副社長は仕事多忙
○月×日
化粧会社の副社長であり、元社長の唯一の令嬢であるホーネットは
デスクワークをこなしていた――だが、その量が半端ではない。書類の山が
二つ。どちらも彼女の姿を覆い隠すほどの量。全ては来水美樹のせいなのだ。
「はぁ・・・。」
逃走した美樹と彼の恋人である小川健太郎を思い出す。美樹はガイの頼みを
その場で断ったのだ。1流化粧品メーカーを継げ、億万長者になる大チャンス
だったのに――。ホーネットが電話で何回も言っても嫌だ、と言ってくる。
会いに行っても決して首を縦には振らない。彼女の気持ちは十分に分かるる。
しかし――ホーネットは自他共に認める重度のファザコンなのだ。
「はぁ・・・。」
2度目の溜息。
「・・・様・・・・ネット様・・・ホーネット様っ。」
はっと我を取り戻す。そこには幼き頃からの友人であり、ホーネットが1番信頼を
おける部下――シルキィ・リトルレーズンがいた。
「ごめんなさいシルキィ・・・。それでどうかしたの?」
「ええ、新商品のキャッチコピーの原案を数種類考えてきたので――。」
「ありがとう。いつもすみませんね・・・。」
ふっと笑みを浮かべるホーネット。だが、顔色は何故かいつもによりも赤く、
随分と熱っているようにも思えた。
幼なじみなのかシルキィはそれを察知すると、ホーネットにちょっと待っていて下さい――と
言うなり、自分の持ち場に戻りバックの中から風邪薬を出す。そして、急ぎ足でホーネットに
錠剤を1錠渡した。
「顔色がやけに赤いですよ。」
「・・・朝からどうもだるいと思ってはいたけれども・・・・・・少し仮眠を取らせてもらうわ。
ではケッセルリンクにジーク。数時間ほど仮眠を取るので、その間の指揮をして
ほしいのですが・・・。」
「分かりました。」
「構いませんよ。」
ケッセルリンクに続き、ジークも快諾するとホーネットは仮眠室へとシルキィのお付で向かった。
○月□日
今日も当然の如く社長は来ない。アレ以来、健康にも気をつけるようになった。あの時、
風邪を引いたのは本当に久しぶりのことだった(最も軽い風邪だったので薬を飲み、仮眠室で
数時間ほど寝るとだいぶ治ったが)。あの後、シルキィはともかくサテラも社長の仕事などの
手伝いをしてくれてだいぶ落ち着いてきた。
「ねーねー!ワーグ、コンビニいってアイスクリーム食べたいよ〜。」
「駄目。」
「いっつもホーネットってばそれ。」
12、3歳にしか見えない少女。ワーグ――彼女はこれでもココの社員である。性格、外見ともに
子供っぽく、お菓子が大好き。仕事は気まぐれと問題社員である。ワーグはホーネットの使う
机の前で週に2、3回程こうして駄々を捏ねるのだ。当然休み時間以外、用事ない場合は外出禁止だ。
「ならワーグもラッシーを買出しにいかせれば――」
「やだもん!」
声のトーンをただでさえ高いのに、それよりも高い声を張り上げた。
「だってこの間、ラッシーをコンビニへ向かわせたんだけど中々帰ってこなくて・・・。」
一気に声の調子を大げさに変える(変わる)ワーグ。だが、ホーネットは頑なに駄目と言い続けた。
「もうホーネットなんて大嫌い!」
バン彼女にしては力強くホーネットの机を叩くと、プリプリと怒りながら自分の席へと
帰っていった。隣にいるケッセルリンクにいつも通り、飴ちょーだいっ、と可愛らしい
ロリータボイスで強請る。既に彼は分かっていたのか1番下の引き出しから飴を出す。
「ありがと〜。やっぱりどこかのショタコンとファザコンは違うよね。ねー、ケッセルリンクぅ。」
媚びた声でワーグはぎゅうっとケッセルリンクに抱きつく。ショタコンとファザコンの
当人2人はワーグを睨みつけるが、ワーグは小悪魔的な笑みを浮かべた。
「カ、カミーラ様!コーヒーカップの取っ手が粉々に!」
「ホ、ホーネット様!書類が散らばりましたよ!」
ラインコックと、シルキィの悲鳴にも似た声が上がる。2人は打ち合わせでも
したかのようにほぼ同時に立ち上がると、カミーラはケッセルリンクとワーグを引き離し、
ホーネットは引き離したワーグを束縛する。ワーグは間の抜けた声を出した。
「ワーグ。昼休み化粧室へ来なさい。」
「当然1人で・・・だ。」
2人は表向きは笑っているが、ワーグ以外の者はこりゃ切れてるなと薄々感づき、
サイゼルに至っては昼休み化粧直しできないじゃないのよ、と心の中で呟く。
だが――サイゼルやメディウサ、パイアール辺りは随分面白そうに傍観している。
犬猿の仲であるカミーラとホーネットがタッグを組むのだ(カミーラがホーネットを一方的に嫌っている)
昼休みは、とんでもない騒動になりそうだ――。
後書き
日記で書いたアイデアを元にしました。あからさまにカップリング要素があったりなかったり・・・。
ワーグ→ケッセルリンク←カミーラが・・・。一応カミーラさんはケッセルリンクには親近感を抱いている
らしいし、ワーグは優しいおじさま〜として見ているし・・・。いや、これだから2次作品小説は
やめられません。