「メリークリスマス」
そう言ってあいつは入ってきた。
Merry Christmas――クリスマスおめでとう――というわりには、
全然おめでたく無さそうで、むしろ不機嫌のオーラを放っていた。
ドサッとこたつに置かれた荷物を覗いてみると、
シャンパンやらオードブルやら、いちおうクリスマスパーティが出来そうなものが入っている。
荷物を運んできた本人は、さっさとこたつに入り、ムスっとし顔でライターをカチカチやっていた。
「何これ」
「何って、クリスマスだろ!?」
半ばキレ気味で返してくる男に、俺はそれ以上何も言わなかった。
タバコの煙を吐きながら、一緒に何かを吐き出しているらしい様子をじっと見ていた。
「何」
「別に…」
今ヘタに話しかけたら煩そうだ。でもひとつ、ものすごく聞きたいことがある。
「あのさ」
「何!」
「なんでお前ここに来たの」
男は、ぐ、っと詰まり、その後長く息を吐いた。
「別れてきた」
俺は面食らって、何も言えなかった。
この男は、高1のときからずっと、クリスマスを過ごす決まった相手が居た。
8年間も付き合っていて、そのまま結婚するものだと思っていたから、
いきなり別れたと言われたら驚かずにはいられない。
なんで、
そう思ったが、声にはしなかった。
気にはなるけど、俺には関係無いことだ。
この男の口から、あの子の話を聞くのはとてもつらい。
8年間、ずっとつらかった。
「お前さ、今日予定あった?」
「…無いよ」
「だと思った」
男はニヤリと笑って、頬杖をついてこっちを見てる。
「なんかさ、お前は俺を待っててくれる気がしてたんだよ」
「はぁ?」
「てことでさ、今年は俺とクリスマスしよーな」
呆れていたら、顔を覗き込んできた。
「な?」
俺はひとつ溜め息をついた。
「もう、どうでもいいや」
サンタさん、俺はアンタを信じちゃいない。
だって、俺へのプレゼントがこれですか?
こんな、今更で少しも新鮮味の無い、一人で居るのが嫌いな甘ったれで、ヤケクソでスーパーに行って一人でパーティの用意を買い込んで来て、たまに連絡してきたかと思えば泣き言や愚痴しか言わなくて、俺の話なんて聞かずにいつも一方的で、キスはタバコの味で、強引で、そのくせセックスは優しくて、でも次の日には消えてるような、こんな適当な男一人ですか?
「…嬉しいくせに」
気がつくと、そいつはムカつくぐらい得意げに笑ってて、
思いっきり睨んだけど、それはヤツの顔が近づいてきたことですぐに焦点が合わなくなった。
いつものタバコの味。
「…タバコ臭い」
顔を顰めて手でアイツの顔を押しのけた。
でもすぐに、その手は捕らえられて、黙れよ、って言われて、またタバコの味がした。
サンタさん、もしも本当に居るのなら、
いつもみたいにコイツを持って行かないで。
今日も、明日も、明後日も、ずっと、
この適当などうしよもない男を俺の側に置いておいてくださいよ。
まぁ、俺はアンタなんて信じてないけど、
俺が8年間欲しがっているものを、今日だけでも、届けてくれたことには感謝してやってもいいよ。
Merry Christmas...
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