「え?」 「俺達はレッドに、そしてレッドは俺達に掟として誓ったはずだ! 『たとえ仲間が敵になろうとも、戦うときは全力で戦おう。仲間を信じるんだ』と!! ……俺達のやっていることが間違いだってことは分かっている。だが俺はレッドを信じてここまでやってきたんだ、いまさら……お前…の……よう…に裏切る気は毛頭無い。―――お前は俺達に元のレッドアラートに戻って欲しいんだろ? だったら戻してみろ、掟に従ってな」 「掟に……」 「さあ、信念を果たせるかどうか、ここで試してやるぜ!!」 薙刀を持ち直し、アクセルとの距離を縮めていく。 20M…13M……8M………2M………… 「喰らいやがれ!!」 大きく飛び上がり、頭上から襲い掛かった。 その時、黄色い閃光とともに彼の体は吹き飛んだ。くるくると宙返りをし、ふわりと着地。 「……やる気になったか」 「―――僕はもう迷わない」 (決意に満ちた瞳……どうやら自分を取り戻したようだな) 「本気で行くよ!」 「望むところだぜ!!」 また激しい戦いが始まった。しかし先程とは違う点が1点だけあった。それは、彼らの瞳が驚くほど輝いている点だ。もちろん本人達は気が付いていないが、端から見れば戦いを楽しんでいるようにも見えるはずだ。瞬間の攻防戦、息を呑むほどの攻撃回避、高速移動からの肉弾戦……今や二人は誰も立入ることの出来ない世界にまで足を踏み入れてしまっていた。 「ハァハァ……フフ、久しぶりだよ、こんなに熱くなっちゃったのって」 「この感じ……ずっと忘れていたぜ……」 両者は体勢をもう一度立て直した。 「きっと、もう…」 「次で最後だ」 「…だね。最後に言い残すこと、無い?」 「フン、お前がだろ?」 「相変わらず素直じゃないね」 「嫌味の減らない奴だ」 もう覚悟は決まっていた。だから間は置かず、互いに武器を握り締めて突撃した。 「ウオフライ!!」 「アクセル!!」 『―――――どさっ』 「……畜生」 「……どうして……こんなことしなきゃいけないんだろうね」 振り返りたくない。でも、大切な人の最後は見届けたい。 二つの思いがぶつかり合った―――やがて後者を選んだ彼は、ゆっくりと後ろを振り返った。 「……どうして」 彼の尊敬していた人は、今となってはただのスクラップ同然だった。 後頭部のパイプが吹き飛び、左足は膝から無くなっている。胴体は激しく損傷し、もう立てる様な状態ではない。 「……ウオフライ」 「何見てんだよ……お前は任務を果たしたんだから、いいじゃねえか」 「良くないよ」 「フウ…お前はやっぱり子供だな。全ての事があの掟通りに……なるなんてことは……有り得ないんだ」 「分かってるよ。でも、でも……」 「現実なんて、そんなモンだ……」 まだまだ話したいことはたくさんあった。彼がアクセルを避ける様になってからのレッドアラートでのこと、ハンターになってみて分かったこと、自分の憧れた人達がどんな性格の人だったかということ………しかし、それをすべて話し終えるために必要な彼の残り時間は、残り少な過ぎた。 「……アクセル」 「何?」 「必ず、レッドを元に戻すと…約束してくれるか」 「絶対に……必ず」 「そうか……」 「―――ウオフライ、あのね、僕……」 「おっと、時間切れのようだ……次に、この世界に、来た時には…お前と仲良くしたいぜ」 「ウオフライ!」 「あばよ、コピー野郎!!」 『バチバチ……ドガァアアン!!!』 精一杯声を振り絞って最後の悪態をつき、彼は風に消えていった。 「時の神様って、意地悪なんだね」 デボニオンの時と同様に、深い悲しみが彼を支配した。 「たった一言、『ありがとう』って伝えたかっただけだったのに」 彼はついに耐え切れなくなって青く輝く虚空を見つめた。そして、何かがこぼれ落ちるのを待った。しかし設計上、彼の体には涙腺が備わっていないことは分かっていた。 「戦闘用レプリロイドに余計なものは必要ない、か…。でも、こんなときはどうすればいいの? 非情になって処分しろって言うの? ……どうして僕は泣けないの? こんなに胸が張り裂けそうに痛いのに……」 ふと、彼は自分の足元に彼の愛用していた薙刀が転がっているのに気が付いた。 これをゼロにあげたとしても、きっと同情はしてくれないよね。でも、きっとうまく使ってくれるはず。 またあの毒舌を聞ける日が来るのを、僕はずっと待ってるよ――大好きなウオフライおじちゃん! | ||
制作者コメント 管理人コメント |
<< top << text << novel | << back |