プラスチックスマイル
SUMMER VACATION
【南壱郎の場合】
7月27日。今日はクラスメイトで市民プールに遊びにいく。ウォータースライダーを
葉月と一緒に滑ろう!という気持ちを胸に抱いて。だが、彼女は恥ずかしいからと
言って断ると思う。だが、壱郎はこの夏こそ葉月と共にプールで思い出を作ると。
去年は恋人同士ではなかったが、今年は恋人同士。青春を謳歌しなければ。
と彼は意気込んでいた。バックの中にはお菓子や弁当や色々詰め込む。
そして、買ったばかりの水着も彼は詰め込んだ。待ち合わせの時間まで後
数時間。彼は暇つぶしを色々を考えた。
【八波智鶴の場合】
「あ?葉月。あたし。」
8月のある日の熱帯夜。1歩廊下へ出れば蒸し暑さが彼女を襲う。自室にある子機で
彼女は葉月に電話していた。
「あの後壱にあった?」
『うん、友達と遊んだ帰りに。帰りは一緒に帰ってきたの。』
智鶴はその時の場景を思い出す。最初に出てきたのは2人が隣の席で葉月がつい寝てしまい
壱郎の肩に頭を預けた――というシーンだった。それに思わず智鶴は笑ってしまったのだ。
「ぷぷっ。」
『あー!?なんで笑うの?』
あはは笑い話をはぐらかそうとする智鶴。ワケが分からない葉月は何なの!?と智鶴に何回も
何回も言っていた。
【牧丘葉月の場合】
「あ、美紅。」
ポンポンと前にいる少女の肩を軽く叩き長ながら。少女――恩田美紅は振り向いた。
「うわぁっ、偶然。」
「そんなに驚くことないじゃん。それより何してたの?」
「DVD借りてきたの。色々とね。この3日間レンタル半額だったから。」
抱えられた袋の中を見てみると、葉月は美紅の顔を見るなり頼んだ。
「ねえねえ、それ私も見ていい?見たいのががあってさー。」
「OK。」
「でもそれ、1週間で見るの?」
「うん。睡眠時間をちょっと減らしてね。」
【天川翼の場合】
(やばいなぁ・・・。今店員さん女の人なんだよなぁ。)
数冊手に持つエロ本を彼は数十分前からレジへと持っていけなかった。男性の店員なら
難なくレジへ持っていけるのだが、女性となると時々嫌な目で見られるのだ。
とりあえず今日のところは諦めよう。翼は本を戻そうとする。
「あら・・・偶然ね。」
いつのまにか横で分厚い文芸雑誌を読んでいたのは桜ノ宮扇菜。
「・・・・・・あのさぁ、いい?」
「・・・見れば分かるわよ。店員が今女性だから持ってきづらいんでしょ?」
それ――と顎で翼の持つエロ本を指す。
「大正解・・・すごいねぇ。」
「レジまで私が持ってってあげるわ。丁度買う本あるしね。それに・・・読ませなさいよ。
その人妻熟女未亡人本。」
彼女はイラスト投稿雑誌と、先ほどまで立ち読みしていた文芸雑誌と翼の手にしていた本を
奪うと彼女はレジへと持っていった。
【奈良崎いぶきの場合】
彼女は縁側で寝そべっていた。隣にいるのは彼女の飼っている白猫。風鈴がと時折鳴る。
「はぁ・・・空が蒼い。」
入道雲が西から東へと流れてゆく。日陰にあるこの縁側は暑さで支配などされてない。
周りには涼しさが取り囲み、彼女の熱を冷やす。
「・・・おーい、起きろ起きろ。」
白猫を触るが、寝ているのかなんとも反応しない。――遊び相手がいない。ペットの猫さえも
相手にしてくれないとなると、厭きてしまう。
「あーあ・・・来ないかなぁ。」
仲の良い友達を思い浮かべると、竹串で3つめの水饅頭を食べ始めた。
【錦織二十一の場合】
「よぉ、八波。」
「あんたは二十一!」
偶然街中で出会った会いたく相手。8月中旬になっても会わなかった相手が31日に会ってしまった。
夏休み最終日に。
「てっきり泣きながら宿題していると思ったけど・・・。」
「んなわけないでしょ!それよりその紙袋一体何?」
「これ?ほら、今駅駅前デパートで最終バーゲンやってるだろ。母さんに引っ張りだこされて荷物持ちなんだよ。」
んとさっきよりも高く上げる。紙袋には一流ブランドのロゴが印刷されていた。
「ホントは俺、チャットしたかったんだけどやめたんだ。んじゃ母さん見失うと困るから俺行くよ。」
軽く二十一は智鶴に対して手を振ると人込みの中に消えていった。
【斉藤綾音の場合】
「やっほー!」
「遅いわ。」
「今日はショッピングの約束だったのにさー。10分も遅刻して。」
「ごめんごめん。」
「・・・今日の予定は?」
扇菜が綾音に聞く。
「駅前デパートを適当にブラブラして→12時頃にランチ食べて→本屋へ行って→カラオケ行くって感じ。」
「じゃ、行こう。今日の昼食、扇菜ちゃんが奢ってくれるんだよね。嬉しいなぁ・・・。」
えへへと笑みを浮かべるいぶきを直視した扇菜は一気に顔がを赤くさせ、いぶき抱きついた。
「く、苦しい・・・。」
「やっぱり大好きだね・・・いぶちゃんのこと。」
「ええ。勿論よ。」
【四ノ原空也の場合】
「やっぱり夏はカキ氷かな?」
お手製カキ氷にシロップをかけて食べようとする空也。体に篭ってしまった熱を出すには打ってつけだと
考えたのかカキ氷機で彼は作ったのだ。
「頂きマース!」
この後は――彼はあまりのカキ氷に冷えっぷりに・・・いうまでもないと思う。そう、また感じてしまうのだ。
【桜ノ宮親子の場合】
「はいこれ、頼まれていたマニュアルの表紙。」
「・・・・・・いや、もう少しレイアウトを可愛らしくしてくれ。」
「何言ってんのよ。これで7回目のボツ。あのねぇ、人に表紙を作らせてるくせに難癖つけるんなら
自分で作りなさいよ。」
やけに分厚いマニュアルを使い、理事長の頭を叩く。
「でも・・・でもほら、私がやるより君のほうが早いだろ?」
「ええ・・・・・・ってそれより、本当に体育祭やるの?去年の惨状知ってるでしょ。」
「ああ・・・だがあれをやなければ我が学館の人気行事が潰れしまうとクーデターが起きるではないか・・・。
それで私の数少ない毛を引っ張られたら・・・。」
「はいはい。それ位理解してるわよ。・・・今年も荒れそうね。」
意味深な言葉を呟き、書類を整頓し始めた。