〜愛を求めて〜
制作者:ジラードさん
海に、一体のレプリロイドが立っている。薄紅色の甲羅を背負った他の者をはるかに凌駕する巨躯のレプリロイド「レイニー・タートロイド」。
彼は、水質改善の為この海へと訪れていた。予定時間より早く任務を終えた彼は余った時間をそのまま自分の時間として消化していたところだった。
沈みゆく夕日を眺め、爪先を海に浸しながら物思いにふけるタートロイド。
彼の思いとは―――
―戦ってみたい。そもそも戦闘用では無い私がこのような事を思うなど許されぬだろう。しかし、胸の奥から衝動が湧き上がってくる・・・・・・戦いたい、と。
破壊願望・・・・・・否、ただ「戦いたい」だけのようだ。勝ち負けではなく、ただ強い者と戦いたい、それだけだ・・・・・・――
その感情は、抑えるたび大きくなり、日が過ぎ行くたび激しくなる―――
このままでは、何かとんでもないことをしでかしてしまうかもしれない・・・・・・その可能性が現実になってはならない、そう考えた彼は、「破壊」ではなく「試合」というカタチで「強い者」と戦う――そう決意した。
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主人ゲイトより三日間の休養を受けたタートロイド。彼に一礼を済ましタートロイドは「つわもの捜し」の旅として足を運んだ。
街に繰り出すタートロイド。彼の巨体に、道行く人々の視線が彼に集中する。当の本人は・・・・・・慣れているためか、そんなことは意にも介さず歩き続ける。
翼の音が聞こえる、鳥がはばたく時の音。その音がだんだん近づいてくる事から自分に向かって来ていることがわかった。翼の音の主が、目の前に降り立つ。
スパイラル・ペガシオン。空軍に属する、優秀かつ実直なレプリロイドだ。
ペガシオン | 「やはりタートロイド殿でしたか。あなたが街にいるとは・・・・・・何かあったのですか?」
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タートロイド | 「おお、ペガシオン殿。 いや、何もないですが」
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タートロイド | (・・・・・・そういえば、若いなりにたくましい男だな、彼は。彼となら・・・・・・まて、そう急ぐな。もしかしたら、彼が強いと認める者がいるやも知れない。まずは、彼自身がそう考える人物を聞いてみてからでも遅くあるまい)
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タートロイド | 「ペガシオン殿、折り入って聞いてみたいことがある。貴殿にとって『強い者』、とは・・・・・・?」
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ペガシオン | 「強い・・・・・・物? はは、イキナリですなァ。ふむ、強い物・・・・・・」
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ペガシオン | (そういえば、どこかで聞いたことがあるな。愛は勝つ、と。では強い物とは・・・・・・愛? 私の愛・・・・・・愛麗絲・・・・・・アイリス・・・・・・)←ちょっとドリーム
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ペガシオン | 「そっっりゃあァもう!!! 断っ然、愛!ッスよ!!!」
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タートロイド | 「ア、アイ・・・・・・!!?」
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タートロイド | (アイだと!? き、聞いたことが無い・・・・・・一体どこのレプリロイドだ!? し、しかしあのペガシオン殿がこれほど力強く断言しているからには・・・・・・よほどの猛者に違いない! アイ・・・・・・一体何者だ・・・・・・?)
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タートロイド | 「あ、ありがとう・・・・・・参考になった・・・・・・」
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ペガシオン | 「はっはっは。タートロイド殿、愛はスバラシイ。あなたも愛を見つめなさい♪」
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ペガシオンと別れるタートロイド。内心少しショックだった。自分が認めた男がそれをしのぐ強さの存在を力強く肯定したのだから。ましてその存在を自分が知らないのだがら。無論、ペガシオンが漢字変換を間違ったことには全く気付いていない。
彼は目的を、アイをさがすことだけにしぼった。彼は、知り合いのレプリロイド一人一人に、その存在を問うという手段でアイをさがし始める。
彼に問われた者の回答は以下のとおり。
カーネル | 「愛、か・・・・・・確かに強いな。そう、まさにその力は『無限大』だ」
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マッコイーン | 「そうじゃ、愛は強い。そして何より『良い物』だ」
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クラーケン | 「当たり前じゃない、愛にかなうものなんて無いワ」
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上から「兄弟愛」 「親子愛」 「同性愛(ォィ)」・・・・・・と、カタチは違うが実にスバラシイ答えを出してくれた。当然それを「レプリロイド」と勘違いしている本人は大混乱だが。
タートロイド | (強くて、良くて、無限大・・・・・・加えてかなう者無し!? な、何故だ! それだけ強大なレプリロイドの存在を私は何故知らないのだ!? 私は・・・井の中の蛙だったのか・・・・・・)
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亀だろう、というツッコミは抑えて・・・・・・ともかくほとんどのレプリロイドが知っている「アイ」の存在に、さらに頭を悩ませていた。そして、自分だけが知らない、その事実(?)に、彼の自信はどんどん地に落ちていった。
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結局、三日の休暇を終える前にタートロイドは研究所へと帰ってきた。
主人ゲイトが、疲弊した彼を出迎える。
ゲイト | 「タートロイド! ずいぶん早いお帰りだな。休暇はもういいのかい?」
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休暇うんぬんではない。ただ、「アイ」とは何かを博識のゲイトにも聞いてみようと、遠路はるばる帰ってきたのだ。
タートロイド | 「ゲイト様、一つお教えください・・・・・・アイとは、アイとは一体何なのでしょうか!!?」
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ゲイト | 「!!?」
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ゲイトが一瞬顔色を変える。彼もまた「愛」と変換したようだ。だがふと我に返ると、物事を整理しながら冷静に分析していく。
ゲイト | (あの生真面目なタートロイドが・・・・・・愛? そんなハズあるまい。きっと別の「アイ」のことを指しているのだろう。んーと、アイ・・・・・・アイ・・・・・・I・・・・・・? 待てよ、たしか英語に・・・・・・)
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!!?
(タートロイドにとって)最も以外な返答であった。当然ゲイトは
I(アイ・・・・・・英語で「自分」という意味)のつもりで言ったのだが・・・・・・
すでに遅い。タートロイドの中では、「
(彼のさがしていた)アイ」=「ゲイト」となってしまったのだった。
タートロイド | 「そうでしたか・・・・・・灯台下暗しとはまさにこのこと。私としたことが不覚なり・・・・・・!」
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ゲイト | 「ん・・・・・・ん!? 何だ、どうした・・・・・・?」
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異様な気配を感じるゲイト。先ほどまで疲弊していたタートロイドだったが
今の彼にその色は無い。むしろゲイトが混乱している。
タートロイドから、殺気ともとれる戦意があふれて止まらない。
タートロイド | 「ゲイト様! 身分の差は重々承知! されど私は戦いたいのです! 最強の戦士アイ、ひいてはゲイト様と!!」
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ゲイト | 「な、なななななな・・・・・・・・・・・!!?!?」
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タートロイド | 「お互い、手加減は無用! 正々堂々手合わせ願います!! いきますぞ、天の怒りいィィィィぃ!!!」
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研究所から、悲痛な叫びが聞こえる。最強の戦士は無抵抗のうちに倒れた。
タートロイドはこの後、再びペガシオンと出会い真実を知って驚愕する。
勘違いに勘違いが重なって生まれた小さな事件。結局誰が悪いのかはわからない。とりあえずゲイトが一番哀れだったことだけは真実のようだ。
この後、ゲイトは金色に輝く、屈強な自分専用アーマーを作ったとか作らなかったとか。