20. 邪心


あの人が欲しい。
彼女から奪い去ってしまおう。
愛は苛烈なまでに膨れ上がっていた。
そして12時の鐘が鳴るその時、私は罪の口付けを落とした。
彼が目を瞠っている。
強気に微笑んで深く口づけた。
背中に腕を回しても彼は抗おうともしない。
こんなに簡単だったのね。
心の中で悪魔が囁いた。
彼も口づけで応じてくる。
彼女との愛の香りがする部屋へ、彼は私を導いた。
暗闇の中、沈んでゆく。
指先で彼を誘う。
その指を掴んで口付けをくれる彼の顔は、罪悪感なんて感じていないと言っていた。

これで彼は私の物……。
何度も重なる口づけの後、
乱暴に押し倒されて激しく抱かれた。
けれど、私の耳を打ったのは彼女の名前。
彼から熱っぽく囁かれた彼女の名。
満たされたような気がしていたのは全て、夢、幻。
ガラガラと何かが崩れ落ちてゆく。
涙の粒が瞳に溜まっている。
最後のプライドで流れることだけは防ぐ。
「こんなに最高で……最悪の夜は知らない」
抱いた後、背を向けて眠り始めた彼の背中に赤い爪を走らせる。
上から下へなぞって皮膚をえぐる。
「っ……何するんだ」
赤く血が滲み出す。
「あなたが悪いんだわ。私を好きでもないのに抱いたから」
「抱かれたかったくせに」
「馬鹿にしないでよ! 」
憎らしい。
なんて人を小馬鹿にしてるんだろう!
恋という気持ちが覚めて一気に憎しみへと生まれ変わる。



そして真紅の滴を浴びた。
「いいえ、馬鹿だったのは私ね」


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