プラスチックスマイル
研修当日(後)
「どうしようか・・・。」
俺と葉月は逸れてしまった。残りの3人が先へ先へと行くものだから
2人はものの見事に取り残されてしまったのだ。
「・・・・まっ、捜すしかないだろ?」
「うん。でもさぁ・・・ほら調べることは調べたじゃん。」
一瞬だけ、葉月の頬が赤くなる。俺はすかさずそのリアクションを察知した。
「・・・・なるほどぉ。いいねぇ。それ。」
「でしょでしょ?あの3人は何とかしてると思うし。何かふっとい物に
押されていたっぽいけど、大丈夫だよねー。」
ニッコリと俺達は互いの顔を見て笑うと――当然デートが始まるわけだ。
南壱郎。今の気分はご機嫌ゲージはMAXです。
ポンポン
肩を叩かれる。後ろを見ると――
「あっ、すみませ〜ん。私達テレビ局の者ですが今学生カップルを探してるん
ですけどお時間ありますか〜?」
100万ボルトのスマイルでマイクを持ちながらお姉さんと1人のカメラマンがいた。
「あ・・・いえ、俺達そんなんじゃなくて・・・。」
「でもでもー、オウギちゃんが言ってましたよっ。さっ、どうぞどうぞカメラへ〜。」
あ!あの成金女!カメラマンで呼んでやがった。
「では写します!ではさんはい!!」
お姉さんの声が聞こえた後、俺と葉月は完全赤面状態でほとんど覚えていなかった。
ただ、覚えていたのはお姉さんが初々しいですねと言う言葉だけであった。
「・・・いぶちゃん。あの子ってクオちゃん・・・。」
「え?」
1人ポツンと茶を啜るのは――2年D組光知久遠(こうちくおん)。
まったりとした表情で彼女はお茶を啜る。どうやら他のグループの子いない。
「クオちゃん!」
「あれ?いぶちゃんに綾ちゃんだ。これまた偶然。」
ニコリと微笑みながら飲み終えた茶を置く。
「他のグループの子は?(いぶき)」
「逸れたの。30分くらい前にいきなり相撲取りがやってきたからね。」
「「・・・・・・は?」」
「うん、何でも角界の大御所さんが遊びにきたんだよ。春海に琴音山、
青龍丸に色々。んでね、それに私のグループの4人と後・・・美紅ちゃん達が
いた気がする。」
始まりは20分前。はぐれてしまった3人は後ろから襲ってくるいやーな
気配を感じ取っていた。
「あひぃ!た・・助けてっ。いやだいやだ。僕、ムチムチの脂肪に押されてるぅ!
ひぃん。お・・お願いです!僕を押さないで!お願いっ!僕変になっちゃう!
そうしないと・・あ・・ああああーー!!!」
最後には叫び声を上げる空也は言葉を失った。
「・・・まっ、大丈夫でしょ。」
――ドォォン!!大きな地響きがした。楽天的に言った智鶴は終始無言に
なり、後ろを見る。力士が1人、力士が2人、力士が3人、力士が――沢山。
と、羊を数えるかのように数える。
「ぎゃぁぁーー!!!」
「って八波逃げてやがる!」
一気に地面を蹴り、走り飛ばす智鶴。もはや人とは到底呼べないスピードを出す。
「どすこいどすこい!」
「どすっこい!」
「いやだぁー!てゆーかそれ以前に作者があの怪しい本を読んだせいで
こんなネタを出すんだわ!許せないこの運命!・・・ああっ!」
バタンと派手にその場にこける智鶴。
「どすこいどすこい。」
「どすこいどすこい。」
「どすこい!!」
「ぎゃーーーす!」
むにゅむにゅと3人は相撲取りにサンドイッチされる状態で挟まれ、
解放された時は既に完全ダウンといったところであった。
「そうだったんだ・・・。でもよく巻き込まれなかったね(綾音)」
「うん。私だけお店の中でお土産見ていたから。」
バックから可愛らしいキーホルダーを数個程出す。
「おおっ、中々チョイスが良いよ。妹ちゃんにあげるの?」
綾音が久遠の顔に自分の顔を近づけていつものすっ呆けた笑顔を浮かべる。
「ううん、んなわけないよ。どうして妹にあげないといけないの?自分の金で
買ったんだから誰か何をしようと私の勝手だよ?」
その場にいた人々は一瞬固まり、久遠のほうを驚愕の表情で見る。――気温が3度ほど下がった気がした。
「ん?私変なこと言った?」
「ううううん!別に別に!」
「うん!とっても怖むふむふ!?」
笑顔で頷く綾音を止めなければ!とすぐさまいぶきは綾音の口に手にしていたコロッケ3つを
思い切り綾音の口にガスッと詰め込んだ。
「むぐふー!」
「ごめんね!これが変なことほざきそうになって!」
「ふぃふぉいよー!」
口に入れているコロッケをもしゃもしゃと噛む。
「気にしないで。」
「そ!そう・・・(綾ちゃんが後少し余計な事言ってたら私、生きてなかった・・・)」
やけに乾いた笑い声をあげるいぶき。3つのコロッケを食べ終えた綾音は口をハンカチで拭く。
「でも、班員捜さなくて良いの?」
「そっちこそ、班員捜さなくて良いの?」
いぶきの言葉は、見事に返されてしまう。それどころか、逆に問われたのだ。
「・・・・そ、そうキマシタカ。」
「私としてはあのお相撲さんの餌食になっている班員のために、態々肉欲の世界に
巻き込まれたくないし。うーん・・・どうしたもんか。」
「あ・・・あはは・・・。それより私の班員は途中で逸れちゃったから何なら一緒に行動する?」
「OK。イイよ。」
木々のざわめき、眩しいくらいの日光が理事室まで届く。よそよそと風の音、葉の音が聞こえた。
「・・・・・・ふぅ。」
少女の1つの吐息がいつもより大きい。前髪をかきあげ、いつもツンツンしていて刺々しい
彼女が勝ち誇った笑みを浮かべる。
「親父の負けよ。」
「・・・くっそーーう!」
頭を抱え、ブツブツとお経を唱えるようにブツブツいう危険人物が扇菜の目の前にいる。
「相変わらず弱いわ。てゆーかこれでオセロ何回目?」
「んー・・・?12回目。」
「そのうち何回勝って何回負けた?」
「・・・・・全部負けました。」
しゅんとダンボールに入っている子犬の如く、ウルウルと目を潤ませる。
「だーーっ!キモイ。」
「分かってるもん・・・分かってるもん!」
「だからダヨモン口調はやめて。」
徹底防戦をするが、それは無理そう。たこ口の親父はどんどん扇菜に迫ってくる。
変質者もびっくりの変態っぷりだ。
「だってー!仕方ないんだもん!」
「言ったそばから「もん」なの!?」
「私は悪くない・・・お前が大連勝をしまくるからいかんのだ!」
「痛い痛い痛い!やめなさいよ!オセロの石を投げるのはやめて!」
バシンバシン!と容赦なく扇菜の体中に石を投げつける。これこそある種の
家庭内暴力というやつだ(?)
「痛いじゃないのよハゲ親父!」
「私は悪くない!」
「それは分かったからやめて!」
その時、――プルルル・・・・と携帯の着信音がなる。扇菜は無言で1回理事長を
殴り飛ばすとすぐに応答した。
「あ、もしもし?桜ノ宮扇菜よ。」
「あたしー!ちーづーるーさーんでぇーす!」
「・・・・用事がないようなら切るわね。」
早速携帯電話を自分の耳から離して連絡を途絶える体制に入る。
「ごめんなさいです!実は私達どすこいどすこいに押されてて・・・いや、圧されてるよ!」
「・・・・じゃ、明日会いましょうね。」
「嘘です!実は力士に押されてて――」
どすこいどすこい!と図太い声は段々と大きくなってゆく。それは、
扇菜の耳を蝕んでゆく。そう、聞いているだけでコッチが暑苦しくなる声――
「どすこいどすこい!!」
「どすこいどすこい!!」
「ぎゃーーっ!またきやがったぁーー!!!」
ブチ、と後味悪く切れる。ツーツー・・・と完全に電話が切れた音が耳に響いた。
「・・・・保護隊とか送るべきかしら・・・。」
携帯電話のメモリを開くと、すぐさま連絡を始めた。
その頃の女3人衆
「ねえねえ、この間の肥田先生の態度最悪だったよねー。」
あんみつを食べながらいぶき。
「うんうん、分かる分かるよ。その気持ち。」
ようかんを大きな口で頬張る綾音。
「肥田先生ってそんなに人気ないんだ。」
何気に2人からちゃっかり少しずつデザートをもらっているのは久遠。
その頃の敏感くん
「やだーー!!す、相撲取りが僕をぎったんばっこんしてるぅ!」
「うるさい四ノ原!」
「そ、その声は八波じゃないかぁ。(涙目)ぼ、ぼくを助けてぇ!」
「イヤよ!あたしだってピンチだから!」
「どすこいどすこい!」
保護隊がヘリでやってくるまであと数十分、我慢だ!
「「いーやーだー!!」」
その頃の鬼畜少年
「あー!楽しいな。コロッケの色々入れるの。」
「やめろよ・・・二十一。お前ホントろくなもん入れてないし。」
「そこが楽しいんだよ。」
「・・・・お前、性格やっぱり悪いな。」
次はイクラでも入れようか、と楽しそうに彼は言うとコロッケをまた焼き始めた。