オレにも涙が流せたら
制作者:ジラードさん
「ココニハ何モナイ、誰モイナイ、何モ見エナイ、何も聞コエナイ。誰モ行カナイ、誰モ来ナイ、誰モ帰ラナイ、何モナイ……」
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そこは、死者の行き着く場所。屍の流れる場所。死に行く者の辿る場所。亡骸が山を造り、オイルという名の血が川を造るその場所「夢の島」。
本来生きる者は、そこへは近寄らない。しかしそこに、生命の反応が映る。炎が漏れる拳を握り締め、殺気の如き闘志を常に撒き散らす、生まれながらの戦士。
その男の名、爆炎の武闘家「マグマード・ドラグーン」そしてもう一つ。
モスミーノス | 「……目を覚ましたか。オマエ大丈夫か?」
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ドラグーン | 「ぬ……ここは……?」
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―どこだ? ……いや、考えるまでも無い。これだけの屍が連なる場所など
ひとつしかない。そう、「夢の島」。だが何故オレがここに……?
オレは、確か――――
ドラグーン | 「なっ!? 右腕が……無い……!」
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モスミーノス | 「オマエの腕、寝てたときから無かった。何かあったのか? ここにくる寸前に、何か」
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ドラグーン | 「何か……か。―――!」
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思い出した。そう、確かオレは街中をパトロールしていた。そのオレの目に、妙……いや、危険な男の姿が映った。長剣を携えた狂気の剣客。
その男は、笑みをうかべながら同志を切り裂いていた、笑いながら……
無論止めに入った、己を「アジール」と名のったその男に。だが、飛びかかるオレに細く鋭い閃光が走り……気がつけばオレはここに……
ドラグーン | 「オレは……負けたのか……?」
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モスミーノス | 「どうした?」
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ドラグーン | 「いや、なんでも…無い。ところで、オレを助けてくれたのか? 感謝する。しかしアンタ、なんでまたこんなところに?」
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モスミーノス | 「ワタシは……モスミーノス。生まれながらここにいた。だが、何故ここにいるのかは解らない」
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―――? 解らん、か。誰もが、何のために生まれたかは解ることなど出来ん。だが、何故自分がそこにいるのかが解らん……か。哀れだな。
最も、誰も……屍以外の何も無いここにいて、何かを見つけ出すことなど……孤独なのだな、この男は。
モスミーノス | 「それともうひとつ、ワタシは助けることなど出来ん。オマエにしてもただレプリロイド反応のあった場所に向かった時に見つけただけだ」
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ドラグーン | 「そうか……」
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モスミーノス | 「何も解らないが、このさまを見れば想像がつく。ワタシに何かを救うことなど出来ないのだ。……それだけじゃない。ワタシには何も出来ない、戦うことも、守ることも、願うことさえ……」
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何も解らんだと? 何も出来ないだと?
ドラグーン | 「何も解らんのなら、何故そんなことが言える?」
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モスミーノス | 「……?」
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ドラグーン | 「出来ないと言い張るが、その『出来ないこと』に挑んだことはあるのか?」
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モスミーノス | 「無い。だが言ったろう、この風景を見れば解ると」
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ドラグーン | 「そんなものは『出来ない』とは言わん。『やっていない』だけだ。『出来ない』というのは全てを尽くしてから言うことだな」
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……全てを尽くして、か。そうだ、オレも『出来ない』というにはまだ早い。
オレはまだ全てを尽くしてはいない。エックスにも、ゼロにも、あのアジールという男にも……
モスミーノス | 「ではたずねるが、この虚無の島で何か出来ることがあるとでもいうのか? 何も無いワタシに、何も無い島で、何が出来るというのだ?」
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…………………………
ドラグーン | 「この島は、むなしいな。たしかに何も無い。何も感じない。報われん屍達だけだ」
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モスミーノス | 「……」
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ドラグーン | 「だが、変えることが出来る。この地獄のような墓場を本当の墓場に、な……」
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モスミーノス | 「不可能だね」
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ドラグーン | 「解らんだろ? 誰も試したこと無いんだからな」
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モスミーノス | 「出来ないと解りきっているからな」
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ドラグーン | 「それは『やってない』だけだと言っただろう。『出来ない』とは違う」
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モスミーノス | 「何故そう言い切る? そう信じる?」
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何故? 全くだ。何故オレはヤツを……ヤツは何故それを……信じるんだ?
ドラグーン | 「そういうことを信じて、その上可能にする男を見たからな」
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モスミーノス | 「……本当の墓場、とは?」
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ドラグーン | 「コイツらの為の墓を造ってやれ。その時キサマはそいつらを『救った』ことになる」
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モスミーノス | 「救う……この、オレが……」
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救う……エラそうなことを言ったが、オレは誰かを救ったことが無いな。
……ふ、なにを偉そうなことを。
ドラグーン | 「さて、長居しすぎたな。邪魔をした」
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モスミーノス | 「行くのか?」
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ドラグーン | 「ああ」
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帰ったら、今度はケリをつけねばな。あの男に……アジールに。
モスミーノス | 「待て、忘れ物だ」
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ドラグーン | 「! オレの……右腕」
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モスミーノス | 「それがあったほうが、修理も楽だろう」
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ドラグーン | 「!」
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……孤独だった男が……
……初めて……
ドラグーン | 「やはり、出来るじゃないか」
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モスミーノス | 「……何が?」
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ドラグーン | 「『救う』ことだ。今オレを救ったろ?」
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モスミーノス | 「……!?」
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島を離れてしばらく経った。あれから夢の島を見ることも無くなった。
今はどうなっているだろうか……
そして、結局アジールとは出会わなかった。ケリはつけられなかった。
最も、出会ったところでオレは全てを出せたかどうかは解らんが……
――オレの全て……そう、オレにあるのは力だけ。ならば……ならばオレは……
オレは力こそが全てだ!
――――二年後――――
モスミーノスが、反乱に加担したらしい。ヤツの居場所は「夢の島」。オレは向かった……いや、向かおうとした。だが、港でオレの足が止まる。
燃えている、夢の島が……あの場所が。これが……イレギュラーへの報い、なのか……
モスミーノス、キサマは救うことが出来たか? 哀れな屍を。報われぬ同胞を。
守ることは出来たか? 己が造った「本当の墓場」を。
あの何もない場所で、何かを見つけることは出来たか?
力が全てとかたくなに信じた、心が痛い。
(エックス、キサマは変わっているな)
あのわずかな時の中で、オレは「何か」を見つけてしまったのか―――?
(レプリロイ……なのに……が……流せ……)
――――オレにも……
オレにも涙が流せたら―――
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