クリアが出てきた先は厨房だった。
「ひっ!」
小さな悲鳴を上げる。男女関係なく魂の抜けた体達があった。
もぎとられた腕、切り取られた頭、散る内臓。見るも無残な光景に
クリアは目を逸らした。だが――死臭が鼻にツンと来る。
得体のしれない何かが自分の体を上へ上へと向う。
嘔吐をしないようにと何とか絶える。
クリアは口元を押さえ、逃げるようにして厨房を出て行く。
――ミルキィが危ない。ただその一心。
外に出てみるとシャンデリアの破片が散らばり、カーテンも
破られている。窓ガラスは廊下に舞い散ちり、悪夢を
見ている感覚にクリアは襲われる。
クリアは前へ前へと走った。
人の気配はなく、声も聞こえない。孤独の中自分だけの
足音と吐息の2つだけ。
ある部屋に来た時、既に息のない兵士が持っていた短刀を
奪うようにして持ち出した。片っ端から部屋と言う部屋を
明け、鍵のかかっている場合は短刀で扉の一部分だけ
開けて様子を見たが、そこにはミルキィの姿はなかった。
「一体何処にいるんだ……?」
部屋を開けても、走っても何処にもいない。クリアは段々と
自信がなくなっていく、声も弱々しくなってきた。
足の裏は痛いがそれを気にしている暇はなかった。
クリアはまた足を進める。
「――るぎ、何処にミルキィ王女が……!」
「姉上どうかしましたか……!
目の前から突如現る声にクリアは警戒する。
「クリア!」
「剣!そっちの人は……?」
隣にいる自分より年上の女剣士に話しかける。
「あたしは研磨伊月。剣の姉よ。あなたがクリア王子ね。」
簡潔に紹介する。クリアは縦に1回首を振る。
「それよりクリア、地下室からどうやって此処に――。」
「移転装置を復活させて厨房まで来たんだ。そこからはもう
我武者羅に走って……。」
「そうか。無事で良かった。それで。厨房のほうはどうだった?」
脳裏に思い浮かぶ屍の臭いがフラッシュバックする。クリアは
下を俯いて小さく、駄目、と言い放つ。
「他のところも見てきた。でも……皆死んでいたよ。そっちは?」
「王女親衛隊は半分が死亡。武将は第2軍〜4軍は主将副将共に死亡。
後5、6軍は副将のみ生きている。1軍は――ラインが行方不明。副将は健在。
後は……マグナム国王が重傷。」
「父上が!?」
クリアは伊月の言葉に飛びつき、血相を変えた。
「父上が……どういう事ですか!?」
「目撃者によると国王は侵入者が伸ばした爪で右肩を抜かれたって。」
「侵入者?」
「ああ。耳の形からしてエルフのようだが漆黒の羽があった、とも聞いた。悪魔のような
生命体だと聞いたが――実際は分からない。」
クリアの顔は悲愴を表す。
「そんな……あの父上まで――!」
全盛期は過ぎたと言えども、最強無比の異名を持つマグナムが抵抗できず重傷だなんて
誰もが予測できなかった。早く行こう、その言葉を言おうとした時カランと何かと落とす音が聞こえる。
「嘘だろ……っ!あのいけ好かない国王が……っ!」
鎧に包まれ、傷を負う戦士は左肩を押さえて精一杯の声を振り絞る。
「あの国王が重傷で王女は行方不明。んでそこの少年が王子だなんて――この国はどうなってんだ?」
クリアに問いかけるように言う。
「ライン……カークランド。」