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管理人の小説

ALIVE(#4)
ブーメル・クワンガーがイレギュラーになった理由


「兄貴ーーーーー!!!! どこにいるんだよ、兄貴ーーーーー!!!!!」
 ビートブードは、クワンガーが塔を要塞に作り変えてるという情報を聞きつけ、塔の内部へと乗り込んだ。
 そこには、数々のメカニロイドの残骸があった。誰かが通った後のようだ。
(イレギュラーハンターが兄貴を処分しようとしている!? やだ! そんなの絶対に嫌だ!)
 ビートブードの胸中に不安が走る。その不安を抑え込もうと、兄の無事を祈ろうとする。
(兄貴は強いから、そこらのハンターにやられるわけないさ! きっと返り討ちに遭ってるよ。大丈夫さ!)
 そう思ってもやはり不安は拭えない。何故なのか。何故なんだろうか。
「兄貴に会ったら、オレたちはずっと一緒にいられるんだ! オレ、もう兄貴を離さない! どんなことがあっても、絶対に、ずっと側に……!」
 どうか生きてて欲しい。
 それだけが彼の願いだった。

−***−

「兄貴!」
 司令室の扉から、クワンガーの弟――ビートブードが現れた。
 ビートブードは中央にいる見慣れた2つの影を見る。
 1人はエックス。そしてもう1人は……。
「兄貴! 兄貴ぃぃーーーー!!!!」
 ビートブードは、エックスの足元で転がっている兄の姿を見る。
 それはまさに、無惨な遺体だった。
 腹部に大きな空洞が開いている。そこから内臓のような機械とコードが剥き出しに広がっていた。
 兄は―――死んだ。
 自分の願いはよりにもよって、このB級ハンターに断たれてしまったのだ。
 もう二度とあの頃には還れない。
「あ……ああ………………」
 ビートブードは震えながら、兄の残骸を抱く。
 冷たい。
「やだ………嫌だ…………! 嘘だ……! こんなのって……こんなことって…………!」
 どんなことがあっても、兄の側から離れるべきではなかった。
 言いつけを破ってでも、ずっと一緒にいるべきだったんだ。
 こんなことになるくらいなら……。
「ビートブード……ごめん」
 エックスは俯きながら、ぽつりと呟く。
 だがビートブードには、エックスの慰めの声が、憎しみへと変換されて届いてしまった。
 振り向き様に、鋭くエックスを睨みつける。その眼には、黒く淀んだ憎悪の色が浮かんだ。
「人殺し……!」
 その言葉は、エックスの心に深く突き刺さる。
「あんたは人殺しだ! オレの兄貴を殺したんだ! たった1人のオレの大切な兄弟を……!」
 ビートブードは両手を広げ、黒いエネルギーの塊を作り出す。
 ビートブードの特殊武器『バグホール』。球状に広がった超重力亜空間地帯は、周りの物体を吸い込み、無に帰してしまうという。ただ武器が不完全なため、全てに通じるというものではないらしい。
 だが、『バグホール』のエネルギーは強大であった。
「許さねぇ!! あんただけは許さねぇ!!!!」
 『バグホール』はエックスへと投げられた。無限大の質量の詰まった重力エネルギーは、回転しながら目標へと向かう。
 エックスは横に跳んで、『バグホール』をかわした。
「ビートブード、落ち着くんだ! おれを憎む気持ちも分かる! だけど……ああするしかなかったんだ!!」
「うるさいっ! あんたなんかに何が分かる! 兄弟もいないあんたなんかにっ!!」
 ―――キョーダイ!?
 エックスの心が無意識に、遠い記憶の中を駆け巡った。
 一瞬だけど、頭の中にヴィジョンが映る。
 金髪のポニーテールの少女―――そして6人の―――。
「オレは兄貴の仇を討つ!! 死ねぇ! エックス!!」
 ビートブードは突進してきた。
 エックスはビートブードの角を掴み、攻撃を食い止めようとする。
 そのとき、地面が突然上下に揺れた。
 地震か!? いや、これは―――。
『EMARGENCY! EMARGENCY! 時限装置ヲ、セットシマシタ。爆発マデ、アト5分』
 赤ランプが点灯した。無情な機械声が室内に響く。
 エックスとビートブードは、そのままの姿勢で固まった。
「そんな……! 何も入力してないのに、何故……!」
 だが、室内には一定間隔を置いてブザーが鳴り続ける。
「ビートブード! 戦いは後だ! 塔を降りよう!」
「……」
 エックスはビートブードの腕を掴み、脱出するように促すが、ビートブードは銅像のように動かなかった。
 彼の視線は壊れた兄の方に向いている。
「……」
「ビートブード! クワンガーはもう、いないんだ! こんなところにいたら、キミまで死ぬことになるんだぞ!」
「構うかっ!」
 ビートブードはエックスの掴む手を振り払い、クワンガーの遺体へと走り寄る。
 そしてぎゅっと、愛しの兄の亡骸を抱きしめた。
「オレは兄貴と一緒にいるんだ……。ずっと側にいるって誓ったんだ。だからオレも兄貴と同じところに逝くよ。待っててね、兄貴……」
 ビートブードは恐らく、兄と共に死ぬ気でいるのだろう。彼にとっての心の拠り所を自分が奪ってしまったのだ。
 しかしクワンガーは、ビートブードの死を望んでいない。一人になっても、立派に生き抜いて欲しいと言い残した。自分の分まで、生きてて欲しいと。
『爆発マデ、アト4分』
 縦揺れがますます大きくなる。天井が崩れ始めた。早くしないと、この建物は完全に崩れる。
「………」
 エックスは足音を立てないように、ビートブードの後ろに立った。気配を察知されないように、息を殺す。
(ビートブード、ごめんっ!)
 ズンッ!
 エックスの手刀が、ビートブードの首の付け根に入る。意識命令の伝達回路に一時ショックを与え、強制的に電源を落とすやり方だ。
 ビートブードはクワンガーを抱いたまま、前のめりに倒れ込んだ。気絶は成功した。
『爆発マデ、アト3分』
 時は刻々と迫っていく。エックスは気絶したビートブードを抱え、持ち上げようとした。だが、重い。
「くっ……くそぉっ……!!」
 引きずりながら、司令室を出ようとする。
 彼を死なせるわけにはいかない。これが、クワンガーの遺言なのだから。
 しかし、エックスの努力を嘲笑うかのように、ある男の声がどこからか響いてきた。
『ふははははっ! 無駄だ、エックス! この塔の扉には全てロックを掛けて置いた!』
「何っ!?」
 エックスは司令室の扉を開けようとするが、ガッチリと噛み合ってて開かなかった。
 男の声は続く。
『あのクワンガーを倒したことには誉めてやろう。だが、ここまでだ。私の邪魔をする者は、どんな犠牲を払ってでも抹殺する。あの世で後悔するがいい!』
 黒い嘲笑を残して、男の声は途絶えた。
「くそぉ! シグマか!!」
 エックスは扉を懸命に開けようとする。だが、開かない。
『爆発マデ、アト2分』
 時間はもうなかった。塔の揺れはますます激しくなる。
「おれは諦めない! 諦めるもんかっ!」
 バスターを撃ち続けて、扉に穴を開けようとする。だが、頑丈に固められた鉄の扉は、バスターのエネルギーさえも弾き返してしまった。
『爆発マデ、アト1分』
 時は無情に過ぎていく。絶望という名の死へのカウントダウン。
 それでもエックスは諦めずにバスターを撃ち続ける。
 生への執着。
 クワンガーが生きることに執着していたように、エックスもまた、生に執着する。
 諦めてはいけない。ここで死んではいけないのだ。
 そのとき、希望は開けた。
「大丈夫か、エックス!!」
 壁を打ち破る轟音と共に、赤い鎧の相棒は現れた。
 端整な顔立ち、深い蒼の瞳、流れるような黄金の髪。
 彼の名はゼロ。第17精鋭部隊の特A級のハンターであり、エックスの先輩だ。
「ゼロ!」
 空が見えた。
 大きな穴が空いた壁から覗く、透き通るような青い空。
 ゼロの足元には、小さな空挺機が止まっていた。
「脱出するぞ、エックス!」

−***−

 塔は爆発し、崩れ折れた。
 エックスたちは間一髪、危機を逃れる。
 気絶していたビートブードは意識を取り戻した。
 壊滅した塔の前で、呆然と兄の墓を見上げる。
「どうしてオレを……兄貴から引き離したんだ……!」
 ビートブードは塔の瓦礫を見つめながら、背後にいるエックスに問い掛けた。
 その声には、怒りと憎しみがこもっている。
 エックスは肩を落として問いに答えた。
「それがクワンガーの遺言だったから。キミだけでも生き伸びて欲しいって……」
「そうか……」
 ビートブードはゆっくりと振り向いた。逆光のせいだろうか、ビートブードの表情がいつもより暗く見える。
 だが、それは気のせいではない。眼だけははっきりと白く映る。憎悪の光を称えた鋭い眼つきで。
「エックス、オレは生きるよ。あんたをぶっ殺すまで、生きて生きて生き抜いてやる! オレは一生、あんたを許さないからな!」
 これからの人生を全て、復讐に捧げたビートブード。
 彼はそう言い置いて、エックスの前から姿を眩ませた。
 『恨み』という呪いをかけられたエックスは、そのまま塔の前で立ち尽くす。
 エックスの両目から涙が静かに溢れ出した。
 こんな……こんなつもりじゃなかったのに。
 皮肉にも、クワンガーの遺志はビートブードに伝わらなかった。
 愛するが故の擦れ違い。
(エックス……)
 金色の髪をなびかせて、ゼロは遠くからエックスの姿を見守っていた。



コメント
もうくたくたです。疲れました。
こんな長い小説書くと、さすがに読みずらくなりますね。集中力が持ちません(−_−;)
さて、今回の小説はマシンさんに触発されました。
マシンさんがビートブードを書いたので(『復讐鬼に捧ぐ鎮魂歌』)、じゃあ私はクワンガーを、とか思って書いてみたらこんなことになりました。
ほとんど原型留めてない話になってしまいましたな。むしろ積極的に歪曲させてます(爆)
ビートブードの行動に矛盾のようなものを感じてしまったんで、その辺を解消させる手段に苦労しました。
コンセプトとしては『ルナティック』の改稿版みたいな感じですね。
あと、どうでもいいエピソードがいくつか(マンドリラーとか第0とか^^;)
そういえば第17のみなさん、ヴァヴァ以外全員出ていたりします。

調子に乗ってベタなイラストでも↓


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