プラスチックスマイル
クラス替え後半
俺のクラスは2年A組。知り合いは大勢いる。嫌いな奴は少ない。
そして、彼女と同じクラス。そこだけに幸せを感じた。
「あのさぁ・・・。」
「ん?」
「何?」
雑誌を見ていた女2人(智鶴と葉月)が俺のほうに顔を向ける。
「どうして俺は変人ばかり(葉月除いて)なんだ?」
――そう、俺の新しいクラスは変人ばかりなのだ。
「変人ってねぇ・・・それはあんたが平凡なだけ。」
「違う、断じて違う!俺が平凡なんじゃなくてお前らが変人なだけなんだ!」
「じゃぁどうしろって言うんだよ!」
「うわぁ!逆切れするな!」
智鶴が逆切れし、俺と同じクラスの恩田美紅からしゃれにならない
拷問道具を手にし始める。
「てゆーかなんで拷問道具!?」
「教室入ったら自由に使えって書いてあったの。」
「自由に!?どうして自由なわけ!?」
「んなことアタシに聞くな。」
冷たく恩田にあしらわれた。俺は喚く。喚かないとこれ以上
変人たちによって飲み込まれそうな気がして――だから抵抗した。
ピンポンパンポーン
俺は抵抗するのをやめる。
『10分後に、始業式を始めます。体育館まで移動して下さい。』
去年担任だった教師の声が聞こえた。
俺の横にいるのは天川翼。俺のクラスメイトだ。始業式がかったるいのか
コイツ、顔を下にうつ伏せにして寝ている。
「・・・・マジで寝てやがる。」
春の陽気という奴なのだろうか。確かに今日は4月でも暖かいと思うが。
「・・・・・・たい・・・。」
「・・・たい?」
「・・・ハーレムを作りたい・・・。」
俺の脳内の片隅に用意されて危ない言葉帳に「ハーレム」という文字を検索開始!
検索完了!1件判明しましたー。さぁ、行くんだ壱郎!
「・・・・。」
俺は脳の命令に忠実に従い右足を使い、翼の左足を力の限り踏む!いざ、足の骨
粉砕。やったぜ。
それが聞いたのか、翼は声にならない痛みのせいで、あ・・あ・・・と言うばかり。
「・・・・・この変態め。」
俺は一言小さく呟いた。――そろそろ始業式も半ばだと思う。来客席にほうに目を向けた。
「・・・・な・・なんだあれ・・・。」
俺の視線の向こうには、2人の黒服黒人のごついボディーガードに(ココお約束)
囲まれた一人の少女。――あれは、理事長の娘、桜ノ宮扇菜ではないか。
(まーたコイツ、隣に幼女連れてる・・ってそんな問題じゃねぇ!)
いや、よく状況を整理しよう。この場の雰囲気が読めないのはアイツの最大の特徴にして最大の
欠点だ。そして、もう幼女がいるのには突っ込まない。いや、突っ込めないの間違いだろう。
それを見て見ぬ振りをしている
お偉い様の気持ちも理解できる。でも――でもこれはないだろ!
来客席で讃岐うどんを無我夢中で食べているなんて
「はぁぁぁ〜・・・・・。」
溜息。コイツはいつもこれだ。しかもじゅるじゅるじゅるじゅると音を立てやがって(後半切れ気味)
「次は1年生入場です。」
可愛らしい1年生が入場していく中、この女は今マジで絶頂に浸りやがる。しかも、
何気にあなた可愛いわね〜、と厭らしい笑みで笑い、挙句の果てには幼女の頭を撫でている。
お前、邪魔だよ(率直に)
「・・・最悪・・だな。」
「てゆーかもうアイツはアレだから止められない。」
「すっかり扇菜ちゃん、幼女にチャーミングされてるね。」
俺に続き智鶴、美紅が次々にアイツを批判した。
「では続きまして。理事長の話です。」
理事長が階段を上がる。カツカツと靴の音が聞こえた。隣にいる翼はようやく大きな
欠伸をしながら起きる。
「おはよ。よく寝れたなぁ〜。」
何事もなく起きる翼を見て、俺の言える言葉は少なかった。
「・・・・おはよ。」
理事長がステージの上に立つ頃。理事長の名前は桜ノ宮強。バー●ードハゲが
印象的なごく普通のオジサンだ。
「皆さんこんにちわ。私がこの学校の理事長を務めています桜ノ宮強といいます。」
するとこの男、何か怪しげな動きをする。――何故かいつもするのだ。
何かを探るようなこの動き。そして、それが終わるとまたいつも通り喋り始める――筈だった。
だが今日は違う。完全にこの男、固まってしまった。
そして、次の瞬間
「・・・・・うっ・・・あううぅぅぅ!!ご、ごめんね皆ぁぁぁ。」
涙がポタリ、ポタリと理事長の目から溢れ出る。やめろ、50半ばのオッサンがそんなあられもない
声を出し、目を子供のように大きく開いてハイライトを入れた目で泣くな!
すると、さっきまで讃岐うどんを食べていた桜が顔面蒼白。すると理事長は桜のほうに顔を向ける。
「・・・・・・・せ・・扇菜・・・あの紙が・・・あの紙がないんだ・・・・。」
あの紙――?まさかその紙を探っていたのか。すると箸を置き、アイツはふふふと怪しげな
笑みを浮かべて立ち上がった。ガタンと大音を上げると、讃岐うどんの汁が床にこぼれる。
「・・・ねぇ・・・親父。私・・・・1時間もそれだけ(カンペ)のために浪費してるの分かる?
以前にもこんな事あったよね・・・・・?嘘だとはとは言わせないわ。」
「・・・・・は・・はいぃぃ。」
ヤバイ!桜が切れる!俺は脳内にインプットしてある避難経路へとすぐさま
逃走する。
「あ!南が逃げた!」
「サイテー。彼女置いて自分だけ逃走だなんて。」
「うん、人間失格だな。」
「1人だけ逃げるなんて・・・・。」
ああ、俺に罵声が次々と。ごめん、葉月。でも俺は・・俺は生き延びなきゃならないんだ!
「へえ・・・・散々昨日注意しておいたのに・・・?そんなに簡単に忘れるんだ?」
「ち、違うんだ。昨日は仕事で急がしてくて・・。」
「嘘つくのも大概にしなさいよ!」
ぴしゃりと桜が有無を言わせない口調でいう。
「大体昨日全然忙しくなかったじゃない!思いっきりビールばっかり飲んで!この嘘つき。
ケリー、マイケル。親父を黙らせて。」
「OK」
「ラジャー。」
黒人男性が動き出し、サングラスを外す。目には数々の修羅場を潜り抜けた証の男の
勲章が!(ただの傷だけど)ゴスっと鈍い音がする(みぞおち)理事長はものの
見事に気絶してしまった。代わりに桜がステージに立ち、一礼すると話し始める。
「我が父が無礼を働いてしまって大変申し訳ありません。各自自分の教室へ
お戻り下さい。また、保護者の方々もお子さんのクラスへ同行して下さい。
父に対しては私がみっちり注意しておきます。では移動をして下さい。」
・・・・これが嵐の後の静けさという奴なのだろうか。俺は、今生きていることが
とても幸せに思えた。